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退職金制度の意義を再考する

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1. 退職金制度の意義を再考する

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<1> 退職金の意義

退職金制度を設ける意義とは何であろう。
人材不足の時代における、会社にとどまらしておく動機付けや人材確保の為の
労働条件整備の一環、18号及び19号でお話しした労働過程における労働者
の過失により生じた賠償金の原資としての退職金等々、制度を運営して行くに
あたっての意義や目的は企業により様々である。

しかし、退職金制度の見直しをお手伝いすると、経営者の方が退職金の目的や
意義について明確に説明できる方は非常に少ない。
退職金については、後でお話しするが、非常に制約が多く、目的がないのであ
ればやらない方がいい。

結論から話せば、退職金とは非違行為の抑止力や競業他社への就職や独立に対
する抑止力という位置づけで運営していくことがベタ-であると考えている。

<2> 退職金額の設定

退職金額の設定であるが、ポイント別退職金制度等、在職時の能力や成果によ
退職金額を決定する制度もあるが、そもそも賃金制度において人事考課がし
っかりとなされていない中小企業において、このような制度の運営は難しい。
勤続年数をベースとした退職金に、支給基準が定まっていない特別功労金の2
本立てがベターであると考える。理由は、本メルマガ18号、19号のとおり
である。

<3> 退職金の法的意義

(1) 法的に保護される退職金制度

通達では、「労働協約就業規則労働契約等によって予め支給条件が明確で
ある場合の退職手当は法11条の賃金であり、法24条2項の臨時の賃金にあ
たる」(昭22.9.13発基17号)とされており、支給基準が明確である
場合については、その範囲で労働基準法の保護を受け、会社は労働者に対して
支払の義務が生じる。

この考え方は、判例、学説ともに異論のないところであるが、支給基準の明確
ではない退職金制度。いわゆる労使慣行に基づく退職金制度についてはどの様
に考えていけばよいのであろう。
 
(2) 労使慣行に基づく退職金制度

退職金規程が存在せず、退職金の支給の有無及び金額について全て社長の裁量
で行われている場合には、労働基準法11条でいう賃金に該当せず、恩恵的給
付ということが出来る。

しかし、社長の裁量といっても、内規が存在していたり、裁量の結果がある程
度一定であったりした場合、退職金規程が存在せずとも、労使間に黙示の慣行
に従った退職金に関する合意があったとみなされるケースがある。(吉野事件 
東京地裁平成7.6.12労判676号12頁、宍戸商会事件 東京地裁昭和
48.2.27労経速807号、日本段ボール研究会事件 東京地裁昭和51.
12.22判時846号109頁)

退職金規程の存在がないが、ほぼ全員の退職者に退職金が支払われているケー
スについて、ある特定の退職者に退職金を不支給にする明確な根拠がない場合
については、支給いなくてはならないと考えて良い。
また、額についても内規がある場合はもちろん、内規が存在しない場合につい
ても、社長が常に世間相場を気にして支給している場合には世間相場、中退共
等の支給基準表をベースに支給している場合には、その表が黙示の労使慣行と
いうことになり、その黙示の労使慣行が支給基準とみなされると考えなくては
ならない。

<4> 退職金の不支給の合理性 

(1)一方的な意思表示による退職

会社の承諾を得ず、無断で一方的に退職した場合については、以下の2つの裁
判例がある。

まず、退職金不支給が認められなかったケース。
「会社の都合も考えずにやめるときは、仕事の支障を来すことになるからであ
り、これを有効と認めることは即ち退職金をもって労働契約債務履行につ
いて損害賠償にあてることに帰着し、これは労働基準法第16条、24条に反
することを是認することになるから、仮に右定めがあったとしても右の法律に
反するものとして無効である。(栗山製麦事件 昭和44.9.26岡山地裁玉
島支部)」
これは、円満退職者以外には退職金を支給しないとされている退職金規程が、
円満退職者以外の即ち、何かしら会社とトラブルがあって退職した労働者に対
して、退職金が実質的に損害賠償金としての意味をもち、労働基準法第16条
賠償予定の禁止と第24条全額払いの禁止の規定に反するから無効であるとい
うことが主旨である。

次に、認められたケース
退職の申し入れを行ったとしても、民法上2週間の勤務義務があり、それを怠
ったことにより退職金不支給とすることは有効である(大宝タクシー事件 昭
和57.1.29大阪地裁)
しかし、当該2週間で年次有給休暇を取得した場合はどうなるのか等々問題が
ある。
この種のケースでは、不支給が認められにという前提で制度を考えていかなけ
ればならない。

