━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ビジネスに直結する実践的判例・法律・知的財産情報
石下雅樹法律・
特許事務所 第61号 2011-05-24
http://www.ishioroshi.com/
-------------------------------------------------------
事務所概要
http://www.ishioroshi.com/btob/lawyer_officeb.html
弊所取扱分野紹介(和文
契約・英文
契約関連事務)
http://www.ishioroshi.com/btob/jisseki_keiyakub.html
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
1 今回の判例
会社分割と
詐害行為取消権
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
東京地裁平成22年5月27日判決
リース会社であるX社は、クレープ飲食事業等を営むA社に対し
、
リース契約に基づく
損害賠償債権を有していました。
債務超過であったA社は、
会社分割(
新設分割)によって、Y社
に対し、A社が有するほぼ全ての無
担保資産を含むクレープ飲食事
業に関する権利義務を承継させ、A社には、
会社分割の対価として
得たY社発行の株式以外、目ぼしい
資産は残りませんでした。また
、A社のX社に対する
損害賠償債務は、Y社には承継されず、A社
に残されました。
以上の状況で、X社が、Y社に対して、上記
会社分割が詐害行為
に当たるとして、
詐害行為取消権に基づき、上記
会社分割の取消し
及び価額賠償を求めました。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
2 裁判所の判断
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
裁判所は、以下のように判断し、X社に対する
損害賠償を命じまし
た。
(1)
株式会社の
新設分割も
詐害行為取消権の対象となり得る。
(2)本件
会社分割は、無資力のA社が、その保有する無
担保の残
存
資産のほとんどをY社(受益者)に承継させるものである。本件
では、A社がその対価として交付を受けたY社の設立時発行の全株
式は、A社の
債権者にとって、保全、財産評価および換価等に著し
い困難を伴うものと認められる。
(3)そのため、本件
会社分割により、A社の一般財産としての価
値が毀損され、X社等の
債権者が
弁済を受けることがより困難にな
ったといえるから、本件
会社分割はA社の
債権者であるX社を害す
る。
(4)X社は、Y社に対し、
詐害行為取消権に基づき、本件会社分
割をX社の
債権の額の限度で取り消した上、その価格賠償を求め得
る。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
3 解説
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(1)
会社分割とは
会社分割とは、ある会社の営業の全部又は一部を、他の会社に承
継させる行為です。何が承継され、何が承継されないかは、原則と
して、分割計画書又は分割
契約書に従って決定されます。
会社分割の方法には、
新設分割(既存の会社(分割会社)がその
営業の全部又は一部を新たに設立する会社(
新設会社)に承継させ
る分割)と、
吸収分割(すでに存在する他の会社(承継会社)に分
割会社の営業の全部又は一部を承継させる分割)があります。
(2)
詐害行為取消権とは
詐害行為取消権とは、
民法424条以下において規定されている
もので、ある
債務者Aに対して
債権を有する
債権者Bが、
債務者A
の
法律行為(売買や
金銭貸借その他の
契約、その他自己の財産を処
分する行為など)を、一定の要件の下に取り消すことができる権利
です。
一般に、自己の有する財産をどのように処分するかは所有者の自
由であって、その人に対して
債権を有する者(
債権者)であっても
、それに干渉することはできないのが原則です。
しかし例えば、唯一の財産である不動産以外の財産を持っていな
い
債務者Aが、その唯一の不動産を第三者へ贈与してしまった場合
、
債権者としては
債権回収が事実上できなくなってしまうおそれが
あります。これが常に許されるとすれば正義公平に反するでしょう
。
そのため、
債務者の行為(特に財産を流出させる行為)のうち一
定の要件を具備している場合に、
債権者の保護のために、その行為
を「詐害行為」として取消を認め、逸脱した財産を
債務者に復帰さ
せるという制度が
詐害行為取消権です。
(3)
会社分割と詐害行為の可能性
会社分割の法制化後、
債務超過の会社の経営再建の一つの方法と
して、
会社分割を活用する事例が増えてきました。
つまり、ある
債務超過の会社(A社)が、
新設分割を行ってB社
を設立します。そして、A社が任意に選択した優良
資産、のれん、
重要な取引先に対する一部の
