札幌市豊平区の
税理士 溝江諭(みぞえさとし) です。
中小
会計要領の各論のうち主なものについて、
法人税法との異同を意識しながら見て行きましょう。
前回は、≪中小
会計要領の主な内容 その1
実現主義と
発生主義≫でした。
http://www.ksc-kaikei.com/news/index.cgi?no=155
今回は 「その2
貸倒損失と
貸倒引当金」 です。
(1)倒産手続き等により
債権が法的に消滅したときは、その金額を
貸倒損失として計上する。
(2)
債務者の
資産状況、支払能力等からみて回収不能な
債権については、その回収不能額を
貸倒損失として計上する。
(3)
債務者の
資産状況、支払能力等からみて回収不能のおそれのある
債権については、その回収不能見込額を
貸倒引当金として計上する。
【解説】
受取手形、
売掛金、貸付金等の金銭
債権については、
決算時に、以下のように貸倒れの可能性について検討する必要があります。
○ 破産など、倒産手続き等により
債権が法的に消滅した場合
(1)にあるように、顧客や貸付先の倒産手続き等によって、又は
債務の免除によって、
債権が法的に消滅したときには、その消滅した金額を
債権の計上額から直接減額するとともに、
貸倒損失として
費用に計上する必要があります。
○
債務者の
資産状況、支払能力等からみて
債権が回収不能と見込まれる場合
法的に
債権が消滅していないものの、(2)にあるように、その
債務者の
資産状況や支払能力等からみて、回収不能と見込まれる
債権は、その金額を
債権の計上額から直接減額するとともに、
貸倒損失として
費用に計上する必要があります。これには、
債務者が相当期間
債務超過の状態にあり、
弁済することができないことが明らかである場合等が考えられます。
○
債務者の
資産状況、支払能力等からみて
債権が回収不能のおそれがある場合
未だ回収不能な状況とはなっていないものの、
債務者の
資産状況や支払能力等からみて、回収不能のおそれがある
債権については、(3)にあるように、回収不能と見込まれる金額で
貸倒引当金を計上し、
貸倒引当金繰入額を
費用として計上します。
なお、
決算期末における
貸倒引当金の計算方法としては、
債権全体に対して
法人税法上の中小
法人に認められている法定繰入率で
算定することが実務上考えられます。また、過去の貸倒実績率で
引当金額を見積る方法等も考えられます。
(以上、中小
会計要領)
貸倒損失に関しては、
法人税法基本
通達(注)が我が国で唯一の具体的な認定基準とされていますが、中小
会計要領においても基本的にはそれに沿った内容となっています。すなわち、(1) 特定の事実の発生に伴って切り捨てられたことにより金銭
債権が法的に消滅した場合には、
債権そのものがなくなったことを理由として
貸倒損失の計上が必要とされ、(2)
債務者の
資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合には法的には存在する金銭
債権が経済的には無価値になったことを理由として
貸倒損失の計上が必要とされるというわけです。
以上のうち(2) の場合については、
法人税法基本
通達ではさらに細かな要件が付されているので注意が必要です。例えば、
担保物があるときはこれを処分した後でなければ貸倒処理できませんし、保証
債務は、現実にこれを
履行した後でなければ貸倒れの対象にすることはできません。
なお、
法人税法基本
通達9-6-3にある①一定期間取引停止後
弁済のない場合、②
債権額が回収費に満たない場合の
売掛債権 の
貸倒損失に関しては中小
会計要領に記載はありませんが、実際の
会計処理をする上では
貸倒損失が認められるでしょう。なぜならば、中小
会計要領のⅠ総論の5 「各論で示していない
会計処理等」 について、次のように記載されているからです。
「本要領で示していない
会計処理の方法が必要になった場合には、企業の実態等に応じて、
企業会計基準、中小指針、
法人税法で定める処理のうち
会計上適当と認められる処理、その他一般に公正妥当と認められる
企業会計の慣行の中から選択して適用する。」
貸倒引当金に関しては、本文の中で、「
債務者の
資産状況、支払能力等からみて
債権が回収不能のおそれがある場合」とされているため、一見、個別評価金銭
債権についての規定と読めますが、解説において、「
債権全体に対して
