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不誠実産業医が持ち込むおそれのある法的リスク③

 こんにちは、産業医・労働衛生コンサルタントの朝長健太です。
 産業医として化学工場、営業事務所、IT企業、電力会社、小売企業等で勤務し、厚生労働省において労働行政に携わり、臨床医として治療を行った複数の健康管理の視点で情報発信をしております。多くの企業様に労働衛生法、従業員の健康、会社の利益を守るお手伝いが出来ればと、新ブランド産業医EX(エキスパート)を立ち上げさせて頂きました。
https://www.sangyouiexpert.com/
 さらに、文末のように令和元日(5月1日)に、「令和の働き方 部下がいる全ての人のための 働き方改革を資産形成につなげる方法」を出版し、今まで高価であった産業医が持つ情報を、お手頃な価格にすることができました。
 今回は、「不誠実産業医が持ち込むおそれのある法的リスク③」について作成しました。
 労働衛生の取組を行うことで、従業員に培われる「技術」「経験」「人間関係」等の財産を、企業が安定して享受するためにご活用ください。
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不誠実産業医が持ち込むおそれのある法的リスク③
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 労働安全衛生法第13条第1項に、事業者産業医を選任し、労働者の健康管理等を行わせることが、罰則付き義務で定められていますが、令和元年度より、労働安全衛生法第13条第3項に「産業医は、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識に基づいて、誠実にその職務を行わなければならない。」(以下「誠実義務」という。)が追加されています。
 産業医の誠実義務が定められるまでは、労働者の身体的・精神的・社会的健康が産業医の不誠実の結果で侵害されていても、法令上不誠実で良かったので過失責任を明確化しづらく、産業医が責任を問われるリスクはありませんでした。しかし、今後は、民事上の訴訟リスクに変化したおそれがあります。
 医療の現場における医師に対する判例が、職域に直接適応されるかは、医療で医師が行う措置等の責任が、医療ではない労働衛生の現場に当てはまるか否かについて、裁判所判断というステップを踏まなくてはなりません。ですが、医師法第17条、第31条において、医業を独占している医師が負う責任は重いことから、各論の部分が水平適用される可能性は十分に考えられます。
 将来的な訴訟リスクを回避するために、医師の責任が問われた判例等を元にハザードの評価と対策案をシリーズで示させていただきます。
 なお、産業医に関して事業者に課せられた義務は、選任だけでなく、労働者の健康管理等を行わせることもあります。不幸な事態が発生した後に、事業者産業医が責任に関して水掛け論することが無いように、産業医への業務指示等はしっかり残しておく方が良いでしょう。

◎人格権の一内容について尊重する義務
 健康とは、世界保健機関憲章において、身体的、精神的及び社会的に健康であることが定められています。健康や医療といえば身体的な健康をイメージされる方が多いですが、最高裁平成12年2月29日第三小法廷判決において、手術で多量に出血して致死的になったため輸血で救命されたが、輸血拒否の信念(事前に医師に伝えていた)に反する行為を受けたとして民法上義務違反を指摘し、「意思決定をする権利は、人格権の一内容として尊重されなければならない。本件手術を受けるか否かについて意思決定をする権利を奪ったものと言わざるを得ず、この点において同人の人格権を侵害したものとして、同人がこれによって被った精神的苦痛を慰謝するべき責任を負うものというべきである。」として、医師と設置者である国に対して民法第715条に基づく不法行為責任が認められました。
 健康は、身体的な健康のみをいうわけではないことが、最高裁で示された形になります。この判例が大きな影響となり、インフォームドコンセントが広く行われるようになりました。社会的な健康を求めることが人格権にどのように影響するかは不明ですが、医師法第1条に「医師は、医療及び保健指導を掌ることによつて公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする。」と定められているため、今後議論されてくるおそれはあります。
 さて、一般的な産業医は日ごろから、身体的、精神的及び社会的に健康であることを目標に活動しています。具体的には、健康診断やストレスチェック等の情報を元に身体的、精神的な健康の維持増進を図り、法令や労働契約に基づき企業の生産性向上に協力し、社会的にも健康を維持増進を図ることです。特に、企業の利益低下が従業員の社会的健康を侵害するといった事態を避けるために、衛生委員会を有効に活用し、企業に属する全ての人が必要十分な健康を享受できるようにする必要があります。
 もし、産業医が身体的、精神的、社会的な健康のうち特定の事項しか対応しない場合は、速やかに産業医に改善指導を行うことが必要です。

◎所感
 私としては、産業医の誠実義務という法律を、労働政策審議会でよくぞ経営者側が許可したと驚いています。産業医として前任者から業務を引き継ぐ中で、従業員の身体的、精神的、社会的不健康の責任が、産業医が不誠実であることで、解決ではなく解消され、中途半端に終了していた事例を多く認めています。
 この様な解消し中途半端に終了している事案を抱えている企業にとって、この度の産業医の誠実義務は、医師が過去に裁判の中で揉まれて整理された法的リスクを、産業医を通じて持ち込まれてしまうおそれがあります。労使間の訴訟では、労使共に身体的、精神的、社会的健康が侵害されてしまうため、産業医としては、経営者側は、法的リスクを解決に導ける万全の体制を整え、その上で産業医の誠実義務を認めるべきであったと感じています。
 テレワーク等の健康経営を導入して、企業の生産性が低下し、従業員のストレスが増加している報告が散見されています。全てが万全にいかないからこそ、法令と科学を基礎として、衛生委員会で労使協調の上、適切な対応に努めていただければと存じます。
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令和の働き方 部下がいる全ての人のための 働き方改革を資産形成につなげる方法
http://miraipub.jp/books/%E3%80%8C%E4%BB%A4%E5%92%8C%E3%80%8D%E3%81%AE%E5%83%8D%E3%81%8D%E6%96%B9-%E9%83%A8%E4%B8%8B%E3%81%8C%E3%81%84%E3%82%8B%E5%85%A8%E3%81%A6%E3%81%AE%E4%BA%BA%E3%81%AE%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AE-%E5%83%8D/

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