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【インタビュー】企業再建のプロが語る中小企業経営の落とし穴と回避法3~「社長の言葉」が社員に伝わらない~

2020.09.23

日本の大手監査法人で財務諸表監査・内部統制監査を務めた後、再生事業を扱うコンサルティング会社で中小企業診断士として複数の企業再建に携わり、独立した現在もコンサルティング業務を請け負う経営コンサルタントに、主に製造業で傾く企業の特徴や問題点などを伺いました。

初回の記事では人件費や物流コストの削減について、前回の記事では細かな原価分析の必要性、後進を育てられないことによる高齢化や人材不足など「会社の仕組みとしての問題点」について紹介しました。そして今回は、進まないIT導入の課題はどこにあるのか、経営者と現場の乖離問題など、話を聞いています。

新しいシステムを導入できない壁と乗り越え方「どんどん意思決定を」

――後進が育たないことの他に社内の問題点を感じた部分は?

あとは、古くからの中小企業だと、銀行との付き合いで、銀行からの天下りっぽく財務担当として役員が入っていたりするんですよ。結構そういう人が社内で主張していたりするんですけど、僕らから見ると、邪魔だなと(笑)。若くてバイタリティーがある方だったら良いと思うんですけど、大体50~70代の銀行などを辞めて来る人が多い。ちょっと腰掛けに来た、みたいな人がいて意思決定も遅い。管理部のコストは結構馬鹿にならないので、今後は削減していくべきだし、削減できるようなツールはどんどん出ていると思うのですが、そこに手を出せず、効率化を進められないんです。

――ITの導入が上手く進まない?

全然進まないですね。「こういう会計システムありますけど」と提案しても、「私が辞めてからやってくれる?」みたいな。今までのソフトで慣れてしまっているので、変わると確かにしんどいのはわかるんですけど、でもそれってたぶん1ヶ月もやっていたら慣れてくると思うんです。年配の方はなかなか順応するのが難しいので、嫌がられるんです。だから導入されない。

――役員だけでなく、一般社員に嫌がられる場合も?

ありますね。会計システムなどは特に昔ながらの年配の女性社員さんが入力してくださったりしているので、そういう人はものすごく嫌がります。

――そこはオーナーにとっても、新しいものを導入出来ない壁だったりするかもしれませんね。

昔からいる社員は強くて、オーナーがなかなか年配女性社員に言えないケースなどもあって。1つの背景には、管理部の仕事って結構面倒なので、その女性社員が昔から経理をやってくれていたら、数字面の管理などその人がいなくなると会社としては実は困る。会長も社長もそれは思っていて、あまり強く言うと「高齢なのですぐ辞めます」と言ってしまいそうな方もいるんですよ。

――その問題はどうやって乗り越えていけばいいのでしょう?

どうしても新たなシステムの導入が必要な場合は、まず社長と会長を説得する。結局はそこが意思決定をするので、とにかく代表者を説得します。導入が決定されたら、管理系のシステムだったら僕らもわかるのでマニュアルを作ったりして説明し「こういうデータが取れるようになるので」と利便性を訴えます。

――現在、テレワークの普及によって交通費やオフィスの縮小などコストが削減できる部分も出てきていると思いますが、中小企業として今後できそうなことは?

中小企業の人は制度的に今も出社してしまっているんですけど、補助金は結構出ているのに高齢の経理担当者などだと「面倒くさいのでやりません」とか言うんです(笑)。でも、世間の流れでシステムの改革など「やろうよ」と言えるところだと思います。とにかく今の仕組みを変えないとまずいところはたくさんあると思うので、中小企業さんがIT化をいかに進められるかは、この時期が転機なんじゃないかなと思います。IT化できるところにアンテナを張って、どんどん意思決定をしてくれたら、効率化できると思います。

――例えばどんな部分がありますか?

