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【レジュメ編】 行政法(その11〔1〕)

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     ★★★ 新・行政書士試験 一発合格! Vol. ’06-32 ★★
           【レジュメ編】 行政法(その11〔1〕)

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■■■ 国家賠償法 ■■■
■■■ 1条に基づく責任
■■■ 2条に基づく責任

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■■■ 国家賠償法 ■■■
■■ 国家賠償法
国又は公共団体の損害賠償責任に関するルールの総体。「国家賠償法」という名称の法
律がその中核となる一般法であるが、国又は公共団体の損害賠償責任に関するルールを
完結的に規律しているわけではなく、民法上の損害賠償責任に関するルールによって補
完される部分も多い。
→ 法治国家では、違法侵害は除去されるべきであるのに対して、適法侵害の場合、国
  民には受忍義務がある。


■■■ 1条に基づく責任
■ 公務員不法行為と賠償責任
第一条 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故
意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償
する責に任ずる。
2 前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団
体は、その公務員に対して求償権を有する。

■ 憲法第十七条  何人も、公務員不法行為により、損害を受けたときは、法律の
  定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。

■ 民法
使用者等の責任)
第七百十五条 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行につい
て第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその
事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきで
あったときは、この限りでない。
2 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。
→ 民法715条1項の責任と国家賠償法の責任は、二者択一の関係にある。

■ 代位責任説
公務員不法行為責任は、第一次的には公務員個人に帰属するが、これを国又は公共団
体が肩代わりするという考え方

●● 最高裁判例「損害賠償〔岡山税務署健康診断事件〕」(民集第36巻4号519頁)
【裁判要旨】
国又は公共団体に属する一人又は数人の公務員による一連の職務上の行為の過程におい
て他人に被害を生ぜしめた場合において、それが具体的にどの公務員のどのような違法
行為によるものであるかを特定することができなくても、右の一連の行為のうちのいず
れかに故意又は過失による違濫行為があつたのでなければ右の被害が生ずることはなか
つたであろうと認められ、かつ、それがどの行為であるにせよ、これによる被害につき
専ら国又は当該公共団体が国家賠償法上又は民法上賠償責任を負うべき関係が存在する
ときは、国又は当該公共団体は、加害行為の不特定の故をもつて右損害賠償責任を免れ
ることはできない。
★ 代位責任説を厳格に解釈すると、公務員個人や加害行為を特定できない場合には、
  国家賠償請求ができないことになるが、特定できないことを理由として国家賠償責
  任を否定することはできないと判示した。
★ 国や公共団体の責任が認められるためには、加害者である公務員個人やその加害行
  為を特定する必要はない。

■ 「公務員」(1項・2項)
☆ 国家賠償法1条の責任の要件(その1)「公権力の行使に当たる公務員
→ 判例においては、行為者の身分ではなく、行為の性質が決め手とされている。
・「公権力の行使」であるか否かを基準として、国家賠償法1条が適用されるか、民法
 が適用されるかが異なる。また、行為の性質が「公権力の行使」である場合には、行
 為者が公務員の身分を持たないとき(例:独立行政法人の「非公務員型」職員)にも
 国家賠償法1条が適用されることがある。
★ 国家公務員法や地方公務員法の「公務員」の概念と同じではない。公権力に該当す
  るかどうかが判断され、該当する場合には、当該公権力の行使にあたる者が、国家
  賠償法上の「公務員」とみなされることになる。

■ 「公権力の行使」(1項)
・ 国家賠償法1条の適用対象は、行政作用には限られず、立法作用、司法作用にも及
  ぶ。また、「行使」のなかには、不作為も含まれる。
・ 行政作用は、「権力的活動」「非権力的活動」「私経済的活動」に分けられる。国
  家賠償
法1条は、制定当時は、法令に基づいて国民に命令したり強制したりする「権力的活
動」について適用されることが予定されていたが、判例は、「権力的活動」だけではな
く、「非権力的活動」についても国家賠償法1条を適用するようになってきた。
→ 公務員の職務行為が「公権力の行使」であれば、国家賠償法1条1項の適用があ
  り、そうではない場合には、民法不法行為に関する規定が適用される。

・広義説:「公権力の行使」には、国または公共団体の作用のうち純粋な私経済に関す
 る行為と国家賠償法2条の対象である営造物の設置管理作用を除くすべての作用が含
 まれる。

(1)「公権力の行使」に当たる場合
●● 最高裁判例「損害賠償〔課外クラブ活動喧嘩失明事件〕」(民集第37巻1号101
   頁)
【裁判要旨】
町立中学校の生徒が、放課後、体育館において、課外のクラブ活動中の運動部員の練習
の妨げとなる行為をしたとして同部員から顔面を殴打されたなど判示のような事情のも
とで生じた喧嘩により左眼を失明した場合に、同部顧問の教諭が右クラブ活動に立ち会
つていなかつたとしても、右事故の発生する危険性を具体的に予見することが可能であ
るような特段の事情のない限り、右失明につき同教諭に過失があるとはいえない。
★ 国公立学校における教育は「公権力の行使」になる。なお、私立学校の場合には、
  民法不法行為法が適用される。

●● 最高裁判例「損害賠償請求事件」(平成18年06月16日)
【理由】
集団ツベルクリン反応検査及び集団予防接種は、被告(国)の伝染病予防行政の重要な施
策として、被告からの細部にまでわたる指導に基づいて、各自治体により実施されたこ
とが明らかであり、本件集団予防接種等が強制接種であったか勧奨接種であったかにか
かわらず、被告の伝染病予防行政上の公権力の行使に当たるから、被告は、本件集団予
防接種等によって生じた損害について、国家賠償法1条1項に基づく賠償責任を負う。
★ 前号で紹介した最高裁判決である(B型肝炎ウイルスに感染しB型肝炎を発症した
  ことによる損害につき、型肝炎を発症した時が民法724条後段所定の除斥期間の
  起算点となるとされた事例)。
→ 強制接種等は「公権力の行使」とされている。

