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【実践テレワーク導入記① 】Wi-Fiとセキュリティの課題〜突然のコロナ禍に見舞われた会計事務所の奮戦記〜

2021.01.15

今回のコロナ禍に差し迫られ、事務所の全面テレワーク(リモートワーク)化に踏み切ったという原会計事務所を経営する税理士の原尚美さん。

東京・大田区で平成2年に開業して30年。クライアントはほぼ法人で、業務内容は人材派遣業、IT業、介護事業、不動産業、建築業、飲食やアパレルなど、多岐に渡ります。30年の蓄積により顧客の半分は大田区の企業ですが、大阪や福岡、フランスのクライアントまでいるそうです。また、7年前にミャンマーにも事務所を設けています。

海外進出も果たしている原会計事務所ですが、日本の事務所はまだテレワーク体制にしておらず、今回のコロナ禍で必要に迫られテレワーク体制を整えました。手探りで進めたテレワーク導入の実態について話を聞きました。

日本は現金決済が多く領収書の規格もバラバラ「会計や経理という分野でテレワークは考えられなかった」

——まず、主な業務内容を教えてください。
原:主な仕事は、お客様の毎月の決算ですね。月次の試算表を作って申告をするのがメインです。そこに付随して経営のアドバイスや、資金調達のアドバイス、そしてお客様の愚痴を聞くというか(笑)。そこにも価値があるんだろうなと思っています。

——テレワークに移行するにあたりどんな障壁がありましたか?
原:元々、会計事務所はお客様の個人情報や秘密書類など、大事な情報を預かるので、テレワークってすごく難しいんです。なおかつ、今の日本は現金決済がとても多い。もちろん振り込みもありますが、会食などで現金を支払う場合もあるじゃないですか。ミャンマーの方が圧倒的にIT化が進んでいて、もう現金決済はないんです。だけど日本は現金がまだ中心なので、紙のレシートや領収書が絶対になくならない。しかも、それはA4サイズなどではなく全部規格がバラバラ。だから、会計や経理という分野は、テレワークがとても向いていない業種のひとつじゃないかと思います。

——たしかに、書類などが必須ですものね。
原:そういう意味でも、今までテレワーク化しようという気は全然なかったんです。うちの事務所は女性スタッフが多いんですよ。28名中、22名が女性で、その内17、8名が子持ち。お子さんが幼稚園や小学校に通っている人が中心なので、働ける時間が限られていて、残業ができない人が多いんです。お子さんの具合が悪くなったり、インフルエンザになったりすると2日間家にいなければいけないとか。だから、「家に持ち帰って仕事をしたい」というリクエストは以前からあったんですけど、全部ダメだと言っていました。「データを少しでも持ち出してはダメ」と言っていたくらいで、テレワークなんて考えられなかった。
それでも、今回の新型コロナウイルスの件で、ヨーロッパがロックダウンしたのを見ていて「次、日本がこうなるんじゃないか」という危機感を抱いたんです。フランスのお客様に話を聞くと、仕事でも外出できず、外出するときは外出許可証を持ち歩かないといけない、という状況でした。しかも、日本は確定申告の真っ最中。

——そうでした! 提出期限が延びるかで話題になっていたのを覚えています。
原:3月15日までの申告期限が4月15日までに延びたので、まだ2月末くらいの日本は危機感が薄く、私たちも「3月末くらいまでに終わらせよう」という感じでした。でも、ヨーロッパの状況を見ていて、「もし外出できなくなったら事務所に誰も来られなくなるんじゃないか」と思ったんです。そうすると、いくら期限が4月15日に延びたところで、仕事が止まってしまう。「今のうちに何とかしなければいけない」と思いました。

テレワーク化の流れで品薄に……「判断があと数日遅れていたら、間に合わなかった」

原:じゃあ、「テレワーク化するには何が必要か」と、まず考えました。全くノーアイデアだったので、「ノートパソコンはいるよね」と最初に思いました(笑)。うちは全員がデスクトップパソコンで1人2台大きなディスプレイを使っています。データ入力をするときに、とにかく画面が大きい方が効率がいいので。お客様からのデータを1台に表示して、もう1台の画面で入力するというデュアルディスプレイで作業しています。一方、ノートパソコンはお客様のところへ訪問する際に持ち出す用の3台しかありませんでした。

——数が全然足りませんね……。
原:「全員分のノートパソコンを買うの!?」と思ったときに、まず「ひえ~」と血の気が引きました。けれど、中心となるスタッフの分は買おうと思って、まず5台くらい買いました。ちょうどその頃、3月の半ばくらいからノートパソコンが品薄だといわれ始めるんです。政府もテレワークを推奨するようになってきて。

