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TOP > 記事一覧 > 経営・財務 > 経営を安定化する資金繰り戦略のコツ(与信管理)
与信管理

経営を安定化する資金繰り戦略のコツ(与信管理)

2020.10.09

“黒字倒産”という言葉を聞いたことがある人は多いのではないでしょうか? 黒字倒産とは、利益が出ている状態であるのにもかかわらず、資金繰りが悪化し倒産することをいいます。損益計算書上、利益が出ているのにもかかわらず資金繰りが悪化するという、一見矛盾している事象がなぜ起きるのでしょうか。

黒字倒産が起こる理由

企業倒産は、一般的に借入金の返済や仕入れなどの支払いが滞り、会社経営を継続することが不可能な状態になることにより起こります。

黒字であれば、売上などの収入が仕入や経費などの費用を上回っている状態であるため、支払いに困ることはないように思うかもしれません。しかし、利益は、税法や会計基準のルールに従った処理により導出された数値であり、会社の資金収支とは必ずしも一致しません。利益と資金収支のズレは、主に以下の要因で生じます。

・利益算定の基礎となる、売上や仕入、経費の計上は発生主義(取引の事実が発生した時点で収入や費用を計上する会計処理方法)に基づいていること

・借入金の返済など、費用とならない支払いがあること

・固定資産は減価償却により計画的に費用計上されること

利益と資金収支のズレが生じることから、会社の経営状態を読み解く際、利益面と財政面(資金繰り)の両面から判断する必要があります。会社が黒字であっても、仕入や経費代金の支払いができなければ、会社の存続が困難になります。

一方、会社が赤字であっても、潤沢な資金を持ち、資金繰りに問題がなければ、会社の存続は可能となります。赤字経営は資金繰りの悪化の要因になりますが、会社内に資金が潤沢にある限り、経営を継続することが可能となるのです。

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資金繰りが悪化する要因及びその対応策

会社経営に資金繰りが重要であることはお伝えしてきましたが、どのような要因で資金繰りが悪化するのでしょうか。資金繰りが悪化する要因は、主に以下のものが考えられます。

・利益管理に偏重して、資金繰りを軽視している

→(対応策)試算表や決算書だけでなく資金繰り表を作成し管理する

・赤字経営が継続している

→(対応策)増収または経費削減により黒字化する

・売上債権の貸し倒れ及び回収遅延

→(対応策)与信管理を導入し、貸し倒れリスクをコントロールする

・過剰投資

→(対応策)会社規模に見合った投資額に抑える、緻密な事業計画を立てて投資の失敗を防ぐ

・滞留在庫の増加

→(対応策)適切な在庫管理を行い売上サイクルに応じた仕入量・生産量に調整する

・借入金の返済額の増加

→(対応策)会社規模に見合った適切な金額の範囲内に抑える、返済期限を長期化する

上記の要因の中で、特に売上債権の貸し倒れと回収遅延については、主として対外的な要因で生じる点で他と異なります。取引先の事情により生じ、またその発生時期も予測することが困難であることが多いことから、その対応策は最も難しくなります。取引規模が大きくなるにしたがって貸し倒れによる会社への影響が大きくなるため、そのリスクを管理する必要性が高まります。このリスク管理のことを与信管理といいます。

与信管理とは?

ビジネスにおいて信用に基づいた取引が多く行われています。例えば、商品を売り上げた際、納品から代金の支払いまで1~3ヶ月程度の期間が設定される場合、その支払猶予期間については、取引先に信用を与えていることになります。この取引先に信用を付与していることを与信といいます。

与信は会社にとってリスクを伴うため、事業運営上、適切に与信を管理することが重要となります。

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与信管理の具体的な手順

与信管理をする方法について、具体的な手順と押さえておくべきポイントを説明します。

(1)取引先情報の入手

新規先と取引を開始するとき、まず取引先の情報を収集します。取引先に関して収集すべき情報は、定性的情報と定量的情報に大別できます。

定性情報とは、経営者の資質や株主構成、会社概要など、数値化できない情報であり、取引先へのヒアリングやホームページ検索、登記事項証明書などにより入手します。また、社名や役員名をインターネットで検索することで有益な情報を得られる場合もあります。既存取引先については、過去の取引に回収遅延などが無いかを検討することも有用です。

定量情報とは、経営成績や財政状態など数値化された情報であり、決算書や税務申告書などにより入手します。取引先から直接入手できない場合は、官報の決算公告や会社ホームページで確認できることもあります。

(2)取引先の評価

(1)で入手した情報を基に、取引先の信用力を評価します。評価には格付制度を導入するのが効率的です。マニュアルを整備し、ある程度機械的に処理することにより管理漏れを減少させる効果が期待できます。なお、評価方法の一例は、ホワイトペーパーでご紹介していますので、ぜひご参照ください。

(3)取引内容の検討

次に、取引内容の検討を行います。販売商品や販売予定額、決済条件(決済方法、回収サイト(支払期間)など)をもとに、複数の販売見込先がある商品か、販売量が適切か、不利な取引条件が無いかについて検討します。取引内容に受け入れられないリスクがある場合は、商談において許容できる水準までリスクを軽減するように交渉します。

(4)与信額の決定

(2)の格付けに応じた与信限度額と見込債権残高(取引先別の債権残高見込み金額)を比較します。通常、与信限度額は会社の方針に従い、格付けに応じた与信限度額をあらかじめ定めておき、機械的に算出します。また、見込債権残高は月間の取引予定金額に債権回収サイトを乗じて算定することができます。例えば、月間の取引予定金額100万円、回収サイト3ヶ月の場合、100万円×3ヶ月=300万円を見込債権残高とします。

そのように算定された見込債権残高が与信限度額の範囲内に収まるように調整して最終的な与信額を決定します。

(5)モニタリング

取引先ごとの与信に従って取引を開始します。取引を開始した後は、定期的に与信限度額を見直すことが必要です。支払や納品の遅延、決済条件の変更などがあった場合には、与信限度額の引き下げを検討します。一方、安定した取引ができている取引先については、与信限度額の引き上げを検討します。

少なくとも1年に1回は取引状況を検証し、適切な与信限度額の設定が実施できているかを確認することが大切です。

まとめ

今回は、会社経営にとって重要な資金繰りについて、与信管理方法を中心にご紹介しました。与信管理は、取引先ごとに許容できるリスクを設定し、取引から得られるリターンとリスクのバランスを会社全体で取る作業です。リスクを過度に恐れて会社の成長を阻害することなく、会社の成長戦略に則した適切な与信管理を行いましょう。

*JADE / PIXTA(ピクスタ)