「負担が多すぎる…」電帳法改正とインボイス制度で経理の負担はどう変化した?経理のDXを進める方法
インボイス制度と電帳法への対応はできていますか? インボイス制度が始まって約4ヶ月経ちましたが、中小企業の現場はまだまだ混乱しています。
少ない人数で対応しなければならない中小企業では、すべての領収書や請求書がインボイスに対応しているかをチェックしたり、またはオンライン決済した後、所定のサイトからインボイスをダウンロードして保存したりする余裕がないというのが実態ではないでしょうか。
一方で、令和6年1月からは、電子取引データの電子保存が義務化されました。2023年10月以降、インボイスをWEBサイトからダウンロードしなければ取得できないケースも増えたため、インボイス制度と電子帳簿保存法(以下、電帳法)を混同してしまうケースも散見しています。
その結果、インボイス制度と電帳法の両方の対応が進んでいない中小企業は多いのではないでしょうか。経理スタッフの工数が増えるだけで、積極的に導入するメリットが感じられないのも、理由の一つです。
本来、電帳法は経理のDX化を推進し、事務処理の効率化を図ることが目的です。しかし、これまでと同じようなアナログなやり方を続けていると、経理スタッフの負担は増す一方です。
本記事では、業務のスリム化を行い、効率化して経理の業務を楽にするにはどうすればよいかを解説していきます。自社の経理業務で今何が起きているのか、経営者として最低限把握しておくべき両制度の特徴と状況を確認していきましょう。
【参考】電子帳簿保存法が改正されました/国税庁
目次
インボイス制度と電子帳簿保存法のおさらい
本題に入る前に、インボイス制度と電帳法について、簡単におさらいしておきましょう。
1.インボイス制度の基本と問題点
消費税では、売上と一緒に受け取った消費税から、仕入等と一緒に支払った消費税をマイナスして、納付すべき税額を計算します。支払った消費税をマイナスすることを、「仕入税額控除」といい、「消費税を払ったことを証明するための書類」がインボイスです。インボイスを取得し保存しておかなければ、その分だけ納付する税額が増えるので、手元に残る現預金が減少します。
ここで問題となるのが、免税事業者との取引です。免税事業者はインボイスを発行することができません。以前と同じように免税事業者に消費税相当額を支払っても、仕入税額控除ができないので、消費税の二重払いのような現象が起きてしまうという訳です。
それならすべての免税事業者がインボイス登録をすればいいのではないか、という流れにならないのは、免税事業者の多くが個人事業主だからです。平成元年に消費税が導入されて以来、ずっと享受していた消費税の納税義務免除のメリットが受けられなくなるのは、立場の弱い個人事業主にとっては死活問題です。そこで令和8年9月までは支払った消費税のうち80%、令和11年9月までは50%を仕入税額控除できる、という激変緩和措置が設けられました。
しかし、この激変緩和措置が、経理スタッフの工数を増やし、インボイス対応を難しくしている最大の要因といっても過言ではありません。
【参考】資料4 令和5年度税制改正等による激変緩和・負担軽減策の概要/財務省
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2. 電子帳簿保存法の基本と問題点
電子帳簿保存法とは、保存すべきデータを、①自己が作成する電子帳簿の保存、②スキャナ保存、③電子取引データの保存の3パターンに分類し、それぞれについて電子で保存するためのルールを定めた法律です。
会社や個人事業主には、取引を記録した帳簿や、取引に関連して作成した書類、取引先から受け取った書類などを保存しておく義務があります。これらすべての書類は紙保存が原則でしたが、令和6年1月1日以降、③の電子取引データについて、電子のまま保存しましょうという改正が行われました。
【参考】電子帳簿保存法の内容が改正されました/国税庁
注意してほしいのは、義務化されたのは、あくまで電子取引データの部分にすぎないという点です。紙資料はこれまでどおり紙で保存するのが原則ですが、会社の任意で電子保存することもできます。①と②は、紙データをあえて電子保存しようとする際に適用される保存のルールです。
電帳法が分かりにくいのは、このように会社が任意で選択できる部分と義務化された部分に分かれているからです。保存する書類によって、保存のための要件が異なっているうえ、これまで何度も細かな改正を繰り返してきたため、結局何をすればいいのか、よく分からなくなっているのが実情です。
