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請負と派遣事業の区分

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平成18年10月15日 第36号
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人事のブレーン社会保険労務士レポート
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目次

1. 請負と派遣事業の区分

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ブログもよろしくお願い致します。
人事のブレーン社会保険労務士日記」です。
http://norifumi.cocolog-nifty.com/blog/
是非見てみて下さい!

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1. 請負と派遣事業の区分

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<1> はじめに

朝日新聞において偽装派遣の問題がクローズアップされている。
しかし、報道は偏っておりマスコミの力の怖さを改めて感じた次第である。
本稿では、偽装派遣とは何か明らかにし、派遣と請負の区分を考えて適正な視
点で偽装派遣の報道に接して頂きたいと思う。

<2> 雇用安定政策からみた派遣労働

(1)不法就労の外国人をなくす方法

不法就労の外国人が増加し、当該外国人が関与する犯罪が増加していることは
ご存じの通りである。

では、不法就労の外国人をなくす一番簡単な方法は何か?

それは「不法」ではなくすことである。

我が国の法律において認められていないから「不法」なのである。

外国人に対して「どの様な職業でも」「無期限に」就労を認めてしまえば、国
内で就労している外国人になり、裏のルールから表のルールに出てこれる。
それにより我が国において制限はされているが、生存権の保障がなされる(外
国人に対する生存権の保障は生活保護の対象になっている方もおり、学説上の
議論は本稿においては考慮しない)。
それにより外国人犯罪が減少するということも推測される。

これには我が国の政策転換が必要であり、政策転換を行うかどうかの問題であ
る。

例えば「人を殺してはいけない」という問題は、政策転換の余地はなく議論の
余地はない。

しかし、外国人労働者の受け入れに関しては我が国の入国管理政策や雇用政策
の問題であり、フィリピン政府と看護師、介護士の受け入れに関して合意に至
ったように、政策上の問題なのである。

「外国人労働者を一切受け入れないべきだ」という価値観と「外国人労働者
積極的に受け入れるべきだ」という価値観は、どちらが間違っていて、どちら
があっていると判断できるものではない。
各人の責任ある判断により立法政策の中で実現していく問題であり、我が国で
は外国人労働者の受け入れに対して消極的な政策であるが故に、「不法就労」
とされるケースが多いのである。


(2)我が国の職業安定政策

派遣労働者というのは、戦前の封建的な人身売買を防止する目的で職業安定法
が施行され、職業紹介については国が責任を持って行うこととされている。
これが、職業安定所であり、民間の職業紹介市場が未成熟なのはこの法律によ
る。

国が責任を持って労働者に対して職業紹介を行い理由は、中間搾取の排除であ
る。

派遣労働者派遣先企業の間に派遣元企業が介入することにより中間搾取的な
金銭のやりとりが行われる可能性があり、派遣事業者に対しては厳しく監督を
行うという観点で法律は構成されている。

これだけの観点で雇用安定政策が行われていれば、偽装派遣の問題が大きくな
ることはなかったであろうと私は考える。

何故か?