●● 最高裁判例「損害賠償」(民集第33巻5号481頁)
【裁判要旨】
都道府県警察の警察官がいわゆる交通犯罪の捜査を行うにつき違法に他人に加えた損害
については、国は、原則として、国家賠償法一条一項による賠償責任を負わない。
【理由】
都道府県警察の警察官がいわゆる交通犯罪の捜査を行うにつき故意又は過失によつて違
法に他人に損害を加えた場合において国家賠償法一条一項によりその損害の賠償の責め
に任ずるのは、原則として当該都道府県であり、国は原則としてその責めを負うもので
はない、と解するのが相当である。
★ この場合には、「公権力の行使」主体は国ではなく、都道府県であるとされた。
→ 行為の公権力性の有無を判断し、公権力性がある場合には、その帰属主体を確定
  し、責任を負うべき「国又は公共団体」が定まる。

●● 最高裁判例「損害賠償等」(民集第35巻3号620頁)
【要旨】
弁護士法二三条の二に基づき前科及び犯罪経歴の照会を受けたいわゆる政令指定都市の
区長が、照会文書中に照会を必要とする事由としては「中央労働委員会、京都地方裁判
所に提出するため」との記載があつたにすぎないのに、漫然と右照会に応じて前科及び
犯罪経歴のすべてを報告することは、前科及び犯罪経歴については、従来通達により一
般の身元照会には応じない取扱いであり、弁護士法二三条の二に基づく照会にも回答で
きないとの趣旨の自治省行政課長回答があつたなど、原判示の事実関係のもとにおいて
は、過失による違法な公権力の行使にあたる。

●● 最高裁判例「教育施設負担金返還」(民集第47巻2号574頁)
【要旨】
市がマンションを建築しようとする事業主に対して指導要綱に基づき教育施設負担金の
寄付を求めた場合において、右指導要綱が、これに従わない事業主には水道の給水を拒
否するなどの制裁措置を背景として義務を課することを内容とするものであつて、右行
為が行われた当時、これに従うことのできない事業主は事実上建築等を断念せざるを得
なくなつており、現に指導要綱に従わない事業主が建築したマンションについて水道の
給水等を拒否していたなど判示の事実関係の下においては、右行為は、行政指導の限度
を超え、違法な公権力の行使に当たる。

(2)「公権力の行使」に当たらない場合
以下のように、私人と同様の立場でなされていると見られる一定の行政作用は、その主
体が国又は公共団体であり、行為者が公務員の身分を持っている場合でも、民法によっ
て処理されることになる。

●● 最高裁判例「損害賠償〔岡山税務署健康診断事件〕」(民集第36巻4号519頁)
【要旨】
保健所に対する国の嘱託に基づいて地方公共団体の職員である保健所勤務の医師が国家
公務員定期健康診断の一環としての検診を行つた場合において、右医師の行つた検診
又はその結果の報告に過誤があつたため受診者が損害を受けても、国は、国家賠償法
条一項又は民法七一五条一項の規定による損害賠償責任を負わない。
☆ 前掲「■代位責任説」判例と同じ。

●● 最高裁判例「損害賠償」(民集第51巻8号3850頁)
【裁判要旨】
国会議員が国会の質疑演説討論等の中でした個別の国民の名誉又は信用を低下させる発
言につき、国家賠償法一条一項の規定にいう違法な行為があったものとして国の損害賠
償責任が肯定されるためには、当該国会議員が、その職務とはかかわりなく違法又は不
当な目的をもって事実を摘示し、あるいは、虚偽であることを知りながらあえてその事
実を摘示するなど、国会議員がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使
したものと認め得るような特別の事情があることを必要とする。
★ 国会議員の免責特権(憲法51条)があっても、国家賠償法1条1項に基づく国家賠
  償責任を追及することはできるが、この免責特権により、国家賠償法1条2項に基
  づく求償は否定される。

■ 「国又は公共団体」(1項・2項)
(1)公共団体:地方公共団体及びその他の公共団体
(ア)地方公共団体:地方自治法上の「普通地方公共団体」である都道府県及び市町
   村、地方自治法上の「特別地方公共団体」である特別区、地方公共団体の組合、
   財産区及び地方開発事業団
(イ)その他の公共団体:何が該当するかについて明らかではない。

(2)国又は公共団体が処理する「行政事務」を担当するために設立されている法人
   「行政主体」と考えると、これには「独立行政法人」「公共組合」「地方三公
   社」が含まれ、「特殊法人」の大部分と「認可法人」の一部も含まれる。

■ 「その職務を行うについて」(1項)
判例は、民法715条に関する「外形標準理論」にならって、公務員の主観的意図には
かかわらず、行為の外形において職務遂行と認められるものであれば足りるとしてい
る。
★ 外形標準理論は、事物管轄を有する公務員の職務執行との関連性を判断するための
  理論であり、公務員としての外形を有するかどうかを判断する理論ではない。

●● 最高裁判例「損害賠償請求〔川崎駅非番警察官強盗殺人事件〕」(民集第10巻11
   号1502頁)
【裁判要旨】
巡査が、もつぱら自己の利をはかる目的で、制服着用の上、警察官の職務執行をよそお
い、被害者に対し不審尋問の上、犯罪の証拠物名義でその所持品を預り、しかも連行の
途中、これを不法に領得するため所持の拳銃で同人を射殺したときは、国家賠償法第一
条にいう、公務員がその職務を行うについて違法に他人に損害を加えた場合にあたるも
のと解すべきである。
【理由】
国家賠償法1条は公務員が主観的に権限行使の意思をもつてする場合にかぎらず自己の
利をはかる意図をもつてする場合でも、客観的に職務執行の外形をそなえる行為をして
これによつて、他人に損害を加えた場合には、国又は公共団体に損害賠償の責を負わし
めて、ひろく国民の権益を擁護することをもつて、その立法の趣旨とするものと解すべ
きであるからである。
★ 私人が公務員のフリをして職務行為を行い、相手方が公務員としての外形を信頼し
  た結果、被害にあっても、国家賠償責任が生じることはない。

■ 「故意又は過失によって違法に」(1項)
☆ 国家賠償法1条の責任の要件(その2)故意・過失と違法性

(1) 法律上の争訟
・国家賠償請求訴訟も、「法律上の争訟」を対象とするので、「法律上の争訟」とはいえな
 い経済政策の当否を争うことはできない。
→ 郵便貯金目減り訴訟(昭和57年)では、インフレーションによる郵便貯金の実質的
  な目減りについて、政府の政治的責任が問われることがあることは別として、法律
  上の義務違反や違法行為による国家賠償法上の損害賠償責任は生じないと判示され
  た。

