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懲戒解雇と就業規則整備

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弁護士法人クラフトマン 第125号 2014-05-13
(旧 石下雅樹法律・特許事務所)

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1 今回の判例    懲戒解雇就業規則整備
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大阪地裁 平成25年6月21日判決

 A社の従業員B氏は、会社のPCのハードディスクに保存してい
たデータのバックアップをとるため外付けハードディスクを自費で
購入し、会社で使用していました。

 そして、A社の就業規則は日常携帯品以外の物品の持出しには所
属長の許可を要する旨を規定しているところ、B氏は、前記外付H
DDを上司の許可なく自宅に持ち帰りました。また、この点に関す
る会社からの事情聴取に対し、B氏は、私物だから持ち帰るのは自
由であること、当該HDDに記録されているA社の営業情報は消去
するつもりであるという趣旨の回答をしました。

 これに対し、A社は、B氏の自宅でB氏のパソコン等を預かり、
さらにB氏に自宅待機を命じました。そしてその後、A社はB氏を
懲戒解雇しました。その理由は、「会社の業務上の機密及び会社の
不利益となる事項を外に漏らさない」という就業規則上の服務規定
に抵触するというものでした。

 これに対し、B氏は、この懲戒解雇が無効であると主張し、裁判
を起こしました。




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2 裁判所の判断
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 裁判所は、以下の理由で懲戒解雇は無効と判断し、B氏の主張を
認めました。

● B氏がHDDを自宅に持ち帰った事実は認められるが、HDD
 に保存された情報が外部に流出したことは確認されていないから、
 HDDを自宅に持ち帰った行為が前記服務規定に抵触するとはい
 えない。

● 懲戒解雇は、懲戒処分の中でも従業員の身分を奪う最も重い処
 分であるから、懲戒解雇事由の解釈については厳格な運用がなさ
 れるべきであって拡大解釈や類推解釈は許されない。情報が外部
 に流出する危険性を生じさせただけで、前記服務規定に違反した
 ことと同視して懲戒解雇ができるとはいえない。

● A社就業規則では、日常携帯品以外の無断持出について、事案
 が重篤な場合懲戒解雇に処すると定められている。しかしHDD
 の無断持帰りによるA社への損害の発生は認められないから、
 「事案が重篤なとき」に該当するとはいえない。




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3 解説
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(1)懲戒解雇とは

 まず「懲戒解雇」とは何を意味するのでしょうか。また、普通解
雇の違いは何でしょうか。

 「懲戒解雇」とは、重大な服務規律違反や重大な背信行為など企
業秩序を著しく乱した労働者に対する制裁罰として解雇する処分で
す。普通解雇の場合は30日前の解雇予告か平均賃金の30日分の
予告手当の支払が必要となりますが、懲戒解雇の場合、その必要が
ありません。また退職金制度がある会社では、懲戒解雇によって退
職金について全額不支給又は減額支給とする処分が伴うこともあり
ます。

 他方、普通解雇は、合理的な理由は必要ですが、様々な理由で行
われます(労働者の業務遂行能力の欠如、傷病等による労務不能、
勤務態度不良、業務命令違反等)。また解雇予告(手当)も必要で
あり、退職金制度がある会社では通常は退職金が支払われます。


(2)懲戒解雇事由の厳格な解釈

 以上のとおり、懲戒解雇労働者にとって「死刑」ともいえる重
要な不利益を与えるため、懲戒解雇には厳格な制限があります。そ
の一つとして、就業規則懲戒解雇事由が規定されており、かつ当
労働者に関する事実が、懲戒解雇事由のいずれかに該当している
必要があります。そして、懲戒解雇事由については安易な類推解釈
や拡大解釈は許されない、と考えられてます。

 この点、普通解雇の場合、解雇理由に「客観的な合理性」と「社
会的相当性」があれば必ずしも厳密に就業規則普通解雇事由への
該当が必要ではないとする裁判例も少なくありません。しかし、懲
解雇の場合には、就業規則上の懲戒解雇事由に厳格に該当してい
ることが最低限必要な条件であるわけです。


(3)懲戒解雇事由の見直しの必要性

 中小企業の中には就業規則自体がないところが少なからずありま
す。確かに、労働基準法就業規則の作成・届出が義務付けられて
いるのは常時10人以上の労働者を使用する場合ですから、そうで
なければ就業規則を定めなくても労働基準法には違反しません。

 しかし、上で述べたとおり、労働者懲戒解雇をはじめとする懲
戒処分を課すには、就業規則に具体的に列挙された事由に該当する
ことが最低限求められます。ですから、就業規則がそもそもないと
いう会社では、いざ社員の問題行動が生じた場合、懲戒処分を行う
ことが困難となってしまう、という困った事態を招くことになりか
ねません。

 また、就業規則において懲戒解雇事由が規定されていても、自社
において生じうる事態を網羅しているとは限らないケースも見られ
ます。例えば就業規則制定時に、一般的なひな形を利用してとりあ
えず就業規則を作成したようなケースでこのようなことは見られま
す。

 それで、早い時期に一度、自社の経営上生じた様々な事例や経験
などを踏まえ、労働法に通じた弁護士の助言を得ながら、自社の就
業規則の懲戒解雇事由や懲戒事由の見直し・拡充を考えることは、
将来の労働紛争のリスクの軽減につながるものと考えられます。




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4 弊所ウェブサイト紹介~労働法・労働問題ポイント解説
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弊所のウェブサイトの法律情報の解説のページには、ビジネス・企
業に関係した法律情報に関する豊富な情報があります。

例えば本稿のテーマに関連した労働関係の諸問題に関しては、

 http://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/roumu/index/

にあるとおり、採用雇用から解雇退職に至るまで労働法に関す
る解説が掲載されています。必要に応じてぜひご活用ください。

なお、同サイトは今後も随時加筆していく予定ですので、同サイト
において解説に加えることを希望される項目がありましたら、メー
ルでご一報くだされば幸いです。


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