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パワハラ対策

相談されたら対処できる?適切な対応が義務化された「パワハラの懲戒処分」実務ステップ5つ

2021.09.21

上司が部下に“パワハラ”を行っていることが発覚した場合、対応に頭を悩ませることでしょう。なかには、社員間のトラブルに触れることに躊躇する経営者の方もいるかもしれません。

しかし、2020年6月に職場におけるパワハラ対策の方針を示した『パワハラ防止指針*』が施行され、会社は法律上、パワハラを防止するために雇用管理上必要な措置を講じることが義務づけられました。中小企業では努力義務とされていますが、2022年4月1日より義務となります。

そして、そこで定められた措置の一つとして、懲戒処分も含め、パワハラに対し“迅速かつ適切な対応”をとることが求められているのです。

今回は弁護士の筆者が、社員のパワハラの相談があった場合に、懲戒処分を行うか否かを検討する実務上のステップを解説します。

*正式名称:事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針

どういう行為が「パワハラ」にあたるか

“パワハラ”とはパワーハラスメントの略で、「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること」を指します(労働施策総合推進法30条の2)。

代表的な行為類型としては、①身体的な攻撃、②精神的な攻撃、③人間関係からの切り離し、④過大な要求、⑤過少な要求、⑥個の侵害が挙げられます。

こうした行為が、職場において、優越的な関係を背景として、業務上必要かつ相当な範囲を超えて行われた場合には、“パワハラ”に当たることになります(本稿ではパワハラ自体についてこれ以上立ち入りません。詳しく知りたい方は、『経営ノウハウの泉』のパワハラに関する過去記事や、厚生労働省発表のパンフレット『職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました』を参照してください。

パワハラに対する懲戒処分の実務ステップ

社内でパワハラが発覚した場合、以下のステップに沿って懲戒処分を検討していきます。

STEP1:事実関係の確認

懲戒処分の理由は基本的に処分を通知した後には追加できないとされており、また、事実関係が曖昧なまま懲戒処分を行うことは「初めから処分ありきで拙速に処分を行った」として裁判所からネガティブな評価を受けることになります。

したがって、まず“事実関係の確認”が重要となります。なお、事実関係の迅速な確認自体も、パワハラ防止のための措置の一つとされています。

パワハラについては、物的な証拠がないことが通常であり、事実確認の方法は、ヒアリングが中心となります。

ヒアリングの順序としては、まずは被害者とされる人、その次にパワハラの行為者とされる人に行います。そして、双方からのヒアリングを行ってもなお、事実関係が不明である場合には、第三者にヒアリングを行います。被害者とされる人は精神的苦痛を負っており、第三者に知られたくない場合もあります。むやみに第三者にヒアリングすることは控え、本当に必要なときにだけに行うようにしましょう。

STEP2:就業規則の根拠規定を確認

懲戒処分は、“制裁罰”であり刑事罰に近い効果を持つことから、就業規則上の根拠が必要であると解されています。そのため、事実関係の確認が完了したら、次は、当該行為について、就業規則にて懲戒処分を行うことのできる根拠規定が定められているか確認しましょう。

実務的には、「その他前各号に準じる事由」(就業規則で懲戒事由として挙げられている内容と同程度の事由)が懲戒事由となっていることが多く、まったく根拠がないということは多くないでしょう。

しかし、冒頭述べたとおり、会社にはパワハラを防止するための雇用管理上の措置の一環として、「行為者への厳正な対処方針、内容の規定化とその周知・啓発」が求められ、パワハラが懲戒の対象となる旨を明確化することが求められています。

したがって、パワハラに対する懲戒の定めがない場合には、パワハラが懲戒の対象となるよう就業規則を整備しておく必要があります。

なお、労働協約において、懲戒処分を行うにあたり労働組合との事前協議等の手続を必要としている場合には、これらの手続きを踏む必要があります。労働組合がある会社では確認しておくようにしましょう。