そのうえ直近の改正で、「相当の理由がある場合」には、事実上紙での保存を認める猶予措置が設けられました。その結果、「義務化はされたけれど、すぐには対応しなくても大丈夫」という認識が中小企業の間で生まれています。生産性がなく手間のかかるだけの電帳法は、後回しという会社も多いのではないでしょうか。
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経理にどのような負担が増えたのか
インボイス制度が始まって以降、経理スタッフにはこれまで必要なかった「インボイス」確認の手間が、ひと手間もふた手間も重くのしかかっています。
会計ソフトに仕訳を入力する場面を想定してみましょう。以前なら①課税取引か、②非課税取引か、または③対象外かを選んで消費税コードを入力していれば十分でした。しかしインボイス制度がスタートしてからは、①の部分を④仕入税額控除できるもの、⑤控除できないもの、⑥80%控除の経過措置が使えるもの、に細分化して入力する必要がでてきました。
営業や現場の社員が経理にあげてくる請求書や領収書のフォーマットは千差万別です。インボイスの6要件*を満たしているか、満たしていない場合はなぜ満たしていないのかを、確認しなければなりません。取引の相手先が免税事業者なのか、課税事業者だがインボイス番号を取得していないのか、適格請求書発行事業者の登録はしているが、インボイスの作成が不備なのかによって、仕訳をする際の消費税コードが変わってくるからです。さらに3万円未満の公共交通機関や自販機での購入などインボイスが不要な取引もあり、経理スタッフの頭の中はパニックで火を噴きそうな状況でしょう。
<インボイスの6要件*>
1. 発行者の氏名・名称および登録番号
2. 取引年月日
3. 取引内容
4. 税率ごとの対価の額と適用税率
5. 消費税額等
6. 受領者の氏名・名称
【参考】適格請求書の交付義務が免除される取引/国税庁
請求書や領収書など、1種類の書類でインボイスの6要件を満たす必要がないのも、経理の事務が煩雑になった理由の一つです。領収書にはインボイス番号が記載されていなくても、納品書や請求明細書には記載されていれば問題ありません。そのため、領収書や請求書だけを見ながら仕訳をすれば事足りていたのに、営業担当者や仕入担当者に「他の書類を受け取っていないか」をその都度、確認をする必要が出てきたのです。
経理スタッフに増えた手間はこれだけではありません。これまではカード明細や預金通帳を観ながら、またはダウンロードしたデータを会計ソフトに入力すればよかったのですが、インボイス制度の下ではそうはいきません。
たとえば、カード明細書はインボイスの6要件を満たしていないので、明細書だけでは、仕入税額控除が可能かどうかは不明です。カード明細と領収書や請求書を付け合わせながら、入力する必要があります。
さらに厄介なのは、ネットショップで品物を購入した場合です。たとえば、某ECサイトでは、購入履歴から「支払明細書」をダウンロードし、適格請求書かどうかを確認するというひと手間が発生します。また同じ某ECサイトが提供する某ECプラットフォーム(個人や法人に関わらず出品可能)で購入した場合は、相手が適格請求書発行事業者でなければ「支払明細書」をダウンロードしても、インボイスは発行されないので、購入時に都度確認が必要なのです。
インボイスの確認が面倒なのは、通帳でも同じです。これまでは預金通帳の取引履歴を見ながら、仕訳すればよかったのですが、インボイス制度のもとではそうはいきません。取引履歴だけでは、仕入税額控除が可能な取引か判断できないので、振込先によっては請求書だけでなく、契約書やその他の書類の確認が必要になります。
営業や外回り社員の経費精算も、一筋縄ではいきません。電車など公共交通機関を使った場合は、3万円未満であればインボイスは不要ですが、コインパーキングを利用した場合は、簡易インボイスが必要となります。営業スタッフが提出してきた経費精算書に添付されている小さなレシートに、インボイス登録番号が記載されているか否か、経理サイドで確認しなければならないことになります。
経理部ではなく購買部や資材部が仕入を行う製造業などのケースは、もっと大変です。値引きや返品があった場合には、「返還インボイス」の取得が必要になりますが、すべての取引先が返還インボイスに必要な情報を請求書に記載してくれるとは限りません。これまで経理部ではチェックする必要のなかった納品書や返品伝票なども、その都度取り寄せて確認しなければ、正しい仕訳ができていないかもしれないという状況になっているのです。
