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★★★ 新・
行政書士試験 一発合格! Vol. ’06-21 ★★
【レジュメ編】 公益通報者保護法
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■■■ 公益通報者保護法
■■■ お願い
■■■ 編集後記
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平成16年6月に公布された公益通報者保護法が、今年4月1日から施行されています。
そこで、一般知識対策として、この公益通報者保護法を取上げることにしました。
■■■ 公益通報者保護法
■■ 目的
第一条 この法律は、公益通報をしたことを理由とする公益通報者の解雇の無効等並び
に公益通報に関し
事業者及び行政機関がとるべき措置を定めることにより、公益通報者
の保護を図るとともに、国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法令の
規定の遵守を図り、もって国民生活の安定及び社会経済の健全な発展に資することを目
的とする。
■ 新たな法的保護の必要性
【1】解雇:
労働基準法
第十八条の二 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認めら
れない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
(*)この第18条の2は平成15年改正で追加され、平成16年1月1日から施行。
→ どのような内容の通報をどこへすれば解雇等の不利益な取扱いを受けないのかに関
する要件が必ずしも明確でなく、公益通報に関する判例も豊富ではなかったため、
公益通報者の解雇が無効となる要件を具体化・明確化した規定を設け、公益通報を
しようとする
労働者の負担の軽減を図る必要があった。
【2】信義則:
民法
第一条(基本原則)
2 権利の行使及び義務の
履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
→
労働者は、
労働契約における付随義務として、
事業者の秘密、名誉、信用などの利
益を不当に害しないようにする義務(誠実義務)を負っているため、どのような内
容の公益通報であれば誠実義務違反を問われないのかが公益通報者にとって不明確
であった。
【3】権利濫用:
民法
第一条(基本原則)
3
権利の濫用は、これを許さない。
→ 公益通報者に対する解雇権についても、
使用者(
事業者)の権利の行使が客観的に
合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、権利濫用とし
て無効となるが、この一般条項のみでは、公益のために通報をしようとする
労働者
が一方的に不利な解雇を受けるおそれがあった。
【4】公序良俗:
民法
第九十条 公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする
法律行為は、無効とす
る。
→ 公序良俗に反する解雇は
民法第90条によって無効となるが、これに当たるか否かの
判断は、現在の社会の認識として成立している公序良俗が何であるかによって判断
するほかなかった。
■■ 定義
【1】公益通報(2条1項)
労働者が、不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的でな
く、その
労務提供先又は当該
労務提供先の事業に従事する場合の
役員、
従業員、
代理人
その他の者について通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしている旨を、当該労
務提供先若しくは当該
労務提供先があらかじめ定めた者、当該通報対象事実について処
分若しくは勧告等をする権限を有する行政機関又はその者に対し当該通報対象事実を通
報することがその発生若しくはこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認
められる者に通報すること
(1)
労働者の範囲
(ア)
労働基準法第9条に規定する
労働者(派遣社員やパート社員等も含む。)
(*)この法律で「
労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される
者で、
賃金を支払われる者をいう(
労働基準法9条)。
(*)
取締役や下請
事業者は対象外。また、すでに
退職している者も対象外。ただし、
公益通報してから
退職した場合には、対象になる。
(イ)
公務員を含む。
(*)ただし、一般職の国家
公務員等に対する免職その他不利益な取扱いの禁止につい
ては国家
公務員法等の定めるところによる(7条)。
(2)不正の目的でないこと(刑法の名誉毀損罪の免責事由とは異なる。)
(*)刑法
第二百三十条(名誉毀損) 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実
