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人類史初の人口減と高齢化…縮小する日本社会に対していまから企業が打てる施策と公的支援は?

2020.08.26

人類史上はじめての人口減社会へと先陣を切っていく日本。2050年には全人口が1億人を切り、2100年までには、人口が100年前の水準に戻ると推計されています。そんな縮小する日本の社会と経済の中で、企業が行っていくべき施策と得られる支援をご紹介します。

人口減少+高齢化が日本のトレンド

「人口減少の見通しとその影響」平成27年版 厚生労働白書

「人口減少の見通しとその影響」平成27年版 厚生労働白書

厚生労働省から毎年発表される合計特殊出生率は、19年度は1.36と12年ぶりの低水準ということで話題となりましたが、少子化問題を解決すれば人口減社会は回避できるのかというとそれはありません。

なぜならば、今年の出生率が人口動態に影響をあたえるのは、今年生まれた子ども達が、これから彼らの平均寿命をまっとうする間、つまり今年から平均寿命である80~90年後の未来までだからです。そう考えると、現在の人口減は、合計特殊出生率が2.0を割ってしまった1970年代からのトレンドとして既に確定している未来であり、つまりどう転んでも不可避だという事が分かります。

そして、日本のこの人口減には、高齢化率の上昇という要素も加わっています。それは何を意味しているかというと、労働力人口(15歳以上で労働する「能力と意思を持つ」人の数)の減少です。

人口減の状態でどう社会システムを整えるか?

現在の日本の社会インフラを含む社会システムの多くは、人口増による労働力人口率の維持を前提として作られており、しばしば話題になる年金システムの崩壊(賦課方式の限界)などは、人口増期待の社会設計に対して人口減少社会がどう対応するのか、という課題の代表例です。

もちろん社会システム自体を効率化していくことも重要ですが、そのスピード以上に、この減りゆく労働力人口で社会システムを支えることが必要です。現在、日本のGDP(国内総生産、一定期間内に国内で新たに生み出されたモノやサービスの付加価値)が世界第3位でいられるのは、1億人以上という人口による内需の大きさに支えられている部分が相当大きいのですが、労働力人口が減りゆく中では、このGDPをある程度維持して(本来なら成長させて)いくことが社会システムの維持に繋がることが容易に推察できます。

ちなみに、GDPは経済成長を前提とした視点ですが、成長一辺倒でない側面から変革しようという視点もあり、それがSDGs(持続可能な開発目標)などの切り口で、世界各国で議論され取り組まれています。

さて、名目GDPの維持のお話に戻りますが、減りゆく労働力人口でこれを達成していくにはどうしたらよいのでしょうか。それが、「働き方改革」や「最低賃金増」などの施策と同列で語られることの多い、「生産性の向上」です。

労働生産性は、産み出す付加価値を投入した労働力(≓労働投入量≓[就業者数×労働時間])で割って算出されます。極論をいうと、労働力人口が半分になっても、労働生産性が2倍になれば、最終的に産み出す付加価値の量は変わりません。また、労働力人口を維持できなくても、労働生産性を向上できれば、GDPを変わらず維持できる、ということになります。

ところで、そんな労働生産性ですが、昨今、国際比較で語られる日本の労働生産性や給与のランキングにおける日本の存在感の低下はなかなか耳の痛い話です。日本生産性本部の『労働生産性の国際比較2019』によると、OECD加盟国36カ国内での日本の一人あたりの労働生産性は21位、主要7ヶ国では最下位と低迷しています。

世界の中でもっとも存在感を示していたバブル期でも最高14位ですので、元来日本は生産性を上げることが苦手で、人口増による人口ボーナスで経済が潤ってきた国と考えても良いのかも知れません。

「労働生産性の国際比較2019」日本生産性本部

また、日本では給与も上がっていません。OECDの算出した値を元に全労連が算出した『実質賃金指数の推移の国際比較(1997年=100)』を確認すると、日本人の賃金上昇率は低いどころか、マイナス成長となってしまっています。

「実質賃金の国際比較」全労連

これは当然といえば当然の結果で、一人あたりの労働生産性は産み出す付加価値の高さを表しますから、高い付加価値を生み出す人材=投資(給与)価値が高い人材、そうでなければ見合った賃金に、となるためです。

企業が生産性を高めるには?

生産性についての問題は近年、最低賃金を継続的に上げることで企業の生労働産性を上げられる、という論もあります。賃金を上げることで高スキル人材を雇用することができ、その結果生産性が向上する、というロジックです。

これが効果を発揮するかはまだわかりませんが、いずれにしても、人口減少社会に向き合う必要がある日本人にとって、大きな課題といえるのではないでしょうか。

では、実際に企業の生産性を向上させるにはどうしたらよいのでしょうか。管理的な視点から考えると、業務効率化を行うことで生産性を上げる、というのが真っ先に思いつきます。労働生産性は「付加価値÷労働投入量」ですので、この場合は投入する分母の労働投入量の部分を小さくする切り口となります。

もう一方の重要な側面として、分子の付加価値を大きくする、という方法もあります。分子を最大化するためには、同じ労働投入量からより多くの成果をだす必要があり、こちらは人材の高スキル化(同じ時間で生み出せる価値を増やすことが可能となる)や、老朽化した設備に投資をして投資効率を上げることで可能となります。副次的には、業務効率化によって産み出された時間を別の生産性に寄与する業務に投入することで、分母を増大する効果も含まれます。

生産性向上を支援する公的プログラムの活用も検討を

最後に、この分子の増大に寄与する投資効率を支援する公的なプログラムを2つご紹介して結びたいと思います。

人材の高スキル化支援に関しては、例えば文部科学省の「職業実践力育成プログラム(BP)認定制度(*1)」などがあります。従業員は外部の教育訓練を受けることが出来、企業は厚生労働省から「キャリア形成促進助成金(*2)」や「キャリアアップ助成金(*3)」という形で、この助成を受けることが可能です。

また、設備投資支援に関しては、例えば、中小企業庁の「生産性向上特別措置法(*4)」等があります。こちらは、取得の固定資産税が優遇される施策となります。生産性向上に関しては、このほかにもさまざまな公的支援施策があります。

人類初の人口減社会、かつ少子高齢化という、世界の人類史上はじめての世の中で、日本人と日本企業は、社会システムを良好に維持するチャレンジをしていくお手本を示す命運にあります。それは、各企業が身近な部分からはじめる生産性の向上施策に着手をすることで可能となっていくのです。

今後、私のコラムでは、人口減少社会を前提とした生産性向上、特に企業における労働生産性の向上に関して書いていく予定です。

【参考】
「人口減少の見通しとその影響」平成27年版 厚生労働白書
労働生産性の国際比較 2019
実質賃金指数の推移の国際比較
(*1)職業実践力育成プログラム(BP)認定制度
(*2)キャリア形成助成金
(*3)キャリアアップ助成金
(*4) 生産性向上特別措置法

※CORA / PIXTA(ピクスタ)