——ああ! 品薄の状況はありましたね!
原:「まずい」と思って「早めに買うしかない」と。「買えるだけ買おう!」と思い、ギリギリ3月末までにほぼ買い揃えることができました。実は3月の頭ぐらいに、東京都から企業にテレワーク用の補助金が出るという話があって、最初はそれを申請をしてからの購入を考えていたんです。でも、(パソコンも品薄になり)「申請が通るのを待っていられない」と思って、購入に踏み切りました。
3月の後半は小学校が休校になり始めて、なかには先行でテレワークを始めているスタッフもいました。最初は「パートさんの分はいいかな」と思っていたんですけど、パートさんこそ、子どもが小さくて外出が難しいんですよ。最後の1台は、直接お店に買いに行ったんですが、それがまさかの最後の1台! それで揃えられたんですけど、あの判断があと数日遅れていたら、間に合わなかったと思います。

——ギリギリ在庫残り1台を買えたんですね。
原:でも、それはまだまだ序の口で。ノートパソコンだけあっても仕方がなくて、「Wi-Fiとリモートソフトが必要だよね」となるんです。Wi-Fi環境は、自宅で十分ある人もいるので、全員分は揃えなくても平気だったんですが、リモートソフトはそうはいかないじゃないですか。

完全テレワーク化の前にテストして判明したこと、セキュリティで気にかけていること

——リモートソフトというのは、どこまでできるソフトなのでしょうか?
原:事務所にサーバーを置いて社内で使用しているのですが、事務所で作業するときと同じように自宅のノートパソコンから使える環境にするためのものです。

——自宅から事務所のサーバーに接続するためのソフトということですね。
原:そうです。支給した自宅のノートパソコンから事務所のデスクトップパソコンをコントロールするためのソフトですね。セキュリティ面を考えて、自分のデスクトップにしか繋がらない、というものを導入しました。

割とITに詳しいスタッフと相談して、「うちの作業内容に合うリモートソフトで、しかもセキュリティもしっかりしていて、そこまで値段が張らないものを選ばなきゃいけない」と考えました。値段が高ければいくらでも良いものがあるはずなんですけど、全員分揃えるには厳しいので、そこそこの値段で探しました。『RemoteView』というソフトを選んだのですが、それも実は最後の在庫で。加えて、ウイルス対策ソフトも全員分購入して、もう泣きそうなくらいお金がなくなりました(笑)。

—— 一度に全員のスタッフ分を負担は大変ですね。
原:それで全部揃ったと思ったら、フランスのお客様から、「家のネット環境から全員テストした方が良い」と言われたんです。「やってみないとわからないこともある」と言われて。スタッフが交代勤務でテレワークのテストをする日を作り、全員試してみたんです。

みんなリモートソフトの使い方も最初はわからないし、試してみたら家のWi-Fi環境があまり良くなくて、回線が重かったりソフトが上手く動かなかったりする人も出てきました。会計を入力するのに回線が重いと仕事にならないので、Wi-Fi端末を買い直さなければ、となったんですが、これがまた売ってないんですよ……。

——テレワーク化が一気に広まって、世間的にもWi-Fi回線が不安定になったり、端末不足が起きたりしましたよね。
原:だからWi-Fi端末も十分なチョイスはできなかったんですが、最後に残っているWi-Fi端末を買って、残りは1週間待ち、1ヶ月待ちとか。何人かは、申し訳ないですけど家の重い回線で我慢してやってもらっていました。それでも、あのフランスのお客様からの「とんでもないことになるよ」という情報がなかったらもっと困ったと思いますし、結局3週間くらいで全員のテレワーク化ができました。

——お金関係の情報を扱うお仕事なので、特にセキュリティ面が心配かなと思うのですが、テレワーク化は可能なんですね。
原:可能ですが、セキュリティ面に関してはすごく気を遣います。ちょっとでも気を緩めるとルーズになってしまうので。例えば、スタッフたちが今までデスクトップのデュアルディスプレイで作業していたのがノートパソコン1台でやらなければならないので、ものすごく効率が落ちるわけです。そうなると、「自費でディスプレイをもう1つ買ってもいいか」とか、「キーボードを買って繋げてもいいか」と相談されるんですけど、全部NGにしています。大きなディスプレイを買って用意してあげればいいんですけど、全員分はなかなか難しいですね。

でも、作業環境を整えるのも大変だったのですが、もっと大変だったのが、コミュニケーションをどうするか、という問題だったんです。全くゼロからやっているから、何を揃えればいいかわからなくて、「テレワークでコミュニケーションってどうやって取るんだろう?」と思い、次にコミュニケーションツールを探し始めたんです。

金銭面や在庫状況で苦労したパソコンやリモートソフトの調達より、もっと大変だったというコミュニケーションツール。「選ぶのが大変でスタッフと揉めてケンカになりました」と語ったその真相は? 次回記事に続きます。

プロフィール

原 尚美 (はら・なおみ)
https://www.soumunomori.com/keiei-izumi/archives/author/hara
税理士。
東京外国語大学卒業。TACの全日本答練「財務諸表論」「法人税法」を全国1位の成績で、税理士試験に合格。直後に出産。育児と両立させるため、1日3時間だけの会計事務所からスタートし、現在はスタッフ49名(ミャンマー事務所含む)、一部上場企業の子会社やグローバル企業の日本子会社などをクライアントにもつ。ミャンマーに会計サービスの会社を設立し、海外進出支援にも力をいれている。
https://hara-tax-accounting.com/