
退職した社員が競合他社へ…制裁は可能?退職後トラブルに関するお悩みまとめ
近年、転職を通じて自らのスキルを活かし、新たな職場でキャリアアップを目指す人が増えています。一方で、退職時に交わした競業避止義務が問題となり、トラブルに発展するケースもあるでしょう。また、SNSなどで話題の退職代行サービスを利用した場合、退職手続きがスムーズに進まないなどの課題が生じることもあります。
競業避止義務の有効性や、退職者の権利を巡るトラブル対応は企業として慎重な判断が必要です。本記事では、そんな退職トラブルに関するお悩みをまとめました。どの会社でも起こりうる問題だからこそ、ぜひご一読いただき、参考にしてください。
1. 退職誓約書違反の元社員、制裁を加えることは可能?
質問日:2024年11月11日
◆1. 質問内容(全文)
退職誓約書で退職後1年間は競合他社への転職を禁止事項に対して署名をした元社員が退職後、すぐ競合他社へ転職したことが判明した場合、制約違反として本来はらうべき退職金を未支給にするなど制裁を与えることは可能か?
◆1. 総務の森に寄せられた返信はこちら
●回答①
退職誓約書における競業避止義務(競合他社への転職禁止)について
– 競業避止義務の有効性:
– 日本国憲法第22条1項により、職業選択の自由が保障されています。したがって、競業避止義務が労働者の職業選択の自由を過度に制限する場合、その誓約は無効とされる可能性があります。– 合理的な範囲:
– 競業避止義務が有効とされるためには、期間、地域、職種などが合理的な範囲内である必要があります。たとえば、1年間の競業避止義務が合理的と判断されるかどうかは、具体的な状況によります。– 代償措置の有無:
– 競業避止義務に対する代償措置(たとえば、退職金の増額など)が提供されているかどうかも、重要な要素です。– 制裁措置の適法性:
– 競業避止義務違反に対する制裁措置として退職金の未支給を行うことが適法かどうかは、労働契約や就業規則に明記されているか、またその内容が合理的かどうかによります。
●回答②
まず、退職誓約書が有効かどうかを考える必要があります。
判例上、
①守るべき企業の利益があるか
②従業員の地位が、競業避止義務を課す必要性が認められる立場にあるものといえるか
③地域的な限定があるか
④競業避止義務の存続期間は妥当か
⑤禁止される競業行為の範囲について必要な制限が掛けられているか
⑥代償措置が講じられているか
といった観点から、総合的に有効性が判断されることになります。退職誓約書が有効であるとして、そのうえで、貴社の退職金規定等にのっとって、減額・未支給が適切か判断されます。
単純に、競合他社への転職禁止、というような条項は無効とされるケースが多いようです。
●回答③
(前略)
貴社の退職金規定を確認しないとわかりませんが、憲法で保証されている職業選択の自由を貴社が奪うことは難しいかと考えます。退職の理由が懲戒解雇や諭旨解雇によるものであれば、それをもって減給はできる可能性はありますが、貴社が希望しない転職先に転職したから事前に約束した金額を減給することは難しいと考えます。
>相談元やほかの返信はこちら
総務の森<相談の広場>『退職誓約書違反』
【関連記事】「競業避止義務」とは?トラブル事例もチェック
社員が退職したあと、競業他社へ転職したり、競業となる会社を設立し事業を開始したりすることがあります。こうした元社員による競業行為は、自社での経験を活かして自社と利益の取り合いになる行為であり、会社としてはこのような競業を禁止したいところです。他方で、退職した社員には職業選択の自由が保障されており、どこまで“競業避止義務(きょうぎょうひしぎむ)”を厳格に課すことができるかは悩ましい問題でしょう。そこで下記記事では、弁護士が退職した社員に対する競業避止義務について解説します。
>詳しくはこちら
経営ノウハウの泉『退職した社員が顧客を横取り?「競業避止義務」の重要性とトラブル事例【弁護士が解説】』
2. 退職代行を利用して退職を申し出た従業員への対応方法は?
