• HOME
  • コラムの泉

コラムの泉

このエントリーをはてなブックマークに追加

専門家が発信する最新トピックスをご紹介(投稿ガイドはこちら

日本マクドナルド事件の裁判例に基づき管理監督者性について考察

平成20年5月15日 第56号
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
人事のブレーン社会保険労務士レポート
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
目次

1.日本マクドナルド事件の裁判例に基づき管理監督者性について考察する

===================================

ブログもよろしくお願い致します。
人事のブレーン社会保険労務士日記」です。
http://norifumi.cocolog-nifty.com/blog/
是非見てみて下さい!

***********************************

1.日本マクドナルド事件の裁判例に基づき管理監督者性について考察する

***********************************

<1> はじめに

(1)はじめに

このメルマガで一度取り上げたが、管理監督者性について日本マクドナルド事
件(以下「本件」という)を基に再度考察したいと考える。
話題性のある事件であり、他への波及効果が大きいことからこの事件の裁判例
のポイントを考察することにより実務への応用を考えていきたい。

(2)法令について

労働基準法第41条第2号には「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の
地位にある者又は機密の事務を取り扱う者」については労働基準法第4章、第
6章及び第6章の2で定める労働時間休憩及び休日に関する規定は適用しな
いとされている。
 
では「監督若しくは管理の地位にある者」とは一体どういう立場の者なのか明
確な通達は出ていない。
この曖昧さが経営者サイドの管理監督者の定義を拡大解釈をして運用している
大きな要因である。
管理監督者性については本メルマガ20号で通達の整理をしたので参照された
い。
http://archive.mag2.com/0000121960/20050615122928000.html?start=20
本稿では本件の裁判例を中心に考察する。

(3)明確な判断基準を通達で示せない理由

管理監督者について何故明確な通達がなされないのか。
例えば、この様な組織体制では部長職までといった通達を出す場合、全く同じ
組織体制でも「社長のワンマンさ」により違ってくる。

では通達にワンマンの場合とそうではない場合に明確に出来るであろうか。
そもそもワンマンの定義とは何か。
法的に定義するのは難しい。
結局実態判断をするしかないのである。

通達では「都市銀行等の場合」(昭52.2.28基発104号の2)と「都
市銀行等以外の金融機関の場合」(昭52.2.28基発105号)が出てい
る。

これは昭和50年代の銀行についてはどの組織も似たり寄ったりということで
出せたのかも知れない。

しかし現在では各行により組織も違い支店と法人営業部が併存する組織もあり、
法人営業部長と支店長が同一の場合と違う場合もある。
この通達が現在の銀行組織に合致するかどうかは疑問であるが、当時の状況は
行員に支店長代理の肩書きを乱発し、管理監督者として時間外手当を支払わな
いという行為が多数あったということからこの通達が出たものと考えられる。

マクドナルドとモスバーガーでは同じ業態でも組織や指揮命令系統が違い、同
じ名称の役職でも一方では管理監督者で、もう一方では管理監督者ではないと
いう事も考えられる。

この様に実務上では非常に判断に困るケースが多いのである。

(4)日本マクドナルドは労働基準法違反なのか

ファーストフードの店長に時間外手当を支給しないのは労働基準法違反か。
これは一律に違反ではない。
前述の通り判断は難しい。

本件は民事訴訟であり、刑事訴訟ではない。

では何故民事訴訟なのであろうか。

答えは労働基準法による管理監督者とは非常に定義が曖昧であり、曖昧な根拠
に基づき労働基準監督官が司法警察権限を行使出来ないというところである。

前述の金融機関向けの通達においても「支店、事務所等出先機関における組織
の長(支店長、事務所長)」については「法の適用単位と認められないような
小規模出先機関の長」を除き管理監督者であるという通達が出ている。

この通達によれば、「法の適用単位と認められないような小規模出先機関」と
労働者災害補償保険も36協定就業規則も直近上位の組織に包括されるの
で、労災法上の保険関係成立届を労働基準監督署に提出せず、36協定や就業
規則も当該店舗では提出の必要のない組織に限り管理監督者ではないとされて
いるわけで、本件はこれらの手続きを当該店舗において行っているので、この
通達を厳格に解釈すれば日本マクドナルドの店長職は管理監督者ということに
なる。