の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
第二百三十条の二(公共の利害に関する場合の特例) 前条第一項の行為が公共の利害
に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合に
は、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
(3)
労務提供先等
(ア)
労務提供先
(a)
労働者を自ら使用する
事業者(
直接雇用する
事業者)
(b)派遣
労働者の
役務の提供を受ける
事業者(
派遣先事業者)
(c)
請負契約等に基づき
労働者が従事する事業の取引
事業者等
(*)一度限りの販売
契約などは、
労働者が反復継続的に
労務を提供しないため、(c)
には該当しない。
(イ)
事業者には、
法人その他の団体のほか、事業を行う個人も含まれる。
(ウ)
労務提供先の事業に従事する場合の
役員、
従業員、
代理人その他の者
(*)犯罪行為や法令違反行為の主体には、
法人その他の
事業者のほか、
役員、
従業員
等も考えられるため。
(4)通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしている旨
「まさに生じようとしている」場合を対象としている理由は、通報対象事実が生じた後
にする通報だけに限定することは合理的でないため。
(5)通報先
(ア)
労務提供先若しくは当該
労務提供先があらかじめ定めた者
(*)
事業者が「
法人その他の団体」である場合には、代表者のほか、通報対象事実に
ついて権限を有する管理職、当該
労働者の業務上の指揮監督に当たる上司等の従
業者も含まれる。
(イ)通報対象事実について処分若しくは勧告等をする権限を有する行政機関
(*)「権限を有する」行政機関には、法令の規定により直接権限を有する機関のほ
か、法令の規定によりその権限に属する事務を行うこととされた都道府県知事、
市町村長等を含む。
(ウ)当該通報対象事実を通報することがその発生若しくはこれによる被害の拡大を防
止するために必要であると認められる者
(*)通報対象事実により被害を受け又は受けるおそれがある者を含み、当該
労務提供
先の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある者は除かれる。
【2】公益通報者(2条2項)
公益通報をした
労働者
【3】通報対象事実(2条3項)
(1)犯罪行為
個人の生命又は身体の保護、消費者の利益の擁護、環境の保全、公正な競争の確保その
他の国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法律として別表に掲げるも
の(これらの法律に基づく命令を含む。次号において同じ。)に規定する罪の犯罪行為
の事実
(2)犯罪行為と関連する法令違反(行政処分の対象となる違法行為)
別表に掲げる法律の規定に基づく処分に違反することが(1)に掲げる事実となる場合
における当該処分の理由とされている事実(当該処分の理由とされている事実が同表に
掲げる法律の規定に基づく他の処分に違反し、又は勧告等に従わない事実である場合に
おける当該他の処分又は勧告等の理由とされている事実を含む。)
(*)公序良俗違反、
不法行為、
債務不
履行等の民事法違反行為や各法令に定められた
努力義務違反等の不当な行為は対象外。
〔事例〕
個人情報保護法で対象になる通報対象事実
(ア)勧告
第34条 主務大臣は、
個人情報取扱事業者が第十六条から第十八条まで、第二十条から
第二十七条まで又は第三十条第二項の規定に違反した場合で、個人の権利利益を保護す
るため必要があると認めるときは、当該
個人情報取扱事業者に対し、当該違反行為の中
止その他違反を是正するために必要な措置をとるべき旨を勧告することができる。
(イ)勧告違反:犯罪行為と関連する法令違反として公益通報の対象
(ウ)命令
第34条第2項 主務大臣は、前項の規定による勧告を受けた
個人情報取扱事業者が正当
な理由がなくてその勧告に係る措置をとらなかった場合において個人の重大な権利利益
の侵害が切迫していると認めるときは、当該
個人情報取扱事業者に対し、その勧告に係
る措置をとるべきことを命ずることができる。
(エ)命令違反:犯罪行為として公益通報の対象
(オ)刑罰
第五十六条 第三十四条第二項又は第三項の規定による命令に違反した者は、六月以下
の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
(3)別表
一 刑法
二 食品衛生法
三
証券取引法
四 農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律(JAS法)
五 大気汚染防止法
六 廃棄物の処理及び清掃に関する法律
七
個人情報の保護に関する法律(
個人情報保護法)
八 前各号に掲げるもののほか、個人の生命又は身体の保護、消費者の利益の擁護、環
