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ビジネスマン

委託先が値上げ…取引先から価格改定交渉を受けた場合の対応方法【弁護士が解説】

2022.12.16

ウクライナ情勢や円安などの影響で、原油を始めとするエネルギー、原材料価格の高騰、さらには最低賃金の引上げや人材獲得競争の激化による人件費の高騰などにより、企業の事業活動に要するコストが増加しています。こうしたコスト増加に対して、下請構造の中で発注事業者が下請事業者へ価格を転嫁せず、下請事業者にコスト増加の負担を押し付ける例が見られることから、国は、適切な価格転嫁等によりサプライチェーン全体でコストを負担していくことが重要であるとして、適切な価格転嫁の実施を促しています。

そこで、今回はこうした国の動向を踏まえて、取引先からコスト増加を理由として価格交渉を受けた場合、どう対応すべきかを解説します。

価格改定は「交渉事」であることが基本

価格改定はまさに交渉事です。したがって、原則的には価格改定に応じるか否かは任意であり、必ずこれに応じなければならないというわけではありません。もっとも、契約上、「〇〇の場合には、価格を〇〇とする」というような合意が予め定められているような場合には、この合意にしたがって、価格を変更する必要があります。契約上よく見られる条項は、「〇〇の事情がある場合には、双方協議の上、価格を改定する」といった内容です。これは、「協議をすること」は定められているものの、「価格改定に応じること」は定められていないので、このような文言があっても、価格を改定する義務はありません。

つまり、“価格改定に応じるか否かは交渉事であり、これに応じないことが直ちに違法になるというわけではない”というのが基本的な考え方です。

【請負業者はこちらをチェック】買いたたきかも?価格改定に応じない取引先への対応方法【弁護士が解説】

ただし下請法には要注意

上記のとおり価格改定は交渉事であり、基本的には自由競争の問題です。ただし、取引上の力関係などから不当に圧力をかけ、自由競争をゆがめるような場合には「下請代金支払遅延等防止法」(以下、下請法)が問題となります。下請法は、独占禁止法上で禁止されている“優越的地位の濫用”の適用を補完する法律であり、その適用範囲は、明確に定められています。

(1)下請法の適用がある取引

まず、下請法の適用対象となる取引は、以下の取引に限られます。ここでは、下請構造にあることが必要であり、そうではない単純な外注は含まれません。

①製造委託:事業者が他の事業者に対し、物品等の規格・品質・性能・形状・デザイン・ブランドなどを指定して製造(加工を含む。)を依頼すること
②修理委託:物品の修理を請け負っている事業者がその修理を他の事業者に委託したり、自社で使用する物品を自社で修理している場合に、その修理の一部を他の事業者に委託すること
③情報成果物作成委託:ソフトウェア、映像コンテンツ、各種デザインなど、情報成果物の提供や作成を営む事業者が、他の事業者にその作成作業を委託すること
④役務提供委託:運送やビルメンテナンスなどの各種サービスの提供を営む事業者が、請け負った役務を他の事業者に委託すること

(2)親事業者・下請事業者の範囲

次に、親事業者・下請事業者の関係については、それぞれ資本金、取引類型に応じて定められています。

価格改定拒否が下請法の「買いたたき」の禁止に該当する場合

下請法の適用がある場合、価格改定拒否は“買いたたきの禁止”に該当する可能性があります。“買いたたき”というのは、「下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること」を指します(下請法第4条第1項第5号)。

特に、冒頭述べたエネルギー高騰等によるコスト増加との関係では、2021年12月27日、内閣官房・消費者庁・厚生労働省・経済産業省・国土交通省及び公正取引委員会が「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」を取りまとめ、これに基づき下請法の運用基準(平成15年公正取引委員会事務総長通達第18号)を改正し、以下のような場合は“買いたたき”の禁止に当たる可能性があることが明確にされています。

5 買いたたき
(中略)
(2)次のような方法で下請代金の額を定めることは,買いたたきに該当するおそれがある。
ア,イ(略)
ウ 労務費,原材料価格,エネルギーコスト等のコストの上昇分の取引価格への反映の必要性について,価格の交渉の場において明示的に協議することなく,従来どおりに取引価格を据え置くこと。
エ 労務費,原材料価格,エネルギーコスト等のコストが上昇したため,下請事業者が取引価格の引上げを求めたにもかかわらず,価格転嫁をしない理由を書面,電子メール等で下請事業者に回答することなく,従来どおりに取引価格を据え置くこと。

引用:下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準 / 公正取引委員会

したがって、労務費、原材料価格の高騰、エネルギーコストの増大等でコストが増加しているものの、特段の必要性を明示することなく従来どおりの価格で据え置く場合や、取引先の価格引上げの要望があったにもかかわらず、特段の回答をすることなく従来どおりの価格で据え置くような場合には、“買いたたき”の禁止に該当し、下請法違反となる可能性があります。

ただし、これも、「価格を据え置いてはいけない」と書いているわけではなく、価格改定に応じることができない理由を説明し、交渉した結果、据え置くこととなる場合には、“買いたたき”の禁止にはならないと考えられます。

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価格改定の申入れがあった場合はしっかりと必要性を検討

上記述べてきたとおり、取引価格の決定は、原則的には交渉事となり、これに応じる義務はありません。もっとも、契約上、予め特定の場合には取引価格を変更する定めがある場合には、これに応じる義務がありますので、まずはそうした条項が契約書に定められていないかを確認しましょう。仮にそうした条項がない場合でも、下請法の適用がある場合に、価格改定の交渉について協議すらしない場合や、特段の必要性を示すことなく価格を据え置くような場合には、下請法上“買いたたき”に禁止に該当し、違法となる可能性があります。

そのため、価格改定の申出があった場合には、まずは自社のなかでこれに応じることができるかどうか、そしてこれに応じることができない場合には、その理由を示し、当事者間でしっかりと協議をするべきでしょう。

同パッケージに基づいて、買いたたきなどの違反行為が疑われる親事業者に対する違反行為情報提供フォームが設置されています。価格改定の申し入れを受けた企業は、適切な対応をすることが肝要です。

 

価格改定の申入れに対して適切に対応することは、サプライチェーン全体の持続性の確保にもつながり、長期的に見れば自社のメリットにもなるでしょう。

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*takeuchi masato、ふじよ、midori_chan / PIXTA(ピクスタ)

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