こんにちは。
社会保険労務士の田中です。
東京都では緊急事態宣言が9月12日まで延長されています。
「宣言慣れ」で感染対策が疎かになることが懸念されます。
引き続き、注意したいところです。
さて、
年次有給休暇は翌年に繰り越せない、という裁判例があります。
ネットや書籍などで紹介される事もあり、そこそこ知られています。
ただし、結論だけを見ると誤解しやすいので、真意をお伝えします。
☆☆
年次有給休暇の
時効について ☆☆
まず、基本の再確認です。
年次有給休暇(労基法第39条)は付与された年度に取得する事が
原則ですが、取得できなかった場合は労基法第115条(
時効)により、
翌年に限り繰り越しできる、というのが通説および解釈例規です。
【 昭和23.04.28 基収1497 】
年次有給休暇の権利は法115条により2年間の
消滅時効にかかる(後略)
【
労働基準法第115条(
時効) 】
(前略)この法律の規定による災害補償その他の請求権は
これを行使することができる時から2年間行わない場合においては、
時効によって消滅する。
☆☆ 「年休の繰り越しはできない」という裁判例がある? ☆☆
「年休は翌年に限り繰り越せる」という通説及び解釈例規とは異なり、
「年休の繰り越しはできない」という判示をした裁判例があります。
『
労働基準法上の
年次有給休暇については
時効ということを考える
余地はなく、同法第一一五条の規定が適用されることはないというべき』
(国鉄浜松機関区事件 静岡地判 昭和48.3.23)
労基法115条の
時効の適用を否定しています。
そして、この部分だけが独り歩きするとこんな事態につながりかねません。
社長「当社では年休は翌年に繰り越せない。取得できない場合は消滅させる。」
総務「社長、年休は2年の
時効となるので、翌年に繰り越せます。」
社長「いや。翌年に繰り越せない、という判例があると聞いたぞ。」
総務「・・・・」
いわゆる「ブラック企業」的な展開となってしまいます。
☆☆ 「国鉄浜松機関区事件」判決の真意 ☆☆
裁判例もきちんと全文を確認しないと、
その一部だけが独り歩きしかねません。
同事件の判決の真意は次の通りです。
「
労働者から年休の繰り越しを望む場合でも、これを認めることは、
その年に付与された年休を取得しないことを容認することである。
労働基準法では当該年度に法定日数の年休を現実に休むことを
保障しており、その最低基準を下回ることになる。
したがって、
年次有給休暇請求権の繰り越しは認めることができない。」
https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/01431.html
☆☆ 付与された年度に全て取得する前提での繰り越し禁止 ☆☆
ご一読頂ければお分かりと思いますが、この判決は次を意味しています。
年休は付与された年度に全てを使うことが本来の趣旨なので、
付与したら取得させるべきで、繰り越しは認められないという事です。
換言すると、年休は繰り越ししないようにその年のうちに使え、
という事です。とは言え、年休の100%取得は難しいですよね。
従って実務では、現時点で一般的な方法である
「取得できなかった年休は翌年に繰り越す」として、
繰り越さない事(100%取得)を目指す事になるでしょう。
「ブラック企業」ではなく、「スーパーホワイト企業」の
ためにあるような裁判例です。
また、裁判例にかかわらず各種情報の一部切り取りは
その真意を曲げてしまうという問題がある事も分かります。
今回も最後までお読み頂きありがとうございます。(2021.08.18)
==============================================
社会保険労務士 田中事務所 プライバシーマーク取得 オンライン対応可能
https://www.tanakajimusho.biz/
(中央線、南武線、東横線、根岸線 の各沿線に注力しています。)
☆
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人事労務に関する施策立案
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月額30,000円(
消費税別)~ の
人事労務相談で対応します。
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こんにちは。社会保険労務士の田中です。
東京都では緊急事態宣言が9月12日まで延長されています。
「宣言慣れ」で感染対策が疎かになることが懸念されます。
引き続き、注意したいところです。
さて、年次有給休暇は翌年に繰り越せない、という裁判例があります。
ネットや書籍などで紹介される事もあり、そこそこ知られています。
ただし、結論だけを見ると誤解しやすいので、真意をお伝えします。
☆☆ 年次有給休暇の時効について ☆☆
まず、基本の再確認です。
年次有給休暇(労基法第39条)は付与された年度に取得する事が
原則ですが、取得できなかった場合は労基法第115条(時効)により、
翌年に限り繰り越しできる、というのが通説および解釈例規です。
【 昭和23.04.28 基収1497 】
年次有給休暇の権利は法115条により2年間の消滅時効にかかる(後略)
【 労働基準法第115条(時効) 】
(前略)この法律の規定による災害補償その他の請求権は
これを行使することができる時から2年間行わない場合においては、
時効によって消滅する。
☆☆ 「年休の繰り越しはできない」という裁判例がある? ☆☆
「年休は翌年に限り繰り越せる」という通説及び解釈例規とは異なり、
「年休の繰り越しはできない」という判示をした裁判例があります。
『労働基準法上の年次有給休暇については時効ということを考える
余地はなく、同法第一一五条の規定が適用されることはないというべき』
(国鉄浜松機関区事件 静岡地判 昭和48.3.23)
労基法115条の時効の適用を否定しています。
そして、この部分だけが独り歩きするとこんな事態につながりかねません。
社長「当社では年休は翌年に繰り越せない。取得できない場合は消滅させる。」
総務「社長、年休は2年の時効となるので、翌年に繰り越せます。」
社長「いや。翌年に繰り越せない、という判例があると聞いたぞ。」
総務「・・・・」
いわゆる「ブラック企業」的な展開となってしまいます。
☆☆ 「国鉄浜松機関区事件」判決の真意 ☆☆
裁判例もきちんと全文を確認しないと、
その一部だけが独り歩きしかねません。
同事件の判決の真意は次の通りです。
「労働者から年休の繰り越しを望む場合でも、これを認めることは、
その年に付与された年休を取得しないことを容認することである。
労働基準法では当該年度に法定日数の年休を現実に休むことを
保障しており、その最低基準を下回ることになる。
したがって、年次有給休暇請求権の繰り越しは認めることができない。」
https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/01431.html
☆☆ 付与された年度に全て取得する前提での繰り越し禁止 ☆☆
ご一読頂ければお分かりと思いますが、この判決は次を意味しています。
年休は付与された年度に全てを使うことが本来の趣旨なので、
付与したら取得させるべきで、繰り越しは認められないという事です。
換言すると、年休は繰り越ししないようにその年のうちに使え、
という事です。とは言え、年休の100%取得は難しいですよね。
従って実務では、現時点で一般的な方法である
「取得できなかった年休は翌年に繰り越す」として、
繰り越さない事(100%取得)を目指す事になるでしょう。
「ブラック企業」ではなく、「スーパーホワイト企業」の
ためにあるような裁判例です。
また、裁判例にかかわらず各種情報の一部切り取りは
その真意を曲げてしまうという問題がある事も分かります。
今回も最後までお読み頂きありがとうございます。(2021.08.18)
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