境の保全、公正な競争の確保その他の国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にか
かわる法律として政令で定めるもの
(*)対象法律については、一つの法律に規定する犯罪行為等のすべてが通報対象とさ
れている。
(4)政令で定める法律(前掲(3)八)
(ア)個人の生命又は身体の保護にかかわる法律
薬事法、消防法、火薬類取締法、
労働安全衛生法、生活保護法等
(イ)消費者の利益の擁護にかかわる法律
特定商取引に関する法律、貸金業の規制等に関する法律、銀行法、
宅地建物取引業法、
行政書士法等
★
行政書士法も、公益通報者保護法の対象法律になっています。
(ウ)環境の保全にかかわる法律
大気汚染防止法、悪臭防止法、水質汚濁防止法、騒音規制法、土壌汚染対策法等
(エ)公正な競争の確保にかかわる法律
独占禁止法、不当景品類及び不当表示防止法、下請代金支払遅延等防止法等
(オ)その他の国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法律
不正アクセス禁止法、著作権法、
労働基準法等
(*)「公益通報者保護法別表第八号の法律を定める政令」では、
行政書士法を含む
406本の法律が指定されている。
→ 現在施行されているすべての法律が対象ではない。
(5)対象外の法律
(ア)専ら国家の機能にかかわる法律
税法、出入国管理及び
難民認定法、政治資金規正法、自衛隊法等
(イ)専ら
法人の内部管理にかかわる法律
独立行政
法人通則法等
(ウ)
事業者による違反が想定されない法律
配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律、
ストーカー行為規制法等
(エ)専ら社会的法益の保護にかかわる法律
競馬法、通貨及証券模造取締法等
■ 政令および府省令
「別表に掲げるもの(これらの法律に基づく命令を含む。)」(2条3項1号)と規定
されていることから、政令及び府省令も対象に含まれる(別表に掲げる法律の罪と同様
の扱いになる。)。
■ 条例および規則
条例および普通地方公共団体の長が定める規則に基づく違反行為は「通報対象事実」に
含まれない。
【4】行政機関
(1)内閣府
(2)宮内庁
(3)
公正取引委員会、国家公安
委員会、防衛庁、防衛施設庁、金融庁(内閣府設置法)
(4)
総務省、財務省等の10 省、公害等調整
委員会、中央
労働委員会等の4
委員会、
消防庁、
国税庁、文化庁等の13 庁(国家行政組織法)
(5)
人事院
(6)(1)から(5)に置かれる機関(内部部局、審議会等)又はこれらの機関の職
員であって法律上独立に権限を行使することを認められた職員(植物防疫官、海
上保安官等)
(*)国会、裁判所、
会計検査院、内閣(官房、法制局および安全保障会議)は含まれ
ない。
(7)地方公共団体の機関
(*)地方公共団体に置かれる執行機関、
補助機関、付属機関、分掌等機関一般をい
い、都道府県知事、市町村長等の行政庁のほか、個別の法律において規定される
「独立に権限を行使することを認められた職員」も含まれる。
(*)地方議会は含まれない。
■■ 解雇の無効
第三条 公益通報者が次の(1)から(3)に掲げる場合においてそれぞれ当該各号に
定める公益通報をしたことを理由として前条第一項第一号に掲げる
事業者が行った解雇
は、無効とする。
・ 解雇は無効だが、無効となる解雇を行った事業主に対する
罰則はない。
(1)通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料する場合:当該
労務
提供先等に対する公益通報
・組織上の職制を超えた通報であっても、
事業者内部での通報である限り保護される。
・派遣社員や
出向社員の通報先は、
労務提供先等であり、
派遣元や
雇用元ではない。
・以下の(2)や(3)の場合と異なり、合理的に「思料」さえすれば保護される通報
ができ、その内容についての「真実相当性」までは要件でない。
(2)通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理
由がある場合:当該通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有する行
政機関に対する公益通報
・「真実相当性」が要件である。
→
事業者外部への公益通報については、仮に通報内容が真実でなかった場合であって
も、単なる伝聞等ではなく、誤信したことについて相当の資料や根拠が必要である。
・処分又は勧告等をする権限を有しない行政機関は通報先に含まれていない。
→ ただし、処分等の権限を有しない行政機関に誤って通報した場合、当該行政機関は
処分等の権限を有する行政機関を通報者に教示しなければならないので(11条)、
結果的には本法の保護の対象になる。
・犯罪行為についての通報であるため、通報先の行政機関には、検察官、検察事務官や
司法警察職員も含まれる。ただし、公益通報と刑事訴訟法の
告発は、そもそも別のも
の。
→ 刑事訴訟法の