故に労働基準監督官は、労働基準法違反として日本マクドナルドを指導出来な
いのである。

仮にこの通達に従えば、店長が管理監督者ではないとされた場合、それらの店
舗においては労災法の保険関係成立届や36協定就業規則は本社で提出すれ
ばよいという事になる。

<2>裁判例の検討

(1)請求の主旨の整理
この訴訟に於いて5つの請求がなされた。
1)36協定の範囲を超えた時間外労働をする義務がないことの確認
  2)管理監督者ではないとして時間外手当として517万2392円の支払い
  3)上記と同一額の付加金請求
  4)長時間労働を強いた事による慰謝料300万円の支払
  5)有料道路を通勤により使用した通行料金14万7200円の支払い
である。

(2)36協定で定めた範囲を超えて時間外労働をする義務がないことの確認

 これは却下された。
「原告が確認を求めている権利関係は、時間外割増賃金の支払い義務の存否を
決定する指標にとどまり、被告における原告のその余の待遇上の問題を広く解
決する様なものではないから、原告が時間外割増賃金の請求に加え、当該権利
関係の確認を求める正当な理由にはならないというべきである。」と、確認の
利益がないとして却下した。
 この件の解説は省略する。

(3)長時間労働を強いた事による慰謝料300万円の支払

支払う必要はないとされた。
理由として「時間外割増賃金を支払わないまま時間外労働をさせたということ
から、使用者が、労働者に対し、直ちに不法行為責任まで負うと認めるべきで
ない。」「本件で、被告が、原告に対し、労働基準法に違法した長時間労働を
強いたこと認めるに足る証拠ないし、他に被告に不法行為責任を生じさせるよ
うな具体的な事実の主張、立証もない。」とし、「長時間労働をしていた事に
よる原告の精神的苦痛は、上記時間外割増賃金等や付加金が支払われることで、
慰謝されるべき性質のものである。」とされた。

これは経営者側にとっては非常に当たり前の判断である。
付加金の位置づけは難しいが本件においては、この付加金の支払いも含めて慰
謝されたとあるから、使用者に対する懲罰的性質だけではなく、少なくとも本
件においては慰謝される性質のものとして、慰謝料請求を退ける判断がなされ
た。

(4)有料道路の通行料金

これは会社の所定の手続きをふんでおらず被告は支払う必要がないとされた。

理由は以下の通りである。
通勤にあたり有料道路を通行する場合通勤費支給申請書の「有料道路の通行料
金を申請します」という入力欄に「はい」と記入する必要がある。
原告はこの欄に「いいえ」と記入し、その後も領収書を添えて被告に提出した
形跡がなく、原告に支払う必要はないと判断した。

(5)まとめ

管理監督者性の認定と付加金については次で述べる。
それ以外の争点についての裁判所の判断は極めて妥当であり、決して使用者
厳しいものではない。
5つの請求のうち3つは原告の主張は認められず、付加金については一部しか
認められなかった。
判決全体を読んだ感想としては極めて妥当な判断であるということである。

<3> 管理監督者性の判断(総論)

(1)当時のマクドナルドの組織

まず組織としては以下のようになっている。

代表取締役営業推進本部長
営業部長
オペレーションマネージャー(OM)・・・6程度のOCエリアを統括
オペレーションコンサルタント(OC)・・・10店程度の店舗を統括
店長
ファーストマネージャー(社員)
セカンドマネージャー(社員)
マネージャートレーニー(社員)
スウィングマネージャー(アルバイト)
クルー(アルバイト)

となっており、スウィングマネージャー以上がシフトマネージャーの資格があ
り、営業中は必ずこのシフトマネージャーがいないといけないとされている。

(2)裁判所の判断(総論)

裁判所は管理監督者の判断基準として以下の通り示した。
管理監督者は、企業経営上の必要から、経営者と一体的な立場において、同
法所定の労働時間等の枠を超えて事業活動をすることを要請されてもやむを得
ないというような重要な職務と権限を付与され、また、賃金等の待遇やその勤
務様態において、他の一般労働者に比べて優遇措置がとられているので、労働
時間等に関する規定の適用を除外されても、上記の基本原則に反するような事
態が避けられ、当該労働者の保護に欠けるところがないという趣旨によるもの
であると解される。」と判断した。

要約すると、重要で大きな権限と職務が付与されたことにより経営者と一体的
な立場となり、労働時間法制の枠を超えて事業活動をしなければならない立場
である。そして賃金等の待遇においても他の労働者と比べて優遇されており、
労働時間法制を適用除外しても、当該労働者の保護に欠けるということはない
という場合に管理監督者であると判断した。

