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給与計算の手抜きで労使関係に亀裂が…「外注しているからOK」は危険

労務管理は、会社と従業員との間の信頼関係の基礎となるものです。

従業員が会社に対して不安や不満、さらには不信感を抱いた場合、普段は気にしなかった部分が急に気になるようになります。そして、まず最初に厳しい視線にさらされるのは、多くの場合、目に見える数字。つまり、お金の部分です。

労務管理の中でも、とりわけ給与計算の誤りは、ときに会社にとって致命傷ともなり得るインパクトをもたらします。

現在、新型コロナウイルスに伴う社会情勢から、会社と従業員との関係が危うくなりがちな状況です。さらに、未払い残業代の消滅時効が延長されたこともあって、給与計算の誤りが有するリスクは企業にとって一層見逃せないものとなっています。

コロナで労使関係はぐらつきがち

厚生労働省の発表によれば、6月19日時点で、雇用調整(=休業など)の可能性がある事業所数は45,580箇所、新型コロナウイルスに起因する解雇見込み労働者数は26,552人とされています。5月から一週間ごとに数値が公表されていますが、いずれも増加が続いています(※1)。

また、新型コロナウイルスに関連する倒産は、6月26日現在287件判明しており、こちらも増加傾向にあります(※2)。

従業員を休業扱いとする場合に給与をいくら支払うかは会社の判断によりますが(法律上の下限は平均賃金の6割)、普段より給与額が下がる事業所がほとんどでしょう。そうした際は、従業員に十分な説明をする必要があります。

社員が会社の状況を理解していても、不安な状態が続けば給与額には一層敏感になりますし、誤りがあった場合には厳しく指摘を受ける可能性が増えます。

また政府は、経済的に打撃を受けた観光業や飲食業などを支援し、需要を喚起するための『Go To キャンペーン事業』に大きな予算を割くなどしていますが、こういった動きがすべての業界・業種に行き届くには時間がかかりますし、事業活動の継続や再開という観点からも、労使の信頼関係を保ち、むしろ強固なものにしなければなりません。

残業代の時効延長により給与計算の誤りが致命的に!?

新型コロナウイルスの話題の影に隠れていますが、実は、2020年4月以降、給与計算の誤りが企業にもたらす影響は大きくなっています。先ほども触れましたが、未払い残業代の請求期間が2年から5年に延長されたためです。

2020年4月の民法改正に伴い、労働基準法が改正された結果によるものですが、特に中小企業経営者への配慮から、当面の間は請求期間は3年で運用することになっています。

この事実が何を意味するかというと、例えば、従業員から未払い残業代を請求される際に、請求額が単純計算で1.5倍になります。
※暫定措置が終わり、5年に延長された場合は現行の2.5倍です

請求額の増加は、弁護士が従業員から相談を受けた際の受任の判断にも影響します。未払い残業代の請求を行うにあたっては、出勤簿や給与明細を遡って精査する必要があります。2年分では請求できる金額が小さくて訴訟のコストに見合わず、会社を訴えるという判断に至らなかった事例もあったはずです。

しかし請求期間の延長によって請求できる金額が大きくなれば、一気に訴訟提起の余地が広がると推測されます。過払い金訴訟のような一大ムーブメントとなる可能性も十分にあります。

複数の従業員から未払い残業代の訴訟を起こされたら、会社のキャッシュフローは一気に危うくなりかねませんし、残りの従業員との関係にも当然悪影響を及ぼします。

給与計算の基本的な流れと誤りが発生するポイント

では、会社のリスクを再点検すべく給与計算を見直すにあたって、具体的にどのようなポイントで誤りが発生しやすいのか、整理しましょう。給与計算の基本的な流れは次のようになっています。

a 労働時間の集計

b 総支給額の算出

c 保険料等の控除

d 差引支給額の決定

明細上は、前から順に“a 勤怠”、“b 支給”、“c 控除”と欄が分かれています。

aでは、労働時間、時間外労働、休日労働、深夜労働、などを集計します。
bでは、時間外労働、休日労働、深夜労働それぞれの割増賃金額を計算し、各種手当を加算して、総支給額を計算します。
cでは、所得税や住民税などの税金、健康保険料や厚生年金保険料、雇用保険料などの社会保険料を計算して控除します。

このようなプロセスを経て、d 給料日に従業員に振り込む金額が決まります。一連の流れの中で、誤りやすい(=未払い残業代が発生しやすい)ポイントは、以下の3種類に分類できます。

  1.  労働時間の管理の誤り
  2.  割増賃金額の計算の誤り
  3.  残業代の支払い対象者の誤り

よくある例としては、それぞれ下記のような代表例があります。

1.労働時間の管理の誤り

・休憩時間に労働させているにもかかわらず休憩時間として支払い対象から除いている
・固定残業代制が適切に導入されていない

2.割増賃金額の計算の誤り

・計算の元となる時給単価に含めるべき手当を含めていない
・法定時間外2割5分、深夜3割5分、休日2割5分などといった割増計算を誤っている
(参考)2019年12月、株式会社セブン-イレブン・ジャパンは長期間誤った計算式を用いていたことが原因で、遅延損害金を含め4.9億円の未払いが発生したと公表しました。

3.支払い対象者の誤り

・課長職以上は全員管理監督者として残業代を支払っていなかったが、労働者と変わらない働かせ方をしていた(「名ばかり管理職」)
お気づきでしょうか? ご紹介した3例はいずれも、給与計算の基本的な流れのうち、“a労働時間の集計”の部分で発生しています。

 

「給与計算は会計事務所にアウトソース(外注)しているから安心」と思っていたら、従業員の労働時間を適切に集計できていなかったために、計算が全員分誤っていた、というような事例にもよく遭遇します。給与計算ツールを正しく使えば、b以降の部分で誤りが起こることは少なく、むしろaが鍵を握るにも関わらず、おろそかになっていることが非常に多いのです。

給与計算の仕組みに対する知識を身に着けることが大切

これまで見てきたような給与計算の誤りを防ぐために大切なことは、誤りが起きにくいような仕組みを作ること。そして、それ以上に、その仕組みに対する必要最低限の知識を身につけることです。

誤りが起きにくいような仕組みを作るためにはまず、a~dの一連の流れを改めてブラッシュアップして誤りがないか見直す必要があります。外注先に一部アウトソースしているような場合は、可能であれば、アウトソースしていない工程を含めた全行程を一緒に確認すると良いでしょう。

給与計算ソフトを使って計算を自社で行っている場合も、設定や勤怠管理が誤っている可能性がありますので、改めてチェックする機会を設けてみてください。

加えて、給与計算の流れについて、本記事でご説明した概要だけでも、イメージとして持っておきましょう。

例えば、従業員から「この部分に疑問があるのですが」と給与明細を示された際に、対応できますか? あるいは、原因や対応策にすみやかに繋げられるでしょうか?

「給与計算は外注ないし自動化しているので全くわからない」では適切な説明を行えませんし、万が一誤りがあった際に気づいたり対処したりすることができません。基本的な部分だけでも頭に留めておくことで、ブラックボックス化を防ぎ、予想外の不意打ちを防ぐことができます。

正確な給与計算を行い、会社の基盤となる労使関係を今こそ強固なものにしましょう。

【引用元】
※1 新型コロナウイルス感染症に起因する雇用への影響に関する情報について/厚生労働省https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/koyouseisaku1.html
※2 新型コロナウイルス関連倒産/帝国データバンク
https://www.tdb.co.jp/tosan/covid19/index.html