告発が公益通報の要件を満たす場合には、解雇は無効となる。なお、
その要件を満たさない
告発については、解雇権濫用の法理に照らして、その合理性
等が判断される。
・秘密を守る義務:職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その
職を退いた後といえども同様とする(国家
公務員法100条1項、地方
公務員法34条1
項等)。
→ 行政機関に通報した場合の通報者の秘密の
担保が計られている。
(3)通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理
由があり、かつ、次のいずれかに該当する場合:その者に対し当該通報対象事実
を通報することがその発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要であ
ると認められる者に対する公益通報
(ア)(1)、(2)に定める公益通報をすれば解雇その他不利益な取扱いを受けると
信ずるに足りる相当の理由がある場合
(イ)(1)に定める公益通報をすれば当該通報対象事実に係る証拠が隠滅され、偽造
され、又は変造されるおそれがあると信ずるに足りる相当の理由がある場合
(ウ)
労務提供先から(1)、(2)に定める公益通報をしないことを正当な理由がな
くて要求された場合
(エ)書面(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができな
い方式で作られる記録を含む。)により(1)に定める公益通報をした日から
二十日を経過しても、当該通報対象事実について、当該
労務提供先等から調査を
行う旨の通知がない場合又は当該
労務提供先等が正当な理由がなくて調査を行わ
ない場合
・この場合には、「書面」が必要。
→ 書面によらない公益通報も可能であるが、この(エ)の規定による保護を受けるた
めには、書面が必要。
・「二十日」は公益通報が
事業者に到達した日から起算(
民法の到達主義の原則)
→ 20日以内に「調査を行う旨の通知」が必要であるが、調査を開始することや終了さ
せることまでは求められていない。
(オ)個人の生命又は身体に危害が発生し、又は発生する急迫した危険があると信ずる
に足りる相当の理由がある場合
・この場合には、「個人の生命又は身体」に対する危害が問題であり、「財産の被害」
は含まれない(第1条の目的規定を参照のこと)。
■ 通報者の
立証責任
民事訴訟においては、一定の法律効果を主張する者が主張
立証責任を負うのが原則であ
り、本制度においても、この原則に従って、保護要件等については、基本的には、保護
を受けようとする
労働者が主張
立証責任を負うことになる。
■ 匿名の通報
匿名の通報であれば、通常は通報者が特定されず不利益取扱いを受けないため、保護す
る必要は生じない。
→ ただし、通報時には匿名でも、匿名性が最後まで維持されず最終的に通報者が特定
される場合も考えられ、その場合には本法の保護の対象となる。
・インターネットを利用した通報
→ 匿名の通報は、本制度の保護の対象ではないことや、単なる憶測や伝聞に基づく事
業者外部への通報は、本制度の保護要件を満たさないことから、一般的には、ネッ
ト上での一方的な書き込みなどは保護の対象に当たらないと考えられる。
■■
労働者派遣契約の解除の無効
第四条 第二条第一項第二号に掲げる
事業者の指揮命令の下に労働する派遣
労働者であ
る公益通報者が前条各号に定める公益通報をしたことを理由として同項第二号に掲げる
事業者が行った
労働者派遣契約(
労働者派遣法第二十六条第一項に規定する
労働者派遣
契約をいう。)の解除は、無効とする。
・
労働者派遣契約の解除の無効を主張する主体は、
派遣元(派遣された
労働者ではな
い。)
→
契約解除により損害を被った場合、
派遣元は
派遣先に対し、
損害賠償の請求をする
こともできる。
(*)
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣
労働者の就業条件の整備等に関する
法律(
労働者派遣法)
第二十七条
労働者派遣の
役務の提供を受ける者は、派遣
労働者の
国籍、信条、性別、
社会的身分、派遣
労働者が
労働組合の正当な行為をしたこと等を理由として、
労働者派
遣
契約を解除してはならない。
■■ 不利益取扱いの禁止
第五条 第三条に規定するもののほか、第二条第一項第一号に掲げる
事業者は、その使
用し、又は使用していた公益通報者が第三条各号に定める公益通報をしたことを理由と
して、当該公益通報者に対して、降格、減給その他不利益な取扱いをしてはならない。
2 前条に規定するもののほか、第二条第一項第二号に掲げる
事業者は、その指揮命令
の下に労働する派遣
労働者である公益通報者が第三条各号に定める公益通報をしたこと
を理由として、当該公益通報者に対して、当該公益通報者に係る
労働者派遣をする事業
者に派遣
労働者の交代を求めることその他不利益な取扱いをしてはならない。
(ア)事業主による不利益取扱いの内容(例)
・降格
・減給
