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デジタルトランスフォーメーション 証憑

中小企業における管理業務デジタルトランスフォーメーション(5) ~情報のデジタル化とDXにおける活用~

2020.12.01

これまで中小企業の管理業務のデジタルトランスフォーメーションについて見てきましたが、デジタル化といえば、業務に関わる情報をデジタル化することがまず想起されます。

情報のデジタル化に当たっては、会社内部の業務プロセス自体のデジタル化(業務情報のシステムへの格納)に加え、会社外部からの取引情報のデジタル化も考える必要があります。これら会社外部からの取引情報については、徐々にオンラインでの証憑入手が増えてきていますが、依然として紙ベースでのやりとりが多いのも事実です。

テレワークの導入時においては、こうした紙ベースの証憑(取引情報)の郵便受け取り、開封、処理プロセス投入のために、会社に出社するケースが多く見受けられました。

今回は、この証憑のデジタル化の法的な側面から解説していきたいと思います。

法律に従う必要がある

まず管理業務、その中でも特に紙を扱うことが多い経理業務において思いつくのが、原則紙で保存義務が定められている各種帳簿、書類の税法上の取り扱いです。

これら帳簿・書類を電子化し、紙での保存を廃止するには、税法の関連法である電子帳簿保存法(電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律)に従う必要があります。

電子帳簿保存法で保存対象となっているデータは、

①国税関係帳簿(総勘定元帳、補助元帳、固定資産台帳など)

②国税関係書類(契約書、請求書、見積書など)

③電子取引の取引情報(メールやWebデータ、電子契約情報、電子取引情報)

となります。それぞれのデータ保存について見ていきます。

①国税関係帳簿

国税関係帳簿は、いわゆる会計ソフトに記録されている帳簿を指し、通常これらは会計ソフトに電子的に記録された状態で業務を行い、必要に応じて紙に内容を印刷することになります。

②国税関係書類

国税関係書類は、請求書、領収書などの取引に用いられる証憑と考えたらよいでしょう。

この国税関係書類は、大きく分けると自社が発行したもの、他社が発行して、受け取ったものとなります。これらをデジタル化したものとしては、紙ベース(自社もしくは他社が発行)のものをスキャンした画像データ、あるいは自社システムで作成した取引証憑をシステム内にデジタルデータのまま保管しているものとなります。

③電子取引の取引情報

この電子取引の取引情報は、②の国税関係書類が紙という媒体の形を経ずに、電子的にやりとりされているものを指します。現在多く行われているメールでのPDF請求書のやりとりやWeb上で発行、ダウンロードして保管する形の取引証憑はこれに該当します。

上記②③のデジタルデータの保存については、②は税務署長の承認が必要、③は税務署長の承認は不要となっていますが、ともに一定の保存要件などが課されています。

このデジタルデータの保存要件ですが、①については概ね市販の会計ソフトであれば機能的に充足しているためデジタル化のハードルは低いのですが、もともと実務上でも印刷するオペレーション行っていないことが多く、あまり業務改善には寄与しません。

業務改善の効果が高いのは原本の紙での保管義務がなくなる②、もしくは、電子で受け取った証票の紙出力および紙保存を省くことができる③となります。

②は自社で紙出力したもの、他社から紙で受け取ったものをそのまま保存すればよいのに対し、とくに③は電子メールやWebでのやりとりで入手する請求書や領収書などの保存をわざわざ紙で印刷して保管する必要があります。この印刷しなければいけない点において、③は②よりは手間がかかるものといえます。

電子取引の取引情報の税務上の要件は?

そこで、より手間のかかる③に関する税務上の要件を見てみましょう。

税務調査に備えるためのいくつかの保存要件が掲げられていますが、その中でも特に対応が容易でないものとして、

a)電子取引データに対する措置(訂正や削除が追跡できること)

b)電子取引データの検索性を持った保存管理

この2点が挙げられます。

a)電子取引データに対する措置については、具体的には以下の通りとなります。

1)電子取引データの送信時にタイムスタンプを付したものを授受

2)電子取引データの受信後、遅滞なくタイムスタンプを付す

3)訂正削除不可(あるいは訂正削除が確認できる)システムを使った授受および保存

4)訂正削除の防止に関する事務処理規程の備付けと運用

タイムスタンプは電子取引データの内容が生成から変更されていないことを確認するための仕組と考えればよいです。

4)については正当な理由がない訂正や削除を防止するためのシステムによらない、人的な統制を社内につくり、訂正や削除の記録が残る仕組みを構築することになります。したがって、業務の効率化という観点から言えば、3)による仕組みを利用するのが最も望ましいといえます。

b)電子取引データの検索性を持った保存管理の要件としては、次のようなことが求められています。

・取引年月日、取引金額、取引先等の主要な項目で検索ができること

したがって、単なる電子取引データを含んだメールデータをメールサーバー上に保管する等だけでは要件を満たさず、別途検索機能を有する文書管理システムの導入が必要となります。

以上のことから考えれば、取引データのデジタル化で恩恵を受けやすいのは、経理業務に限定していえば、請求書等のデータの受取、保存に電子帳簿保存法に対応したクラウドサービスを利用するときです。

最後に

連載の最終回として、DXの本筋ともいえるデータの活用についても、一言書き添えます。

業務データをデジタル化することで、読んでいる皆様の会社において、業務の処理スピードアップ、生産性の向上という効果が期待されますが、より本質的には、蓄積された業務データを分析・活用し、自社の強みの再発見や磨き上げ、弱みの克服・解消、新たなビジネスモデルや施策のヒントを得ることがより重要です。

管理業務で発生する業務データであっても、バリューチェーン(企画、設計、仕入、製造、マーケティング、販売)を通じて発生するデータと関連付けて蓄積することで、様々な軸を持ったデータベースが構築できます。

このデータベースを活用してモデリング等の分析を行うことで、今まで見えていなかったデータ間の傾向や相関が見えてくる可能性もあります。そのような分析に基づき、プランを立案、実行、現場からのフィードバックを反映していくことで、競合他社より多くの打ち手を持つことにもつながります。

しかも、従来はそうしたデータ分析も人間が仮説を用意したうえでコツコツ行ってきたものでしたが、今日では、安価で大量かつ高速な計算資源が手に入るようになり、機械学習による多彩な分析手段の選択、処理の短時間化が可能となりました。深層学習などをはじめとするAI技術の精度や計算過程のブラックボックス化の問題はあるにせよ、道具として使っていけるかどうかは、進化の過程に乗れるかどうかの違いにもつながるかもしれません。

したがって、業務のシステム化においては、業務全体を俯瞰して見る視点が必要であることはもちろんのこと、そうした業務データの活用の視点でシステムが取得すべきデータを考えていくことが、これからの情報システムの戦略的な活用に必須であるでしょう。

*Graphs / PIXTA(ピクスタ)