
障害者雇用とは。法定雇用率や給与について
企業にとって障害者の雇用は、単なる法的義務の履行にとどまらず、多様性を生かした組織の活性化や社会的責任にも繋がります。しかし、これまで障害者雇用を実施していない企業にとっては、どこから手を付ければよいのか分からない場合もあるでしょう。
本記事では、障害者雇用の基本的な制度や法定雇用率、助成制度、給与の決め方、既存メンバーとの打ち解け方について紹介します。ぜひ、本記事を参考に、障害者雇用の課題解決に取り組んでみてください。
目次
障害者雇用とは
障害者雇用とは障害のある方を雇用し、その障害の特性に応じた仕事に従事してもらうことです。日本では「障害者の雇用の促進等に関する法律(障害者雇用促進法)」により、一定規模以上の企業に対して、従業員数に応じた障害者の雇用が義務付けられています。
この制度の目的は、障害者が安定して働き続けられるようにすることです。一方で、障害者雇用を促進する企業に対しては、さまざまな支援制度が整備されています。たとえば、障害者を受け入れるための設備投資や教育訓練に関する助成金、トライアル雇用や継続雇用など、雇用そのものに対する助成金などです。こうした制度により、企業が障害者を雇用する際の経済的な負担を軽減し、より多くの障害者が活躍しやすい環境づくりの支援を行います。
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対象となる障害は?
障害者雇用の対象となる障害は、大きく分けて身体障害・知的障害・精神障害の3つです。身体障害には視覚障害・聴覚障害・肢体不自由などが含まれ、各等級によって「障害者手帳」が交付されます。また、知的障害は「療育手帳」、精神障害は「精神障害者保健福祉手帳」を持っている方が対象です。
身体障害 | 知的障害 | 精神障害 | |
障害者雇用の対象者 | 身体障害者手帳を持っている | 療育手帳を持っている | 精神障害者保健福祉手帳を持っている |
また、発達障害については「精神障害者保健福祉手帳」を保有している方が対象となります。
【参考】障害者雇用促進法における障害者の範囲、雇用義務の対象/厚生労働省
障害者雇用制度により雇用が義務付けられている
障害者雇用促進法の障害者雇用率制度では、一定割合以上の障害者を雇用することが義務付けられており、この割合を「法定雇用率」と呼びます。2024年現在、民間企業の法定雇用率は2.5%であり、従業員が40人以上の企業は少なくとも1人の障害者を雇用しなければなりません。
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まずは、自社で何人の障害者を雇用する必要があるかを把握しておきましょう。必要な人数は、以下の計算式で求められます。(小数点以下の端数は切り捨て)
必要な障害者数=(常用労働者数+短時間労働者数×0.5)×0.025
※短時間労働者は、0.5人としてカウント
※2.5%=0.025
なお今後、法定雇用率は以下のように、段階的に引き上げられる予定になっています。
2023年度 | 2024年度 | 2025年度 | |
法定雇用率 | 2.3% | 2.5% | 2.7% |
従業員数 | 43.5人以上 | 40人以上 | 37.5人以上 |
また、計算する際は、障害の等級や労働時間によってカウント方法が異なるため注意しましょう。カウントの仕方は以下のとおりです。
10時間以上20時間未満 | 20時間以上30時間未満 | 30時間以上 | |
身体障害者 | – | 0.5 | 1 |
重度身体障害者 | 0.5 | 1 | 2 |
知的障害者 | – | 0.5 | 1 |
重度知的障害者 | 0.5 | 1 | 2 |
精神障害者 | 0.5 | 1 | 1 |
さらに、法定雇用率を達成できない企業(従業員数100人以上の企業が対象)には、「障害者雇用納付金」を支払う義務があります。金額は、不足している人数に対して1人あたり月額5万円です。納付金を納めたとしても、法定雇用率が未達成のままだと行政指導を受けます。それでも改善されない場合は企業名が公表されるため、取引先や顧客から企業の社会的責任を果たしていないとみなされ、イメージダウンにつながるかもしれません。
一方、雇用率を上回る企業には「障害者雇用調整金」が支給され、企業間での負担の公平性を保つ仕組みが整えられています。
【参考】障害者雇用率制度の概要/厚生労働省
【参考】障害者雇用率制度について/厚生労働省
【参考】障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について/厚生労働省
【参考】障害者雇用納付金制度の概要/独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
障害者雇用促進のための助成金制度
障害者雇用を促進するため、国ではさまざまな助成金制度が設けられています。取り組み内容・企業規模・雇用形態・労働時間によって、受けられる助成金は異なります。代表的なものとして、以下のような助成金があります。
名称 | 内容 |
特定求職者雇用開発助成金 | 障害者を雇用した |
トライアル雇用助成金 | トライアル期間を設けて雇用をした |
人材開発支援助成金 | 障害者に対し教育や訓練を実施した |
キャリアアップ助成金 | 有期雇用の障害者を正規雇用労働者に転換した |
障害者雇用納付金制度に基づく助成金 | 障害者を雇用するにあたり、施設や設備の整備を行った |
詳しくは厚生労働省のホームページで確認できます。
障害者を雇う際の給与はどう決める?
障害者雇用促進法では、障害者であることを理由に不利な条件で雇用することを禁じています。したがって、あくまでも能力によって給与を設定しなければなりません。しかし、障害の程度によっては、できる業務が限定的だったりスピードが遅かったりするケースもあり、企業側が求めている業務量をこなすことが難しい方もいます。
業務遂行に著しく支障が生じ、最低賃金で雇用することも難しいと思われる場合は、労働基準監督署に「最低賃金減額の特例許可」の申請が可能です。ただし、申請すれば必ず許可が下りるわけではありません。業務に支障があることを客観的に証明するための根拠が必要です。障害者雇用の給与設定に迷ったら、管轄のハローワークや労働基準監督署に問い合わせてみるとよいでしょう。
既存メンバーと打ち解けてもらうためのポイント
障害のある従業員と既存メンバーが円滑に働くためには、適切なコミュニケーションが不可欠です。
障害について学ぶ機会を設ける
障害の特性や必要な配慮について、本人の同意を得たうえで既存メンバーと共有する必要があります。具体的には、研修などを通じて障害について学ぶ機会を設けるとよいでしょう。とくに精神障害は外見からは分かりにくいため、特性や配慮すべき点について理解を深める場を設けることで、既存メンバーの意識が変わるはずです。
障害者であることを意識しすぎない
日常的なコミュニケーションでは、障害があることを過度に意識せず、業務上の指導も適切に行うことが重要です。ただし、指示出しや指導する際は、具体的で分かりやすい説明を心がけましょう。
定期的な面談などで変化に気づきやすくする
定期的なミーティングの場を設けたり、協力して取り組める業務を任せたりすることで、自然な形でお互いの理解が進みやすくなります。また、こまめな話し合いは体調変化に気づくきっかけにもなるでしょう。ストレスなどによる体調の変化に早めに気づき、必要なサポートができれば長く働いてもらえるはずです。
まとめ
経営者や人事担当者にとって、障害者雇用には課題や不安が多いかもしれません。しかし、助成金制度や支援体制が整っており、段階的な導入も可能です。とくに、トライアル雇用制度を活用すればリスクを最小限に抑えながら、自社に適した雇用形態を見つけられるでしょう。職場環境の整備や教育にかかる費用面についても、補助金が活用できます。
既存の従業員との関係構築においては、研修とコミュニケーションがポイントです。これらの取り組みは、結果として企業への信頼や価値を高めることに繋がります。記事を参考に、自社での障害者雇用の第一歩を踏み出してください。
*Daenin / shutterstock