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大星ビル管理事件の裁判例に基づき仮眠時間の労働時間性について

平成20年6月15日 第57号
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人事のブレーン社会保険労務士レポート
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目次

1. 大星ビル管理事件の裁判例に基づき仮眠時間労働時間性について考察する

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ブログもよろしくお願い致します。
人事のブレーン社会保険労務士日記」です。
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1.大星ビル管理事件の裁判例に基づき仮眠時間労働時間性について考察する

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<1> はじめに

前回は管理監督者について日本マクドナルド事件をもとに考察したが、今回は
大星ビル管理事件をもとに仮眠時間労働者性について考察したい。

<2>休憩時間の検討

(1)労働時間とは

労働時間とは「労働者使用者の指揮命令下に置かれている時間」をいう。
この「指揮命令下に置かれている」とは、実際に労働しているかどうかにかか
わらず判断される。

問題となるのは労働を実際にしていない時間(以下「不活動時間」という)の
取扱である。

(2)待機時間

待機時間とは実際に業務に従事していないが、いつでも業務を開始出来る状態
でいることを義務づけられている、若しくは使用者に期待されている時間であ
る。

この待機時間については「業務がいつでも開始出来る」という労務の提供を行
っており、それにより使用者の事業の運営がなされていると考えられる時間で
ある。

使用者もこの待機時間の事業的価値の存在を前提に事業の展開を行っており、
これに対する報酬も取引先より受けることの出来る時間である。

この待機時間に対する報酬を取引先より受けるか否かは使用者の経営判断の問
題であり、労働者はこの待機時間について「いつでも作業が開始出来る」とい
う状態を提供しており、精神的な活動をしている時間である。

よって当然に労働時間とされ、賃金請求権も発生する。

(3)休憩時間

休憩時間は「使用者の指揮命令からの離脱」をしている時間である。

「ちょっと待ってて」と言われれば、その時間は「ちょっと」待たなければな
らず、この「ちょっと」の時間が明確ではない限り休憩時間ではない。
待機時間である。

また「ちょっと」の時間が明確であっても、取引先の応接室等で待たなければ
ならないような場合には、場所的な拘束性が強く、精神的には業務中の待機と
同様の活動をしており、これも待機時間と判断される。

しかし「5時に来て下さい」と言われた場合には、5時まではその取引先にい
る必要がなく、他に業務がなければ喫茶店に行こうが、金融機関で使用をしよ
うが自由であれば、これは休憩時間であると判断される。

また屋内の休憩についても同様である。
例えば金融機関の職員が外出許可制であり、通常の場合には会社内で休憩を取
らなければならないという場合は、外出が許されなくても休憩時間として取り
扱うことが出来る。

以上のように休憩時間の一般的な考え方について整理をしたが、最後に述べた
外出許可制の休憩時間が「使用者からの指揮命令からの離脱」と判断されるケ
ースの類似ケースとして警備職員等の仮眠時間についてはどの様に考えられる
であろうか。

<3>仮眠時間の検討

仮眠時間とは休憩時間なのか、労働時間なのか。
不活動時間であることは争いのない事実である。

この不活動時間について詳しく判断した裁判例が大星ビル管理事件(最高裁一
小 平14.2.28判決 労判822号5頁)である。

この裁判例では不活動である仮眠時間(以下「不活動仮眠時間」という)が労
働時間であり、労働者賃金請求権を有するとされた判決である。

争点はこの不活動仮眠時間が、使用者の指揮命令からの離脱かどうかである。

この裁判例の場合は以下の点から不活動仮眠時間労働時間とされた。

a 仮眠中は仮眠室にいることを義務づけられている
b 配属先ビルからの外出禁止
c 直ちに行動し、対処することが義務づけられている

という点に集約出来ると考えられる。

判決では「仮眠時間中、各ビルの仮眠室において、監視又は故障対応が義務づ
けられており、警報が鳴る等した場合は直ちに所定の作業を行うこととされて
いるが、その様な事態が生じない限り睡眠をとってよいことになっている」と
し「配属先ビルからの外出も原則として禁止され、仮眠室における在室や、電
話の接受、警報に対応した必要な措置をとることが義務づけられ」とし、「仮
眠時間中に警報が鳴った場合には直ちに監視室に移動し」必要な対応をするこ
とが義務付けられている。
そして「警報を聞き漏らすことは許されず、警報が鳴ったときには何らかの対
応をしなければならないものであるから、何事もなければ眠っていることが出
来る時間といっても、労働からの解放が保障された時間とは到底できず」とな
っている。

判決文を読むともっともな内容である。

<4>仮眠時間に対する実務対応

不活動仮眠時間休憩時間とする場合にはどの様にしたらよいのか。

(1)物品の搬入を主とする業務の場合

例えば葬祭場。
夜間の霊柩車の受け入れ等の業務。

人間はいつなくなるか分からないので、いつでも対応するということはやむを
得ない。
しかし一秒を争うほどの緊急性を必要とするかというとそうでもない。

病院の霊安室を通さずにベットから直接葬祭場の霊安室に移動するサービスを
売りにしている葬祭業者も見受けられるが、これについても夜間随時受け入れ
るのではなく、2時間毎に受け入れ時間を決めておくという対処が考えられる。
別に2時間である必要はなく、一定時間毎にである。

労働者は連続した睡眠は出来ないが、確実に労働からの解放ができる時間の確
保が出来、不活動睡眠時間でも休憩時間とされる可能性が出てくる。

例えば、0時、3時、6時と搬入時間を決める。
何もなければ寝ることは出来るが、この0時から30分前に搬入予定の確認を
する等の勤務体制の構築である。

問題はいつ来るかが分からない事であり、前述した「ちょっとまってて」の感
覚をやめて、「いつに来る」と約束をしておけば、不活動睡眠時間の全てが労
働時間であるということにはならないのである。

使用者が明確に決めることで対応が可能である。

(2)緊急の対応を主たる業務とする場合

警備業や医療業である。

少なくとも看護師や医師の仮眠時間については労働基準監督官の臨検において
交替制であり、交替で休憩をしているものが勤務をする必要性がなく、ナース
ステーションの一角ではなく、当直室等の空間が存在しない限り労働時間とし
て判断される。

急性期の患者を担当するような病棟は難しく、慢性期の患者を担当する病棟に
ついては役割分担を明確にすることで対応出来る。

また産婦人科については分娩時間帯が予め予測出来る事が多い為、複数の看護
師が待機する様なシステムは必要なく、また医師や助産師についても同様に待
機出来るシステムが出来れば不活動睡眠時間が休憩時間とされる可能性が出て
くる。

(3)賃金で対応する場合

当然判決のような業態では不活動睡眠時間を休憩とするのは困難である。
この点については定額残業を導入することも選択肢の一つである。

また、この不活動睡眠時間については通常の労働時間又は労働日の賃金を支払
うことが必ず必要ではなく、通常の労働を行わない不活動睡眠時間について最
賃金法が定める賃金額以上の賃金を支払うことでもよいと考えられている。

但しこの点については定額残業同様に、明確に不活動睡眠時間中の対価である
旨の記載をその額を定めておかなかればならない。

<5>まとめ

労働時間については、人間の活動が24時間化している事に伴い、深夜の労働
が増え、また仮眠時間を必要とする業務が増えている。
仮眠時間については色々な問題があるが、中小企業においてはこの判例の検討
がしっかりとなされていないケースが多い。

その様な事から今回のテーマとした。

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労働判例 822号  産労総合研究所

労働判例 828号  産労総合研究所

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