クラウドソーシング&ギグエコノミー時代の働き方とは? ~業務委託契約書等の書式例~
ここ数年で急速に拡大したクラウドソーシングの市場規模。規模拡大に伴い、フリーランサーと注文者との間でのトラブルが増えた現在、副業・フリーランスを守るための法制化が進められています。
前回の記事では、雇用と業務委託の違いを整理しました。本記事では、平成30年2月に策定された『自営型テレワークの適正な実施のためのガイドライン』に沿って、より具体的に業務委託契約書等の書式例を用いて、注文者(発注者)に求められる事項・互いの利益のために事前に確認しておいた方が良い事項をお伝え致します。
業務委託契約~注文者が守るべき4事項
業務委託契約を結ぶ際に、注文者が守るべき事項として、(1)募集内容の明示(2)契約条件の文書明示(3)文書の保存(4)契約条件の適正化 があげられます。下記ポイントを押さえ、フリーランサーなど多様な人材を活かし、事業展開を行いましょう。
(1)募集内容の明示
仕事の内容や成果物の納期などの明示が必要です。募集~契約までの間に取得した提案などは、応募者に無断で使用しないといった情報管理の徹底をしましょう。また、募集内容に関する問い合わせをどのように対応するのか、だれが対応するのか(注文者)も事前に決めておきましょう。
(2)契約条件の文書明示
ワーカーと協議の上、下記の12項目を明らかにした文書を交付することとされています(電子メール又はウェブサイト上の明示でも可)。
1.注文者の氏名又は名称、所在地、連絡先
2.注文年月日
3.仕事の内容
4.報酬額・支払期日・支払方法
5.諸経費の取扱い
6.成果物の納期(役務が提供される期日又は期間)
7.成果物の納品先及び納品方法
8.検査をする場合は、検査を完了する期日(検収日)
9.契約条件を変更する場合の取扱い
10.成果物に瑕疵がある等不完全であった場合やその納入等が遅れた場合等の取扱い(補償が求められる場合は取扱い等)
11.知的財産権の取扱い
12.自営型テレワーカーが業務上知り得た個人情報及び注文者等に関する情報の取扱い
(3)契約条件を明示した文書を“3年間”保存すること
契約条件をめぐるトラブルを防止するため、文書や電子メール3年間保存する必要があります。
(4)契約条件の適正化
下記の基準を念頭に、契約条件の決定を行ってください。下記の基準から大きく外れた契約は、違法性を問われかねません。
・支払期日
・成果物を受け取った日又は役務の提供を受けた日から起算して30日以内、長くても60日以内とすること
・納期
┗作業時間が長時間に及び健康を害することがないように設定すること。その際、通常の労働者の1日の所定労働時間の上限(8時間)も作業時間の上限の目安とすること
・契約条件の変更
┗あらかじめ契約変更の取り扱いを明らかにしておくこと。変更に当たっては、文書等で明示し合意すること等を明確にしておくこと など
また、あらかじめ、ワーカーからの問合せや苦情等に対応する担当者を明らかにすることが望ましいとされています。
※平成30年2月「自営型テレワークの適正な実施のためのガイドライン」より抜粋
著作権こそ契約が重要! 著作権譲渡契約
先の業務委託契約とセットで考えたいのが、著作権譲渡契約です。
著作権法では、譲渡人を保護する規定があり(著作権法第61条2項)、契約書にそのことを踏まえた記載がないと、著作権の一部(翻訳権、翻案権、二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)が役務提供者の譲渡人に留保されます。
そのため、成果物の納品は終えたが、著作権が譲渡人に留保されているので譲渡人が思うようにその成果物を活用できない、という事態が考えられます。ですので、事前に協議の上で、契約書へ下記のような条項を追記頂くことをオススメします。
契約書等で「全ての著作権(著作権法第27条及び第28条の権利を含む)を譲渡する」と規定することで、翻訳権や翻案権、二次的著作物の利用に関する原著作者の権利を譲り受けることができます。以下、参考です。
第27条(翻訳権、翻案権等)
著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、もしくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。
第28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)
二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、この款に規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する。
第61条(著作権の譲渡)
1.著作権は、その全部又は一部を譲渡することができる。
2.著作権を譲渡する契約において、第27条又は第28条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は、譲渡した者に留保されてものと推定する。
「著作者人格権」は譲渡できない
著作物には、著作者の思想や感情が色濃く反映されており、思想や感情は人に譲渡できるものではないが、第三者による著作物の利用態様によっては著作者の人格的利益を侵害する恐れがあるため、著作者がその著作物に対して有する人格的利益の保護を目的として“著作者人格権”を定めています。
・4つの著作者人格権
1.公表権(著作権法第18条)
著作者が未公表の著作物を公表するかどうかや、公表の時期、方法を決める権利
2.氏名表示権(著作権法第19条)
著作者が著作物について、著作者の名前を表示するかどうかや、名前を表示する場合に実名を表示するかどうかを決める権利
3.同一性保持権(著作権法第20条)
著作物を無断で修正されない権利
4.名誉声望を害する方法での利用を禁止する権利(著作権法第113条6項)
著作物が著作者の名誉を害するような方法で使用されることを禁止する権利
著作物を扱う時や著作物についての契約を交わす時は、常に“著作者人格権”のことを頭に入れて対応する必要があります。
こういった事項を事前に協議のうえで、互いの関係性を豊かにするパートナーシップを結び、多様な“働く力”を活かした事業展開を推し進めていきましょう。
*Kzenon / PIXTA(ピクスタ)