法人税法上の中小
法人に認められている法定繰入率で
算定することが実務上考えられます。また、過去の貸倒実績率で
引当金額を見積る方法等も考えられます。」とされていることから、一括評価金銭
債権もその対象とされていることが分かります。
なお、
法人税法施行令96条1項では、個別評価金銭
債権に係る
貸倒引当金の繰入限度額に関して、さらに詳細が定められているので注意が必要です。すなわち、
法人税法上の繰入限度額は同条同項1号から4号までの各金銭
債権の金額の合計額とされています。
1号 5年内
弁済予定
債権以外の
債権の金額
2号
債務者の
資産状況、支払能力等からみてその一部金額につき取立て等の見込みがないと認められる金額
3号
法人につき次に掲げる事実が生じている場合のその金銭
債権の50%相当額
① 会社更生法、
民事再生法、
破産法等の規定による手続開始の申立
②
会社法の規定による特別清算開始の申立
③ 以上に掲げる事由に準ずるもの。たとえば、手形交換所による取引停止処分があったこと。
4号 外国政府等に対する個別評価金銭
債権につき、その経済的な価値が著しく減少し、かつ、その
弁済を受けることが著しく困難であると認められる場合のその個別評価金銭
債権の50%相当額
次に、一括評価金銭
債権については、
法人税法上の中小
法人の場合の繰入限度額がそのまま認められます。
貸倒引当金の取崩しに関しては中小
会計要領に記載がありませんが、
法人税法上の取崩し規定である翌期「全額取崩し」がそのまま認められると考えて良いでしょう(
法人税法52条9項)。なお、「差額繰入れ、取崩し」も認められます(
法人税法基本
通達11-1-1)。
(注)
法人税法基本
通達9-6-1から9-6-3
次回は
有価証券についてです。
≪中小
会計要領の主な内容 その3
有価証券≫
http://www.ksc-kaikei.com/news/index.cgi?no=158
==================================================================
エコポイントの課税関係と仕訳はどうなるの?
≪ エコポイントの課税関係と仕訳 》
http://www.ksc-kaikei.com/news/index.cgi?no=118
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札幌市豊平区の 税理士 溝江諭(みぞえさとし) です。
中小会計要領の各論のうち主なものについて、法人税法との異同を意識しながら見て行きましょう。
前回は、≪中小会計要領の主な内容 その1 実現主義と発生主義≫でした。
http://www.ksc-kaikei.com/news/index.cgi?no=155
今回は 「その2 貸倒損失と貸倒引当金」 です。
(1)倒産手続き等により債権が法的に消滅したときは、その金額を貸倒損失として計上する。
(2)債務者の資産状況、支払能力等からみて回収不能な債権については、その回収不能額を貸倒損失として計上する。
(3)債務者の資産状況、支払能力等からみて回収不能のおそれのある債権については、その回収不能見込額を貸倒引当金として計上する。
【解説】
受取手形、売掛金、貸付金等の金銭債権については、決算時に、以下のように貸倒れの可能性について検討する必要があります。
○ 破産など、倒産手続き等により債権が法的に消滅した場合
(1)にあるように、顧客や貸付先の倒産手続き等によって、又は債務の免除によって、債権が法的に消滅したときには、その消滅した金額を債権の計上額から直接減額するとともに、貸倒損失として費用に計上する必要があります。
○ 債務者の資産状況、支払能力等からみて債権が回収不能と見込まれる場合
法的に債権が消滅していないものの、(2)にあるように、その債務者の資産状況や支払能力等からみて、回収不能と見込まれる債権は、その金額を債権の計上額から直接減額するとともに、貸倒損失として費用に計上する必要があります。これには、債務者が相当期間債務超過の状態にあり、弁済することができないことが明らかである場合等が考えられます。
○ 債務者の資産状況、支払能力等からみて債権が回収不能のおそれがある場合
未だ回収不能な状況とはなっていないものの、債務者の資産状況や支払能力等からみて、回収不能のおそれがある債権については、(3)にあるように、回収不能と見込まれる金額で貸倒引当金を計上し、貸倒引当金繰入額を費用として計上します。