(2) 過失と違法性の関係
●● 最高裁判例「農地委員会解散命令無効確認並に慰藉料請求」(民集第9巻5号534
   頁)
【裁判要旨】
公権力の行使に当る公務員の職務行為に基く損害については、国または公共団体が賠償
の責に任じ、職務の執行に当つた公務員は、行政機関としての地位においても、個人と
しても、被害者に対しその責任を負担するものではない。
★ 職務行為基準説(検察官は合理的な嫌疑があれば公訴を提起することが許される以
  上、無罪判決が確定しても、起訴が当然には違法とはならない。)

(ア)逮捕・起訴等の違法
●● 最高裁判例「国家賠償(芦別事件)」(民集第32巻7号1367頁)
【理由】
刑事事件において無罪の判決が確定したというだけで直ちに起訴前の逮捕・勾留、公訴
の提起・追行、起訴後の勾留が違法となるということはない。けだし、逮捕・勾留はそ
の時点において犯罪の嫌疑について相当な理由があり、かつ、必要性が認められるかぎ
りは適法であり、公訴の提起は、検察官が裁判所に対して犯罪の成否、刑罰権の存否に
つき審判を求める意思表示にほかならないのであるから、起訴時あるいは公訴追行時に
おける検察官の心証は、その性質上、判決時における裁判官の心証と異なり、起訴時あ
るいは公訴追行時における各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪
と認められる嫌疑があれば足りるものと解するのが相当であるからである。
★ 起訴や逮捕といった公権力の発動要件が欠如している場合に、無罪判決が確定する
  と、当然に当該起訴や逮捕は国家賠償法上違法になるということになる。

●● 最高裁判例「損害賠償」(民集第39巻4号919頁)
【裁判要旨】
検察官が論告において第三者の名誉又は信用を害する陳述をしても、論告の目的、範囲
を著しく逸脱し、又は陳述の方法が甚しく不当であるなど訴訟上の権利の濫用に当たる
特段の事情のない限り、右陳述は正当な職務行為として国家賠償法一条一項の違法性を
阻却される。

●● 最高裁判例「損害賠償」(民集第43巻6号664頁)
【裁判要旨】
公訴の提起時において、検察官が現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行
すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌
疑があれば、右公訴の提起は違法性を欠くものと解するのが相当である。

(イ)裁判の違法
●● 最高裁判例「損害賠償」(民集第36巻3号329頁)
【理由】
裁判官がした争訟の裁判に上訴等の訴訟法上の救済方法によつて是正されるべき瑕疵
存在したとしても、これによつて当然に国家賠償法一条一項の規定にいう違法な行為が
あつたものとして国の損害賠償責任の問題が生ずるわけのものではなく、右責任が肯定
されるためには、当該裁判官が違法又は不当な目的をもつて裁判をしたなど、裁判官が
その付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別
の事情があることを必要とすると解するのが相当である。
★ 裁判の場合には、さらに違法性が特に限定されている(違法性限定説)。

●● 最高裁判例「国家賠償、仮執行の原状回復命令申立〔弘前大学教授夫人殺人再審
   無罪事件〕」(民集第5号938頁)
【裁判要旨】
(ア)再審により無罪判決が確定した場合であつても、裁判官がした裁判につき国家賠
   償法一条一項の規定にいう違法な行為があつたものとして国の損害賠償責任が認
   められるためには、当該裁判官が、違法又は不当な目的をもつて裁判をしたな
   ど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと
   認め得るような特別の事情がある場合であることを要する。
(イ)再審により無罪判決が確定した場合であつても、公訴の提起及び追行時における
   各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑が
   あつたときは、検察官の公訴の堤起及び追行は、国家賠償法一条一項の規定にい
   う違法な行為に当たらない。
★ 司法の分野でも、同様に国家賠償法上の違法性が認められる余地が極めて限定され
  ている。なお、国家賠償法上の違法性は、裁判の結果とは異なる基準で判断され
  る。その職務遂行時に遵守すべき規準等に適合する場合には、違法性は問われな
  い。

(ウ)立法の違法
●● 最高裁判例「損害賠償(在宅投票制度廃止事件)」(民集第39巻7号1512頁)
【理由】
国会議員は、立法に関しては、原則として、国民全体に対する関係で政治的責任を負う
にとどまり、個別の国民の権利に対応した関係での法的義務を負うものではないという
べきであつて、国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反してい
るにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとき、容易に想定し難いような
例外的な場合でない限り、国家賠償法一条一項の規定の適用上、違法の評価を受けない
ものといわなければならない。
★ 職務行為基準説のなかでも、立法の政治的正確から、特に違法性を限定する違法性
  限定説を採った。

●● 最高裁判例「在外日本人選挙権剥奪違法確認等請求事件」(民集第59巻7号2087
   頁)
【裁判要旨】
国家賠償法1条1項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に
対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに、国又は公
共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものである。したがって、国会議員
の立法行為又は立法不作為が同項の適用上違法となるかどうかは、国会議員の立法過程
における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題で
あって、当該立法の内容又は立法不作為の違憲性の問題とは区別されるべきであり、仮
に当該立法の内容又は立法不作為が憲法の規定に違反するものであるとしても、そのゆ
えに国会議員の立法行為又は立法不作為が直ちに違法の評価を受けるものではない。
しかしながら、立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に
侵害するものであることが明白な場合や、国民に憲法上保障されている権利行使の機会
を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり、それが明白であるに
もかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには、例外的
に、国会議員の立法行為又は立法不作為は、国家賠償法1条1項の規定の適用上、違法
の評価を受けるものというべきである。
在外国民であった上告人らも国政選挙において投票をする機会を与えられることを憲法
上保障されていたのであり、この権利行使の機会を確保するためには、在外選挙制度を
設けるなどの立法措置を執ることが必要不可欠であったにもかかわらず、昭和59年に
在外国民の投票を可能にするための法律案が閣議決定されて国会に提出されたものの、
同法律案が廃案となった後本件選挙の実施に至るまで10年以上の長きにわたって何ら
の立法措置も執られなかったのであるから、このような著しい不作為は上記の例外的な
場合に当たり、このような場合においては、過失の存在を否定することはできない。

