
言葉の壁をなくし、人や組織の可能性を広げる!ポケトーク株式会社代表取締役社長 兼 COO若山幹晴氏にインタビュー
時代の最先端をひた走る経営者に、いくつかの“問い”を投げかけ、成功の秘訣を紐解く本連載「成功を掴んだターニングポイント」。
今回は、ポケトーク株式会社代表取締役社長 兼 COO若山 幹晴氏にお話を伺いました。
ポケトーク株式会社は「イノベーションで言葉の壁をなくす」をミッションに掲げ、お互いが母国語のまま対話でき、深くわかり合える世界の実現を目指しています。異なる言語を話す人同士が、自国語のまま対話できるAI通訳機「ポケトーク」シリーズを世界各地で展開中です。
ポケトーク株式会社
代表取締役社長 兼 COO
若山 幹晴P&Gジャパン合同会社に入社後、ブランドマネージャーとして従事。その後は株式会社ファーストリテイリンググループの株式会社ジーユーにて、マーケティング及び広報・PR領域を幅広く担当し、最年少で部長に就任。その後、ポケトーク株式会社に取締役兼CMOとして参画、2024年代表取締役社長兼COOに就任。
独立の覚悟を示す決意を込めたオフィス移転

出典:経営ノウハウの泉
――オフィス移転のきっかけはなんですか
若山:2022年に親会社のソースネクスト株式会社から独立し分社化したものの、最初はソースネクストの社内に間借りをして活動していました。ソースネクストには、ポケトークの開発に携わった社員もいるため、甘えてしまう部分があったのが実情です。上場を目指して成長を加速させていくには、ソースネクストから完全に独立し、一つの会社としてやっていくのだと、名実ともにメッセージ性を示す必要があると判断し、移転を決意しました。

出典:経営ノウハウの泉
――オフィス移転において特にこだわった点はありますか
若山:弊社の平均年齢は約37歳で年齢層も幅広く、外国籍の社員も多いためさまざまな価値観の社員がいます。社員たちがオフィス移転に対して取り組む様子を見ながら、彼らの希望を意思決定の判断材料にしていきました。
実はこのオフィスは、アートや什器もすべてセットアップされているので、入居した日からすぐに使える点が気に入りました。まだ社員が少ない分、現在の弊社には一から設計するよりもこちらの方が適していると感じています。社内はフリーアドレスにし、みんなの顔をすぐに見渡すことができる適度な距離感の広さにこだわりました。また、弊社にはどんなことでも共有し祝福し合う文化があるので、立食で集まりやすいイベントスペースがあることも条件でした。

出典:経営ノウハウの泉
――移転後にはどのような変化がありましたか?
若山:社内のコミュニケーションが活発になるという変化は実際に起きており、社内イベントの頻度が増え、社員同士が話しているところを見かけることも格段に増えました。移転前は間借りしていたためオフィスが狭く、社員の出社頻度も上がりませんでした。勤務形態がハイブリッド勤務であるとはいえ、顔を突き合わせる時間も必要だと感じています。
今後はビール好きの社員からのリクエストで、ビールサーバーを置く予定です。ただビールが飲みたいからという理由ではなく、金曜日の夕方以降は仕事を落ち着けて軽く飲みながら「今後のアイデアを話し合う時間にしよう」と、自発的に社員から意見がでてきました。少しの工夫で、社員がオフィスに行きたいと思う理由が増えれば嬉しいです。
グローバル展開は必ず日本のためになる
――印象に残っているターニングポイントを教えてください
若山:2022年の独立をきかっけに、親会社とは異なる弊社独自の基準で採用を始めました。ここが一つ目のターニングポイントです。ミッション・ビジョン・カルチャーへの共感を大切にしながら進めています。
もう一つのターニングポイントは、昨年度から本格的にグローバルに展開していくという共通認識を全社員で共有し、北米やヨーロッパへ事業を展開したことです。それが功を奏し、今期はアメリカの売り上げが好調に推移し、ポケトーク社全体の売上割合の約6割近くをアメリカ事業が占めるようになりました。

出典:経営ノウハウの泉
――判断や施策でよかった決断を教えてください
若山:たとえばプロダクト開発においても、“どちらを優先するのか”という議論が常に起こります。今までは日本優先でしたが、よりグローバルに事業を拡大すべく、アメリカをはじめとするグローバルの優先度を上げるという方向に変わってきています。海外比率を上げるという決断は、決して日本の優先度を下げるということではないものの、社内へのメッセージの伝え方にはすごく慎重になりました。
日本の人口減少が続く中で、日本に住む外国籍の方の数はすでに300万人を超えたところまできています。アメリカでは現在多くの移民が暮らしていますが、将来的に日本もアメリカに近い形になっていくのではないかと思い、早いうちにグローバルでの成功事例をつくっていくことは、ゆくゆくは日本のためになると考えています。それを伝えるために、直接米国事業のGMに来てもらい、今アメリカで何が起こっているのかを話をしてもらいました。日本の社員もアメリカの社員と直接話すことによって、自分事化して考えることができます。
“違う”ことで起こる摩擦をいかに取り除いて可能性を広げるか

出典:経営ノウハウの泉
―――採用時に重視していることはありますか
若山:現在はプロフェッショナル採用のみを行っています。指示を待つよりかは、積極的に試行錯誤しながら前に進める方に来ていただきたいです。そのため、私はご自身の過去の成功体験に関して質問することが多いです。その際に、どのようなことを考えながら取り組んでいたのかを言語化できる方は、再現性が高いと考えています。社内には言葉の壁に苦しんだ経験があり、今度はなくす側になってみたいと熱い想いを持ってくれている社員が多いです。
――組織づくりにおいての取り組みはありますか
若山:特徴的なことでいえば、弊社では入社時に自分で決めたニックネームで呼び合っています。実際に海外の事業部とのやり取りを行う際に便利だと感じたためです。“言葉の壁を超える”というわけではありませんが、お互いに呼びやすく、コミュニケーションが取りやすくなりました。
他にも、毎週金曜日は全社員オフィスで感謝や報告、思いつき、助けてほしいことを言い合う時間を設けていたり、チャットツールで気軽にコミュニケーションを取ったり、お互いに「おめでとう」と言え合える文化をつくったりしています。実力主義を掲げると、上司・部下の年齢が逆転することも往々にしてあり、悪く言うとギスギスした状態が発生しやすいです。そのため、お互いがなんでも話せるような場づくりは、経営者の仕事の一つだと考えています。
言葉の壁をなくし、日本と海外市場の垣根を超えていく

出典:経営ノウハウの泉
――今後の展望を教えてください
若山:現在、アメリカの教育機関でも「ポケトーク」が使われています。英語での授業についていけず悩んでいた移民の子どもが、「ポケトーク」を使って頑張っているという事例がアメリカのニュースで取り上げられ、社内で喜びを共有しました。売り上げの海外比率も6割を超えましたが、市場の大きさを考えても、さらに海外比率が上がっていくと予想しています。組織としても、それが当たり前のようになっていかなくてはいけないと考えています。
何をもってグローバル企業というのかは難しいと思いますが、市場の垣根を越えて成功事例を広げていける組織にしていきたいです。
***
『イノベーションで言葉の壁をなくす』の“イノベーション”は、社員一人ひとりが起こせるもの。好きに思いついたアイデアを、どんどん前向きに、積極的に発信できる雰囲気づくりに注力しているという若山氏。社員がリラックスできるオフィス空間は、社員同士の距離も近づけます。