経理のDX化を進めよう
このように、インボイス制度が導入されて以後、経理社員には想像を絶する手間が増えてしまいました。それでなくても、日々の経費精算や締め日ごとの支払い、会計ソフトの入力から経営会議のための資料作成など、すでに経理社員は忙しい毎日を送っています。インボイスの有無に応じて、正確な会計仕訳を行うという生産性がないように思える作業までやりこなす余裕はない、というのが本音ではないでしょうか。
コインパーキングのように金額の小さいものは、これまでと同じようにすべて課税仕入として処理する、領収書にインボイス番号の記載がなければ、すべて免税事業者とみなして2割特例を使うなど、荒っぽい処理をしたい誘惑にかられる経理スタッフがいてもおかしくありません。
しかし、経理の基本は正しい会計処理です。自己流のルールをつくって会計処理をするのが当たり前になってしまうと、正確な決算書をつくれないだけでなく、何より正確な納税額の計算ができないことになってしまいます。
※ただし、2029年9月まで、基準期間の売上が1億円以下(特定期間の売上5,000万円以下)の場合は、1万円未満の取引にはインボイス不要という特例があり
【参考】少額特例(一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置の概要)の概要/国税庁
これらの事態を劇的に解決する方法があります。それは、経理のデジタル化です。経理のデジタル化は、大きく分けて、次の3つのステップで考えるとよいでしょう。
ステップ1:請求業務について
請求書を発行するためのソフトやサービスは、数多く出回っており、CMなどで目にする機会も増えています。
細かな仕様は異なりますが、クラウド型の請求書発行サービスを利用すると、請求業務は次のような流れになります。
発行側はWEB上で請求書を作成し、相手先にメールなどで通知する。相手先は通知メールなどに記載されているURLをクリックして、請求内容を確認するという具合です。紙に印刷・封印するコストや郵送代が削減できるだけでなく、送信ミスを防げるのも魅力です。
紙での郵送を望む取引先が多いので、電子化は難しいという会社もあるでしょう。そういう場合は、あらかじめ、取引先を電子請求書と紙の請求書とに分けて登録しておき、郵送代行もしてくれるサービスもあります。また、ソフトによっては、作成した請求書データが会計ソフトに取り込まれ、自動で仕訳が完成するものもあります。
ステップ2:経費精算について
経費精算も使い勝手のよいクラウドサービスがたくさん出回っているので、使いやすさと価格で自社に合ったものを探すとよいでしょう。クラウド経費精算サービスでは、申請者が専用アプリの読み取り機能を使って領収書などを撮影し、上長が承認ボタンを押すのが一般的な流れです。承認されたデータは、そのまま振込データとして自動的に作成され、ネットバンキングを使ってあらかじめ登録してある社員の口座に振り込むことができます。申請時の計算ミスや、承認時の押印の手間、振り込みの手間を省くことができるだけでなく、連携した会計ソフトを使えば、承認されたデータをそのまま自動で取りこむことも可能です。
最近では、読み取った請求書や領収書のインボイス番号を確認し、仕入税額控除が可能か、2割特例の対象かなどを判定してくれる優れものもあるようです。
ステップ3:証憑の保存について
ステップ1~2に取り組んでいけば、自動的にステップ3も対応することができます。
義務化された電子取引の電子保存では、改ざん防止の措置と「日付・金額・取引先」での検索機能が求められています。市販されているほとんどの有料サービスは、この2つの要件を満たしているので、電子保存の煩わしさから解放されます。
国税局のサイトを見ると、有料サービスを使わず、自社でエクセル管理するやり方が紹介されています。しかしこの方法では、経理スタッフの業務がさらに増えるので、有料のクラウドサービスを利用する方がむしろコスト削減になるのではないでしょうか。
「請求書 電子化」「経費精算 電子化」などのワードで検索すれば、無料のお試しサイトがたくさん見つかります。これらのサービスの多くは、義務化された電子保存だけでなく、スキャナ保存など任意の電子保存にも対応しています。DX化のために費用はかかりますが、増加する経理社員の人件費と比較して考えても、これを機にすべての証憑を電子保存するという決断をしてよいタイミングかもしれません。
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