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悩むアジア人女性

インボイス発行事業者登録してくれない仕入先…値引き交渉は可能?【税理士が解説】

2023.11.29

いよいよインボイス制度が始まりました。始まったとはいっても、まだまだインボイス制度について、すべての事業者が理解して運用できているとはいえない状況です。インボイスを理解するためには、消費税の仕組みを知る必要がありますが、そもそも消費税自体が複雑でなかなか一筋縄ではいかないからです。

そこで今回は、インボイス制度でどのような影響を受けるのか、緩和措置や具体的な負担額を踏まえ、どのくらい減額するべきかを解説します。

インボイス制度で影響を受けるのは、免税事業者だけとは限らない?

これまで消費税の申告を免除されていた個人事業主や小規模な法人にとって、インボイス制度はできることなら触れずに済ませてしまいたい話題ではないでしょうか。しかし、サービスや製品を発注する企業側はそういう訳にはいきません。なぜなら、インボイス制度の影響を受けるのは、免税事業者よりもむしろ“免税事業者と取引する企業側”だからです。免税事業者と取引を続けていると、支払った消費税相当額分だけ消費税の納税額が増えるという現象が起きてしまうのです。

これは消費税の仕組みに原因があります。消費税を申告する際は、“売上と一緒に受け取った消費税”から“仕入などと一緒に支払った消費税”を差引いて納税します。この仕組みのことを「仕入税額控除」といい、消費税を支払ったことを証明する書類が「インボイス」なのです。

2023年10月1日以降、インボイスを取得しないと消費税を払った証明ができないので、仕入税額控除ができなくなりました。免税事業者はインボイスを発行できないので、支払った(はずの)消費税を差引くことができず、消費税分の納税額が増えてしまうというわけです。

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インボイス制度でどの程度の影響があるのか

仕入税額控除ができなくなると、どの程度の影響があるのかを試算してみましょう。影響額が大きい場合、これまでどおり消費税を上乗せした金額を支払うのか、消費税相当分を減額して支払うのかなどの検討が必要になってきます。

まずは、過去1~2年の間に免税事業者との取引が年間いくらあったのかを洗い出します。相手は免税事業者ですから、消費税込で請求されている可能性もあります。その場合は、本体価格に消費税率0.1を足した数字で割り返して、税抜金額を計算し、それから仕入税額控除の金額を計算します。

例)免税事業者との取引が1,000万円(税込)の場合

① 税抜金額を計算する
1,000万 ÷ 1.1 ≒ 909万

② 仕入税額控除していた金額を計算する
約909万 × 0.1(10%) ≒ 90万

いかがでしょうか。この会社の場合、何の対策もうたないでいると、2023年9月30日以前と10月1日以後では、消費税の納税額が約90万円も増加してしまうことになります。

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免税事業者と取引する企業の対策とは

仕入先や外注先に免税事業者が多く、インボイス発行事業者として登録してくれない場合、納税額の増加が思った以上という会社は多いのではないでしょうか。申告時期になって慌てないためには、下記のいずれかの方法で免税事業者との契約を見直す必要があります。

① これまでと変わらず、消費税込の金額を払い続ける
② 契約を見直し、消費税相当額を減額した金額で支払う
③ ①と②の中間の金額で値引き交渉する
④ 免税事業者との取引はやめる

①は、前述したとおり、支払った消費税相当分の仕入税額控除ができなくなるため、実質的に値上がりすることになります。しかし、その外注や仕入先が、自社にとって重要な相手であり、他にとって代えがたい存在であるという場合やもともとの報酬が安すぎたので値上げが妥当な場合、免税事業者との取引金額が少なくてインパクトが小さい場合などは選択肢の一つとなるでしょう。

②の場合、自社の負担は増えませんが、反対に外注先や仕入先の手取り額が、消費税相当分ほど減少することになります。相手にとっては、実質的な値引きであり、長い間、消費税の納税を免除されてきた免税事業者にとっては法律の改正だから仕方ないといわれても、いきなり収入が1割減ってしまいます。簡単に納得できるものではないでしょう。

値引き交渉にあたって注意しなければならないのは、下請法(独占禁止法)のルールです。下請法とは、優越的な地位を濫用して、下請業者に不当な要求をすることを禁止する法律です。契約などで報酬額を取り決めてあるにもかかわらず、外注先や仕入先がインボイス発行事業者ではないことを理由に、消費税相当額を一方的に支払わないのは下請法に違反することになります。

③は、交渉の過程で、双方が少しずつ痛みを分け合うケースです。10%相当分を買い手側と売り手側のどちらかがすべて負担するのではなく、外注先や仕入先と話し合ったうえで、たとえば5%の値引きになるよう価格を見直し、新しく契約書を交わすという方法です。価格の見直しにあたりどの程度値引きをすればよいか、下記で具体的な数値を使って検証しているので、参考にしてください。この場合も、いきなり改定後の金額を通知したり、相手に納得してもらうまで交渉せず一方的に取引価格を引き下げたりすると、下請法に違反する可能性が高いので気をつけましょう。

