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コラムの泉

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有期労働契約に関するルールづくりが本格化します

労働契約の形態には、期間の定めのない契約と、期間の定めのある「有期労働契約」があります。
前者が主に正社員に適用されるのに対し、後者は、パートタイマー、契約社員などの、いわゆる「非正社員」に一般的な契約形態です。

有期労働契約のもとで就業している人のうち、正社員より所定労働時間が短い従業員をパートタイマー(短時間労働者)といい、そうではない、つまり正社員と所定労働時間が同じ従業員を、フルタイム有期契約労働者と称しています。

(なお、パートタイマーとは本来、所定労働時間が短い点に着目した形態であり、労働契約の期間は関係ありません。しかしパートタイマーは有期労働契約であることが多いという実態にあります)。

この「有期契約労働者」は、企業の人材活用の多様化や雇用柔軟化の要請、働く人の意識の変化などを背景に、増加傾向にあります。
それとともに、雇止め、正社員との格差など、さまざまな問題が表面化しています。

2008年4月に施行された新法「労働契約法」のたたき台となった「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)」(平成18年12月27日)において、「就業構造全体に及ぼす影響も考慮し、有期労働契約が良好な雇用形態として活用されるようにするという観点も踏まえつつ、引き続き検討することが適当」としています。


厚生労働省は、所定労働時間が正社員と同じ、いわゆる「フルタイム有期契約労働者」について、「有期契約労働者雇用管理の改善に関する研究会」を立ち上げ、2008年7月に報告書を発表しました。

さらに、有期労働契約全般を扱う「有期労働契約研究会」が2009年2月にでき、8月の最終報告に向けた作業が進んでいます。

この研究会は、有期労働契約に関する法制化も念頭に置いていると見られます。
企業に与える影響も小さくありません。

本稿では、「有期労働契約研究会」から出された中間とりまとめを元に、今後、有期労働契約に関して法制・行政がどう動いていくかを見ていきましょう。


◆有期契約労働者をめぐる状況


(1)有期契約労働者の増加

有期労働契約研究会中間とりまとめによると、有期契約労働者は、1985年の437万人から2009年には751万人に増加しています。

その要因として、次のようなことが上げられます。
①会社側の要因:人件費抑制、雇用リスクの回避、人材活用の多様化など
労働者側の要因:働く意識の多様化、ワークライフバランス、就職難(正社員になれずやむなく)など

(2)格差問題、雇用の不安定さ、労務トラブル

有期契約労働者多くは、正社員に比べて労働条件が見劣りしています。
高度専門職を高額年俸の契約社員にする会社もありますが、このような例は少数派です。

また、雇止めや期間途中での契約打ち切りなど、身分が不安定になりがちです。

会社の、法制への理解も十分とは言えません。
正社員については、適法性を意識していても、有期契約労働者については適当にしている会社が少なくないのが現実です。

このようなことから、有期労働契約をめぐる労務トラブルが多発しています。

(3)法制のデッドスポット

有期契約労働全般を扱う法律は、実は存在しません。

2008年4月施行の改正パートタイム労働法が対象にしているのは、短時間労働者のため、フルタイム有期契約労働者は枠外です。

男女雇用機会均等法は男女間の均等待遇労働者派遣法は派遣労働者の保護のための法律です。

労働契約法第3条には、均衡考慮の原則があり、労働契約全般についての均衡を定めていますが、この条文は訓示規定と解されており、使用者に具体的な義務を課したものではありません。

このように、有期契約労働者は、労働法制のいわば「デッドスポット」になっているのです。


中間とりまとめは、「雇用の不安定さ、待遇の低さ等に不安、不満を有し、これらの点について正社員との格差が顕著な有期契約労働者の課題に対して政策的に対応することが、今、求められている。すなわち、有期契約労働者雇用の安定、公正な待遇等を確保するため、有期労働契約法制の整備を含め、有期契約労働をめぐるルールの在り方を検討し、方向性を示すことが課題となっている」としており、今後、法制化も含めて、有期労働契約に関する何らかのルール化が検討されると思われます。


