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企業が生き抜くには人材投資! 生産性向上に人的資本投資はどれだけ効くのか?

企業が生き抜くには人材投資! 生産性向上に人的資本投資はどれだけ効くのか?

2021.01.06

「日本は労働生産性が低い」としばしば叫ばれますが、その原因は何なのでしょうか?

今回は、労働生産性について触れながら、人材の高度化と生産性の関係について考察します。

我が国の労働生産性は低いままだが
女性や高齢者の労働参画機会は拡大している

菅内閣の成長戦略実行案が徐々に明らかになってきています。まずは、国の考える最新の認識を確認します。令和2年7月に閣議決定された政府の成長戦略の実行計画案が同年12月1日付けにて発表されました。

成長戦略は、国として経済成長率を伸ばしてゆくための根幹となる戦略ですが、ポストコロナ時代への対応と併せ、政府はこれまでの方針通り労働生産性の課題に真っ先に触れています。

当該国の経済成長の度合いを示す指標である経済成長率は、労働参加率(就業者を人口で割ったもの)の伸び率と労働生産性(GDPを就業者数で割ったもの)の伸び率を掛け合わせたものです。同計画案の中で、これらを要素別に見てみると、2019年度の我が国の労働参加率は、安倍政権発足後に女性や高齢者の労働参画の機会が拡大したことなどを受けて、G7の中で最も高い52.7%であったことが報告されました。

一方で、労働生産性は低いままに留まっており、結果的に経済成長の足をひっぱっていることが再確認されました。

同計画案から、我が国の生産性の効率をG7の国際比較でみてみます。2019年度の一人あたりの労働生産性の換算額は、G7比較では最下位の7.6万ドル(年間額)となりました。そして、この額を産み出すために使っている年間投入時間は1,702時間と、労働生産性がトップの米国、イタリアに次ぐポジションとなってしまいました。

労働生産性と就業時間比較

出典: 成長戦略実行計画(令和2年12月)を参考に筆者作成(図1)労働生産性と就業時間比較

その結果として、時間当たりの44.6ドルとG7の中で最下位(図2)となってしまったのです。

時間当たり労働生産性の国際比較(ドル/時間当たり)

出典: 成長戦略実行計画(令和2年12月)を参考に筆者作成(図2)時間当たり労働生産性の国際比較

人材投資は労働生産性にどのように影響する?

以前の記事で、『労働生産性は「付加価値÷労働投入量」ゆえに、分母か分子のどちらかが改善できれば生産性は向上する』ということを触れましたが、分子を最大化するための方法として、人材のスキルアップにより投資効率を上げる(時間や労力の投入量を変えずに、生み出せる価値を増やす)ことが挙げられます。

本稿では、その人材投資の効果に関して触れてゆきたいと思います。

人材のスキルアップによる生産性の向上は、個人が行う自己啓発や、企業が行うOJTやOff-JT等の人的資本投資(人材投資、人材教育)によって促進されます。人的資本投資が生産性に有意に相関していることは、内閣府の調査によってわかっています。

下図(図3)は、内閣府の調査による、企業の現在の生産性ポジション別にみた「人的資本投資額の労働生産性への弾力性」を示したグラフになります。一般的に、「弾力性」というのはある変数に変化を与えたときに、もう一方の変数がどう変化するか、という変化比のことを指します。

そしてここでは、「企業が1%人的資本投資を増やした場合、どの程度労働生産性が上がるのか」ということを、労働生産性の高い企業から低い企業まで10%ごとに区切って図示してあります。こちらを確認すると、人的資本投資は全企業群の平均でみて0.6%程度の生産性の上昇に寄与しています。

人的資本投資額の労働生産性への弾力性(労働生産性ポジション別)

出典: 出所:経済財政白書(平成30年版)を参考に筆者作成(図3)人的資本投資額の労働生産性への弾力性(労働生産性ポジション別)

内訳を見ると、労働生産性の上位30%位までの企業群では0.46%程度の上昇であるのに対し、下位10%の企業群では平均以上の0.74%程度の上昇となり(≓より弾力性が高い)、人的資本投資の効果は、生産性が低い企業ほどその効果が高いということがわかります。

日本の人材投資は低い傾向だが、改善すれば労働生産性向上の余地もある

我が国の人材投資、人材教育費用は伝統的に低い傾向にあります。つぎに、OECD調べによるGDPに占める企業の能力開発費(≓人的資本投資)の割合の国際比較推移(1995年-2014年)を見てみましょう。

下図(図4)で示した中で特徴的なのは、下記の3点ではないでしょうか。

(1)1995年から2014年にかけて、日本と英国は大きく人的新投資を削っている

(2)同期間で英国は1/2に、日本は1/4になり日本の方がより縮小割合が大きい

(3)なにより、最も比率が高かった1995年-1999年においてさえ、日本の能力開発費の少なさが目立つ

比較して米国は常に人的投資割合が高く、しかも微増しています。2014年の時点でみると、日本企業の能力開発費比率は、対米国で1/20、比較表の中で日本に次ぐ低さのドイツに対してさえ1/12となってしまっています。

GDP(国内総生産)に占める企業の能力開発費の割合の国際比較(単位 %)

出典: 出所:経済財政白書(平成30年版)を参考に筆者作成(図4)GDP(国内総生産)に占める企業の能力開発費の割合の国際比較(単位、%)

先の(図3)の説明の部分で示したとおり、1%の人的投資に対して平均で約0.6%程度の弾力性があるのなら、この差をつめるべく企業が少しでも能力開発費を積み増すことが出来れば、(図2)で示した、時間あたり労働生産性は追いつけない範囲ではないようにも思えます。

まとめ

労働生産性の向上は、経済成長率の上昇・GDPの引き上げに繋がります。少子高齢化で全世界の先頭を走る我が国では、社会システム(インフラなどの社会資本を含む)の課題を解決していく必要があります。

2020年10月に財務省から発表された『法人企業統計調査(2019年度)』によると、企業の“内部留保”が475兆161億円となり、前の年度から11兆円余り、率にして2.6%増加して8年連続で過去最高を更新したとのことです。

その後にコロナ危機が襲ってきますので、ここで内部留保が備えとして使用されたという結果論もありますが、逆にこの様なときだからこそ人的資本から生まれる生産性、つまり人としての強さが試されるときなのではないでしょうか。

人材投資に何をすればいいかわからないという方はまずは下記の参考をご覧になってみてください。

【参考】

※人材開発支援助成金 – 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1.html

※ キャリアアップ助成金 – 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/part_haken/jigyounushi/career.html

*metamorworks / PIXTA(ピクスタ)