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【インタビュー】企業再建のプロが語る中小企業経営の落とし穴と回避法1~「不良在庫」に苦しむ原因とは~

2020.09.23

日本の大手監査法人で内部統制監査を務めた後、再生事業を扱うコンサルティング会社で中小企業診断士として複数の企業再建に携わり、独立した現在もコンサルティング業務を請け負う経営コンサルタントに、主に製造業で傾く企業の特徴や問題点などを伺いました。

今回話を聞いた経営コンサルタントは、公認会計士の資格を取得後に日本の大手監査法人で製造業を主とした財務諸表監査・内部統制監査を約4年間担当。その後、再生事業を扱うコンサルティング会社に転職し、 経営が傾いている企業の立て直し計画や成長戦略に携わるなど経験を積み独立。現在もコンサルティング業務を続けています。

社内コントロール可能なコスト削減でお金を生む

――今まで扱ってきたのはどのような企業ですか?

ジャンルはさまざまでアパレルメーカーや地方の売上20億円ほどの製菓企業、経営が切迫している売上800億円くらいのスーパーなど。売上70億円ほどの酒蔵は、売上はとても良かったのですが伝統技術の継承に悩みがあり、そこを解決する仕事も受けました。

経営難の企業があると、銀行から「お金が返ってこないから見てくれ」と僕らに依頼が入ることもあります。潰れそうな会社は再生の法務的な整理が入ってくるのですが、当時勤めていたコンサルティング会社では、弁護士が入ったチームが動くことになる手前の、“銀行リスケ”くらいのところで僕は奮闘していました。

――銀行リスケとは何でしょうか?

リスケは「リスケジュール」のことで、返済をリスケジュール(計画を組み直し)します。銀行にお金が返せず、銀行から差し押さえが入ってくるともう会社が倒産してしまうことになるので、その前に「返せません、ごめんなさい」とお願いして、一回返済をストップします。その間にちゃんとお金を稼げる体質になった上で、「これからお金を返すので、お願いします」と進める、まず最初の段階です。よく“出血を止める”と言うんですけど、血液(お金)がどんどん出ていってしまうともう終わってしまうので、出血を止めて、その間に銀行が納得するような再生計画を立てるというのが特にミッションとしてやっていた業務です。

――“出血を止める”にはどのような処置をするのでしょうか?

銀行が納得するという観点でいうと、“支出を止めること”と、とにかく“お金を生み出す”必要がある。お金を生む方法は2つあって、1つはもちろん売上を上げる。売上が上がればいくら使っても関係ない。ただ、売上が上がらない会社の場合は、もう1つのお金を生む方法として、お金を使わないこと。元々100万円使う予定が80万円で済んだら、差額の20万円のお金が生まれたことになる。そのお金を別のところで使えるようになるので。それも1つの出血を止めるというか、お金を生む方法になります。

僕らがよく相手にするのは、売上がだんだん落ちてきてジリ貧の状況の中でお金がなくなってきた企業さんがほとんどなので、銀行からするとそういった下がり基調のときに、「これから売上が上がっていきますよ」という計画を僕らが作っても「いやいや、これまでそんな計画立てられなかったのに、なんで急に売上が上がるんだ」という話になってしまうので、ほとんどの銀行は信用してくれません。だから、結局はコスト削減になってきます。

――まずはコスト削減でお金を生むと。

コスト削減の中にも、コントロールできるものとできないものがあります。コントロールできないものというのは、ある程度の“物の仕入れ”とか。それもコントロールできるのですが、対外的に支払わなきゃいけないものは、やはりコントロールしづらいです。

一方で、社内的な意思決定で決められるものはコントロールできる。例えば、社長の意思決定でできるところでいうと、やはりリストラになってきます。なおかつ、削減規模がそれなりに求められる。よくあるのは人を削ると、1人あたり社会保険も含めたら年に大体500万円くらいは減らせるわけなので、2人削って約1,000万円。それが20人いたら1億円とか、そういったレベルで人件費に関しては数字が出せるので、やはりどうしても人に手をつけざるをえないのかな……。というのは、一番最初に社長の覚悟としても銀行からいわれるところですね。

PL(損益計算書)を見ていただいたらわかるんですけど、人件費はコストの30~40%くらい(注:業種による)占めるので、そこを削減すると数値としては大きく見える。今まで可愛がってきた子供ではないですけど、「一緒に働いてきた社員さんに対してリストラを突きつけられるんですか?」というのは、銀行からの覚悟として問われるところではあります。

――中小に限らずですが、人件費の削減という点で、企業側は日本の法律的に長く働いている人を解雇しづらいという現状があると思うのですが、そこは解決できますか?

それは僕らも正直なところ悩みの1つです。労働組合が入ってきてしまうので、僕らはどうしようもできない部分で……。結局、社長と人事と労働組合で交渉するしかないんですよね。

ただ、中小企業だけみていると、労働組合がなく個人との話合いになることも多いのですが、意外と熱をもって真摯に対応すると辞めてくださることが多いです。しっかりと説明して、「このままいくと会社としても潰れてしまう」ということを伝えると、それは本当のことなので、結構わかってくれて辞めてくださることが多いですね。あとは制度を作ってどんどん降格させる。今の日本の会社、特に中小企業だと給与高止まりみたいなものがあるんですけど、降格させるってあまりないんです。そこは制度を作って評価が悪くなったら降格させて給料を下げていくしかないと思います。

――リストラをしたくない場合の提案や選択肢は?