そして具体的には
1)職務内容、権限及び責任に照らし、労務管理を含め、企業全体の事業経営
  に関する事項についてどの様に関与しているか
2)その勤務様態が労働時間等に対する規制になじまないものであるか否か
3)給与(基本給役付手当等)及び一時金において、管理監督者にふさわし
  い待遇がされているか否か

などの諸点から判断すべきであるといえる。
と述べられている。

以下、判決を詳細に検討したい。

<4>裁判所の判断(各論)

(1)人事に関する事項

・クルーの採用権限はあるが、何人でも採用出来るものではなく、社員の採用
権限はない。
・スウィングマネージャー昇格の権限を有していた。
・クルー、スウィングマネージャーの人事考課を行い昇給を行う権限を有して
いた。
・社員の一次考課を行っていたが、その評価は覆されることもあり、一次評価
が尊重されるということではなかった。

上記の権限について、店長は被告の労務管理の一端を担っていることは否定出
来ないものの、「社員の採用権限がない」ことや「社員の人事考課の最終決定
権を有していない」ことから、労務管理に関し、経営者と一体的な立場にあっ
たとはいい難い。と判断された。

(2)各店舗の従業員就業時間等に関する事項

・店舗のシフトについては、クルー、スウィングマネージャー及び社員のシフ
トを作成する権限を有している。
36協定や他の協定の使用者側の締結当事者であったが、36協定は雛形が
本社から送付されてくるので形式的なものである。
就業規則についても同様である。

これについては一定の裁量権限を有しているとされた。

(3)各店舗の営業等に関する事項

・店舗の損益計画を立案する権限があったが、これはノルマではなく努力目標
であった。
・店舗における食材の仕入れ原価、食材を廃棄した分の費用、アルバイトの人
件費、水道光熱費について決裁権限を有していた。
・販売促進費について20万円未満の決裁権限を有していたが、その企画は本
部の決済が必要であった。
・店長は形式上営業時間を決定出来る権限を有していたが、平成17年1月か
らは出来なくなった。
・衛生管理、安全管理、金銭や在庫の管理、近隣商店街との折衝の権限を有し
ていた。

上記について裁判所は「店舗運営においては重要な職責を負っている」と認定
したものの、「店長の権限は店舗内の事項に限られている」とし、店長の会議
等の参加についても情報提供が主であり、経営に関する重要事項に関与してい
るとはいい難いとし、「経営上の必要から、経営者と一体的な立場において、
労働基準法の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないという
ような重要な職務と権限を付与されているとはいい難い。」と判断した。

(4)店長の勤務様態について

・自らのスケジュールを自らが決定する権限を有していた。
・シフトマネージャーが不足している場合には、自らがシフトマネージャーと
してシフトに入る必要があった。
・遅刻、早退について上司に報告する必要はなく、賃金カットもなかった。
・自らの出来金の時刻を記録する必要があった。

上記について裁判所は「形式的には労働時間に裁量があるといえる」が「実際
には店長として固有の業務を遂行するだけで相応の時間を要する上」、「被告
営業時間帯には必ずシフトマネージャーを置かなければならないという被告の
勤務体制上の必要性から、自らシフトマネージャーとして勤務すること」を余
儀なくされ、「かかる勤務実態からすると、労働時間に関する自由裁量性があ
ったとは認められない」とされた。

では店長がシフトに入らなければ自由裁量が認められていたのか。
これは明らかにされてはいない。

被告の主張では、原告がアルバイトとのコミュニケーション能力に欠け「シフ
トマネージャー」となる資格を有するスウィングマネージャーを育成出来なか
ったと主張したが、その能力不足の面については被告の主張を考慮したものの、
能力不足でシフトマネージャーが不足したとしても、不足した場合には店長が
シフトに入らなければならないという勤務体制に起因するものであり、専ら原
告個人の能力の不十分さに帰責するのは相当でないとした。

(5)店長の待遇について

店長より下の社員の平均年収は590万5057円(時間外手当を含む)。
店長は4つの評価区分により年収(賞与含む)が違っており以下の通りである。
S評価 779万2000円(全体の20%)
A評価 696万2000円(全体の30%)
B評価 635万2000円(全体の40%)
C評価 579万2000円(全体の10%)
となっている。