なお、決算期末における貸倒引当金の計算方法としては、債権全体に対して法人税法上の中小法人に認められている法定繰入率で算定することが実務上考えられます。また、過去の貸倒実績率で引当金額を見積る方法等も考えられます。
(以上、中小会計要領)
貸倒損失に関しては、法人税法基本通達(注)が我が国で唯一の具体的な認定基準とされていますが、中小会計要領においても基本的にはそれに沿った内容となっています。すなわち、(1) 特定の事実の発生に伴って切り捨てられたことにより金銭債権が法的に消滅した場合には、債権そのものがなくなったことを理由として貸倒損失の計上が必要とされ、(2) 債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合には法的には存在する金銭債権が経済的には無価値になったことを理由として貸倒損失の計上が必要とされるというわけです。
以上のうち(2) の場合については、法人税法基本通達ではさらに細かな要件が付されているので注意が必要です。例えば、担保物があるときはこれを処分した後でなければ貸倒処理できませんし、保証債務は、現実にこれを履行した後でなければ貸倒れの対象にすることはできません。
なお、法人税法基本通達9-6-3にある①一定期間取引停止後弁済のない場合、②債権額が回収費に満たない場合の 売掛債権 の貸倒損失に関しては中小会計要領に記載はありませんが、実際の会計処理をする上では貸倒損失が認められるでしょう。なぜならば、中小会計要領のⅠ総論の5 「各論で示していない会計処理等」 について、次のように記載されているからです。
「本要領で示していない会計処理の方法が必要になった場合には、企業の実態等に応じて、企業会計基準、中小指針、法人税法で定める処理のうち会計上適当と認められる処理、その他一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行の中から選択して適用する。」
貸倒引当金に関しては、本文の中で、「債務者の資産状況、支払能力等からみて債権が回収不能のおそれがある場合」とされているため、一見、個別評価金銭債権についての規定と読めますが、解説において、「債権全体に対して法人税法上の中小法人に認められている法定繰入率で算定することが実務上考えられます。また、過去の貸倒実績率で引当金額を見積る方法等も考えられます。」とされていることから、一括評価金銭債権もその対象とされていることが分かります。
なお、法人税法施行令96条1項では、個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の繰入限度額に関して、さらに詳細が定められているので注意が必要です。すなわち、法人税法上の繰入限度額は同条同項1号から4号までの各金銭債権の金額の合計額とされています。
1号 5年内弁済予定債権以外の債権の金額
2号 債務者の資産状況、支払能力等からみてその一部金額につき取立て等の見込みがないと認められる金額
3号 法人につき次に掲げる事実が生じている場合のその金銭債権の50%相当額
① 会社更生法、民事再生法、破産法等の規定による手続開始の申立
② 会社法の規定による特別清算開始の申立
③ 以上に掲げる事由に準ずるもの。たとえば、手形交換所による取引停止処分があったこと。
4号 外国政府等に対する個別評価金銭債権につき、その経済的な価値が著しく減少し、かつ、その弁済を受けることが著しく困難であると認められる場合のその個別評価金銭債権の50%相当額
次に、一括評価金銭債権については、法人税法上の中小法人の場合の繰入限度額がそのまま認められます。
貸倒引当金の取崩しに関しては中小会計要領に記載がありませんが、法人税法上の取崩し規定である翌期「全額取崩し」がそのまま認められると考えて良いでしょう(法人税法52条9項)。なお、「差額繰入れ、取崩し」も認められます(法人税法基本通達11-1-1)。
(注)法人税法基本通達9-6-1から9-6-3
次回は有価証券についてです。
≪中小会計要領の主な内容 その3 有価証券≫
http://www.ksc-kaikei.com/news/index.cgi?no=158
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