厚生労働省の大きな政策として、私のブログでもよく述べているが「正社員至
上主義」という観点がある。

派遣労働者をはじめ、パートタイマー等の短時間労働者は正社員予備軍であり、
正社員になる機会があれば正社員になりたいはずだ。

労働者派遣を全ての業種に無期限で認めてしまうと、正社員登用の機会が奪わ
れてしまう。
よって厳しく制限をしよう。

この様な政策がある。

これは、少子化対策やニート対策でも現れてきており、正社員至上主義の政策
を転換し、多様な働き方を認めて、それを応援していこうという政策には至っ
ていない。

しかし、フリーターやニート、子育てをする親の労働に対するニーズは正社員
至上主義では満たすことができずミスマッチが生じてしまう。

仮に、正社員至上主義の政策を転換せず労働者派遣に対する規制を強化してい
った場合にはどの様な現象が起こるであろうか。

製造業の空洞化である。

解雇権濫用法理が確立されている我が国では、国内製造業が生き残る為には、
構内請負労働者派遣を活用していくしか方法はない。

正社員化を目指した政策を推し進めていくと、構内請負に従事する労働者や派
労働者は職を失うことになるわけである。

(3)小括

偽装派遣の問題は、中間搾取に対する監督は行うが、製造業についても26業
種同様の取り扱いにすれば、偽装ではなくなるのである。

即ち、偽装派遣の問題は政策の問題であり、政策転換をすれば大部分は適正な
派遣になるのである。

極めて悪質な業者が存在することは事実であるが、我が国の労働者のニーズと
我が国の雇用安定政策がミスマッチをおこしていることは確かである。

しかし、現行法を理解し適正な労働者派遣事業の運営及び受け入れ並びに請負
の運営ということは重要である。

その点について以下で検討をしたいと思う。

<3> 請負の概念

(1) 労働者派遣法の概念と民法632条の請負との関係

民法632条では「当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方が
その仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効
力が生ずる」とある。

本条でいう仕事の完成とは、特定の物の完成だけではなく、荷物を運び終える
という事も含めて考えられている。

即ち、仕事の完成という結果をもって契約履行がなされた事となる。

では、労働者派遣法でいうところの請負とは、請負の要件を満たしていない場
合は全て労働者派遣であり、派遣法の要件を満たしていない場合には「違法派
遣」若しくは「偽装請負」となるわけである。

派遣労働では、民法632条でいうところの結果債務だけではなく、手段債務
である民法634条の委任契約民法656条による準委任も含む)に基づい
ても行われており、労働者派遣法にいうところの請負とは、請負契約委任
約(準委任契約)も含まれている。

因みに委任契約は「当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相
手方がこれを承諾することによって、その効力が生ずる」(643条)とされ、
「受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者としての注意をもって、委任
務の処理をする義務を負う」(644条)とあり、手段債務であるから目的物
の完成は債務の本旨ではない。

(2)労働者派遣事業にいう請負とは

この様に、労働者派遣ではなく請負として認められる為には、目的物の完成は
要件ではない。

注文者との関係において、請負が独立した事業であるかどうかである。

即ち、請負が適正に行われているかの判断はこの独立性の検討ということにな
る。

この独立性の検討を以下の2つの資料により検討していきたい。
労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準を定める告
示(昭61.4.17労働省告示第37号)」
労働者派遣事業関係業務取扱要領(平11.11.17女発第325号、職
発第814号 最終改正平17.5.18職発第0518001号)」

<4> 民法上の観点及び安全管理上の観点からの独立性の検討

(1)はじめに

労働者派遣という契約は、自己の雇用する労働者を、他人の指揮命令下で労働
をさせるものである。

他人とは派遣先であり、違法派遣や偽装請負の場合にも実質的に派遣契約であ
るから派遣先としての責任を負う。

派遣先は、自らの指揮命令下で派遣労働者を労働させているわけであるから、
その派遣労働者が製造した完成物に瑕疵があっても派遣元事業主は原則として
責任は負わない。

手段債務であっても同様である。

また、安全管理体制においても自らの指揮命令下で労働させるわけであるから
派遣先事業主は、その派遣労働者が安全に就業できるように安全衛生法上の義
務を負っているわけである。

職業性疾患についても同様であるが、一般健康診断についての管理責任は派遣
元が負っている訳であり、衛生管理については共同で責任を負うこともある。

労働安全衛生法上の安全管理者派遣元事業主に選任義務はなく、衛生管理者
及び産業医については派遣先派遣元でダブルカウントされるということは、
この様な理由からである。

(2)民法上の観点

請負は独立の事業であるから、結果債務を負っている場合には、完成物に瑕疵
があった場合には瑕疵担保責任を負うこととなる。

委任の場合には、善管注意義務違反で債務の本旨が履行できないときは賠償責
任を負うこととなる。

独立した事業である以上当然ではあるが、業務取扱要領では「請負契約書に瑕
担保責任や善管注意義務違反に対する賠償責任」の明記を求めており、運送
事業については保険の加入も求めている。

