
環境・人権・倫理等に配慮した調達を実現するCSR調達は、今やグローバル企業だけでなく中堅・中小企業にも求められる経営課題です。
本記事では、「そもそもCSR調達って何?」「うちの会社で何から始めればいいの?」といった調達・購買担当者に向けて、CSR調達の基本的な意味から、グリーン調達との違い、導入のメリットとデメリット、実施ステップやガイドラインの具体的な項目まで、実務に役立つ情報を解説します。
目次
CSR調達とは?

CSR(Corporate Social Responsibility)調達とは、企業が調達活動において品質や価格だけでなく、環境保護、人権尊重、公正取引といった社会的責任を考慮して行う調達方針・プロセスのことを指します。まずは、CSR調達の意味について詳しく解説します。
- CSR調達の定義
- SDGsとの関係性
- グリーン調達との違い
CSR調達の定義
CSR調達の判断基準は、下記のような複数項目に分類されます。
評価項目 | 内容 |
---|---|
人権・労働・安全衛生 | 強制労働・差別の排除、賃金・労働環境の適正管理 |
環境への配慮 | GHG削減、省エネ、リサイクル、生物多様性保全 |
法令遵守・社会規範 | 贈収賄禁止、公正取引、国際規範への適合 |
製品の安全性・品質 | 品質管理、設計時点からのリスク回避 |
SDGsとの関係性
CSR調達は、国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献する実践的手段です。環境配慮による目標13「気候変動に具体的な対策を」や、労働環境の改善による目標8「働きがいも経済成長も」などに直結しています。
グリーン調達との違い
グリーン調達は環境負荷の低い製品やサービスを優先的に選定することを重視する一方で、CSR調達はその環境的視点に加えて、人権・労働・倫理・社会貢献など、より広範な社会的責任をカバーする包括的な調達概念です。
グリーン調達については下記の記事で詳しく解説しています。
https://www.benrinet.com/column/12.html
CSR調達のメリット

CSR調達によって企業が得られるメリットは以下のとおりです。
- 購買管理における抑制
- ブランド価値・信頼性の向上
- ESG投資・取引先選定への影響
ここからは、CSR調達のメリットについて詳しく解説します。購買管理の基礎知識についてゼロから学びたい方は、下記のお役立ち資料も合わせてチェックしてみてください。
https://www.benrinet.com/contents/whitepaper/howtosuccess.html
購買管理におけるリスクの抑制
CSR調達を行うことで、児童労働や強制労働、公害・環境破壊といった社会的問題に巻き込まれるリスクを軽減できます。サプライチェーンの健全性を確保し、将来的な訴訟リスクやブランド毀損を回避することが可能です。
ブランド価値・信頼性の向上
社会的責任を果たす企業としての姿勢を示すことで、消費者・投資家・取引先からの信頼を獲得しやすくなります。特にBtoB取引においては、サステナビリティ重視の顧客から選ばれる要因となるため、大手企業から中小企業まで避けては通れない道です。
ESG投資・取引先選定への影響
ESG(環境・社会・ガバナンス)投資が拡大するなかで、CSR調達への取り組みは企業評価に直結しています。ESGスコアの改善や、取引先選定基準への適合といった側面でも大きなメリットがあるでしょう。
CSR調達のデメリット

CSR調達には、取引や法規制に関するリスクを低減するメリットがある一方で、デメリットも存在します。
- 導入・運用コストの増加
- 判断基準の曖昧さ
- 効果測定の難しさ
導入・運用コストの増加
ガイドライン策定やサプライヤーへの周知、監査対応など、通常の調達に比べて業務量が増え、導入初期のコスト負担が大きくなる可能性があります。取引先のCSR意識にばらつきがあるため、基準を共有・徹底するには時間と労力がかかります。
特に中小サプライヤーには負担となりやすく、関係構築に課題を感じることもあるでしょう。
判断基準の曖昧さ
CSRに関する判断基準は主観的・抽象的な部分が多く、社内外での統一的運用が難しい場面があります。仮にガイドラインを制定したとしても、解釈の違いによる摩擦が起こる可能性を考慮する必要があるでしょう。
形式的な評価項目だけを満たし、実態が伴わない取組みに陥る恐れもあり、継続的な見直しと改善が欠かせません。
効果測定の難しさ
CSR調達がどの程度企業の価値向上に貢献したかを定量的に評価するのは難しく、成果が見えづらいという課題も。
例えば、「信頼性が向上した」「ESGスコアが改善した」といった結果は、直接的な売上や利益と結びつけにくく、経営層や社外ステークホルダーへの説得材料として十分ではないケースもあります。
CSR調達の実施ステップ