④は、経理処理の煩雑さを考慮してインボイス登録をしていない相手とは取引しないという選択肢です。支払先に免税事業者と課税事業者が混在していると、消費税コードを分けて入力しなければならないため、経理スタッフにかかる負荷は計り知れません。ただしこの場合も、「インボイス事業者にならなければ、消費税分はお支払いできません。承諾いただけない場合、今後のお取引は考えさせていただきます。」などの強圧的な文言で、取引を一方的に打ち切るようなことは避けてください。

激変する負担に緩和措置を有効活用しよう

免税事業者に払った消費税の全額が、2023年10月1日からいきなり仕入税額控除できなくなるわけではありません。2029年9月30日までは、免税事業者と取引する企業の負担が急激に増えるのを緩和するために、「インボイスが取得できなくても、段階的に仕入税額控除を認めましょう」という経過措置が設けられています。最初の3年間は“免税事業者等”に支払った消費税相当分の80%、次の3年間は50%の金額について、インボイスがなくても控除することができます。

“免税事業者等”には、免税事業者だけでなく消費者や登録していない課税事業者が含まれます。したがって、支払の相手先が適格請求書発行事業者(インボイス発行事業者)の場合は、経過措置の対象にはならないので注意してください。

免税事業者等に払った消費税を仕入税額控除できる割合

2023年10月1日から2026年9月30日まで・・・80%控除可能
2026年10月1日から2029年9月30日まで・・・50%控除可能
2029年10月1日以降・・・控除できない

この経過措置を受けるためには、①次の事項が記載された帳簿と、②区分記載請求書等を保存しておく必要があります。

①帳簿の保存

下記の記載事項に加えて、“80%控除対象”など経過措置の適用を受ける旨を記載する。

【帳簿に記載すべき事項】
・相手方の氏名/名称
・取引の年月日
・取引の内容
・取引金額

②区分記載請求書等の保存

インボイス制度導入前と同じ内容を記載した請求書等(=区分記載請求書等)を保存する。

【区分記載請求書に記載すべき事項】
・作成者の氏名・名称
・取引の年月日
・取引の内容
・税率ごとに合計した取引金額(税込)
・受領者の氏名・名称
【参考】 免税事業者等からの仕入れに係る経過措置/国税庁

どれだけ値引きしてもらえばよいのか?

一体いくら値引き交渉をすれば、自社の負担が増えずにすむのでしょうか。経過措置が使える間は、経過措置を活用して計算しましょう。最初の3年間と次の3年間では、仕入税額控除できる割合が異なるので分けて考えます。

例)免税事業者との取引が1,000万円(税込)の場合

2023年10月1日から2026年9月30日まで/80%控除可能

①税抜金額を計算する
1,000万 ÷ 1.1 ≒ 909万

②消費税相当額を計算する
約909万 × 0.1(10%) ≒ 90万

③仕入税額控除できる金額を計算する
約90万 × 0.8 ≒ 72万

④自社の負担が増える金額
約90万 - 約72万 ≒ 18万

2026年10月1日から2029年9月30日まで/50%控除可能

①税抜金額を計算する
1,000万 ÷ 1.1 ≒ 909万

②消費税相当額を計算する
約909万 × 0.1(10%) ≒ 90万

③仕入税額控除できる金額を計算する
約90万 × 0.5 ≒ 45万

④自社の負担が増える金額
約90万 - 約45万 ≒ 45万

2029年10月1日以降/控除できない

①税抜金額を計算する
1,000万 ÷ 1.1 ≒ 909万

②消費税相当額を計算する
約909万 × 0.1(10%) ≒ 90万

③仕入税額控除できる金額を計算する
0

④自社の負担が増える金額
約90万

会社の財務状況や外注先(仕入先)との関係性によって、対応は異なりますが、少なくとも当初3年間は、増加する消費税相当額の2割は値引きして払いたいところです。経過措置にあわせて3年ごとに価格を見直すという方法もありますが、6年後には経過措置がなくなってしまうので、最初からたとえば5割の金額で値引き交渉した方がよいケースもあるでしょう。

繰り返しになりますが、仕入先や外注先は立場の弱い存在なので一方的な値引き要請は禁物です。とはいえ、免税事業者に対してインボイス発行事業者になるよう依頼したり、消費税相当分の金額を引下げる交渉自体をしたりすることが禁止されているわけではありません。

免税事業者を選択するという決断をした外注先や仕入先に対しては、お互いの立場を尊重し誠意をもって話し合いを行うように心がけましょう。

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