・
懲戒処分に該当しない訓告、厳重注意、自宅待機命令
・不利益な配置の変更など
人事上の差別取扱いの作為又は不作為
・昇給、昇格など給与上の差別取扱いの作為又は不作為
・正規社員を
パートタイム労働者等の非正規社員とするような
労働契約の内容変更
・
退職の強要
・専ら雑務に従事させるなど就業環境を害すること
・公益通報者であって通報後に
退職した者に対する
退職金の減額・没収
(イ)
労働者又は
退職者である公益通報者に対する不利益な取扱い禁止の効果
→ 本項に違反して不利益な取扱いをした場合でも、これらの行為の効力までを直接否
定されない。
→ しかしながら、公益通報者は、本項違反を理由として
不法行為による
損害賠償請求
をすることができる。
(*)「解雇」は無効であるが、「不利益取扱い」は禁止されているに過ぎない。
(ウ)
派遣先の
事業者による不利益取扱いの内容(例)
・(
派遣先の
事業者が)当該公益通報者に係る
労働者派遣をする
事業者に派遣
労働者
の交代を求めること
・専ら雑務に従事させるなど就業環境を害すること
■ 刑事責任、民事責任の免責
(ア)公益通報の対象は、犯罪行為や法令違反行為という反社会的な行為であるため、
原則として、本法に定める要件を満たす公益通報をしたことによって刑事責任や
民事責任を問われることはない。
(イ)しかしながら、一定の場合には、刑事責任、民事責任が発生する(免責されな
い。)。
・通報に当たって、第三者の
個人情報を漏らすなど、他人の正当な利益を害した場合
・通報に際して、窃盗罪など他の犯罪行為を犯した場合
・不正の目的で通報を行った場合等
〔参考〕
勤務先の金融機関の不正疑惑を解明する目的で、その職員が当該金融機関の保有する顧
客情報を権限なく取得するなどした行為は、
就業規則に規定する
懲戒解雇事由に該当す
るとしても、
懲戒解雇に当たるほどの違法性は認められず、これを理由とする
懲戒解雇
は
権利の濫用に当たり、無効であるとされた事例がある(平成14年7月福岡高裁判決)。
ただし、
服務規律等には違反するので、
就業規則の
懲戒事由には当たるが、出勤停止よ
りも重い処分を科すことはできないと判示している。
なお、この事例の原審(平成12年9月宮崎地裁)では、顧客情報が記載された文書を不
正に入手したこと、不正を糾すという動機を考慮しても、
懲戒解雇には合理的理由があ
り、
権利の濫用には当たらないと判示されている。
■■ 解釈規定
第六条 前三条の規定は、通報対象事実に係る通報をしたことを理由として
労働者又は
派遣
労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをすることを禁止する他の法令(法律及
び法律に基づく命令をいう。)の規定の適用を妨げるものではない。
2 第三条の規定は、
労働基準法第十八条の二の規定の適用を妨げるものではない。
・確認規定
→ 第3条から第5条の規定は公益通報に共通する基本的事項を定めるものであり、そ
の他の個別の通報者保護規定の適用を妨げられない。
→ 第3条(解雇の無効)に定める要件に該当しない公益通報であっても、
労働基準法
第18 条の2の解雇権濫用が成立する場合、その適用は排除されない。
■■ 一般職の国家
公務員等に対する取扱い
第七条 第三条各号に定める公益通報をしたことを理由とする一般職の国家
公務員等
(一般職の国家
公務員、裁判所職員、国会職員、自衛隊員及び一般職の地方
公務員)に
対する免職その他不利益な取扱いの禁止については、第三条から第五条までの規定にか
かわらず、国家
公務員法、国会職員法、自衛隊法及び地方
公務員法の定めるところによ
る。この場合において、一般職の国家
公務員等の任命権者その他の第二条第一項第一号
に掲げる
事業者は、第三条各号に定める公益通報をしたことを理由として一般職の国家
公務員等に対して免職その他不利益な取扱いがされることのないよう、これらの法律の
規定を適用しなければならない
・規制法のなかには「○○大臣は○○をしなければならない」という規定があるが、不
作為について
罰則が用意されていないものについては、これらの規定に違反する事実
は「犯罪行為及び法令違反行為」に当たらず、そもそも公益通報制度の保護の対象に
はならない。
■■ 他人の正当な利益等の尊重
第八条 第三条各号に定める公益通報をする
労働者は、他人の正当な利益又は公共の利
益を害することのないよう努めなければならない。
・努力義務
・公益通報により他人の正当な利益又は公共の利益を害した場合、公益通報をした労働
者は、民事又は刑事の責任を免れない場合がある。
→ 公益通報者保護法で保護されるのは、公益通報をしたことを理由とする
労働者の解
雇等の不利益な取扱いのみである。
■■ 是正措置等の通知
第九条 書面により公益通報者から第三条第一号に定める公益通報をされた
事業者は、
当該公益通報に係る通報対象事実の中止その他是正のために必要と認める措置をとった
ときはその旨を、当該公益通報に係る通報対象事実がないときはその旨を、当該公益通
報者に対し、遅滞なく、通知するよう努めなければならない
