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フリーランスガイドライン

想定外の規制も!ガイドラインを踏まえた「フリーランスへの発注」企業側の注意点

2021.11.12

ウェブサイトの運用、イラストやCGの制作、イベントや展示会の手配、ECショップの管理、ITコンサルタントなど、近年フリーランスとして働く人が増加するとともに、フリーランスを活用する企業も増加しています。これをうけ、フリーランスとして働く人の労働環境を整えるため、2020年3月に『フリーランスガイドライン』が策定されました。

同ガイドラインでは、フリーランスと企業との取引にも下請法、独占禁止法が適用されることが明記されています。これまで下請法、独占禁止法において、中小企業は大企業との関係で“守られる側”でしたが、フリーランスとの関係では反対に“守る側”となります。

そこで、今回は弁護士である筆者が、『フリーランスガイドライン』を踏まえ、中小企業がフリーランスに業務を発注する際の注意点を解説します。

フリーランス活用のメリット

企業がフリーランスを活用するメリットとしては、次のようなものが挙げられます。

(1)社内にはない知識・スキル・ノウハウ等を活用することができる
(2)少子高齢化が進む中で雇用にこだわらずに人材を獲得できる
(3)働き方改革のなかで従業員の業務量・業務負担を軽減できる

昨今では、社内のデジタル化等の目的で、即戦力として外部の専門人材を活用するケースが増えています。社内に十分なリソースがない中小企業において、フリーランスの活用は今後ますます重要となってくるでしょう。

フリーランスガイドラインで中小企業も「守られる側」から「守る側」へ

こうしたフリーランスの活用ニーズの増加やフリーランスとして働く人が増加している状況を踏まえ、2020年3月、内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省の省庁横断で『フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン』(以下、『フリーランスガイドライン』といいます。)が策定されました。

『フリーランスガイドライン』は、多様な働き方や高齢者の働き方の一つとして、フリーランスとして働く人が増加していることから、フリーランスが安心して働くことのできる環境を整備するために策定されたものです。

これから述べるとおり、『フリーランスガイドライン』では、フリーランスと企業との取引にも下請法、独占禁止法が適用されることを明確にしています。そのため、中小企業にとって下請法、独占禁止法は、これまで大企業との関係で“守られる側”でしたが、これからフリーランスとの関係では反対に“守る側”となります。

フリーランスガイドラインにおけるフリーランスの定義

まず、『フリーランスガイドライン』における“フリーランス”の定義を説明します。同ガイドラインでは、“フリーランス”を、“実店舗がなく、雇人もいない自営業主や一人社長であって、 自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者”と定義しています。

この定義からは、例えば店舗を構えて商売を行う個人経営の八百屋等は“店舗がない”という要件に該当しないため、“フリーランス”ではないということになります。

しかし、このフリーランスの定義は、法令上の根拠がありません。“フリーランス”に該当しない場合であっても、およそ個人事業主と取引を行う場合には、『フリーランスガイドライン』の内容が同じく適用されることとなりますので、法的には“フリーランス”に当たるかどうかにこだわる必要はありません。そのため、先に例に出した八百屋のような場合も、取引にあたっては同ガイドラインをふまえたほうがよいといえます。

フリーランスへの発注時に注意すべきこと

ここからは『フリーランスガイドライン』をふまえて、企業がフリーランスに発注する際に注意すべきことを解説していきます。

フリーランスへの発注は書面の交付が必要

『フリーランスガイドライン』では、企業がフリーランスに対して発注を行う際には取引条件を記載した発注書面の交付を要求しています。

企業とフリーランスとの取引に下請法が適用される場合には、発注書面の交付は義務となります。他方で、企業とフリーランスとの取引に下請法が適用されない場合であっても、独占禁止法が問題となり、発注書面を交付しないことは独占禁止法上“不適切”とされています。

ここで、独占禁止法上“不適切”と表現されているのは、下請法と違い、独占禁止法には発注書面の交付を義務付ける規定がないためです。発注書面を交付しないことは“違法”ではないものの、取引条件を曖昧にさせるため、のちほど説明する下請法、独占禁止法違反の行為を招きやすくします。