STEP3:弁明の機会の付与、賞罰委員会の実施

就業規則上、パワハラが懲戒処分の対象となることが確認できたら、次は、“弁明の機会の付与”、“賞罰委員会”を実施します。

“弁明の機会の付与”は、法的に必ず必要というわけではないですが、裁判例上は、こうした懲戒対象者の言い分を聞くというプロセスを踏んでいるか否かを重視する傾向にあります。そのため、実務上、特段の事情がない限りは弁明の機会の付与を行うことが適切です。

“賞罰委員会”も、会社規模によってはこうした組織がないこともあり、法的に必ず必要というわけではありません。ただし、就業規則や労働協約等で、懲戒処分のプロセスとして賞罰委員会を経ることが定められている場合があり、こうした場合には、賞罰委員会を実施する必要があります。

STEP4:懲戒処分の内容の決定

さて、上記のようなプロセスを経たうえで、実際にどのような懲戒処分を行うかを決定します。

どのような懲戒処分の種類を定めるかは、法律上に定めはなく、各会社の就業規則に拠りますが、一般的には、次のような懲戒処分の種類が定められています(処分が軽い順)。

(1)けん責・戒告
(2)減給
(3)出勤停止
(4)降格(降職)
(5)諭旨解雇
(6)懲戒解雇

そして、実際にどのような懲戒処分を行うかは、次のような事情を考慮して検討します。

(1)会社に与えた損害や影響
(2)行為の悪質性
(3)当該行為に対する対応方針の周知状況
(4)当該会社の過去の懲戒処分歴とバランス
(5)同一の行為について注意指導、懲戒処分の有無
(6)その他行為者の反省やヒアリングへの協力態度等一切の事情

さて、パワハラに対してどの程度の処分が妥当かという点ですが、会社はパワハラを防止しなければならないとしても、当然のように懲戒解雇が有効となるわけではありません。むしろ、一般的には懲戒解雇を行うことは難しく、降格処分以下が相当な場合が多いでしょう。

参考として、厚生労働省が示しているハラスメント防止規程の例では、次のように記載されています。

(懲戒)
第4条 次の各号に掲げる場合に応じ、当該各号に定める懲戒処分を行う。
①第3条第2項(①を除く。) 、第3条第3項①から⑤及⑧及び第4項の行為を行った場合
就業規則第▽条第1項①から④までに定めるけん責、減給、出勤停止又は降格
②前号の行為が再度に及んだ場合、その情状が悪質と認められる場合、第3条第2項①又は第3条第3項⑥、⑦ の行為を行った場合
就業規則第▽条⑤に定める懲戒解雇

ただし、上記の規定例にもあるように、パワハラに対して厳重に注意指導がされているにもかかわらず、これを繰り返し、その内容も悪質であるような場合には、懲戒解雇が有効となるケースがあります。実際に裁判にて懲戒解雇の有効性が認められた事例もあります(東京地裁平成28年11月16日労経速2299号12頁)。

STEP5:懲戒処分の通知

懲戒処分の通知は、証拠が残るよう、書面で行うのが通常です。その際、処分の理由となった事実を5W1Hで示し、就業規則の根拠を明示しておきましょう。

ハラスメントをなくし組織力・人材獲得力を向上させましょう

上記のとおり、一般的には、パワハラに対して懲戒解雇まで行うことは難しいといえるでしょう。しかし、懲戒解雇とまではいかずとも、冒頭述べたとおり、会社は、社員のパワハラに対して適切な対応をとる必要があります。

パワハラ含め、ハラスメントをなくし、よりよい組織を構築することが人材獲得、ひいては会社の成長につながると捉え、適切に対処していきましょう。

【こちらの記事も】パワハラの事例集はこちら!定義・具体例・対策も

【参考】
職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました︕』 / 厚生労働省

* mits / PIXTA(ピクスタ)