質問日:2023年1月5日
◆2. 質問内容(一部抜粋)
(前略)
2023年1月4日付で退職するとの申し出を、退職代行の弁護士を介して通知してきた従業員がいます。
昨日代理人弁護士が弊社へ電話連絡したようですが、弊社は1月4日まで年末年始の休業でしたので当然のことながら電話対応する者はおらず、FAXにて詳細を記載通知が届いていました。それを今朝確認しました。以下が退職に際しての代理人から通知があった詳細です。
・本人や家族には連絡や訪問しないこと
・一身上の都合で、1月4日付で退職すること
・離職票、源泉徴収票、給与明細、健康保険資格喪失証明書を本人に直接郵送
・保険証は本人が郵送して返却するとのことです。この詳細の原本を後程内容証明郵便で送付します。と、書いてありました。
弊社は「去る者追わず」なので早速退職の手続きを進めようと思いますが、特に会社側で質問などない場合、代理人には連絡せず上記通知の詳細全てに則って退職手続きを履行すれば何も問題は無いでしょうか。
当該従業員は2022年4月1日入社で、10月1日から10日の有給休暇が付与されていますが、付与以降1度も取得せず退職しました。使用義務の5日がどうなるのか気になります。
弊社就業規則では有給休暇の買い上げは基本的にしないと定めており、本人の希望申し出があった場合のみ、直近3か月の1日当たりの平均賃金で買い上げるとしています。
退職に際しての希望詳細に有給休暇を買い上げるとの申し出がありませんので、敢えてこちらから申し出る必要はないでしょうか。
就業規則は従業員全員が閲覧できる場所(休憩室)に各種協定届の控えと共に備え付けており、気になることは閲覧確認の後、直接質問するようにと定期的に指導しています。
◆2. 総務の森に寄せられた返信はこちら
●回答①
(前略)
>何も問題は無いでしょうか
文章だけでは判断できませんので、貴社に顧問弁護士さんがいるのであれば、相談して対応されることがよいでしょう。内容証明郵便が届いたのであればそれによる退職の証としてよいかと考えますが、FAXがその証になるのかについては自信ありません。
本人に連絡しないということであれば、その弁護士さんが窓口になっているかと思います。
文面から1月4日に退職することについて、貴社が支障ないのであれば、その申出を受けて手続きをおこなうことになるでしょう(1月4日に申出という解釈になるかと思います)。
有給休暇については結果として義務分の取得をさせることが出来なかったということになりますが、すでに自主退職した以上、仕方がないと思います。買い上げをおこなったとしても、取得させていないことには変わりありません。
(後略)
●回答①への返信
(前略)
> 文章だけでは判断できませんので、貴社に顧問弁護士さんがいるのであれば、相談して対応されることがよいでしょう。
弊社に顧問弁護士はおりませんので、弁護士的見解が必要と感じた場合は懇意にしている先生へ相談しようと思います。今回は特に向こうの申し出に質問や疑問はありませんので、このまま手続きを履行しようと思います。> 内容証明郵便が届いたのであればそれによる退職の証としてよいかと考えますが、FAXがその証になるのかについては自信ありません。
FAXに記載されていたことと同内容の文章を内容証明郵便で後日郵送すると記載されてありましたので、この内容証明郵便が正式な退職届となるかと思います。> 本人に連絡しないということであれば、その弁護士さんが窓口になっているかと思います。
そうですね。手続きを終えた旨など、本人に知らせる必要がありますのでそれは今後必要となったときに代理人へ連絡します。> 文面から1月4日に退職することについて、貴社が支障ないのであれば、その申出を受けて手続きをおこなうことになるでしょう(1月4日に申出という解釈になるかと思います)。
特に問題ありません。(去る者追わずなので)業務に支障は出ますが、本人の決断や人生にあれこれ意見する資格はないと考えております。辞めたい人を引き止めたりしつこく理由を知りたい等という考えはありませんので、一刻も早く手続きを終えて完全に縁を切ってしまいたい気持ちが強いです。> 有給休暇については結果として義務分の取得をさせることが出来なかったということになりますが、すでに自主退職した以上、仕方がないと思います。買い上げをおこなったとしても、取得させていないことには変わりありません。
まだ付与して2か月でしたし、11月12月は繁忙期ですので取得の指導などする時間もなかったのが正直なところです。年末営業最終日もいつもと変わりなくあいさつを交わして別れましたので(1月にお願いしていた仕事の打ち合わせもしたような状況です)、まぁ、仕方ないです。どうすることも出来ません。
●回答②
弁護士は文字通り「代理人」です。よって本人には連絡しないで、という要望には応えてもいいと思います。で、退職手続きを進めるにあたり、当人への問い合わせ等がなければ弁護人に対しても特に連絡は不要と考えます。会社がするべきことはされているようですし、私が考えるに何の問題もない事例だと思います。
>相談元やほかの返信はこちら
総務の森<相談の広場>『退職代行を利用して退職を申し出てきた従業員への対応について』
【関連記事】退職代行サービスを利用された際の対処法とは
近年、「退職代行サービス」(以下、退職代行)と呼ばれるサービスを利用して会社を退職する社員が増えています。会社としては、「自分で退職を伝えてこないのは何事だ」というように、代行を利用した退職に対して違和感を覚えることもあるでしょう。そこで下記記事では、経営者に向けて退職代行を利用した退職の対処方法を解説します。
>詳しくはこちら
経営ノウハウの泉『社員が「退職代行サービス」で退職…これは違法?対処法や注意点を弁護士が解説』
最後に〜相談の広場ご紹介〜
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