その段階で「売上を上げる」と言っても銀行にはまったく信用されない。今まで下がり基調だった会社が急にV字回復なんてあり得ないと普通の人は思うので、そこを信用してもらうには、別のコストの整理に着手しなきゃいけないんですけど、内部コストで社長の意思決定でどうにかできるもの。それでいうと後は、物流のところは手をつけることが多いですね。


2番目に手を付けるべき物流コスト。不良在庫は必ず持っている

社内在庫

https://www.shutterstock.com/

――物流でありがちな問題とは?

最初に小さなところから始めると、物流というのは効率的なんですけど、だんだん販路を広げていくと色々なところで物を作り出したり、複数の場所に倉庫を抱えたりするんです。拡大路線のときは十分な倉庫を抱えて、そこに目一杯荷物を置いておくんですけど、売上が下がってくると実はその倉庫に空きが多くなっていたりします。そこを如何に集約するか。倉庫を1つ潰すと、毎月何百万円と支払われていた倉庫費が浮く。1年にしたら何千万円という形で倉庫費が浮いてくるので、倉庫や物流コスト、配送コストというのは、2番目くらいには手をつけるべきところですね。

――売上が上がらない不良在庫などを抱えている場合も多いのでしょうか。

不良在庫は必ず持っています。飲食だと腐ってしまうので不良在庫というのはあまりないんですけど、アパレルなどは不良在庫はかなり論点になりますね。必ず処分しなくてはいけないものですが、僕が扱っていたお客様は高級アパレルだったので、子会社に安く売る処分会社みたいなものを持っていました。そこに早く売りさばいて、ファミリーセールなどをバンバンやるという形で在庫処分をしていきました。ただ、ファミリーセールをやりすぎると「店舗で買わずにファミリーセールで買えばいいよね」とブランド価値がすごく下がってしまうので、ブランド価値というのは気にしなければいけないところです。

あとはゴーストショップみたいなものがあって、タグを切って売ってくれるところがあるんですが、そういったところに処分をお願いすることもありました。かなり安く買い叩かれてしまうんですけどね。『Burberry』などは問題にもなっていましたが、昔のブランドは結構在庫を燃やしていたんですよ。売れ残った商品を安く売るとブランド価値が下がるからと言って。しかし、今は環境保護の観点や作った物がもったいないということで見直しが起きています。その中で言うと、ベンチャー企業の場合はタグを切ってブランドがわからないようにして安く売るという会社さんもあります。そういうところを高級ブランドなども利用していって、ブランド価値に気をつけながら、在庫処分を必ずしていく必要があると思っています。

――不良在庫が残りがちな企業の傾向や原因は?

契約上のロット数(1回で生産する製品数量)問題がよくあります。僕が相手をしていたお客さんの場合、“イタリアのブランドを有名になる前に発掘する”というところが強みのアパレル企業さんがいて。ブランド側も日本で売れる販路が作れるのは嬉しいし、それを大事に育てていくことをその会社がやっていたのですが、育つにつれだんだん相手(ブランド側)の要求もきつくなってきて。「少なくともこれだけ仕入れてくれ」みたいな契約を必ずさせられるんです。お客さんだったアパレル企業は自社でも製造はしていたんですけど、卸し的なインポーターとしても展開していたので、その契約の縛りが非常に厳しかった。いらないと言っているのにどんどん商品が送られてくる、という状況が各ブランドで蔓延していました。買い手の立場として非常に弱い立場にあったので、そこに苦慮していたというのがまずありました。

――仕入れの契約書の内容に問題があった?

それは非常に大きいですね。特にその会社さんは、オーナー企業的なところがあって、オーナーが「イエス」と言えば、それで締結してしまっていた。それで仕入れることは決まっていて、現場ではどうしようもできない。どんどん必要以上の在庫が入ってくる状況になっており、最初の交渉のところは非常に問題があったのではと思います。

あとは、ブランドが育ってくるとインポートのブランド側が大体「名前が売れてきたので自分でやりたい」と言い出すんです。Burberryもそうだと思うんですけど、『三陽商会』さんが日本で売っていくなかで、ブラックレーベルやブルーレーベルみたいなライン立ち上げていたんですけど、だんだん日本でも認知がされたから、三陽商会さんに手数料を抜かれるより直接日本法人を作って展開したほうが儲かるよね、となってしまった。契約期間は4~5年になっていることが多いので、せっかく大事に育ててきたのに契約期限が来た途端に「もう契約は辞めます」みたいになることはあります。そこに対してインポーター(買い手)は強く言えないんですよね。

だから、最初の契約と途中でいなくなるという2つのリスクというのは、アパレルの業界でいうと非常に重たいものがありました。その会社は物流を広げすぎて、本当はいらなかったはずの物置倉庫みたいなものを借りていたんですよね。だから、“そんなのすぐに止めよう”と言ってどんどん在庫を溜めずに吐かせる形にしました。

次回は、どこで製造するかなど“物の動かし方”や原価の見直しなどからコスト削減する方法、“後進が育たない”、“優秀な後進を育てるために必要なこと”など、「会社の仕組みとしての問題点」について話を聞きます。

*Gorodenkoff / Shutterstock