フリーランスに発注する際は、書面を交付し、必要事項を記載するようにしましょう。発注書面に記載する具体的な内容は次のとおりです。

下請法、独占禁止法上で問題になりやすい12の行為

下請法によって守られる“下請事業者”には、“個人も含む”とされているため、フリーランスも下請法上の“下請事業者”として保護されています。また、独占禁止法は、“事業者間”の取引に適用されるものであり、その対象は“法人”に限定されておらず、フリーランスとの取引にも適用があります。

このように、“制度上”は、もともと企業とフリーランスとの取引にも、下請法、独占禁止法の適用がありました。しかし、“事実上”この点はあまり認識されていなかったことから、この点を明確にし、周知を図ることが『フリーランスガイドライン』の大きな狙いの一つです。

同ガイドラインでは、企業とフリーランスとの間の取引において下請法、独占禁止法上、特に問題となりやすい行為として、以下の12類型の行為を挙げています。

中小企業とフリーランスとの関係で特に見られる行為は、①報酬の支払遅延、②報酬の減額、③著しく低い報酬の一方的な決定、⑤一方的な発注取消です(上記図の赤字箇所)。これらの点にはよく注意をしましょう。

働き方によってはフリーランスではなく労働者とされる場合も

『フリーランスガイドライン』の基本的な考え方は、企業との取引において、フリーランスを“事業者”として扱い、下請法、独占禁止法を適用させることによって、フリーランスを保護するというものです。

フリーランスが企業との間に結ぶ契約形式の多くは“業務委託契約”です。しかし、“業務委託契約”という形式でフリーランスとして働いていたとしても、実際の働き方が“労働者”に当たる場合には、労働基準法、最低賃金法等の労働関係法令の適用されることになります。

この点も、もとより当然の考え方でしたが、契約の形式だけを“業務委託契約”とし、労働関係法令の適用を潜脱する例が見られることから、同ガイドラインではこの点をより明確にしました。

上記の図のとおり、働き方に労働者性があるかを判断する出発点は、以下の3点です。

(1)仕事の依頼、業務指示を受けるか否かを自分で決めることができる
(2)業務の内容や遂行方法について発注者から具体的な指揮命令を受けている
(3)発注者から勤務場所、勤務時間が指定され、管理されている

上記3点に該当する場合、形式上は“業務委託契約”であっても、実態に照らして“労働者”として労働関係法令の適用を受ける方向に大きく傾きます。思いがけず労働関係法令の適用を受けてしまうことになりますので注意が必要です。

想定外の規制を回避するためのフリーランス発注のポイント

フリーランスと“業務委託契約”の形式で契約を行えば、何らの法的規制も受けないと誤解している例が見られます。しかし、上記のとおり、例え“業務委託契約”の形式であっても、①下請法、独占禁止法、②実態に照らして労働関係法令、が適用されることとなり、想定外の規制が課せられる可能性があります。

そのため、『フリーランスガイドライン』を踏まえ、フリーランスに対して発注を行う場合には、以下の2つのポイントを押さえておきましょう。

ポイント1:発注する業務内容を明確に切り出し契約に落とし込む
日本企業では社内における業務が明確にきりわけられていないことが多く、フリーランスに対して業務の発注を行う場合にも、業務内容を明確にせずに行ってしまう傾向があります。

こうした行為は、業務内容を曖昧にし、下請法、独占禁止法違反を招きやすいといえます。また、業務内容が曖昧なまま一方的な指示を行うことは、労働者性を肯定する方向にも働きます。そのため、発注する業務内容を明確に切り出し、契約書に落とし込みましょう。

ポイント2:あらかじめ契約するフリーランスのスキル等をしっかりと判断する
フリーランスに対して発注をする場合、フリーランスが想定したスキル等を有しておらず、結果的に発注した企業が細部にわたる指示をしてしまう場合があります。しかし、こうした行為は、労働者性を肯定する方向に傾きます。

これを避けるために、業務の内容や遂行方法を裁量に任せてよいフリーランスであるかどうかを事前にしっかりとチェックしておきましょう。

下請法が適用されない場合でも備えておきたいこと

下請法が適用されない場合、発注書面を交付しないことは“違法”ではないと前述しました。しかし、現在、フリーランスと企業での取引にあたっては、下請法が適用されない場合でも、書面交付を義務付ける立法が検討されています。

具体的にどのような義務が課されるかはまだ不明ですが、『フリーランスガイドライン』が求める内容に近いものとなることが予想されますので、あらかじめ社内において書式を作っておくとよいでしょう。

* 8×10 / PIXTA(ピクスタ)