・努力義務
■■ 行政機関がとるべき措置
第十条 公益通報者から第三条第二号に定める公益通報をされた行政機関は、必要な調
査を行い、当該公益通報に係る通報対象事実があると認めるときは、法令に基づく措置
その他適当な措置をとらなければならない。
2 前項の公益通報が第二条第三項第一号に掲げる犯罪行為の事実を内容とする場合に
おける当該犯罪の捜査及び公訴については、前項の規定にかかわらず、刑事訴訟法の定
めるところによる。
(ア)行政機関の対応義務:「適当な措置をとらなければならない。」
→
事業者の対応義務については、第9条(是正措置等の通知)を除き明文の規定はな
い。ただし、
事業者が内部で公益通報を適切に取り扱う体制の整備が促され、これ
により通報対象事実の是正が図られることが期待されている。
(イ)調査が必要かどうかや措置が適当かどうかについては、当該調査・措置権限を有
する行政機関の裁量が認められる。
→ 通報者は、調査や措置を受ける当事者ではないため、行政機関に対し、本条を根拠
として
行政不服審査の申立てをすることはできない。
(ウ)是正措置等の通知
事業者の場合には、努力義務が課せられているが、行政機関には捜査機関も含まれるた
め、努力義務が課せられていない。
(エ)検察官、検察事務官又は司法警察職員に犯罪行為の事実を内容とする公益通報が
された場合
→ 犯罪の捜査や公訴については、一般の行政調査等と異なり、刑事訴訟法で必要な手
続が定められているため、刑事訴訟法の定めるところによる。
■■ 教示
第十一条 前条第一項の公益通報が誤って当該公益通報に係る通報対象事実について処
分又は勧告等をする権限を有しない行政機関に対してされたときは、当該行政機関は、
当該公益通報者に対し、当該公益通報に係る通報対象事実について処分又は勧告等をす
る権限を有する行政機関を教示しなければならない。
■■ 施行期日
第一条 この法律は、公布の日から起算して二年を超えない範囲内において政令で定め
る日から施行し、この法律の施行後にされた公益通報について適用する。
・施行日:平成18年4月1日
・本法の施行後にされた公益通報について適用。
→ ただし、本法の施行前の事案や
公訴時効が成立している事案についても、通報が施
行後にされたものであれば対象となる。施行前の事案等について一律に対象外とし
ていない。
→ 有害物質を土中に埋めた場合のように、現時点で国民の生命、身体等に被害が発生
する場合が考えられるため。
■■ 公益通報者保護法
公益通報者保護法は、条文の数もわずか11条ですから、全条文を通読することをお勧め
します。法令の検索は、
総務省行政管理局が官報に基づき、データ整備している「法令
データ提供システム」が便利です。
http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxsearch.cgi
からどうぞ。ただし、施行後直ちに掲載されず(毎月1回程度更新されているようで
す。)、それまでの間は、未施行法令に掲載されていますので、ご注意下さい。
なお、公益通報者保護法の詳細情報については、内閣府の
公益通報者保護制度ウェブサ
イト
http://www5.cao.go.jp/seikatsu/koueki/index.html からどうぞ。
■■■ お願い
継続して発刊するためには読者の皆様のご支援が何よりの活力になります。ご意見、ア
ドバイス、ご批判その他何でも結構です。内容、頻度、対象の追加や変更等について
も、どうぞ何なりと
e-mail@ohta-shoshi.com までお寄せください。
質問は、このメールマガジンの趣旨の範囲内のものであれば、大歓迎です。ただし、多
少時間を要する場合があります。
■■■ 編集後記
この連休はいかがお過ごしでしょうか。多少の時間的余裕ができたので、一般知識対策
として、公益通報者保護法を取上げました。この春には、公益通報者保護法が話題とな
っていましたが、
個人情報保護法ほどのインパクトはなかったようです。これは、自動
車会社や乳業メーカー等の不祥事が内部
告発によって広く社会的に
認知されたことがあ
ると思われます。
ところで、
行政書士は街の法律家として、会社サイドからも、
労働者サイドからも、こ
の公益通報者保護法について照会を受ける機会がますます増えていくものと思われま
す。この場合、どこまでが
行政書士の職域として法的に可能かという問題があることに
も留意しつつ、「国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法令の規定の
遵守を図り、もって国民生活の安定及び社会経済の健全な発展に資すること」(第1条)
に寄与したいものです。
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マガジンタイトル:新・
行政書士試験 一発合格!
発行者:
行政書士 太田誠 東京都
行政書士会所属(府中支部)
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