◆中間とりまとめの概要

(1)総論

中間とりまとめは、日本の現行法制が、労働契約について期間の定めのない契約(無期労働契約)を原則とする旨を定めている規定はなく、有期労働契約の締結事由や更新回数・利用可能期間を限定している規定もないと指摘しています。

事実上、無期契約が労働政策の原則となっているとは思いますが。
しかし、成文法になっていないことは事実ですね。

その上で、労働契約の終了の局面において、有期労働契約は次のように、無期労働契約に比べて保護が相対的に弱いことを指摘しています。

・無期労働契約における解雇については、解雇権濫用法理が判例上定着し、一定の保護がなされている
・その一方で、有期労働契約における雇止め一般は、契約期間の満了の当然の帰結であるとして、解雇と同等の規制には服していない

また、OECDの「正規労働者に強度の雇用保障がある一方で、非正規労働者雇用保護は実際には弱く「労働市場の二重性」が見られる」との指摘を紹介しています。


ただし、研究会は次のような指摘もしており、実情を無視したルール化を進めようとしているわけではありません。

「企業側からは、中長期的ばかりでなく短期のものを含めて需要変動等に伴う「リスク」へ対応するといった労働市場全体における「柔軟性」への要請があるところである。これについては、そのリスクを専ら有期契約労働者の側に負わせることは公正とは言えないと考えられ、こうした「リスク配分の公正さ」にも配慮しつつ、検討すべき」

労働者派遣法制、パートタイム労働法制との相互関係にも留意が必要」

「外国法制との比較検討に当たっては、その国の労働市場や賃金決定システム(いわゆる「職務給」が一般的であるか等)の在り方、解雇に対する救済の在り方を含めた労働契約の終了に係る法制など、雇用・労働をめぐるシステムの全体像及びその中での有期労働契約ないしその法制の位置付けや機能の相違にも十分留意する必要がある」


(2)有期労働契約の範囲、勤続年数等の上限、契約の更新・雇止め

「入口規制」、「出口規制」として、有期労働契約の締結に係るルール、有期労働契約の更新回数や勤続年数(利用可能期間)のルール、有期労働契約の雇止めに係るルールが論じられることが多いが、これら入口規制と出口規制は連続的なものであり、その目的や効果についてセットで議論する必要があるとしています。

そして、次のような考え方を提示しています。
・労使当事者の合意により、幅広い事由について有期労働契約の締結を認めつつも、その更新の状況等に応じて解雇規制の潜脱等の濫用を防止するため、更新回数・利用可能期間の規制を行う規制(出口)が考えられ、これに雇止め規制等を組み合わせることも考えられる。

・また、無期労働契約が原則であるという考え方(無期原則)を前提にすれば、契約締結(入口)のみならず、更新回数・利用可能期間(出口)をも規制するということもあり得る。


①締結事由の規制

ただ、締結事由の規制、すなわち入口規制には、十分な検討が必要です。

研究会も、締結事由を規制する場合には、認められた締結事由が存在する場合のみに有期労働契約の利用を限定するものであるので、実際上無期原則を採用することが明らかとなるが、まずこうした法制の根底にある原則的な考え方の転換の是非についての議論が必要であるとしています。

締結事由を規制する方式としては、具体的事由を限定列挙する方式や、「合理的な理由が必要」と一般的に規定する方式等が考えられます。

締結事由を限定列挙した場合、従事する業務が法制で規定された締結事由に該当するものであるかをめぐって争いが生じ得ると考えられます。
また、「合理的な理由」が必要とした場合、何が合理的とされるか等について複雑な法律問題を惹起する可能性もあります。


②更新回数・利用可能期間に係るルール

研究会は、更新回数又は利用可能期間の上限を設定して、それを超えてなお存在するような業務のための有期労働契約であれば、無期労働契約と同様のルールに従うものとすることが公平に適うとの考え方があるとしています。

そして、更新回数の制限については、、労使双方にとって一回の契約期間をできる限り長くするというインセンティブが働く可能性があるとしています。

また、更新回数は規制せずに利用可能期間の上限のみをルール化する場合には、その利用可能期間の中で、短期の契約を多数回更新するなど更新の態様如何では雇用継続の期待を保護する必要があるとして雇止め法理のような問題がなお生じ得るのかどうかという点も考慮する必要があるとしています。

