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退職代行サービス

社員が「退職代行サービス」で退職…これは違法?対処法や注意点を弁護士が解説

2023.09.28

近年、「退職代行サービス」(以下、退職代行)と呼ばれるサービスを利用して会社を退職する社員が増えています。筆者が関与している会社でも、社員が退職代行を利用して退職届を出してきたというケースが年に数件は見かけます。

会社としては、「自分で退職を伝えてこないのは何事だ」というように、代行を利用した退職に対して違和感を覚えることもあるでしょう。そこで、今回は、経営者に向けて退職代行を利用した退職の対処方法を解説します。

退職代行とは

退職代行とは、一般に、社員に代わって会社に対して退職の意思を伝えるサービスを指します。

退職代行には、大きく3つのパターンがあります。

  1. 法律事務所が代行するパターン
  2. 労働組合が代行するパターン
  3. 上記いずれでもない一般の業者が代行するパターン

実際に退職代行から退職の意思が通知されるのは、メールや電話ではなく、書面が送られてくる例が多いでしょう。

具体的には、以下が書かれていることが多いと思われます。

  • 退職代行業者が社員の依頼を受けている旨
  • 退職の意思
  • 有給取得の意思
  • 退職が自由であり原則として拒否ができない旨

退職退行を利用した退職を拒否できるか

では、そもそも退職代行を利用した退職を拒否することはできるでしょうか。

まず、前提として、社員には退職の自由が保障されており、理由を問わず退職することができるのが原則です(民法 第627条。ただし、後述するように、有期雇用の場合は、労働者からの退職にも制限があります)。

したがって、退職の意思表示がされてから、予告期間の2週間が経過した時点で、退職の効果が発生することになります。

退職代行は、このような社員の退職の意思を「代理人」又は「使者」として伝えているということになりますので、退職代行を利用した退職の意思表示は、いわば「本人」からの意思表示と同じ扱いになります。

したがって、理由を問わず退職は可能である以上、「退職代行を利用した退職は拒否する。退職するなら本人が直接伝えなさい」という反論は通らないということになります。

【参考】民法 第627条/厚生労働省

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退職代行を利用することで起こるトラブル

退職代行は、いわば社員の退職意思を代わりに伝えているだけだということで、トラブルになることはそれほど多くありません。

ただし、時折、以下のようなトラブルが起こることがあります。

1. 非弁行為との関係

上記で「退職代行は、退職の意思を『代理人』又は『使者』として伝えている」とお伝えしましたが、実はこのどちらであるかが、弁護士法が定める非弁行為として違法となるかのポイントになります。

ここで「代理人」とは、極めて平易にいえば、本人に代わって行動することなのですが、「法律事務」について「代理人」になることができるのは、弁護士法上、弁護士に限られます。退職の意思表示は、労働契約の終了という法律効果を発生させるものなので、「法律事務」にあたります。

したがって、基本的には、退職の意思表示を本人以外になし得るのは、弁護士に限られます。その他、労働組合も可能とされており、冒頭で述べた退職代行の類型のうち、法律事務所が代行するパターンか、労働組合が代行するパターンのみが適法です。

他方で、「使者」というのは、本人に代わって行動することではなく、本人のいっていることをそのまま伝える、いわば“伝書鳩”のような役割に過ぎない場合をいいます。「使者」については、弁護士でなくとも非弁行為に該当することはないとされていますので、冒頭に述べた退職代行の類型のうち、弁護士事務所でも労働組合でもない一般の事業者でも行うことができます。

実際には、かなり線引きが微妙なことが多いですが、仮に退職代行の業者が一般の業者である場合には少なくとも交渉事はできません。そのような業者が単に退職の意思を伝えるだけでなく、何らかの法的主張を付加してきているような場合には、非弁行為である旨を指摘のうえ、交渉しないようにしましょう。

2. 有期雇用の退職

労働者には原則として退職の自由があり、理由を問わず途中でやめることができるのが原則です。

しかし、これは無期雇用契約の場合のルールです。有期雇用契約の場合には、これは適用されず、有期雇用契約を途中で終了させるには、たとえ労働者側であったとしても、「やむを得ない事由」がなければやめることができません(民法 第628条。ただし、契約期間が1年を経過した後は、自由に退職可能となります(労基法附則137条))。

この「やむを得ない事由」は、解雇権濫用法理よりも厳格であると解されていますので、かなりハードルは高いといえます。

したがって、まず退職代行を使って退職を告げてきた社員が、無期雇用社員なのか有期雇用社員なのかを確認し、有期雇用社員である場合には、「やむを得ない事由がない」ということで退職を拒むことも考えられます。

【参考】民法 第628条労働基準法に関するQ&A(労働基準法第137条)/厚生労働省

3. 引継ぎの拒否

退職代行を利用する社員は、「もう会社には行きたくない」という人が多いといえます。

そうすると、急に退職代行を利用して退職を告げられても、業務の引継ぎがなされていないことがあります。一般的には、就業規則の規定で引継ぎ義務が課されていることが多く、退職代行を利用してきた場合であっても、引継ぎを命じましょう。

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退職代行を利用し、退職の意思を通知された場合の対応

退職代行を利用して退職の意思が示された場合、有期雇用であって契約期間が1年未満の場合でない限り、基本的には退職を受け入れざるを得ません。

したがって、退職代行サービルを利用して退職の意思を通知された場合の企業の対応の流れとしては、以下の通りとなります。

  1. 当該退職代行は、一般の業者が、弁護士事務所か、労働組合運営かを確認(そのうえで、交渉を要する内容の場合には、一般業者とは対応をしない)
  2. 当該退職代行が正当な代理又は通知の権限を有しているか(本人の意思に基づくものか)
  3. 当該社員の雇用期間の定め、これまでの契約期間の確認
  4. 退職日、有給取得希望の有無の確認
  5. 引継ぎなどの必要がある場合の出社連絡の要否の確認
  6. 退職手続

退職代行から考える経営者が気をつけるポイント

これまで述べてきたとおり、労働者には退職の自由があるのが原則です。しかも、労働契約法や民法では、書面で通知することも必須とされていません。したがって、理論的には労働者が電話で一言「いついつ辞めます」といったり、「いついつ辞めます」と書かれた手紙が到達したりするだけで、予告期間が経過すれば退職の効果が発生します。

このように極めて容易に退職することができる労働者が、わざわざ退職代行を利用してくるというのは、よほど会社にいいにくい雰囲気があるか、後ろめたいことがある場合といえます。

上記で述べたとおり、退職代行の利用によって起こるトラブルもあるため、できるだけ自ら退職の意思を告げてもらえるよう、日ごろからの雰囲気、関係性づくりに努めることが重要といえるでしょう。今一度、自社を見直す機会としてはいかがでしょうか。

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