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契約書作成

契約書なくして収益なし!弁護士が教える契約書作成の基本事項と5つポイント【契約書の書き方・基礎編】

2021.09.16

皆さんの会社では、取引相手と取引を開始するにあたって“契約書”を作っているでしょうか? 中には、「当社は信頼関係で取引しているから、契約書は作らなくても大丈夫だ」という考えで、契約書なしに口頭のみで取引を行っている会社もあるかもしれません。

取引がスムーズな段階では、契約書が存在感を発揮することはあまりないかもしれません。しかし、いざトラブルが起きたときに、契約書がなかったために解決に時間を要したり、会社の損害が拡大したというケースは実のところ少なくないのです。

そこで本記事では、契約書を作るべき理由とともに、契約書を作る際の押さえるべき5つのポイントを解説します。

契約書がないとどうなる?契約書を作るべき4つの理由

日本の民法は、諾成*主義を採用しているため、“申込み”に対する“承諾”さえあれば、保証契約等の一部の例外を除き、“契約書”を作ることは、契約の成立要件ではありません。

それにもかかわらず契約書を作るべきであるのは、契約書には次のような機能があるからです。

(1)当事者の意思内容を明確にする。
(2)書面化することで慎重に合意が形成され、契約違反を抑止できる。
(3)有利な特約や取引トラブル発生時の解決指針を定める。
(4)裁判において重要な証拠となる。

最後の(4)の点は、契約書の最も基本的かつ重要な機能です。

「信頼関係で取引しているから大丈夫」という考え方は、取引トラブルが発生する前の段階では、当てはまるかもしれません。しかし、いざ取引トラブルが発生し、紛争となると、両者が自社の利益を守る主張をするようになり、最終的に予測困難な裁判所の判断を待つほかなくなります。

そして、取引トラブルに関する紛争で、裁判官が結論を出すにあたって最も重視する証拠が“契約書”です。契約書があることで、契約内容の立証は格段に容易になり、敗訴リスクを大きく軽減することができます。こうした契約書がない場合には、契約の成立や内容を立証することが難しく敗訴リスクを高めることとなります。特に重要な取引であるほど敗訴リスクは高まります。

そこで、今回は、「これまで契約書を作ったことがない」という方が、契約書を作る際の助けとなるよう、基礎的な部分を解説します。

* 当事者の合意のみで成立する契約のこと

契約書に記載する基本的な内容

契約書の一般的な構成は、大きく以下のような構成をとることが通常です。

(1)表題
(2)印紙(不要な場合もあります)
(3)前文
(4)本文
(5)後文(契約書作成通数、保管方法等)
(6)契約書作成日
(7)署名押印

上記(4)の本文にどのような条項を入れるべきかは、取引内容によって変わってきますが、基本的には 以下のような条項が入ります。

(1)契約目的
(2)権利義務の内容(目的物・サービス、代金)
(3)納期、条件
(4)存続期間(更新の有無)
(5)契約の解除
(6)費用負担
(7)損害賠償、違約金
(8)合意管轄*(渉外取引の場合には準拠法も)

その他、取引によっては、守秘義務条項や、競業避止義務条項等が入ることもあります。

*当事者の合意によって管轄裁判所を決めること

契約書を作る際の5つのポイントと条項例

契約書に記載すべき項目は上記のとおりですが、実際に契約書を作成する際のポイントとして、以下の5つが挙げられます。

POINT1:曖昧な表現は避ける

よく契約書には、例えば「直ちに」、「速やかに」等の文言が用いられています。しかしながら、こうした曖昧な文言は、人によって感覚が異なるものであり、対立が生じやすいといえます。したがって、特に、重要な事項については、こうした曖昧な文言の使用は避けましょう。

契約書を作る際には、「いつ、誰が、誰に、何を、どうやって、いくらで、何するのか」ということをできるだけ明確にする意識を持つとよいでしょう。

ただ、交渉状況により”あえて”曖昧な表現をすることもあります。その場合には、そうした文言が争いになるリスクを認識しておきましょう。

POINT2:法的保護に値する最低限の要素を定める

ある合意が、民法に定める“契約”として保護されるためには、民法に定められた最低限の要素(本質的要素)について合意されている必要があります。

難しく感じるかもしれませんが、平易に言えば、基本的には、“獲得しようとしている目的物・サービス”と“その対価”について記載しておくということです。具体的には、民法の各契約類型の冒頭の条文に書かれている内容がこれに当たります。

例えば、売買契約であれば、民法555条に従い、「財産を売り、これをいくらで買う」という合意が必要になります。これは当然のように思われるかもしれませんが、基本的な事項として押さえておきましょう。

(文例)売買契約の例
第●条(目的)
甲は、乙に対し、●●を▲▲円で売り渡し、乙はこれを買い受ける。

POINT3:権利義務の内容・移転時期を明確にする

企業間の取引では、一方は目的とする物・サービスの提供を受け、他方はその対価を得ることが中心的な目的となります。したがって、これらの獲得目標を明確にし、いつその権利が移転するのか明確にしておくことが重要となります。特に、業務委託のようにサービスの提供を目的とする場合には、「何をやってもらうか」を明確にしておきましょう。