研究会は、このルールにはポジティブなスタンスを取っているようで、「更新回数や利用可能期間の規制は、規制基準として一義的に明確であり、労使双方にとって予測可能性は非常に高いものとなるため、紛争の未然防止につながることや組み合わせる法的効果によってステップアップの道筋が見え、労働者の意欲の向上にもつながり得ると考えられる。また、その「区切り」を、労働者雇用の安定や、職業能力形成の促進、正社員への転換等と関連付けて制度を構築するなどにより広がりを持ち得ることも評価に値する。」としています。

また、労働契約を更新して一定の「区切り」を超えた場合、つまり、一定回数なり一定年数を超えて労働契約を継続する場合については、次のような選択肢を提示しています。

・無期労働契約とみなす
・無期労働契約への変更の申込みがあったものとみなす
・無期労働契約への変更の申込みを使用者に義務付ける
解雇権濫用法理と同様のルールが適用されるものとする
・同ルールが適用可能な状況にあることを推定する
・解雇予告制度を参考に雇止めの予告義務を課す


(3)労働条件明示等の契約締結時の課題

明示事項について追加すべきものがあるか、明示すべき更新の判断基準としてどの程度の具体性を求めるのか等の点とともに、求める措置の性格として、労働基準法上の労働条件明示義務のような取締法規的な義務とするのか、紛争防止の観点から、雇止めの効力判断に当たって考慮するという労働契約ルール(民事上の効果)とするのかなど、複数の選択肢を更に検討することが必要としています。

また、、契約締結時に契約期間の書面明示がなかった場合に無期労働契約として扱われるような効果を付与することが考えられるということです。

この点は、労働契約は無期労働契約を原則とするのかどうかにもかかわってくるように思います。


(4)均衡待遇、正社員への転換等

有期契約労働者と正社員との間の均衡のとれた待遇を推進するとともに、有期契約労働者雇用の安定及び職業能力形成の促進という観点から、有期労働契約の無期化や正社員転換等を推進するという施策が考えられるとしています。

正社員への転換は、会社が正社員転換制度を導入し、希望する労働者がこれに応ずるという形で実施されるのが一般的です。

その際、個々の事情や希望等からこれに応募しない、あるいはできない労働者がそのままの処遇で取り残されることは公平を欠きます。
研究会も、両者は二者択一的な関係に立つものではなく、多様な選択を可能とするべく総合的な取組みが期待されるものとしています。

この指摘は重要です。

・正社員転換がすべてではない
・非正社員そのものの待遇改善に取り組むべき

--こう、明言しているわけですから。


ただし、待遇改善についても、現実に難しい問題があることも事実です。
特に、日本の賃金決定の特殊性は、問題を複雑にします。

研究会も「、我が国においては、諸外国のように職務ごとに賃金が決定される職務給体系とはなっておらず、職務遂行能力という要素を中核に据え、職務のほか人材活用の仕組みや運用などを含めて待遇が決定され、正社員は長期間を見据えて賃金決定システムが設計されていることが一般的であることから、何をもって正社員と比較するのか、また、何が合理的理由がない差別に当たるかの判断を行うことが難しく、民事裁判における判断も区々となることが懸念され、十分な検討が必要である」と指摘、「、パートタイム労働法の枠組みを参考に、職務の内容や人材活用の仕組みや運用などの面から正社員と同視し得る場合には厳格な均等待遇を(差別的取扱いの禁止)導入しつつ、その他の有期契約労働者については、正社員との均衡を考慮しつつ、その職務の内容・成果、意欲、能力及び経験等を勘案して待遇を決定することを促すとともに、待遇についての説明責任を課すという均衡待遇の仕組みの方法がある。このような仕組みは多様な有期契約労働者を対象とすることができるとともに、努力義務等に対する行政指導等によるほか、当事者の交渉を促し、妥当な労働条件に向けた当事者の創意工夫を促すなどの実情に即した対応を可能とすると考えられる」と提示しています。

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