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【火蓋が切られた】労災とそこから派生する労使間の民事訴訟

 こんにちは、産業医・労働衛生コンサルタントの朝長健太です。
 弊社が、働く人の健康管理の事業を開始して、3年以上が経過しました。
 その中で、身体的・精神的健康を優先するあまり、社会的健康がおろそかになっている事例を多数見ることになりました。
 身体的健康を優先するあまり、社会的に不健康になった事例を、皆様も多く実感されたことでしょう。
 WHO憲章にあるように、健康とは、身体的・精神的・社会的に健康であることです。さらに、職域では企業と労働者の双方を健康にすることが必要です。
 休職者ゼロ・新型コロナ関連倒産ゼロを達成した労働衛生コンサルタント技術の提供に関して、『企業利益をわかりやすく向上させる新規サービス』を用意しました。
 是非、弊社を利用し、健康の向上を図ってください。
https://www.kenpomerit.com/
 さらに、文末のように令和元日(5月1日)に、「令和の働き方 部下がいる全ての人のための 働き方改革を資産形成につなげる方法」も作成してます。是非、ご覧ください。

 今回は、「【火蓋が切られた】労災とそこから派生する労使間の民事訴訟」について作成しました。
 企業利益の向上という、社会的健康を向上させるために、弊社をご活用ください。
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【火蓋が切られた】労災とそこから派生する労使間の民事訴訟
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 以下のコラムについて、多くの反響をいただき、誠にありがとうございます。
労災とそこから派生する労使間の民事訴訟を避けるために(2万4千ビュー超え)
https://www.soumunomori.com/column/article/atc-174805/
【Q&A】風邪程度で労災認定や民事訴訟等になる場合について(1万7千ビュー超え)
https://www.soumunomori.com/column/article/atc-174834/
【Q&A】風邪で想定される民事訴訟(参考:グレーゾーン金利)(3千ビュー超え)
https://www.soumunomori.com/column/article/atc-174842/

 令和2年7月にアップしてから、1年以上たちましたが、遂に、以下のとおり安全配慮義務を理由に事業者を民事訴訟する事例が発生しました。お亡くなりになった方のご冥福をお祈りいたします。
https://www.asahi.com/articles/ASP9J5CT6P9JUTIL038.html
 働く人の健康管理は、従業員の身体的健康のみを守るだけでは許されません。企業と従業員の身体的、精神的、社会的健康の6項目を全て守ることが必要です。
 訴訟という企業と従業員の精神的・社会的健康を侵害しないために、法令と医学に基づき適切な対応をしてください。
 今回は、現在報道されている内容を元に、安全配慮義務違反の観点で考察します。

◎現時点の報道内容
 上記URLによると、報道内容は以下の様になります。
・横浜市に住む妻(64)ら遺族3人が勤務先の財団法人に計約8,700万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。
・訴状によると、男性(当時67)が働いていた一般財団法人「防衛技術協会」(東京)で昨年3月24日ごろ、クラスターが発生。男性も発熱したため仕事を休み、4月5日に感染が判明した。男性とその母親が感染し、病院で亡くなった。
労働基準監督署は、遺族補償給付の支給を決定した。
・遺族側は、最初に発熱した職員に財団がPCR検査を受けさせなかったなどしたため、出勤後にクラスターが発生して男性やその母親の死につながったと指摘。「財団は従業員の生命を守るために、その職員を出勤させないようにするべきだった」と主張する。
・財団側は答弁書で、発熱した職員は医療機関で風邪と診断され平熱に戻ったと主張。当時のPCR検査を受ける目安は「37.5度以上の発熱が4日以上」だったとし、「職員が感染したと言えないだけでなく、職場に出勤させないようにする義務もなかった」と反論している。

◎法令等の整理
 安全配慮義務違反は、危険予知と危険回避をするにあたって、法令に基づいた義務を遵守していたか否かが大きな争点になります。労働安全衛生法上の遵守するべき義務を優先順位で整理すると以下の様になります。
罰則付き義務:「~なければならない。」等、義務が定められさらに、義務を遵守していない場合に罰則が付けられている義務です。
罰則なし義務:「~なければならない。」等、義務が定められているが、特記罰則が定められていない義務です。
③配慮・努力義務:「~配慮しなければならない。」や「努めなければならない。」等、配慮や努力することが定められている義務です。
通達・ガイドライン:行政が国家賠償等を避けるために、公権力の行使の不作為とならないように発信した情報で、安全配慮義務上は、義務でもなんでもない。(安衛法第3条に「協力するようにしなければならない。」とはされています。)
 法令においては、遵守するべき義務は①>②>③の優先順位であり、④については法ではないので、参考になったとしても直接的に影響することはありません。④をいくら遵守しても、①~③が疎かになっている証拠を握られてしまえば、事業者側が勝てるとは考えにくいです。

◎遵守されている罰則付き義務
 新型コロナウイルス対策については、危険予知及び危険回避の観点では、以下の罰則付き義務が遵守されているべきです。なお、一般財団法人「防衛技術協会」は2014年時点で58人とされているので、人員調整や分散事業所がなければ、50人以上の事業所になります。
https://unisonas.com/detail/detail_tokyo.php?pg=94769
・健康管理に関する管理者の配置、指導等(選任義務が無い場合は事業者が負う)
・専門家の配置(50人未満は努力義務)
衛生委員会の設置(50人未満は意見を聴く機会を設けるようにしなければならない)
健康診断の実施・事後措置等
 そして、その義務の中でどのような危険予知及び危険回避がされていたかが重要になります。

