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事業再編目的の子会社株買取と取締役の注意義務

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ビジネスに直結する実践的判例・法律・知的財産情報

石下雅樹法律・特許事務所 第75号 2011-12-27
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1 今回の判例 事業再編目的の子会社株買取と取締役の注意義務
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H22.7.15 最高裁第一小法廷判決

 不動産斡旋賃貸等のフランチャイズ事業を展開するA社が、A社
持株会社としとし、主要事業を完全子会社に担わせるという事業
再編計画を策定しました。

 そして、A社は、関連会社の統合・再編を進め、子会社B社を別
の子会社C社に合併することを計画しました。そして、A社は、そ
合併に先立ち、B社を自己の完全子会社とする必要があると考え
、買取価格をB社設立時の払込金額である5万円とし、B社の株式
の買取を進めました。なお、本件でA社は、監査法人等2社に、株
式交換等の方法を念頭に置いて株式交換比率の算定を依頼しました
が、その際に算定されたB社株式の評価額は、約6500円~約1
万9000円でした。

 これに対し、A社の株主であるX氏らが、この買取価格は不当に
高額であり、A社の取締役であるY1~Y3氏には取締役としての
任務懈怠があるとし、会社法423条1項により、A社に対する損
害賠償責任があると主張しました。


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2 裁判所の判断
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 最高裁は、以下のように判断し、損害賠償請求を認めませんでし
た。

● 事業再編計画の策定は、完全子会社とすることのメリットの評
価を含め、将来予測にわたる経営上の専門的判断にゆだねられてい
る。

● この場合の株式取得の方法や価格についても、取締役において、
株式の評価額のほか、取得の必要性、会社の財務上の負担、株式の
取得を円滑に進める必要性の程度等をも総合考慮して決定すること
ができ、その決定の過程、内容に著しく不合理な点がない限り、取
締役としての善管注意義務に違反するものではない。

● 本件においても、買取価格の決定が著しく不合理であったとは
いい難く、決定過程にも不合理な点は見当たらない。

            
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3 解説
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(1)取締役の善管注意義務とは

 取締役は、会社から委任を受けて会社の経営という任務を遂行し
ます。そして、取締役は会社に対し、「善良なる管理者の注意」を
もって職務を遂行する義務(善管注意義務)を負っています(会社
法330条、355条、民法644条)。

 その義務の中には、会社法等の法令を遵守する義務はもちろんの
こと、取締役としての地位にふさわしい能力と識見に基づく注意を
払って職務を遂行し、会社に損害を与えないようにする義務が含ま
れます。

 この点、どんな場合に、善管注意義務に違反するといえるのか、
それが具体的な法令に違反する行為であれば分かりやすいのですが、
そうではなく、法令には違反しない取締役の決定や行為が善管注意
義務に違反するか否かの判断は容易ではありません。


(2)善管注意義務違反の判断枠組

 取締役に善管注意義務の違反があったかどうかを裁判所が判断す
る際には、一般に、以下のような考え方が取られています。

 すなわち、
 (A)経営判断の過程と
 (B)経営判断の内容について、

  ア 行為当時の状況に照らし、合理的な情報収集・調査・検
   討等が行われたか
  イ 当該状況と、取締役に求められる識見水準・能力水準に
   照らし、その判断に不合理・不適切点はなかったか
 
 といった判断枠組です。

 したがって、経営実務においても、何か会社にとって重要な決定
をなす場合には、以上のような判断枠組を意識して、善管注意義務
違反に問われないための方策が必要です。

 以下、特に経営判断の過程について留意すべき点に若干触れたい
と思います。


(3)ビジネス上の留意点~意思決定過程で踏むべき手続

 最高裁は、A社の決定の過程について、経営会議での検討と弁護
士からの意見聴取をあげて、具体的な内容に踏み込むことなく、そ
の決定過程に何ら不合理な点は見当たらないとしています。

 この最高裁の緩やかな判断は、経営者の判断を不当に萎縮させる
ことがないという意味で意味のあるものではあります。

 しかし、経営実務の観点からは、だからといって甘い判断やラフ
なプロセスで構わないと考えるのは速断でしょう。実務としては、
株主からの責任追及をできる限り避けるためにも、慎重に対応し、
踏むべきプロセスはできるかぎり検討・実行するほうが望ましいと
考えます。

 例えば、本件でもA社は、監査法人等2社に、株式交換等の方法
を念頭に置いて株式交換比率の算定を依頼しています。その際にB
社株式の評価額が算定されています。同様に、監査法人・公認会計
士等の独立した専門家の価格評価を取得すること、買取価格であれ
ばこれを考慮に入れることも、通常は外せないプロセスです。

 また、本件では算定された評価に比べ相当に高額の買取価格が設
定されたわけですが、この点、本判決の原判決である高等裁判所
判決は、以下のような点の判断に不合理な点がなかったのかを検討
し、これらの点についての調査検討が十分に行われたことを伺わせ
る証拠がないとしました。

 (a)1株5万円という買取価格が買取を円滑に進めるために必
   要か否か
 (b)より低い価格では買取が円滑に進まないといえるか否か
 (c)買取価格の乖離の程度と買取によって期待できる効果との
   間の均衡
 
 最高裁は高等裁判所のような判断をしませんでしたので、上のよ
うな点の調査検討は必ずしも必須とまではいえないかもしれません。

 しかし、実務としては、紛争の結果勝訴できるか否かもさること
ながら、紛争の回避も同様に重要です。したがって、上に例示され
るような、判断内容の合理性を担保する要素についても、独立した
第三者の専門的知見を踏まえつつ、必要な決定機関(取締役会等)
で十分な検討がされることが望ましいと考えられます。

 この点、訴訟実務上の観点からは同じくらい重要といえるのは、
上のような十分な検討の過程を、会議体においては議事録等におい
て記録にとどめ、しっかり証拠化することです。また、独立した第
三者の専門的知見(弁護士による法的見地からの意見、企業会計
観点からの専門家の意見)についても、書面での意見を取得し、証
拠化することです。

 このようにして判断の内容の合理性について十分に調査検討した
というプロセスを記録に残し、その過程をいつでも十分に立証でき
るようにしておくことは、不当な責任追及を受ける可能性を低下さ
せ、思い切った経営判断を行なう障害の一つを除去することにつな
がるものと思われます。


 
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4 お知らせ
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 英国の国際ビジネス・国際法務ジャーナル"Corporate INTL"2011
年12月号の記事"Route to Japan"において、弊所が、アンダーソン
・毛利・友常法律事務所、中村合同特許法律事務所といったリーデ
ィングファームとともに紹介されました。弊所代表弁護士石下が商
標・不正競争防止法等のエキスパートして紹介されています。

 同記事の抜粋は、以下からご覧になれます。よろしければご笑覧
くだされば幸いです。
 http://www.ishioroshi.com/btob/Route_to_Japan_image.pdf


 本年の拙稿の発行もこれで最後となります。本年も拙稿をご愛読
下さり誠にありがとうございました。

 来年も引き続きご愛読をお願い申し上げます。


            
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