(エ)行政処分の違法
●● 最高裁判例「宅地買収不服、所有権確認請求」(民集第15巻4号850頁)
【裁判要旨】
行政処分無効確認訴訟は国家賠償請求の目的で提起されたものであるからといつて、処
分庁が右処分を取り消した後においても、なおその法律上の利益があるということはで
きない。
【理由】
行政処分が違法であることを理由として国家賠償の請求をするについては、あらかじめ
右行政処分につき取消又は無効確認の判決を得なければならないものではない。

●● 最高裁判例「損害賠償」(民集第39巻5号989頁)
【裁判要旨】
建築主が、建築確認申請に係る建築物の建築計画をめぐつて生じた付近住民との紛争に
つき関係機関から話合いによつて解決するようにとの行政指導を受け、これに応じて住
民と協議を始めた場合でも、その後、建築主事に対し右申請に対する処分が留保された
ままでは行政指導に協力できない旨の意思を真摯かつ明確に表明して当該申請に対し直
ちに応答すべきことを求めたときは、行政指導に対する建築主の不協力が社会通念上正
義の観念に反するといえるような特段の事情が存在しない限り、行政指導が行われてい
るとの理由だけで右申請に対する処分を留保することは、国家賠償法一条一項所定の違
法な行為となる。

●● 最高裁判例「損害賠償請求(奈良税務署推計課税事件)」(民集第47巻4号2863
   頁)
【理由】
税務署長のする所得税の更正は、所得金額を過大に認定していたとしても、そのことか
ら直ちに国家賠償法一条一項にいう違法があったとの評価を受けるものではなく、税務
署長が資料を収集し、これに基づき課税要件事実を認定、判断する上において、職務上
通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と更正をしたと認め得るような事情があ
る場合に限り、右の評価を受けるものと解するのが相当である。
★ 職務上尽くすべき法的義務に違反すると、国家賠償法上の違法性が認められること
  になる。

●● 最高裁判例「面会不許可処分取消等」(民集第45巻6号1049頁)
【要旨】
(ア)監獄法施行規則(平成三年法務省令第二二号による改正前のもの)一二〇条及び一
   二四条の各規定は、未決勾留により拘禁された者と一四歳未満の者との接見を許
   さないとする限度において、監獄法五〇条の委任の範囲を超え、無効である。
(イ)拘置所長が監獄法四五条に違反して未決勾留により拘禁された者と一四歳未満の
   者との接見を許さない旨の処分をした場合において、右処分は監獄法施行規則
   (平成三年法務省令第二二号による改正前のもの)一二〇条に従つてされたもので
   あり、かつ、右規則一二〇条及びその例外を定める一二四条は明治四一年に公布
   されて以来長きにわたつて施行され、その間これらの規定の有効性に実務上特に
   疑いを差し挟む解釈がされなかつたなど判示の事情があるときは、拘置所長が右
   処分をしたことにつき国家賠償法一条一項にいう過失があつたということはでき
   ない。
★ 無効であり、違法であると判示しているが、過失は否定した。

●● 最高裁判例「損害賠償請求事件」(平成18年03月23日)
【裁判要旨】
刑務所長が受刑者の新聞社あての信書の発信を不許可としたことが国家賠償法1条1項
の適用上違法となるとされた事例
【理由】
熊本刑務所長の本件信書の発信の不許可は、裁量権の範囲を逸脱し、又は裁量権を濫用
したものとして監獄法46条2項の規定の適用上違法であるのみならず、国家賠償法
条1項の規定の適用上も違法というべきである。これと異なる原審の判断には、監獄法
46条2項及び国家賠償法1条1項の解釈適用を誤った違法があり、この違法が判決に
影響を及ぼすことは明らかである。
そこで、上告人の被った精神的苦痛の程度について検討するに、本件信書の内容等の前
記事実関係に照らし、慰謝料は1万円とするのが相当である。

●● 最高裁判例「損害賠償請求事件」(民集第58巻1号226頁)
【裁判要旨】
在留資格を有しない外国人が国民健康保険の適用対象となるかどうかについては、定説
がなく、下級審裁判例の判断も分かれている上、本件処分当時には、これを否定する判
断を示した東京地裁判決があっただけで、国民健康保険法5条の解釈につき本件各通知
と異なる見解に立つ裁判例はなかったというのであるから、本件処分をした被上告人横
浜市の担当者及び本件各通知を発した被上告人国の担当者に過失があったということは
できない。そうすると、被上告人らの国家賠償責任は認められないから、上告人の請求
を棄却すべきものとした原審の判断は、結論において是認することができる。

(オ)権力的事実行為の違法
●● 最高裁判例「損害賠償」(民集第40巻1号124頁)
【理由】
警察官がかかる目的のために交通法規等に違反して車両で逃走する者をパトカーで追跡
する職務の執行中に、逃走車両の走行により第三者が損害を被つた場合において、右追
跡行為が違法であるというためには、右追跡が当該職務目的を遂行する上で不必要であ
るか、又は逃走車両の逃走の態様及び道路交通状況等から予測される被害発生の具体的
危険性の有無及び内容に照らし、追跡の開始・継続若しくは追跡の方法が不相当である
ことを要するものと解すべきである。

●● 最高裁判例「メモ採取不許可国家賠償」(民集第43巻2号89頁)
【裁判要旨】
(ア)法廷でメモを取ることを司法記者クラブ所属の報道機関の記者に対してのみ許可
   し、一般傍聴人に対して禁止する裁判長の措置は、憲法一四条一項に違反しな
   い。
(イ)法廷警察権の行使は、法廷警察権の目的、範囲を著しく逸脱し、又はその方法が
   甚だしく不当であるなどの特段の事情のない限り、国家賠償法一条一項にいう違
   法な公権力の行使ということはできない。

(カ)規制権限の不行使の違法
●● 最高裁判例「損害賠償〔京都誠和住研事件〕」(民集第43巻10号1169頁)
【裁判要旨】
宅地建物取引業者に対する知事の免許の付与ないし更新が宅地建物取引業法所定の免許
基準に適合しない場合であつても、知事の右行為は、右業者の不正な行為により損害を
被つた取引関係者に対する関係において直ちに国家賠償法一条一項にいう違法な行為に
当たるものではない。
★ 行政機関が作為義務を怠り、権限を行使しなければ、違法性が認められる。しかし
  ながら、権限の行使は、行政庁の裁量に委ねられていることが通例であることか
  ら、作為義務の存在が極めて明白であるといえる場合は少ないようである。

