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育休切りは違法?育休取得による解雇リスクと企業が取るべき対応策

2025.01.23

育休取得は、働く人にとっても、企業にとっても大切な権利であり、制度です。中小企業の経営者や人事担当者にとっては、育休取得後の人員管理や業務の流れの調整が課題となります。

しかし、近年「育休切り」が社会問題として注目されており、育休取得者に対する不適切な対応が不信感を生み、離職リスクを高める原因となることもあります。

本記事では、育休取得を理由に解雇や降格を行うことがなぜ違法であるのか、企業が守るべきポイントや適切な対応策について解説します。

育休切りとは?

「育休切り」とは、育児休業を取得した従業員が、育休を理由に解雇や降格、配置転換などの不当な扱いを受けることを指します。育休に関連する不当解雇や不適切な処遇は「育児・介護休業法」によって厳しく禁止されています。また、類似のものに「産休切り」があり、これは産前産後休業に関連した解雇や降格などの不当な扱いを指します。いずれも違法行為であり、企業にとっては法的リスクや信頼性の低下を招く原因になります。

【こちらもおすすめ】「育児・介護休業法」改正のポイントは?会社が対応すべきことをまとめて解説

育休取得を理由とした解雇は違法?

日本の「育児・介護休業法」に基づき、育休取得を理由とする解雇や降格などの不利益な取り扱いは禁止されています。育休取得を理由に解雇される「育休切り」は、法的に認められていないだけでなく、従業員の信頼や会社の評判を大きく損ねる行為です。

降格・減給・配置転換は行っても問題ないのか?

育休を理由とする配置転換や降格も、不当とされる場合があります。

東京高裁で争われた「アメックス事件」では、チームリーダーの役職を担っていた従業員が、育休後に部下のいない部署に配置されるなど、職務内容が大幅に変わったことが不利益な取り扱いにあたると判断されました。さらに、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の男性育休訴訟では、育休取得後に上司から会議の参加を拒否されたなど不利益な扱いを受けたとして男性従業員が訴訟を起こしましたが、裁判所は上司からの配慮で会議の任意参加を勧められていたことを理由に、違法性は認められませんでした。

このように、配置転換や降格の適法性は、業務上の必要性や従業員との協議を経たかどうかが判断基準となります。

企業が育休を取得させるメリット

従業員の育休取得について、企業や職場から「人員の減少」というデメリットを感じると相談をよく受けますが、実際には企業にとっても大きなメリットがあります。以下に、その主なメリットを示します。

メリット1:従業員の定着率向上

育休取得を支援する企業は、従業員からの信頼度が高まり、定着率の向上が期待されます。育児を含むライフステージに合わせた働きやすい環境を提供することで、優秀な人材の流出を防ぐ効果につながります。

メリット2:従業員のモチベーションや生産性向上

育休が取得しやすい職場環境は、従業員にとっての安心感につながり、仕事への意欲を高めます。育児と両立することでプライベートも充実し、結果として生産性の向上が期待できます。

メリット3:企業イメージの向上

育休制度が整備され、実際に社員に利用されている企業は、社会的にもダイバーシティやワークライフバランスに配慮していると評価されます。企業のイメージアップは、優秀な人材の確保にも役立ちます。

育休を申請された際に企業がすべきこと

育休取得者の不安を解消し、円滑な職場復帰を実現するために、企業側の対応が重要です。以下に、具体的な取り組み例を示します。

1. 制度利用のガイダンス

従業員本人またはそのパートナーの妊娠を把握した時点で、育休に関連する制度説明を行い、育休取得希望の確認をしましょう。具体的には、育児休業制度や育児休業給付金、復帰後の時短勤務などについての説明をします。直属の上司にも事前に状況を伝え、従業員も上司も安心して休業から復職に移行できるようにしましょう。筆者が関わった企業では、制度説明のほか、本人や上司が把握すべき留意点も盛り込んだガイダンス資料を作成したケースもあります。

2. 同僚・関係者等への説明

可能であれば、育休取得者本人がチームの朝礼などで出産や休業予定について報告することが望ましいです。また、直属の上司からも業務分担や引き継ぎについて説明を行い、休業中に業務をカバーする従業員にも支援を伝えましょう。育休制度の周知にも役立つ機会のため、人事担当者からも制度説明を行うとよいです。

3. 育休前の引き継ぎ体制の整備

業務を一時的に他の従業員に分担するために、事前に役割分担や引き継ぎ内容を明確にしておくことが重要です。中小企業では特に、育休取得者が業務の重要な役割を担っていることも多いため、外部リソースの活用も検討し、育休中の業務体制を確立しましょう。

4. 復職に向けた準備支援

復職前に本人と面談を行い、復職後の勤務形態やサポート体制について確認します。必要に応じて時短勤務やリモートワークの可能性を検討し、柔軟な対応を通じて育児と両立できる働き方を提供しましょう。

5. 段階的な復職支援と業務環境の整備

復職後にいきなりフルタイムで業務に戻るのではなく、時短勤務や業務量を段階的に調整する体制を整えることが重要です。これにより、育児との両立がしやすくなり、復職者も無理なく職場に戻ることができます。

6. キャリアの継続と成長支援

育休取得がキャリアに影響を与えないよう配慮しましょう。取得前と同様のキャリアパスを提供し、昇進やスキルアップの機会も継続することで、従業員のモチベーションや会社への帰属意識が向上します。

7. EAPサービスの活用

復職前後の不安や育児との両立に関する悩みがある従業員には、EAP(従業員支援プログラム)の活用を促しましょう。EAPサービスは、従業員のメンタルヘルスケアや仕事と家庭の両立に関するサポートを提供します。専門家によるカウンセリングや相談窓口を設けることで、従業員が抱える心理的負担を軽減し、職場での安心感を高める効果が期待できます。また、企業にとっても、EAPサービスを導入することで従業員の満足度や生産性の向上につなげることが可能です。

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まとめ

「育休切り」は、労働者の信頼を損ねるだけでなく、企業の評判を損なうリスクがあります。企業は育休取得者への適切な対応を通じ、従業員の定着率を向上させ、働きやすい職場環境を構築することが求められています。また、日ごろからダイバーシティやアンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)についての研修を実施することで、従業員全体が育休取得に対する理解を深め、サポートする姿勢が生まれます。特に経営者も、これらの研修に参加することで、職場全体にポジティブな影響を与え、企業の持続的な発展と信頼性向上に寄与するでしょう。

*maroke / shutterstock