債務のみを
新設分割設立会社(B社)
に承継させます。そして、元の会社(A社)に、
負債や不良
資産の
みを残すという事例です。
法律上、分割会社が
新設会社の株式を100%持つ場合には、分
割前後の分割会社の
資産状態は変わらないという理由から、会社分
割手続において通常要求される、
債権者保護手続は不要であると解
されています。それで、
債権者の納得を得られなくとも、また、債
権者に全く事前事後の説明をせずに
会社分割を実行するようなケー
スがありました。
そして、
会社分割の行為については、前述の
詐害行為取消権の対
象とはされないという考え方もありました。
しかし、本判決が判断したように、
会社分割であっても詐害行為
となりうるという判断が広くなされるようになれば、少し話は別に
なってきます。
つまり、
会社分割に納得しない
債権者が、
詐害行為取消権などの
権利を行使して、
会社分割の効力を争ってくる可能性が高まり、こ
れは一定のリスク要因となることが考えられます。それを考えると
、
債権者を全く無視して手続を進めることは妥当とはいえないと考
えられます。むしろ、
債権者に対してスキームの妥当性を説明し、
できる限り納得を得るようにすることが、再建にとっては重要な要
素ではないかと思われます。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
本マガジンの無断複製、転載はご遠慮ください。
ただし、本マガジンの内容を社内研修用資料等に使用したいといっ
たお申出については、弊所を出典として明示するなどの条件で、原
則として無償でお受けしています。この場合、遠慮なく下記のアド
レス宛、メールでお申出ください。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【編集発行】石下雅樹法律・
特許事務所
〒220-0011 神奈川県横浜市西区高島2-10-13
横浜東口ビル4階
mailto:
info@ishioroshi.com
弁護士紹介
http://www.ishioroshi.com/btob/lawyer_ishioroshib.html
弊所取扱分野紹介(和文
契約・英文
契約関連事務)
http://www.ishioroshi.com/btob/jisseki_keiyakub.html
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
本マガジンに対するご意見,ご感想は
mailto:
info@ishioroshi.com まで
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ビジネスに直結する実践的判例・法律・知的財産情報
石下雅樹法律・特許事務所 第61号 2011-05-24
http://www.ishioroshi.com/
-------------------------------------------------------
事務所概要
http://www.ishioroshi.com/btob/lawyer_officeb.html
弊所取扱分野紹介(和文契約・英文契約関連事務)
http://www.ishioroshi.com/btob/jisseki_keiyakub.html
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
1 今回の判例 会社分割と詐害行為取消権
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
東京地裁平成22年5月27日判決
リース会社であるX社は、クレープ飲食事業等を営むA社に対し
、リース契約に基づく損害賠償債権を有していました。
債務超過であったA社は、会社分割(新設分割)によって、Y社
に対し、A社が有するほぼ全ての無担保資産を含むクレープ飲食事
業に関する権利義務を承継させ、A社には、会社分割の対価として
得たY社発行の株式以外、目ぼしい資産は残りませんでした。また
、A社のX社に対する損害賠償債務は、Y社には承継されず、A社
に残されました。
以上の状況で、X社が、Y社に対して、上記会社分割が詐害行為
に当たるとして、詐害行為取消権に基づき、上記会社分割の取消し
及び価額賠償を求めました。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
2 裁判所の判断
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
裁判所は、以下のように判断し、X社に対する損害賠償を命じまし
た。
(1)株式会社の新設分割も詐害行為取消権の対象となり得る。
(2)本件会社分割は、無資力のA社が、その保有する無担保の残
存資産のほとんどをY社(受益者)に承継させるものである。本件
では、A社がその対価として交付を受けたY社の設立時発行の全株
式は、A社の債権者にとって、保全、財産評価および換価等に著し
い困難を伴うものと認められる。
(3)そのため、本件会社分割により、A社の一般財産としての価