●● 最高裁判例「損害賠償(クロロキン薬害事件)」(民集第49巻6号1600頁)
【裁判要旨】
(ア)厚生大臣による医薬品の日本薬局方への収載及び製造の承認等の行為は、その時
   点における医学的、薬学的知見の下で、当該医薬品がその副作用を考慮してもな
   お有用性を肯定し得るときは、国家賠償法一条一項の適用上違法ではない。
(イ)厚生大臣がクロロキン製剤につき日本薬局方への収載及び製造の承認等の行為を
   した昭和三五年から同三九年までの間は、その副作用であるクロロキン網膜症に
   関する報告が内外の文献に現れ始めたばかりで、報告内容も長期連用の場合のク
   ロロキン網膜症の発症の危険性及び早期発見のための眼科的検査の必要性を指摘
   するにとどまり、クロロキン製剤の有用性を否定するものではなく、我が国で報
   告されたクロロキン網膜症の症例は少数であったなど判示の事実関係の下におい
   ては、厚生大臣の右各行為は、国家賠償法一条一項の適用上違法ではない。

●● 最高裁判例「損害賠償、民訴法260条2項による仮執行の原状回復請求事件(筑豊
   じん肺訴訟)」(民集第58巻4号1032頁)
【理由】
鉱山保全法の目的、上記各規定の趣旨にかんがみると、同法の主務大臣であった通商産
業大臣の同法に基づく保安規制権限、特に同法30条の規定に基づく省令制定権限は、
鉱山労働者の労働環境を整備し、その生命、身体に対する危害を防止し、その健康を確
保することをその主要な目的として、できる限り速やかに、技術の進歩や最新の医学的
知見等に適合したものに改正すべく、適時にかつ適切に行使されるべきものである。

上記の時点(昭和35年3月31日のじん肺法成立の時)までに、上記の保安規制の権
限が適切に行使されていれば、それ以降の炭坑労働者のじん肺の被害拡大を相当程度防
ぐことができたものということができる。本件における以上の事情を総合すると、昭和
35年4月以降、鉱山保安法に基づく上記の保安規制の権限を直ちに行使しなかったこ
とは、その趣旨、目的に照らし、著しく合理性を欠くものであって、国家賠償法1条1
項の適用上違法というべきである。

●● 最高裁判例「損害賠償(熊本水俣病関西事件)」(民集第58巻7号1802頁)
【裁判要旨】
国が、昭和34年11月末の時点で、多数の水俣病患者が発生し、死亡者も相当数に上って
いると認識していたこと、水俣病の原因物質がある種の有機水銀化合物であり、その排
出源が特定の工場のアセトアルデヒド製造施設であることを高度のがい然性をもって認
識し得る状況にあったこと、同工場の排水に含まれる微量の水銀の定量分析をすること
が可能であったことなど判示の事情の下においては、同年12月末までに、水俣病による
深刻な健康被害の拡大防止のために、公共用水域の水質の保全に関する法律及び工場排
水等の規制に関する法律に基づいて、指定水域の指定、水質基準及び特定施設の定めを
し、上記製造施設からの工場排水についての処理方法の改善、同施設の使用の一時停止
その他必要な措置を執ることを命ずるなどの規制権限を行使しなかったことは、国家賠
償法1条1項の適用上違法となる。

(キ)申請に対する不作為の違法
●● 最高裁判例「損害賠償」(民集第36巻1号19頁)
【理由】
これらの事情から合理的に判断すると、同人に本件ナイフを携帯したまま帰宅すること
を許せば、帰宅途中右ナイフで他人の生命又は身体に危害を及ぼすおそれが著しい状況
にあつたというべきであるから、同人に帰宅を許す以上少なくとも銃砲刀剣類所持等取
締法二四条の二第二項の規定により本件ナイフを提出させて一時保管の措置をとるべき
義務があつたものと解するのが相当であつて、前記警察官が、かかる措置をとらなかつ
たことは、その職務上の義務に違背し違法であるというほかはない。

●● 最高裁判例「損害賠償」(民集第38巻5号475頁)
【理由】
新島警察署の警察官を含む警視庁の警察官は、遅くとも昭和四一、二年ころ以降は、単
に島民等に対して砲弾類の危険性についての警告や砲弾類を発見した場合における届出
催告等の措置をとるだけでは足りず、更に進んで自ら又は他の機関に依頼して砲弾類
を積極的に回収するなどの措置を講ずべき職務上の義務があつたものと解するのが相当
であつて、前記警察官が、かかる措置をとらなかつたことは、その職務上の義務に違背
し、違法であるといわなければならない。

●● 最高裁判例「水俣病認定業務に関する熊本県知事の不作為違法に対する損害賠
   償」(民集第45巻4号653頁)
【裁判要旨】
公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法三条一項又は公害健康被害補償法(昭和
六二年法律第九七号による改正前のもの)四条二項に基づき水俣病患者認定申請をした
者が相当期間内に応答処分されることにより焦燥、不安の気持ちを抱かされないという
利益は、内心の静穏な感情を害されない利益として、不法行為法上の保護の対象にな
る。

(3)故意過失
・違法な行政処分についての過失は、当該行政処分が違法であることを認識すべきであ
 ったのに、認識しなかったことである。ただし、個々の公務員の主観を基準としたも
 のではなく、平均的な公務員を基準として客観的に判断すべきである。

・法律の解釈につき、定まった学説や判例もなく、実務上の取扱いも分かれている場
 合、一方の解釈に従って行った行為は、後に違法と判断されても、直ちに当該公務員
 に過失があったことにはならない。

●● 最高裁判例「損害賠償請求」(民集第25巻4号574頁)
【裁判要旨】
ある事項に関する法律解釈につき異なる見解が対立し、実務上の取扱いも分かれてい
て、そのいずれについても相当の根拠が認められる場合に、公務員がその一方の見解を
正当と解しこれに立脚して公務を執行したときは、のちにその執行が違法と判断された
からといつて、ただちに右公務員に過失があつたものとすることは相当でない。

●● 最高裁判例「損害賠償請求事件」(民集第58巻1号226頁)
→ 『■「故意又は過失によって違法に」(1項)、(2)故意・過失と違法性、
  (エ)行政処分の違法』も参照のこと。