◎企業側の弱点となると見込まれる点
 この事業所は、一般財団法人への移行前の所管は、防衛省管理局開発計画課であったことから、法令の義務について遵守されていないことはないでしょう。ですが、この事例を元に、企業側の弱点となる争点とその対策を考えてみましょう。
・専門家の配置
 50人以上の事業所であると、衛生管理者の選任、産業医の選任が義務づけられています。選任をしていない場合は、「科学を十分に学習した国家資格者が選任されていないのに、適切な危険予知ができているはずはない。」や「法令に定められた義務を果たしていないのに、適切な危険回避義務ができているはずはない。」と指摘されるおそれがあります。
 また、選任していたとしても、勤務実態が無い場合は、危険予知や危険回避義務を果たしていないと指摘されるでしょう。衛生管理者は常勤であることが多いため、勤務実態が無いことを証明することは難しいですが、非常勤として選任されることが多い産業医である一般的な医師は、医療法又は保険診療の定めに基づき、行政や所属医療機関で勤務実態が記録されています。この記録を引き出すように労働者遺族側の弁護士が動いて来た場合、証拠を握られてしまいます。
 対策としては、衛生管理者及び産業医を選任し、それぞれ勤務実態を書面で記録しておくことが良いでしょう。特に産業医の勤務実態は、所属医療機関の電子カルテ等と突合されても問題ないように確認しておくことが重要です。
衛生委員会の設置
 50人以上の事業所であれば、「衛生に関して調査審議し、事業者に対し意見を述べさせるため」衛生委員会の設置が義務づけられ、安衛則で、月1回の開催、議事概要の周知、議事録の3年間保存が定められています。
 月1回の開催等は法令の罰則付き義務に紐付いていませんが、設置については罰則付き義務になっています。
 衛生委員会を開催していたとしても、①衛生に関して調査審議したか、②事業者に対して意見を述べさせる機会を与えていたか、③委員に産業医がいて医学的な危険予知及び危険回避を行ったかについては、争点になるでしょう。
 今般の事例で、労働者遺族側が主張する「最初に発熱した職員に財団がPCR検査を受けさせなかったなど」や、事業者側が主張する「当時のPCR検査を受ける目安は『37・5度以上の発熱が4日以上』だった」(以下「事業者側対策」という。)についてが争点になったとしても、法的根拠に紐付かないため、労働者遺族側弁護士が違法性を証明することは困難でしょう。
 ですが、事業者側対策が、①衛生委員会で調査審議されず、②労働者に意見を述べる機会を与えておらず、③委員である産業医の意見が示されていなかった場合は、衛生委員会を適切に設置していなかったという点で、適切な危険予知及び危険回避を行っていなかったと指摘されるおそれがあります。また、議事録の記録は罰則付き義務ではないものの、労働者側遺族弁護士から、「議事録が無いのでは、適切な調査審議等を行ったとは言えない。」と指摘された場合、覆すことは難しいでしょう。
 対策としては、事業所として感染症対策を定めたら、衛生委員会産業医に確認させ、適切に労使で協議し、結果を議事録に残しておくことが必要でしょう。
健康診断の実施、事後措置等
 現時点報道内容では、労働者の持病等について指摘が無いことから、関係は乏しいと認められます。
 一般論としては、健康診断で、新型コロナウイルスのリスクとなる肥満、高血圧、糖尿病、心疾患、COPD、喫煙、心血管疾患については見える化することができます。そのリスクに応じた医師の意見を聴き、事後措置を行っておくことは重要でしょう。
 例えば、健康診断結果で、糖尿病のおそれがある労働者について医師の意見を聴かず措置を行わなかったとしたら。その重症化した責任は、事業者になることでしょう。
 健康診断の実施だけでなく、適切な事後措置を行ってください。

◎【想定】今般の事例で労働者遺族側弁護士が勝利した場合、企業としてすべきこと
 例えば、今般の事例で労働者遺族側弁護士が勝利し、損害賠償約8,700万円が発生した場合、企業としては産業医との契約を確認すると良いでしょう。平成31年4月に日本医師会が公表している『産業医契約書(参考例)』によると、契約職務内容は以下になります。
(職務内容)
① 職場巡視を行うこと
衛生委員会又は安全衛生委員会の委員として意見を述べること
健康診断及び面接指導の結果に基づき就業上の措置に関する意見を述べること
健康診断及びストレスチェックに関する労働基準監督署への報告書を確認し、署名・捺印をすること
健康診断、長時間労働の面接指導、ストレスチェックその他の健康管理に関する企画に関与し、助言や指導を行うこと
⑥ 診断書その他に記された労働者の心身の状態の情報を解釈し、加工し、就業上の措置に関する意見を述べること
⑦ 職業性疾病を疑う事例の原因調査と再発防止に関与し、助言や指導を行うこと

 従って、感染症に関しては、事業者が行うべき危険予知及び危険回避を、産業医は職務として執行することになっています。企業側が敗訴した場合は、産業医契約上適切に職務を果たしたかを確認すると良いでしょう。
 なお、産業医契約書(参考例)によると、補償については、「産業医が本契約に定める職務遂行中又は本事業場への移動中に、第三者に対して損害賠償責任を負った場合は、事業者がこれを代償する。ただし、産業医の故意又は重大な過失により生じた損害賠償責任についてはこの限りではない。」と示されていることから、職務の不備が産業医の重大な過失になるかどうかは、損害賠償債務者を整理する意味で重要でしょう。

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令和の働き方 部下がいる全ての人のための 働き方改革を資産形成につなげる方法
http://miraipub.jp/books/%E3%80%8C%E4%BB%A4%E5%92%8C%E3%80%8D%E3%81%AE%E5%83%8D%E3%81%8D%E6%96%B9-%E9%83%A8%E4%B8%8B%E3%81%8C%E3%81%84%E3%82%8B%E5%85%A8%E3%81%A6%E3%81%AE%E4%BA%BA%E3%81%AE%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AE-%E5%83%8D/

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