(2)懲戒事由による退職金不支給
この問題については、メルマガ19号で述べているが、参考資料として引用す
る。
以下引用
懲戒解雇による退職金不支給が認められるかどうかは、判例、学説ともに分か
れている。
退職金の法的性格が、賃金の後払いなのか、退職後の生活保障なのか、功労報
償的なものなのかで判断が分かれる。賃金の後払い、退職後の生活保障と考え
るならば、懲戒解雇による退職金不支給は認められない。しかし、功労報償的
なものであれば、認められるということになる。
筆者は、功労報償的なものであるという立場であるが、実際問題として、退職
金を住宅ローンの返済のあてにしている方も筆者の周りには多い。30代で退
職金をあてにするのもいかがなものかと思うが、それだけ無理して住宅を購入
しているということであろう。
このような労働者が少なからずいる現状において、仮に訴訟で負けた場合でも、
損害額の補填を考える仕組みを考えておく必要がある。
以上

退職金不支給が認められるかはケースバイケースである。
であるから、退職する労働者に対して、非違行為を明確にして退職金不支給の
理由を納得してもらわなければならない。

しかし、ここで注意する点は退職後に非違行為が発覚した場合であり、退職金
返還の問題をどの様に考えていくかを検討していく。

(3)退職金返還の問題

まず、退職後も在職時の行為に責任が生じ、在職中に生じた損害の賠償責任は
発生する。どの程度負担させられるかは、本メルマガ18号に詳しく述べてい
るが、損害賠償の請求は当然可能である。

退職金の返還については、原則として就業規則等に記載する必要があり、それ
が前提条件である。
例えば退職金不支給を懲戒解雇のみに限定した規程の場合、退職後に懲戒解雇
処分を行った上で、退職金の返還を求めなくてはならない。理論上は、合意退
職を民法96条により詐欺による取り消しや同95条による錯誤による無効と
される場合には、懲戒解雇は可能であるが、実務上は困難である。

であるから、退職金不支給の理由を「懲戒解雇に該当する事由があった場合」
等処分ではなく、事由で規程を設定して行かなくてはならない。

では、退職金規程に当該規程がないときや「処分」を前提とした規程の場合の
取り扱いはどの様にしたらよいのであろうか。

これは、民法703条の不当利得の返還請求により返還を求める。(福井新聞
社事件 福井地裁昭和62.6.19労判503号83頁)
退職後に、懲戒事由が発覚し、在職中に当該事実が発覚していたら、退職金
受給できる地位になかったわけであるから、当該退職金不当利得として返還
請求するケースである。

このように、退職後における懲戒事由発覚を予測した上で、退職金規程を作成
していかなければならない。

(4)競業避止義務と退職金不支給の問題

競業避止義務は、今までの経験を生かして再就職をするという労働者の観点か
らすると、職業選択の自由はおろか、生存権も侵害する行為といわれてもやむ
を得ない。
であるから、競業避止義務は極めて限定的な場合に限られ、退職金減額につい
ては、多少の金額であれば認められるケースが多いが、労働者の生活に大きな
影響を与えるような金額を不支給とすることは、余程悪質なケースではないと
認められないであろう。

例えば、中小企業の場合、企業のブランド力で営業しておらず、個人の信頼関
係であるとか、能力で運営しているケースがほとんどである。その中小企業に
おいて、幹部社員が独立した場合、当該会社の運営に影響が出るのはやむを得
ない。顧客名簿の持ち出しであるとか、特許技術の侵害行為を伴うようなケー
スは別としても、基本的に独立に関して抑止力となるべき退職金の不支給は難
しい。
判例でも、退職後一定の期間競業他社に就職する場合には自己都合の際の退職
金額の半額(17万円程度減)の減額認められたケースがあるが、果たしてこ
れが抑止力といえるのかという問題がある。(三晃社事件 最二小判昭和52.
8.9労経速958号25頁)
また、競業避止義務の判決であるが、東京貨物社事件(浦和地裁平成9.1.
27)では、
 1 競業避止の合理的理由
 2 それを満たす必要な範囲
 3 手続きの正当性
 4 正当な対価
を満たす場合に限り、競業避止が認められるという判決もある。
この、正当な対価というのはどの程度であるか、また、退職金不支給との問題
もあるが、抑止力としての退職金を考える際、この判決でいう正当な対価を考
えて制度設計をしてみるのも良い。

正当な対価を退職金として支払い、相当の期間競業他社に就職すること若しく
は独立することを禁止する考えは、法律上の問題はもとより、労働者の保障を
行いつつ、その間に当該労働者がいなくても企業の運営に支障がない体制をつ
くる、いわゆる時間稼ぎとしての競業避止義務を課すという考えの方が、企業
実務上有効に思える。

<5>まとめ

退職金に対する考え方はまちまちであり、制度設計や見直しの際、必ずその意
義を考えていかなければならない。
目的がないのであれば、また、意義が見いだせないのであればやらない方がよ
い。本稿により退職金制度についてご一考していただければ幸いである。

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編集責任者 社会保険労務士 山本 法史
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