ここからは、CSR調達を行うにあたって、どのようなステップが必要なのかを具体的に解説します。
- CSR調達方針・基準の策定
- 目標と計画の設定
- 取引先との対話・協働
- 実施・モニタリング体制の構築
- 結果の開示と改善プロセス
1.CSR調達方針・基準の策定
企業理念やビジョンに沿って、CSR調達に関する方針を策定します。環境保護や人権尊重、公正取引といった重点テーマを洗い出し、自社の調達活動にどのように反映させるかを明文化します。あわせて、対象とする取引先や品目範囲、遵守すべき国際基準なども定義しましょう。
この方針は社内の関係部門だけでなく、社外の取引先に対しても積極的に開示・共有する必要があります。
2.目標と計画の設定
策定した方針に基づき、定量的・定性的な目標を設定します。KPIには、例えばCSRアンケート回答率や是正措置の実施率などが挙げられます。
さらに、目標達成までのスケジュールや責任者、関係部門、必要リソースを盛り込んだ具体的な計画を策定し、社内で合意形成を図ることもポイントです。実施スパンは年間単位で区切るなど、進捗管理のしやすさへの考慮も求められます。
3.取引先との対話・協働
策定した方針と計画に基づき、取引先とともにCSR調達を推進します。説明会を開催して自社のCSR調達方針を伝え、基準に対する理解を促進したり、自己評価シート(SAQ)の提出依頼や、必要に応じたヒアリング・現地訪問を通じて、サプライヤーの対応状況を確認し、改善が必要な場合は具体的な支援を提供したりしましょう。
新規取引の際にはCSR基準への適合を審査要件とすることで、全体の底上げにつながります。
4.実施・モニタリング体制の構築
CSR調達を継続的に機能させるには、社内体制の整備が欠かせません。調達部門、サステナビリティ部門、品質管理部門などの連携体制を築き、定期的にモニタリングを行います。評価はSAQ結果の分析、現地監査、第三者評価機関の活用などを組み合わせることで信頼性を高めることが可能です。
不適合が発見された場合の是正措置や取引見直しの判断基準も、事前に明確化しておく必要があります。
5.結果の開示と改善プロセス
取り組み状況や進捗結果は、CSRレポートや統合報告書、Webサイトなどを通じて開示することが望ましいです。情報は定量・定性の両面から整理し、ステークホルダーとの対話の材料として活用します。
寄せられた意見をもとに、ガイドラインの内容や運用方法の見直しを行い、PDCAサイクルを確実に回す体制を整えることで、CSR調達の実効性が高まります。
CSR調達を成功に導く鍵は「購買管理システム」の活用

CSR調達の推進において、現場では「やるべきことの多さ」に悩む企業が少なくありません。取引先との連携やモニタリングといった本質的な業務に集中するためには、発注や検収、支払いといった定型業務をいかに効率化できるかがポイントです。
ここで役立つのが、業務全体を統合的に管理できる購買管理システムです。調達プロセスを一元化し、データの可視化と標準化を進めることで、CSR調達の精度とスピードを両立させることができます。購買管理システムについては、下記の記事で詳しく解説しています。
https://www.benrinet.com/contents/whitepaper/howtosuccess.html
企業の購買活動においては、誰しもが悩むあるあるが存在します。下記の記事では、実践的な解決方法も踏まえて解決策を解説しているので、あわせてチェックしてみてください。
https://www.benrinet.com/contents/whitepaper/aruaru.html
また、購買管理システムの導入によって購買業務の効率化や、購買状況の可視化を行った企業の導入事例を知りたい方は下記の記事も要チェックです。
https://www.benrinet.com/case/calbee.html
https://www.benrinet.com/case/yanmarhd.html
CSR調達を持続可能な企業戦略の中核に
CSR調達は、単なる社会貢献ではなく、企業のリスク回避・信頼獲得・中長期的成長を支える重要な経営戦略です。方針の策定から実施、改善までを計画的に進めることで、持続可能性と経済合理性の両立が可能になります。今こそ、自社の調達活動をCSR視点で見直し、社会と共に成長する未来を描くときです。