■ 損害
●● 最高裁判例「損害〔京都誠和住研事件〕」(民集第43巻10号1169頁)
【裁判要旨】
知事が宅地建物取引業者に対し宅地建物取引業法六五条二項による業務停止処分ないし
同法六六条九号による免許取消処分をしなかつた場合であつても、知事の右監督処分権
限の不行使は、具体的事情の下において、右権限が付与された趣旨・目的に照らして著
しく不合理と認められるときでない限り、右業者の不正な行為により損害を被つた取引
関係者に対する関係において国家賠償法一条一項の適用上違法の評価を受けない。
★ 知事による宅地建物取引業者の免許や更新が適正に行われることによって取引関係
  者が受ける利益(=反射的利益)は、原則として国家賠償法上の保護の対象にはな
  らない。
☆ 前掲「(カ)規制権限の不行使の違法」掲載と同一の判例。

■ 「国又は公共団体が」(1項)
・ 国家賠償法1条の効果:行為者本人ではなく国又は公共団体が責任を負う。
・ 個人責任が成立すると同時に国家賠償法1条が適用され、国又は公共団体に対する
  損害
賠償請求権という効果が発生する。
・ 行為者は被害者に対して直接には責任を負わない(公務員の個人責任を否定)。
・ 国家賠償法1条の仕組みにおいては行為者が責任を負わないのに対して、民法71
  5条の使用者責任の仕組みは、行為者個人が民法709条の責任を負うことを前提
  として発生するが、使用者と行為者の責任は並存し、行為者の責任がなくなるわけ
  ではない点が異なっている。

●● 最高裁判例「農地委員会解散命令無効確認並に慰藉料請求」(民集9巻5号534
   頁)
【理由】
右請求は、被上告人等の職務行為を理由とする国家賠償の請求と解すベきであるから、
国または公共団体が賠償の責に任ずるのであつて、公務員が行政機関としての地位にお
いて賠償の責任を負うものではなく、また公務員個人もその責任を負うものではない。

●● 最高裁判例「国家賠償」(民集第32巻7号1367頁)
【理由】
公権力の行使に当たる国の公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて
違法に他人に損害を与えた場合には、国がその被害者に対して賠償の責に任ずるのであ
つて、公務員個人はその責を負わないものと解すべきことは、当裁判所の判例とすると
ころである


■■■ 2条に基づく責任
■ 営造物の設置管理の瑕疵と賠償責任
第二条  道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に
損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。
2 前項の場合において、他に損害の原因について責に任ずべき者があるときは、国又
は公共団体は、これに対して求償権を有する。

■ 無過失責任
国家賠償法2条は民法717条に対応するものである。
→ 国家賠償法1条は、民法715条1項の責任と二者択一の関係にある。

民法717条1項の場合と異なり、占有者免責条項がない。
→ 私人所有の他有公物(例えば、地方公共団体が私人の土地を借り、これを児童公園
  の用に供した場合)では、損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときでも、
  占有者(国または公共団体)は責任を負う。
→ 民法の原則によった場合、資力の不十分な所有者たる私人の責任を追及するには限
  界があり、被害者救済をより確実にする法的効果がある。

■ 民法717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、そ
の工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者
が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなけ
ればならない。
2 前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。
3 前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、
占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。

■ 「公の営造物」(1項)
(1)公の営造物=公物:国又は公共団体により直接に公の目的に供用されている個々
   の有体物。不動産のみならず、動産も含まれ、その供用目的によって「公共用公
   物」及び「公用公物」に分けられる。
→ 「直接に公の目的に供用」されていることが必要(私人の設置管理する施設に補助
  金が支給されていても、そのことだけでは「公の営造物」にはならない。)。
・道路、河川のような「土地の工作物」には含まれないものも対象になる。
・公共用公物:一般国民の利用を想定するもので、道路と河川がその典型である。
・公用公物:主に公務の遂行に用いられるもので、庁舎や消防車等が該当する。

(2)公物に該当するかどうかは、それが公の目的に供用されているかどうかにより判
   断されるので、その所有権を国又は公共団体が有するかとは無関係である。
・公物は、その所有権の主体によって、「国有公物」「公有公物」「私有公物」に分類
 される。
・公物の管理主体と所有権の帰属が一致しているものを「自有公物」といい、一致して
 いないものを「他有公物」という。
所有権が国又は公共団体に属するが、公の目的に供されていないものは、理論上は
 「私物」と呼ばれる。

(3)現行法の下では、公物の設置・管理作用については国家賠償法2条が適用さ
   れ、「私物」の設置・管理については、その「私物」が「土地の工作物」に当
   たる場合には民法717条が、その他の場合には民法709条、715条が適
   用される。

★ 行政法上、「公の営造物」とは、行政主体により公の目的に供用される人的手段
  (たとえば、国公立の学校や病院)および物的施設をいう。しかしながら、国家賠
  償法の「公の営造物」は、後者のみを指している。また、道路等の人工公物のほか
  に、河川等の自然公物や動産も、国家賠償法の「公の営造物」に含まれる。

■ 「設置又は管理」(1項)
・ 民法717条にいう「設置又は保存」と同義。
・ 「設置」:「公物」を成立させるまでの設計・施行等の行為
・ 「管理」:その後の維持・修理等の行為

●● 最高裁判例「損害賠償」(民集第38巻11号1260頁)
【理由】
国家賠償法二条にいう公の営造物の管理者は、必ずしも当該営造物について法律上の管
理権ないしは所有権、賃借権等の権原を有している者に限られるものではなく、事実上
の管理をしているにすぎない国又は公共団体も同条にいう管理者に含まれるものと解す
るのを相当とする。

■ 瑕疵
瑕疵:その物が本来備えているべき性質や設備を欠いていること(民法717条にい
 う瑕疵と同義。)
→ 国家賠償法2条は、民法717条と同様に、「無過失責任」を認めるものとされ
  る。

(ア)通常の用法
●● 最高裁判例「損害賠償請求」(民集第24巻9号1268頁)
【理由】
国家賠償法二条一項の営造物の設置または管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全
性を欠いていることをいい、これに基づく国および公共団体の賠償責任については、そ
の過失の存在を必要としないと解するを相当とする。