(3)安全衛生上の観点

労働者派遣の場合には、基本的には派遣元事業主は労働安全衛生法上の義務を
負っていないことは既に述べた。

請負の場合には、独立した事業であるから労働安全衛生法上の義務を負い、発
注者である企業はその責を負わない事となる。

その為には、施設の占有権及び管理権をもっていないと労働安全衛生法上の責
務を充分に果たすことができない。

この点について業務取扱要領では、「機械、資材等が相手方から借入又は購入
された物については、個別の双務契約契約当事者双方に対価関係をなす法的
義務を課す契約)による正当なものであることが必要である。」とされている。
製造業については、「注文主の所有する機械、設備等の使用については、請負
契約とは別個の双務契約を締結しており、保守及び修理を受託者が行うか、な
いしは保守及び修理に要する経費を受託者が負担していること。」となってい
る。

独立性の検討の中で、指揮命令関係の独立性と並んで重要な点が、安全管理体
制を独自で行える為の占有権と管理権の双務契約による保持である。

(4)伝票による処理体制

製造業について、業務取扱要領では次のようにある。
「注文主からの原材料、部品等の受取や受託者から注文主への製品受渡しにつ
いて伝票等による処理体制が確立されていること」

即ち、独立した事業であるので場所がたまたま同一の工場内であるだけであり、
通常の事業主間の商取引同様に伝票にて注文納品確認を行い、施設を借りる以
上はそれに対する対価を払いなさいということである。

(5)個人情報保護の観点から

労働者派遣であれば、機密の保持について派遣労働者から誓約書等の提出を派
遣先事業主は求めることができ、派遣先企業の情報管理体制に組み込まれて業
務に従事することとなる。

しかし、請負については注文主と請負に従事する労働者とは直接雇用関係も指
揮命令関係も生じておらず、請負事業者が自らの責任において情報管理体制を
構築し、誓約書等も請負事業主に対してのみ提出を求めることができる。

注文主と請負事業者との間の契約により、情報管理に関する取り決めを定め、
注文主は請負事業者に対してその適正な履行を求めることができるにすぎない。

<5> 指揮命令に関する総論的労働者派遣と請負の区分の検討 

(1)総論

告示では、「労働者に対する業務の遂行方法に関する指示その他管理を自ら行
うこと」とされており、業務取扱要領では「当該労働者に対する仕事の割り付
け、順序、緩急の調整等につき、当該事業主が自ら行うものであるかを総合的
に勘案して行う」とし、総合的に勘案して行うとは、「これらいずれかの事項
を事業主が自ら行わない場合であっても、これについて特段の合理的な理由が
認められる場合には、直ちに当該要件に該当しないとは判断しない主旨である」
とされている。

この点、どこまでが許容されるかについては非常に難しく、個別判断とされる
為合理的な理由を考えて請負のシステムを構築することは困難である。

(2)製造業

・一定期間における処理すべき業務の内容や量の注文を注文主から受けるよう
にし
・当該業務を処理するのに必要な労働者数等を自ら決定し
・必要な労働者を選定し
請負った内容に沿った業務が行われていること。
・作業遂行の速度を自らの判断で決定することができること
・作業の割り付け、順序を自らの判断で決定することができること

(3)車輌運行管理

・予め定められた様式により運行計画(時刻・目的地等)を注文主から提出さ

・当該運行計画が安全運転の確保、人員体制等から不適切なものとなっている
場合には、受託者がその旨を注文主に申し入れ変更できるようになっている
こと。

(4)医療事務

受託する全ての業務について、業務内容やその量、遂行手順、実施日時、就業
場所、業務遂行にあたっての連絡体制、トラブル発生時の対応方法等の事項に
ついて書面を作成し、管理責任者が受託業務従事者に対し具体的に指示を行う
こと。

