
HSPとは?特徴や働きやすい職場環境のつくり方を産業医が解説
最近、産業医である筆者の元に「私、HSP(エイチエスピー)なので●●がつらいんです」という相談が増えてきました。「にぎやかな職場」「人間関係で悩み過ぎて疲れる」「お客様対応がつらい」といった相談内容が多いです。社員の細かい悩みにすべて対応することは難しいかもしれませんが、多様性を認められる企業風土は人材の定着につながるともいわれています。また、HSPの方はクリエイティビティが高い傾向があるといわれており、その長所を発揮しやすい環境づくりをすることで、新しいアイデアが生まれるかもしれません。
今回は、職場で社員にHSPを打ち明けられた経営者や上司、人事部の社員に向けて、どのような対応ができるかについて説明していきます。
目次
HSP(エイチエスピー)とは
HSP(エイチエスピー)とは、Highly Sensitive Person(ハイリー・センシティブ・パーソン)の頭文字をとったもので、エイレン・N・アーロン博士が提唱した概念です。一般的に、日本では「感受性が鋭く、気質が敏感であるといった“繊細な人”」のことを指しています。人口に占める割合は約20%、つまり5人に一人が持つ気質ともいわれており、経営者としては実際にHSPの特性を持つ従業員を認識する前から対応を検討しておくべき課題です。
最近ではHSPに関する書籍やSNSでの発信が増えており、これまで理由がわからず生きづらさを抱えていた人が、「自分はHSPが理由でつらいんだ」と気づくことが増えているようです。
HSPの方は、感覚処理感受性(聴覚・視覚・触覚・嗅覚から得られる情報を深く強く処理する人格特性)が強く、刺激に敏感で、過敏に反応しやすく、ストレスを苦痛に感じやすいといわれており、以下のような特徴があるとされています。
- 情報の処理が深い
- 刺激を受けやすい
- 周囲の些細な変化に気づきやすい
- 共感しすぎてしまう
たとえば、大きな音が苦手、人混みが苦手、疲れやすい、空気を読み過ぎて人付き合いに悩みやすいなど、慌ただしい現代社会では生きづらさを感じる方が多いでしょう。反対に、共感力が強い、想像力が豊か、深い考え方をするなどの強みになる点もあります。
【参考】
The Highly Sensitive Person: How to Thrive When the World Overwhelms You/ Elaine N. Aron Ph.D.
Sensory processing sensitivity: A review in the light of the evolution of biological responsivity. Personality and Social Psychology Review, 16(3), 262-282./Elaine N. Aron, Arthur Aron, Jadzia Jagiellowicz
HSPは病気ではなく特性だが…
HSPは、医学的な病名ではありません。ただ、いわゆるHSPの特徴があてはまり、日常生活に困難が生じるなど生きづらさを感じている方々は、何らかの精神医学的診断がつく場合があります。
たとえば、些細なことで不安になりやすい方は、“不安症”というカテゴリーの病気かもしれません。発達障害でも、聴覚過敏など、感覚の過敏さがある方もいらっしゃいます。人の顔色をうかがいすぎてしまう方は、トラウマや愛着の問題があるのかもしれません。ストレスで頭痛やめまいなどの身体の症状がでるならば、“心身症”かもしれませんし、“適応障害”という病名がつくこともあります。
それぞれの病状には、標準的な治療法があり、治る、あるいは症状が軽くなることが見込めます。「HSPだから治らない」と決めつけてしまうと、治療の機会を失ってしまうことにもなりかねません。
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HSPの人がストレスを感じる職場とは
では、HSPと自認する方の職場での困りごとは、どのように対処すればよいのでしょうか。会社はどのような配慮ができるのかをみていきましょう。
HSPの方は、さまざまな刺激に敏感です。たとえば、にぎやかな場所、人が多い場所などでは疲れてしまいます。
また、他人の気持ちにも敏感なので、誰かが怒られたり、強くいわれていたりするのをみるだけで、自分もつらくなってしまいます。大音量で音楽がかかっているような環境、人が多くてにぎやかな場所、クレームを受けるような仕事は、苦痛に感じやすいでしょう。
HSPの人が能力を発揮できる環境とは
HSPの方が職場で困っている場合、何がつらいのかをまず聞いてみましょう。HSPにもいろいろな特徴があるので、みんなが同じ悩みを抱えているとは限りません。
音やにおいなど環境のストレスなのか、人間関係のストレスなのか、疲れやすさなのか、それぞれ必要な配慮が異なります。うるさい音が苦手な場合は、耳栓やイヤマフなど音が遮断しやすいものを、まぶしさが苦手な場合は、サングラスの利用を認めるなどという方法があります。
オフィスの環境を変えてみる
また、にぎやかな環境で仕事をするよりも、静かな部屋で、たくさんの人と接しなくてもよいような業務の方が、疲れにくいかもしれません。最近、オフィスに設置が増えている個室ブースや、静かな部屋で作業してもらうことも効果的でしょう。
すべての刺激をなくすということは難しいですから、疲れた時に休憩できる静かなスペースがあるとよいでしょう。事務所衛生基準規則にあるような、休養室や休憩室をきちんと設けておきましょう。
【参考】事務所衛生基準規則/法令検索
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HSPの人とうまく付き合うためには
先に述べたように、HSPは正式な診断名ではなく、その方の特性といえます。しかし、日常生活での困りごとが大きい場合、他の診断名がつくこともあります。治療のほか、専門家の意見を聞き適切な環境調整を行うことで、つらさが軽減できる場合もあります。産業医などの産業保健職や外部のEAP機関(精神科医、臨床心理士といった有資格の専門家集団)と連携してサポートできるとよいでしょう。
ただ、その特性のせいで周りが困惑することが起きている場合もあります。そのときには「仕事で●●ということが起きたと報告を聞きました。あなたも困っていませんか。医学や心理学の力をかりて、状況を変えられないか、相談してみませんか?」などと声をかけてみるのもいいでしょう。本人の同意があれば、周囲に理解してもらえるよう情報共有も必要かもしれません。同僚でHSPの方がいる場合は、大きな声を出さないように気をつける、空調やまぶしさなど環境のストレスが少ない場所で仕事ができるように配慮する、誰かに対して業務上の注意をする場合は、みんなの前ではなく別の場所に移動するなど、刺激を減らす工夫をしてみましょう。また、在宅勤務でできるような仕事を頼めると、落ち着いた環境で行えるため、疲れにくくなり能力を発揮しやすくなるでしょう。
最後に
今回は、HSPの気質を持つ方が抱えやすい悩み事と、職場での解決策についてご説明しました。「HSPだから」という言葉で片付けずに、何に困っているのか、何が苦手なのか、得意なことはあるのか、何を必要としているのかを一緒に考えましょう。医学的な問題が隠れていないかを評価するために、産業保健職との面談も有効です。静かな環境、個室、人間関係のストレスが少ない職場は、HSPでない方にとっても居心地がよいものです。ぜひオフィスの環境改善に取り組んでみてください。
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