●● 最高裁判例「損害賠償〔神戸夢野台高校転落事件〕」(民集第32巻5号809頁)
【要旨】
営造物の通常の用法に即しない行動の結果事故が生じた場合において、その営造物とし
て本来具有すべき安全性に欠けるところがなく、右行動が設置管理者において通常予測
することのできないものであるときは、右事故が営造物の設置又は管理の瑕疵によるも
のであるということはできない。
★ 本件は、道路上で遊んでいた子どもが、防護柵を越えて約4m下の高校の校庭に転
  落し、重傷を負った事件である。このなかでは、「本件防護柵は、その材質、高さ
  その他その構造に徴し、通行時における転落防止の目的からみればその安全性に欠
  けるところがないものというべく、上告人の転落事故は、同人が当時危険性の判断
  能力に乏しい6歳の幼児であつたとしても、本件道路及び防護柵の設置管理者であ
  る被上告人において通常予測することのできない行動に起因するものであつたとい
  うことができる」と判示されている。

●● 最高裁判例「損害賠償請求控訴、同附帯控訴」(民集第47巻4号3226頁)
【理由】
公の営造物の設置管理者は、本件の例についていえば、審判台が本来の用法に従って安
全であるべきことについて責任を負うのは当然として、その責任は原則としてこれをも
って限度とすべく、本来の用法に従えば安全である営造物について、これを設置管理者
の通常予測し得ない異常な方法で使用しないという注意義務は、利用者である一般市民
の側が負うのが当然であり、幼児について、異常な行動に出ることがないようにさせる
注意義務は、もとより、第一次的にその保護者にあるといわなければならない。

(イ)不作為の違法
●● 最高裁判例「損害賠償〔大阪環状線福島駅転落事件〕」(民集第40巻2号472頁)
【理由】
点字ブロツク等のように、新たに開発された視力障害者用の安全設備を駅のホームに設
置しなかつたことをもつて当該駅のホームが通常有すべき安全性を欠くか否かを判断す
るに当たつては、その安全設備が、視力障害者の事故防止に有効なものとして、その素
材、形状及び敷設方法等において相当程度標準化されて全国的ないし当該地域における
道路及び駅のホーム等に普及しているかどうか、当該駅のホームにおける構造又は視力
障害者の利用度との関係から予測される視力障害者の事故の発生の危険性の程度、右事
故を未然に防止するため右安全設備を設置する必要性の程度及び右安全設備の設置の困
難性の有無等の諸般の事情を総合考慮することを要するものと解するのが相当である。
★ 新しい安全設備を直ちに導入しないだけのことでは、営造物の設置・管理に瑕疵
  あるとは判断されないが、全国的に普及しているといった一定の場合(その時点で
  は、当然に、導入すべきであったと合理的に判断できる場合)には、営造物の設
  置・管理に瑕疵があると判断される可能性がある。

●● 最高裁判例「損害賠償請求」(民集第29巻6号1136頁)
【要旨】
幅員七・五メートルの国道の中央線近くに故障した大型貨物自動車が約八七時間駐車し
たままになつていたにもかかわらず、道路管理者がこれを知らず、道路の安全保持のた
めに必要な措置を全く講じなかつた判示の事実関係のもとにおいては、道路の管理に瑕
疵があるというべきである。

■ 「他人」(1項)
・被害者として想定されていたのは、本来は「公物」の利用者であるが、判例は「第三
 者」も含まれるとしている。

●● 最高裁判例「大阪国際空港夜間飛行禁止等」(民集第35巻10号1369頁)
【裁判要旨】
〔営造物の利用の態様及び程度が一定の限度を超えるために利用者又は第三者に対して
危害を生ぜしめる危険性がある場合と国家賠償法二条一項にいう営造物の設置又は管理
瑕疵〕営造物の利用の態様及び程度が一定の限度にとどまる限りはその施設に危害を
生ぜしめる危険性がなくても、これを超える利用によつて利用者又は第三者に対して危
害を生ぜしめる危険性がある状況にある場合には、そのような利用に供される限りにお
いて右営造物につき国家賠償法二条一項にいう設置又は管理の瑕疵があるものというべ
きである。
【理由】
そこにいう安全性の欠如、すなわち、他人に危害を及ぼす危険性のある状態とは、ひと
り当該営造物を構成する物的施設自体に存する物理的、外形的な欠陥ないし不備によつ
て一般的に右のような危害を生ぜしめる危険性かある場合のみならず、その営造物が供
用目的に沿つて利用されることとの関連において危害を生ぜしめる危険性がある場合を
も含み、また、その危害は、営造物の利用者に対してのみならず、利用者以外の第三者
に対するそれをも含むものと解すべきである。

●● 最高裁判例「国道四三号・阪神高速道路騒音排気ガス規制等」(民集第49巻7号
   2599頁)
【裁判要旨】
一般国道等の道路の周辺住民がその供用に伴う自動車騒音等により睡眠妨害、会話、電
話による通話、家族の団らん、テレビ・ラジオの聴取等に対する妨害及びこれらの悪循
環による精神的苦痛等の被害を受けている場合において、右道路は産業物資流通のため
の地域間交通に相当の寄与をしているが、右道路が地域住民の日常生活の維持存続に不
可欠とまではいうことのできないいわゆる幹線道路であって、周辺住民が右道路の存在
によってある程度の利益を受けているとしても、その利益とこれによって被る被害との
間に、後者の増大に必然的に前者の増大が伴うというような彼此相補の関係はないなど
判示の事情の存するときは、右被害は社会生活上受忍すべき限度を超え、右道路の設置
又は管理には瑕疵があるというべきである。
【理由】
施設の供用の差止めと金銭による賠償という請求内容の相違に対応して、違法性の判断
において各要素の重要性をどの程度のものとして考慮するかにはおのずから相違がある
から、右両場合の違法性の有無の判断に差異が生じることがあっても不合理とはいえな
い。