上記施策により、病院職員等から随時指示を受けない体制を構築することとさ
れている。

(5)バンケットサービス

予めホテル等と挨拶、乾杯、歓談、催し物等の進行順序並びにそれぞれの時点
におけるバンケットコンパニオンが実施するサービスの内容及びサービスの実
施に際しての注意事項の打ち合わせ、取り決めていること。


<5> 指揮命令に関する各論的労働者派遣と請負の区分の検討 

(1)はじめに


以上により、派遣労働と請負の区分の重要点について解説してきたが、まとめ
として区分告示と取扱要領に基づき補足をしていきたい。

(2)業務遂行の評価管理

告示では、「労働者の業務の遂行に関する評価等に係る指示その他管理を自ら
行うこと」とされており、業務取扱要領では、「当該労働者の業務の遂行に関
する技術的な指導、勤惰点検、出来高査定等につき、当該事業主が自ら行うも
のであるか否かを総合的に勘案して行う。」とされている。

(3)労働時間の管理

告示では当然に労働時間の管理について自ら行うこととされており、業務取扱
要領では以下の通りとなっている。

・受託業務の実施日時(士業及び終業の時刻、休憩休日等)について、事前
に事業主が注文主と打ち合わせているか。
・業務中は注文主から直接指示を受ける事の無いように書面が作成されている
か。
・事業主側の責任を通じて具体的に指示がなされているか。
・事業主自ら業務時間の実績把握を行っているか

(4)時間外・休日労働

当然これについても事業主自ら行うことが要件である。

業務取扱要領では以下の通りとされている。

労働者の時間外、休日労働は事業主の責任者が業務の進捗状況をみて自ら決
定している。
・業務量の増減がある場合には、事前に注文主から連絡を受ける体制になって
いるか否か総合的に判断を行うとされている。

製造業務の場合は、受託業務の業務量増加に伴う受託業務従事者の時間外、休
日労働は受託側の現場責任者が業務の進捗状況等を見て決定し、指示を行って
いること。

バンケットサービスの場合には、宴席が予定した時間を超えた場合の請負契約
の定められたサービス提供の終了時間の延長についてのホテル等との交渉及び
延長することとした場合のバンケットコンパニオンへの指示については、現場
に配置している責任者が行っていること。

(5)企業秩序・服務規律の管理

当然に事業主自ら企業秩序や服務規律の管理を行うべきである
個人情報関係の項で述べたが、企業秩序及び服務規律に関しても注文主と請負
事業者との間での取り決めを行い、当該取り決めの中で注文主事業場における
規律の保持を図っていくことができるであろう。

業務取扱要領では、「安全、機密保持等を目的とする等の合理的な理由に基づ
いて相手方が労働者服務上の規律に関与することがあっても直ちに当該要件
に該当しないと判断されるものではないとされている。

(6)労働者の配置等の管理 

労働者の配置についても当然自ら行わなければ要件は満たさない。

業務取扱要領では、
・当該労働者に係る勤務場所
・直接指揮命令する者等の決定及び変更につき、当該事業主が自ら行うもので
あるか否かを総合的に判断して行う。

とされており、製造業については
・自らの労働者の注文主の工場内における配置も受託者が決定すること。
・業務量の緊急の増減がある場合には、前もって注文主から連絡を受ける体制
にし、受託者が人員の増減をけっていすること。

バンケットサービスの場合には、請負であっても業務に従事するバンケットコ
ンパニオンの決定について、ホテル等が指名や事前面接を行うことがなく、事
業主が自ら決定を行うこと。
また、複数のバンケット業者が同一会場で宴会を請け負っている場合には、予
めどこの業者がどのテーブルを担当するのかを明確に区分しておくこと。

<6>まとめ

派遣と請負については、独立性の問題であり、その独立性について検討をして
きた。
業務取扱要領において、業種別の取扱が明記されているが、類似業種において
も同様に判断される為参考にされたい。

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編集責任者 社会保険労務士 山本 法史
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