値が毀損され、X社等の債権者が弁済を受けることがより困難にな
ったといえるから、本件会社分割はA社の債権者であるX社を害す
る。
(4)X社は、Y社に対し、詐害行為取消権に基づき、本件会社分
割をX社の債権の額の限度で取り消した上、その価格賠償を求め得
る。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
3 解説
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(1)会社分割とは
会社分割とは、ある会社の営業の全部又は一部を、他の会社に承
継させる行為です。何が承継され、何が承継されないかは、原則と
して、分割計画書又は分割契約書に従って決定されます。
会社分割の方法には、新設分割(既存の会社(分割会社)がその
営業の全部又は一部を新たに設立する会社(新設会社)に承継させ
る分割)と、吸収分割(すでに存在する他の会社(承継会社)に分
割会社の営業の全部又は一部を承継させる分割)があります。
(2)詐害行為取消権とは
詐害行為取消権とは、民法424条以下において規定されている
もので、ある債務者Aに対して債権を有する債権者Bが、債務者A
の法律行為(売買や金銭貸借その他の契約、その他自己の財産を処
分する行為など)を、一定の要件の下に取り消すことができる権利
です。
一般に、自己の有する財産をどのように処分するかは所有者の自
由であって、その人に対して債権を有する者(債権者)であっても
、それに干渉することはできないのが原則です。
しかし例えば、唯一の財産である不動産以外の財産を持っていな
い債務者Aが、その唯一の不動産を第三者へ贈与してしまった場合
、債権者としては債権回収が事実上できなくなってしまうおそれが
あります。これが常に許されるとすれば正義公平に反するでしょう
。
そのため、債務者の行為(特に財産を流出させる行為)のうち一
定の要件を具備している場合に、債権者の保護のために、その行為
を「詐害行為」として取消を認め、逸脱した財産を債務者に復帰さ
せるという制度が詐害行為取消権です。
(3)会社分割と詐害行為の可能性
会社分割の法制化後、債務超過の会社の経営再建の一つの方法と
して、会社分割を活用する事例が増えてきました。
つまり、ある債務超過の会社(A社)が、新設分割を行ってB社
を設立します。そして、A社が任意に選択した優良資産、のれん、
重要な取引先に対する一部の債務のみを新設分割設立会社(B社)
に承継させます。そして、元の会社(A社)に、負債や不良資産の
みを残すという事例です。
法律上、分割会社が新設会社の株式を100%持つ場合には、分
割前後の分割会社の資産状態は変わらないという理由から、会社分
割手続において通常要求される、債権者保護手続は不要であると解
されています。それで、債権者の納得を得られなくとも、また、債
権者に全く事前事後の説明をせずに会社分割を実行するようなケー
スがありました。
そして、会社分割の行為については、前述の詐害行為取消権の対
象とはされないという考え方もありました。
しかし、本判決が判断したように、会社分割であっても詐害行為
となりうるという判断が広くなされるようになれば、少し話は別に
なってきます。
つまり、会社分割に納得しない債権者が、詐害行為取消権などの
権利を行使して、会社分割の効力を争ってくる可能性が高まり、こ
れは一定のリスク要因となることが考えられます。それを考えると
、債権者を全く無視して手続を進めることは妥当とはいえないと考
えられます。むしろ、債権者に対してスキームの妥当性を説明し、
できる限り納得を得るようにすることが、再建にとっては重要な要
素ではないかと思われます。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
本マガジンの無断複製、転載はご遠慮ください。
ただし、本マガジンの内容を社内研修用資料等に使用したいといっ
たお申出については、弊所を出典として明示するなどの条件で、原
則として無償でお受けしています。この場合、遠慮なく下記のアド
レス宛、メールでお申出ください。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【編集発行】石下雅樹法律・特許事務所
〒220-0011 神奈川県横浜市西区高島2-10-13
横浜東口ビル4階
mailto:
info@ishioroshi.com
弁護士紹介
http://www.ishioroshi.com/btob/lawyer_ishioroshib.html
弊所取扱分野紹介(和文契約・英文契約関連事務)
http://www.ishioroshi.com/btob/jisseki_keiyakub.html
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
本マガジンに対するご意見,ご感想は
mailto:
info@ishioroshi.com まで
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━