●● 最高裁判例「損害賠償」(民集第51巻3号1233頁)
【理由】
シベリア抑留者の辛苦は前記のとおりであるが、第二次世界大戦によりほとんどすべて
の国民が様々な被害を受けたこと、その態様は多種、多様であって、その程度において
極めて深刻なものが少なくないこともまた公知のところである。戦争中から戦後にかけ
ての国の存亡にかかわる非常事態にあっては、国民のすべてが、多かれ少なかれ、その
生命、身体、財産の犠牲を堪え忍ぶことを余儀なくされていたのであって、これらの犠
牲は、いずれも戦争犠牲ないし戦争損害として、国民のひとしく受忍しなければならな
かったところであり、これらの戦争損害に対する補償は憲法の右各条項の予想しないと
ころというべきである。
その補償の要否及び在り方は、事柄の性質上、財政、経済、社会政策等の国政全般にわ
たった総合的政策判断を待って初めて決し得るものであって、憲法一一条、一三条、
一四条、一七条、一八条、二九条三項及び四〇条に基づいて一義的に決することは不可
能であるというほかはなく、これについては、国家財政、社会経済、戦争によって国民
が被った被害の内容、程度等に関する資料を基礎とする立法府の裁量的判断にゆだねら
れたものと解するのが相当である。

■ 河川と道路
・判例は、道路に代表される人工公物と河川に代表される自然公物とで、瑕疵の判断基
 準を実質的にみて異なるものとしている。
・河川はもともと自然的原因による災害をもたらす危険性を内包しているから、その安
 全性の確保は徐々に達成されることが当初から予定されていると判断している。そし
 て、このような違いに対応して、財政的制約の意味が異なるものとされ、結論的にお
 いても河川については管理の瑕疵の存在を否定するものが目立ってきた。
・道路等のように自然に出来上がったものではなく、使用が開始される時点から公共の
 用の供される人工公物の場合には、安全対策への期待水準は高いものになる(安全性
 への期待可能性が高い。)。

(ア)道路
●● 最高裁判例「損害賠償請求(高知落石事件)」(民集第24巻9号1268頁)
【理由】
本件道路における防護柵を設置するとした場合、その費用の額が相当の多額にのぼり、
上告人県としてその予算措置に困却するであろうことは推察できるが、それにより直ち
に道路の管理の瑕疵によつて生じた損害に対する賠償責任を免れうるものと考えること
はできないのであり、その他、本件事故が不可抗力ないし回避可能性のない場合である
ことを認めることができない旨の原審の判断は、いずれも正当として是認することがで
きる。

(イ)河川
●● 最高裁判例「損害賠償(大東水害訴訟)」(民集第38巻2号53頁)
【裁判要旨】
(ア)〔河川管理についての瑕疵の有無の判断基準:一般的判断基準〕河川の管理につ
   いての瑕疵の有無は、過去に発生した水害の規模発生の頻度、発生原因、被害の
   性質降雨状況、流域の地形その他の自然的条件、土地の利用状況その他の社会的
   条件、改修を要する緊急性の有無及びその程度等諸般の事情を総合的に考慮し、
   河川管理における財政的、技術的及び社会的諸制約のもとでの同種・同規模の河
   川の管理の一般水準及び社会通念に照らして是認しうる安全性を備えていると認
   められるかどうかを基準として判断すべきである。
(イ)〔改修計画に基づいて改修中の河川と河川管理の瑕疵の有無:具体的判断基準〕
   改修計画に基づいて現に改修中である河川については、右計画が、全体として、
   過去の水害の発生状況その他諸般の事情を総合的に考慮し、河川管理の一般水準
   及び社会通念に照らして、格別不合理なものと認められないときは、その後の事
   情の変動により未改修部分につき水害発生の危険性が特に顕著となり、早期の改
   修工事を施行しなければならないと認めるべき特段の事由が生じない限り、当該
   河川の管理に瑕疵があるということはできない。
【理由】
道路の管理者において災害等の防止施設の設置のための予算措置に困却するからといつ
てそのことにより直ちに道路の管理の瑕疵によつて生じた損害の賠償責任を免れうるも
のと解すべきでないとする当裁判所の判例も、河川管理の瑕疵については当然には妥当
しないものというべきである。
★ 道路事故の場合には予算上の制約は認められないが(したがって、瑕疵責任は免れ
  られない。)、河川水害の場合には、認められる(予算不足で十分な治水対策が講
  じられなくても、瑕疵が否定される場合もあり得る。)。

●● 最高裁判例「損害賠償(多摩川水害訴訟)」(民集第44巻9号1186頁)
【理由】
工事実施基本計画が策定され、右計画に準拠して改修、整備がされ、あるいは右計画に
準拠して新規の改修、整備の必要がないものとされた河川の改修、整備の段階に対応す
る安全性とは、同計画に定める規模の洪水における流水の通常の作用から予測される災
害の発生を防止するに足りる安全性をいうものと解すべきである。

●● 最高裁判例「国家賠償(平作川水害訴訟)」(民集第50巻7号1477頁)
【理由】
既に改修計画が定められ、これに基づいて現に改修中である河川であっても、水害発生
の時点において既に設置済みの河川管理施設がその予定する安全性を有していなかった
という瑕疵があるか否かを判断するには、右施設設置の時点における技術水準に照らし
て、右施設が、その予定する規模の洪水における流水の通常の作用から予測される災害
の発生を防止するに足りる安全性を備えているかどうかによって判断すべきである。

■ 時間的要素
●● 最高裁判例「損害賠償請求〔大型貨物自動車放置事件〕」(民集第29巻6号1136
   頁)
【裁判要旨】
幅員七・五メートルの国道の中央線近くに故障した大型貨物自動車が約八七時間駐車し
たままになつていたにもかかわらず、道路管理者がこれを知らず、道路の安全保持のた
めに必要な措置を全く講じなかつた判示の事実関係のもとにおいては、道路の管理に瑕
疵があるというべきである。
★ 下記最高裁判例とは逆に、この事件では、時間的に危険防止策を講じることが十分
  に可能であったことから、道路の管理に瑕疵があったと判断されている。
☆ 前掲「(イ)不作為の違法」の判例と同一。

●● 最高裁判例「損害賠償請求〔奈良赤色灯事件〕」(民集第29巻6号851頁)
【裁判要旨】
県道上に道路管理者の設置した掘穿工事中であることを表示する工事標識板、バリケー
ド及び赤色灯標柱が倒れ、赤色灯が消えたままになつていた場合であつても、それが夜
間、他の通行車によつて惹起されたものであり、その直後で道路管理者がこれを原状に
復し道路の安全を保持することが不可能であつたなど判示の事実関係のもとでは、道路
の管理に瑕疵がなかつたというべきである。
★ 時間的に危険防止措置を講じることが不可能であったことから、道路の管理に瑕疵
  がなかったと判断されている。


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