全体の10%を占めるC評価者の賃金は店長より下の社員より下回っている。
また全体の40%を占めるB評価と一般社員との賃金の差は44万6943円
にとどまっており、裁判所はこの差額は少ないと判断した。
また一般社員の月間残業時間は平均38.65時間であり、店長は39.28
時間である。
この勤務実態と併せて、店長の半分のものが管理監督者としてふさわしくない
待遇であると明確に判断したわけである。
では全員がA評価である696万2000円以上であれば、少なくとも待遇面
では管理監督者としてふさわしいのか明らかにはされていない。

またインセンティブが設けられているが、一定の目標を達成した店長にのみ支
給され、また一般社員にもインセンティブは存在していることから、インセン
ティブが管理監督者にふさわしい待遇か否かの判断には影響を与えないとした。

(6)まとめ

これらを総合して考えた結果、「被告における店長は、その職務の内容、権限
及び責任の観点からしても、その待遇の観点からしても、管理監督者と認める
ことは出来ない」と判断した。

<5>付加金

付加金については以下の通りである。

  1)原告の基準給には深夜割増賃金として支払われる部分が含まれている
    と認められること
  2)当裁判所が認定した時間外割増賃金等は、原告の基準給をそのまま算
    定の基礎とした為、その分高額となっていること。
  3)労働時間が長期化した点に関しては、原告が店長としてどれだけスウ
    ィングマネージャーを育成、確保できていたかという個別的事情も影
    響するのであり、(以下略)

以上の理由から10割を上限とする付加金を5割として判断した。

個別事情が認められた点は非常に大きいと考える。

<6> まとめ

この判決は、判決文を読む限り非常に妥当な判決であると考える。
管理監督者については役職手当を厚くして、それを時間外の代わりとすること
である程度リスクは回避出来る。
この点を十分に認識して実務上の対策をとれば、問題となることはないと考え
る。
判決の中でも、管理監督者性は否定したものの、慰謝料の請求については認め
ず、付加金についても5割とされた。
悪質であれば別であるが、良識を持って前述したメルマガ20号に書いた対策
を実行していれば大きなリスクとなるようなことはない。

本稿が実務のお役に立てれば幸いである。


<参考図書>
労働基準法解釈総覧
価格:¥ 4,430(定価:¥ 4,430)

労働基準法〈上〉 (労働法コンメンタール)
価格:¥ 6,700(定価:¥ 6,700)

労働基準法〈下〉 (労働法コンメンタール)
価格:¥ 6,700(定価:¥ 6,700)

労働時間休日・休暇の法律実務―新しい労使関係のための安西 愈
価格:¥ 4,200(定価:¥ 4,200)

法律学講座双書 労働法 第7版補正版菅野 和夫
価格:(定価:¥ 5,198)

労働判例No953 10頁 産労総合研究所


===================================
※ 掲載内容の無断転載は禁止させていただきます。ご一報下さい。
※ 本メルマガの内容につきましては万全を期しておりますが、万一損害が
  発生致しましても責任を負いかねます。
※ メルマガ相互紹介募集中です。

発行者 山本経営労務事務所 (URL http://www.yamamoto-roumu.co.jp/
編集責任者 特定社会保険労務士 山本 法史
ご意見ご感想はこちらまで(メルマガ相互紹介、転載等お問い合わせもこちらまで)
norifumi@yamamoto-roumu.co.jp

購読中止・変更 http://www.yamamoto-roumu.co.jp/
発行システム まぐまぐ http://www.mag2.com/   ID 0000121960
===================================
             ~我々は相談業である~
        ~我々の商品はお客様への安心感の提供である~
              山本経営労務事務所
 東京都八王子市天神町8番地  tel 042-624-0175(代)

特定社会保険労務士2名 社会保険労務士6名 有資格者2名
合計14名のスタッフで皆様をサポート致します!!
           人事のことなら何でもお任せ下さい!
===================================

絞り込み検索!

現在22,378コラム

カテゴリ

労務管理

税務経理

企業法務

その他

≪表示順≫

※ハイライトされているキーワードをクリックすると、絞込みが解除されます。
※リセットを押すと、すべての絞り込みが解除されます。

スポンサーリンク

経営ノウハウの泉より最新記事

スポンサーリンク

労働実務事例集

労働新聞社 監修提供

法解釈から実務処理までのQ&Aを分類収録

注目のコラム

注目の相談スレッド

スポンサーリンク

PAGE TOP