こんにちは 社会保険労務士の三木です。
今回は、出向労働と派遣労働の違いについてです。
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出向と派遣との区別
出向(在籍出向)も派遣も、出向元・出向先・出向労働者、派遣元・派遣先・派遣労働者と、三者の関係で労働を提供する点で極めて類似しています。実際にも、法的にも出向と派遣を区別するのが難しい事例は少なくありません。
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出向というのは、法律上の特別な用語ではなく会社ごとに色々な意味で使われています。したがって、「出向」という言葉にこだわることは適当ではありません。その会社でどのような意味で使われているかによって判断が異なります。場合によっては、その会社で「出向」という用語を用いていたとしても実際には「派遣」と考えられる場合も出てきます。
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●厚生労働省の解釈では、「出向」とは出向元と出向先の両方で二重の労働関係が成立するものであるとされています。労働者にとっては、「出向元との間の労働契約」と「出向先との間の労働契約」の二重の労働契約が成立することになります。もちろん、三者関係ですから、出向元と出向先の間に何らかの出向協定(出向契約)が結ばれることが前提になります。この出向協定、出向元・出向先との労働契約に基づいて、出向労働者の労働条件や業務内容などの大枠が決まることになります。「出向先」が労働者を指揮命令して労働させる使用者であると同時に労働契約上の当事者として雇用関係が存在することになります。
つまり、出向では従来の直接雇用と同様に、「雇用関係」と「使用関係」は分離されていません。
出向とは出向元における従業員としての地位を保ちつつ、出向先との間において新たな労働契約関係を成立させ、出向先の従業員として勤務するという「二重の労働契約関係」に立つものであり、このため出向先は単なる指揮命令権のみでなく人事権も有することになります。ただし、出向先の出向労働者に対する人事権は、就業規則の適用、労働条件の変更などであり、解雇・退職等の労働契約の根幹に係るような事項の人事権は出向元に留保されているもの考えられます。
●これに対して、「派遣」は、派遣元との間にのみ「雇用関係」(労働契約関係)が存在し、派遣先との間には指揮命令を受けるだけの「使用関係」のみが生ずることになる、というのが厚生労働省の解釈です。戦後の労働基準法などの労働法体系では、「間接雇用」が禁止されて、労働者については直接雇用を原則とする考え方が基本になっており、労働者派遣の「雇用関係と使用関係の分離」は、この基本的な労働法の考え方と対立するものです。
いいかえると、従来労働法では、「実態として労働者を指揮命令し、その支配下に置いて従属的に労働をさせる者」を「使用者」として労働基準法、労働組合法などの労働法の使用者責任を負担させてきました。労働者派遣の考え方はこの基本的な考え方を大きく転換することになってしまいます。
この「雇用関係と使用関係の分離」こそ、労働者派遣の最大の特徴であり、労働者にとっては、使用者責任があいまいになる=労働者の権利保障があいまいになる、という点で大きな問題を生んでいる根源です。
●出向と派遣について主な項目を整理してみると次のようになります。
項目 派遣元 派遣先 出向元 出向先
①労働契約 有 無 有 有
②指揮命令権 無 有 無 有
③賃金負担 有 無 一部又全部 一部有又無
④就業規則適用 有 無 一部有 一部有
⑤労働条件変更 有 無 無 有
⑥社会保険 有 無 原則有 原則無
⑦労災保険 有 無 無 有
⑧人事権 有 無 一部有 一部有
⑨36条協定 有 無 無 有
⑩労働者名簿 有 無 有 有
(上記の出向は、当然に在籍出向を指し、賃金・社会保険料の負担は契約内容によります。)
文章や一覧表にしてみれば違いは明白なのですが、その実態は区分しがたい部分があり、恣意性が入りやすいものとなっています。
★整理しますと、出向の場合には、出向労働者と出向先の間に労働契約関係が生じます。さらに、36協定、就業規則など、労働基準法の定める様々な規範や使用者の責任はすべて出向先の使用者が負担します。労働保険(労災保険、雇用保険)、社会保険(健康保険・厚生年金保険)なども、出向先の使用者が負担するのが原則です。こうした出向先の使用者がこうした法律上の責任を負担しないときには、この「出向」は、本来の出向ではなく、実態としては「派遣」と考えられます。
それは、出向名義の「派遣」=偽装出向=違法派遣ということになります。
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