『就業規則』の急所? 社労士が指摘する「よくある」3つの問題とは?
就業規則は「職場のルールブック」という側面だけでなく、「会社と労働者の契約の一部」という側面があります。就業規則に問題があると、あとで大きなトラブルになる可能性があります。社会保険労務士が実務でよく発見する就業規則の問題のうち、重要な3点をお伝えします。
1.就業規則の適用範囲が間違っている
就業規則は、就業規則(本則)、賃金規程、退職金規程などさまざまな規程から構成されることが一般的です。それぞれの規程がそれぞれの労働者に正しく適用させる必要があります。就業規則の適用範囲に誤りがあると大惨事になります。
例えば、退職金規程の適用範囲を誤ってしまうと、本来退職金を支給するつもりではない労働者が退職する際に「私は退職金規程の適用を受けるから、規程どおりに受け取れるはず」と言われ、会社は退職金を支給する必要があります。適用範囲が誤っている退職金規程の具体例は次のような記載です。
適用範囲が誤っている退職金規程の例
第○条(適用範囲)
この退職金規程はこの事業場の全労働者に適用する。
退職金規程の適用範囲をこのような記載にすると、会社に在籍する全ての労働者に退職金規程が適用されます。よって、事業場に所属する労働者であれば、どの方が退職しても退職金を支給する必要があります。しかし、契約社員、パートタイマーなどの雇用形態の労働者に正社員と同様の退職金を支給するケースは珍しいと思います。
退職金の金額は会社それぞれですが、40年勤務し定年退職した場合、1,000万円の退職金が支給されることは珍しくありません。
仮に「40年勤務し定年退職したら、退職金1,000万円」という退職金規程において、前述のような適用範囲に誤りがあるとしましょう。その場合、40年勤務し定年退職したパートタイマーから「私も退職金を受け取る権利があるはずだ。退職金1,000万円を請求します」と言われた場合、会社は支給する必要があります。
このような事態になると、賃金の原資が本来の予定とは異なる形で支給されることになり、平等性が担保できなくなり、他の労働者から不満がでる可能性があります。
労働条件の最も重要な要素である諸手当や賞与を始め、福利厚生などが本来の意図と同様の適用範囲になっているのか確認をしましょう。
2.固定残業手当を支給しているのに就業規則に固定残業手当に関する記載がない
固定残業手当とは、労働基準法で定められた時間外手当を実際に働いた時間外労働の時間数とは関係なく、一定額までは固定的に支払う制度です。固定残業手当が有効とされる条件は、過去の裁判例から次の条件を満たしている必要があると言われています。
固定残業手当が適正と認められる条件
1.就業規則と雇用契約書の両方に固定残業手当に関する記載があること
2.固定残業手当とそれ以外の給与が明確に区分されていること
3.固定残業手当に対応する時間外労働の時間数が労働者に明示されていること
4.その時間数を超過した場合、差額精算がおこなわれていること
5.最低賃金を下回っていないこと
1~5のいずれかが抜けているというケースを珍しくありません。1~5のいずれかが抜けているからただちに固定残業手当が無効とはなりませんが、トラブルを防止する観点から1~5のすべての項目に対して抜け落ちがないか確認をしたほうがよいです。
裁判などで固定残業手当が無効と判断されると、固定残業手当も時間外手当の計算基礎に含めて再計算する必要があり、多額の賃金を追加払いする必要があります。
給与総額30万円の労働者の固定残業手当が否定された場合の追加払い分の計算例
<前提条件>
・給与総額30万円
・時間外労働 月間30時間
・月間の平均所定労働時間168時間
<支給が必要な時間外手当の計算>
30万円÷168時間×1.25×30時間=66,965円
66,965円を追加支給する必要があります。
3.契約社員の就業規則に定年が定められている
契約社員など有期雇用契約の労働者に適用される就業規則に定年条文があるケースはよくみかけます。このこと自体は法律違反ではありません。しかし、定年条文があることは有期雇用契約の本来の意味が理解されていない証拠です。その目的が忘れられているとなると、実態の運用も本来とは異なる形で運用されていると推測できます。
本来、有期雇用契約はその契約期間で終了となります。「短期間雇用」が有期雇用契約の本来の前提です。しかし、ある一定数の企業がその本来の前提を知らずに、長期間、有期雇用契約を繰り返し更新しているようです。繰り返し更新することに違法性はありませんが、トラブルの原因になります。
このような状況について有期雇用契約の労働者の視点にたって考えてみます。ある契約社員Aさんは、自分に適用されている就業規則に定年の条文があることを見つけます。会社としても定年まで基本的に更新するような雰囲気があります。契約社員Aさんは、特別なことがなければ、契約社員でも定年まで雇ってもらえそうと期待するでしょう。
このような中で契約社員Aさんは更新を繰り返し、仕事を覚え、正社員と比較しても遜色のない仕事をするようになります。パフォーマンスが低い正社員と比較すると、Aさんの方がよい仕事をしていることもあります。
そのような状況が長年続いていると、契約社員Aさんは「なぜ正社員は給与水準も高く、賞与や退職金があるのに、契約社員の自分にはないのか?ただの差別ではないか?」と不満を抱くでしょう。
このようなケースの場合、契約社員Aさんは条件の良い転職先をみつけてしまえば、転職してしまうでしょう。そのような事態を防ぐには、優秀な人は正社員登用される制度を作るという方法が考えられます。優秀な契約社員が正社員にステップアップできる仕組みをつくり、優秀な人材が社外に流出しないようにしましょう。
社労士が実務で発見する就業規則のよくある3つの問題点をお伝えしました。ぜひ参考にしてみてください。
*CORA / PIXTA(ピクスタ)