税務は今、電子申告もできます。昔は1回ずつ年金事務所に行って出したり郵送していたんですけど、今はもうボタン1つで提出できるようになったりしているので、そのあたりをどんどん使っていく。多少お金はかかるんですけど、人件費よりはお金はかからないですし、国も電子申告を認めるようになってきています。株主総会の電子化も始まっているので、そういうものを取り入れていくと、コストの削減や効率化にはなると思います。

――あとは在庫を抱えるような業種だった場合、これを機にネット販売に力を入れて行くことも良さそうですね。

それは本当にありますね。ネット注文を受けたり、飲食だったら『Uber Eats(ウーバーイーツ)』を受けたりなど、売る場所を増やすことは今できるところだと思います。


社長は社員に伝わるよう言葉を噛み砕く努力が必要

社長メッセージ

https://www.shutterstock.com

――中小企業だとある程度の売上があれば、細かな見直しをしないまま、なんとなく会社が回ってしまっていることが多いんでしょうか。

そうですね。そして現場はぐちゃぐちゃなことが多いです。経営者が言ったことが現場に伝わっていないとか、経営者はすごく会社が回っていると思っても現場はぐちゃぐちゃで不満タラタラという、経営者と現場の乖離というのはよく起きていることなので、そこも1つ課題としてあると思います。

社長の一存で決めても社員が満足していればいいんですけど、そんなことはほとんどない。社長といえどもちゃんと制度で決めたうえでそのなかでの裁量というのが大事だと思います。会社の方向性含め、伝え方が良くないと社員に全然伝わらなくて、どんどん現場と経営の乖離が生まれることになってしまうのかなと思います。

――そこを解決するために、社長と社員のコミュニケ―ションも大切ですね。

僕らもよくコンサルとして歯車になってほしいと言われるんですけど、結局、社長が言っていることが社員はわからない。オーナー企業だったりすると、社長はなんとなく英才教育を受けてきていて、それなりに用語も知っていて多くの人と話したりしているので、知識などはあったりするし、これまでの成功体験もある。社員に向けて話すことはあるんですけど、あまり能力の高くない社員さんもいらっしゃる中で、社長の言葉として噛み砕かずにいつも喋っているような口調で独りよがりに喋ってしまうと、ほぼ社員に伝わっていないことがあります。

「社長の言っていたことはわかりましたか?」と聞いても「いやあ、何言ってたんですかね?」みたいな。社長はすごく準備して頑張って話したのに全然伝わってない、ということはよくあるので、その言葉を「こういうこと言っているんだ」と噛み砕いて話すことは社長も意識しなければいけないことだと思いますし、ニーズはあるので、僕らも分科会みたいなものを開いて、会議の中で「こういうことをやってくんですよ」とわかりやすく伝えるようにしています。

――もし、中小企業の社長から相談を受け、「傾く前に改善をしたい」と言われたら何を勧めますか?

その時の段階にもよりますが「もう資金繰りがやばくて」みたいな場合は、本当に人件費に手を付けるしかないかなと思います。急に改善は出来ないので。

ただ、コスト削減をしていくという話ばかりしてしまいましたが、やはりそれは社員にとっても嬉しいことではない。無駄なコストは減らすべきだと思ってはいますけど、会社が小さくなっていくとか、そこで作らなくていいよ、となっていくと、そこにいる人もクビにしなくてはいけなかったり、あるいは配置転換したりしなきゃいけない。「本当はここであの仕事をしたかったのにできません」という人が出てきてしまうので、社員としても嬉しいことではないですよね。

集客なども関係してくるので売上アップはかなり難しいのですが、商品の原価分析をした上で、消費者目線で物が売れていくような選択と見直しなど、コスト削減だけでなく売上の目標も掲げないと、そもそも社員がハッピーにならないと思うんです。そこが結構重要で、社長には伝えなきゃいけないところだと思います。

――社員もハッピーになる経営体制……難しいことですが、コンサルなどに相談し俯瞰で見ることで、解決に繋がることもありそうですね。貴重なお話、ありがとうございました!

*fizkes / Shutterstock