文例)売買契約の例
第●条(所有権の移転)
目的物に係る所有権は、乙の代金支払時に、乙から甲に移転する。

第●条(代金の支払)
乙は、甲に対し、●月末日限り、第●条に定める代金を支払う。

POINT4:トラブルになった場合のことを決めておく

これから取引を開始する段階で、違反した場合のことについて合意することには躊躇される方も多く見られます。

しかし、冒頭述べたように、契約書がその機能を発揮するのは、取引トラブルが発生した時です。

したがって、契約違反が生じた場合に、違約金が発生するか、損害賠償の範囲をどうするか、契約自体は存続させるか、期限の利益を喪失させるか*、裁判手続等はどの裁判所で行うか等について定めておくことが重要となります。

(文例)違約金の例
第●条(違約金)
甲が第●条に定める義務に違反して乙に損害を与えた場合、違約金として金●円を支払う。

(文例)損害賠償の範囲の例
第●条(損害賠償)
甲又は乙は、本契約に違反し、相手方に損害を与えた場合には、相手方に対しその損害(弁護士費用を含む)を賠償しなければならない。

(文例)期限の利益の喪失の例
第●条(期限の利益の喪失)
当事者の一方が本契約に定める条項に違反した場合、相手方の書面による通知により、相手方に対する一切の債務について期限の利益を
喪失し、直ちに相手方に弁済しなければならない。

(文例)合意管轄の例
第●条(合意管轄)
本契約に関連する訴訟については、東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

「裁判所の所在まで決めなくてはいけないのか……」と思うかもしれませんが、そもそも裁判において管轄をどこにするかという争点に時間を要し、トラブルが長期化することもあります。また、訴訟になった際には、期日のたびに裁判所まで足を運ばなりません。自社は大阪にあるのに、東京の裁判所に毎回出向かなければならないといったケースだと、かなりのコストがかかります。

このようなリスクも想定して、契約書を作成することが望ましいのです。

* 期限の利益の喪失…将来支払えばよかったものを、今すぐに支払わなければいけなくなること

POINT5:契約解除は慎重に検討を

契約が一度成立すると、一方の契約違反や双方の合意がない限り、原則として契約を解除することができません(契約の拘束力)。

しかし、取引を継続しているなかで、債務不履行とまではいかずとも、相手方との信頼関係が薄れてきたり、相手に信用不安が生じたり、また他により好条件で取引ができそうな相手が現れたりする場合があります。

こうした場合に備えて契約を解除し得る条項を定めておいたり、一定の予告期間を定めて契約を一方的に解除できる旨の条項を定めておくことで、契約の拘束力を弱め、契約を有効に解消することができます。

ただし、契約の拘束力を弱めることは、自社に不利に働く場合もあるため、どのように定めるかは慎重に検討しましょう。

(文例)任意解除の例
第●条(任意解除)
甲及び乙は、前条に定めた契約有効期間中といえども、書面による6か月前の予告通知をもって、本契約を解除することができる。

(文例)解除事由の例
第●条(解除)
1 甲は及び乙は、相手方が次の各号のいずれか一つに該当したときは、何らの通知、催告を要せず、直ちに本契約を解除することができる。
(1) 本契約に定める条項に違反し、相手方に対し催告したにもかかわらず14日以内に当該違反が是正されないとき
(2) 監督官庁より営業の許可取消し、停止等の処分を受けたとき
(3) 支払停止若しくは支払不能の状態に陥ったとき、又は手形若しくは小切手が不渡りとなったとき
(4) 第三者より差押え、仮差押え、仮処分若しくは競売の申立て、又は公租公課の滞納処分を受けたとき
(5) 破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始、特別清算開始の申立てを受け、又は自ら申立てを行ったとき
(6) 解散、会社分割、事業讓渡又は合併の決議をしたとき
(7) 資産又は信用状態に重大な変化が生じ、本契約に基づく債務の履行が困難になるおそれがあると認められるとき
(8) その他、前各号に準じる事由が生じたとき

2 前項の場合、本契約を解除された当事者は、解除によって解除をした当事者が被った損害の一切を賠償するものとする。

権利が実現してはじめて利益となる!

これまで述べてきたとおり、契約書は、契約で定められた内容を確実に実現する手段の一つとも言えます。

また、取引の過程においては、相手方の契約違反や信用不安等、さまざまな事態が起こります。もちろん、契約は“交渉”であるので、全てが望み通りとなるわけではないですが、想定し得る事態に予め備えた条項を定めておくことで、経営の安定性も高めることになります。

会社が利益を確実に獲得し、安定的な経営のためにも、契約書はしっかりと作っておきましょう。複雑な取引や重要な取引の契約書作成は、弁護士に相談することも重要です。

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* takeuchi masato / PIXTA(ピクスタ)