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賃金カット

経営再建のため…社員の「賃金カットと解雇」のポイントと手順を解説

2021.08.19

新型コロナウイルス感染症が依然として猛威を振るうなか、各企業は思うように活動をすることができず、苦しい状況が続いています。

特に中小企業の場合、大企業と比較すると不景気のあおりを受けやすいことから、資金繰りに苦慮するケースが非常に多くみられます。なかには、人件費が財務上で大きな負担となっていることから、経営を再建するために、“賃金の見直し”や“解雇”を考える経営者の方も多いのではないでしょうか。

しかし、これらは安易に行うことはできません。法律に沿った形で適切に実施しなければ、法律違反として訴えられる危険性も潜んでいます。

今回は、このように業績不振の状況に置かれた場合に賃金の見直しや解雇ができるのか、また妥当な減額の基準や実際の対応方法について、順を追って解説をしていきます。

業績不振の背景

始めに、どのような状況で企業が業績不振に陥るのかを整理しましょう。業績不振とは、その名の通り会社の業績が振るわず、利益をあげることができない状況をいいます。

業績不振に陥る要因には、対外的な原因と社内体制に原因があります。

対外的な原因としては、社外での取引が新たなライバル企業の出現、代替となる商品が展開されることにより縮小される場合が挙げられます。また、不景気による流通の鈍化もその一つで、特に昨今ではコロナ禍のもとでこれまで通りの企業活動ができず、泣く泣く取引を諦めているケースが非常に多くみられています。

社内体制に原因がある場合は、職場環境や社内体制に問題があり、社員のモチベーションが上がらないことがあります。具体的には、社員教育や営業活動のノウハウが浸透していないケースや、上司や部下、同僚同士のもめ事が絶えないケースなど、“人”を要因とする内容が挙げられます。

また、明確な財務計画や予実管理に問題がある場合など、経営計画を要因とする場合もあるでしょう。賃金体制に問題があるケースもこれに該当します。

業績悪化による賃金カットは許されるか

それでは、業績がふるわないことを理由に社員の賃金をカット、つまり減額することは認められているのでしょうか?

賃金は、会社と社員との間で交わす雇用契約の中でも、もっとも重要なものになります。したがって、たとえ業績が悪化したからといって、一方的にその賃金額をカットすることは認められていません。

社員は会社のために労務を提供することで、賃金を受け取ります。この賃金が満足に支給されないと、社員の生活に支障をきたすことになるためです。

業績不振による「賃金カット」が認められるケース

企業としては、業績不振が続く中で手を打たないと倒産の可能性も見過ごせなくなります。経営している会社、ひいては会社で働く社員のために会社を存続させる義務があり、そのために賃金を見直すことは当然の流れではないか、と考える経営者がいるかもしれません。

賃金カットは難しいと前述しましたが、これはあくまでも“一方的な賃金カット”が認められていないことであり、やむを得ず減額することができる場合もあることも事実です。

ここでは業績不振を理由とした賃金カットが認められるケースについて説明をします。

(1)労使間の合意のもとによる賃金カット

雇用契約は、会社と社員の間で雇用に関する条件のすり合わせを行い、互いが合意をすることで成立する契約です。したがって、会社・社員の双方が納得をすれば、雇用契約の内容を変更することが可能になります。

(2)就業規則の変更による賃金カット

就業規則または賃金規程で定めている内容を変更し、賃金カットを実施する方法です。

ただし、この方法を実行するためには、賃金カットの程度や必要性、変更後の金額の相当性、労働組合などとの交渉状況などから総合的に鑑みて“合理的”であると判断されるだけの理由が必要となります。

業績不振による「賃金カット」の手順と注意点

上記の2つのケースについて、業績不振による賃金カットを実際に行う際の手順と注意点を解説しましょう。

(1)労使間の合意のもとによる賃金カット

賃金カットを実施するためには、社員の代表者や部署のリーダーなどの一部社員だけではなく、社員全員の同意が必要だという点を忘れないようにしましょう。

まず、社員に対して業績不振の詳細を説明します。会社が置かれている危機的状況を明らかにし、賃金カットに至るまでの経緯を説明します。

ポイントとしては、嘘偽りなく、会社の本心を伝えることが重要です。社員が会社に対して不信感を抱いた場合、同意が得られなくなる可能性があります。また、同意を強要するような態度も決して取ってはいけません。

さらに、業績不振が解消された場合には社員に対する還元をする旨もあわせて伝え、会社の誠意を示す方法も有効となります。

(2)就業規則の変更による賃金カット

就業規則や賃金規程に賃金カットの内容を盛り込む場合は、前述の通り“合理的”な理由が必要です。

賃金カットは、社員の影響に直に影響する重要な事項であることから、理由が合理的か否かを判断される基準も非常に厳しい内容となっています。複数年にわたり赤字続きで倒産の危険性が生じている場合など、賃金カットもやむを得ないような危機的な局面に立たされていることを、経営計画書や決算書などで証明することが求められます。

また、減額の程度についての合理性も判断されることから、同業他社の賃金水準をリサーチしておく必要もあるでしょう。

実際に就業規則や賃金規程を変更する際は、上記の合理的な理由をもとにして、社員の代表や労働組合と協議を重ね、意見の聴収をした上で行うことになります。その後は、書面交付や掲示などの方法により、変更内容をすべての社員に周知させなければなりません。

賃金カットでは不十分…業績不振による「解雇」は?

ここまでは、業績不振による賃金カットについて説明をしてきました。しかし、業績不振の企業のなかには、賃金カットだけでは不十分であるため、社員の解雇も検討しなければならいこともあるでしょう。本章では業績不振による解雇について解説します。

社員の解雇には、“客観的にみて合理的”で、“社会通念上で相当”な理由が求められます。合理性や相当性が認められない場合は、社員の解雇はできないという点は念頭に置いておきましょう。

業績不振を理由とした解雇は、整理解雇の一種となります。整理解雇を行う場合、次の4つの観点から、解雇が認められるか否かが判断されます。

(1)人員削減の必要性

企業経営において、業績不振による解雇に十分な必要性があるかどうか。

(2)解雇回避の努力

解雇に至る前に、配置転換や希望退職者の募集などの別の手段を取るなど、解雇を回避するための企業努力が認められるか。

(3)人選の合理性

解雇対象者となる基準が適正かどうか。

(4)解雇手続の妥当性

解雇の必要性や解雇時期、規模、方法などを、社員や労働組合へ納得がいくように説明したか。

これらの基準を満たした整理解雇である場合は、解雇予告または解雇予告手当の支払いを適切に行った上で、解雇辞令を正式に出すことで解雇を実施することができます。

まとめ

業績不振による賃金カットや解雇について解説しました。賃金カットや解雇は、社員の生活に大きな影響を与えることから、対応を誤ると不満を抱いた社員より訴えられるケースもあります。トラブルを防ぐためにも、社員や労働組合が納得できるよう意見交換を行いながら、慎重に対応する必要があるでしょう。

【参考】
労働契約の終了に関するルール』 / 厚生労働省

* ilixe48 / PIXTA(ピクスタ)