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妹尾さま

ワークスタイルの多様化で求められるオフィスの新たな役割とは?東京工業大学工学院教授・妹尾大氏に聞く

今、ワークスタイルに新たな変化が起きています。日経BP 総合研究所 イノベーションICTラボが2024年4月に実施した「ワークスタイルに関する動向・意識調査」によると、在宅勤務を活用する人の割合が2年ぶりに上昇しました。

ハイブリッドワークの定着が進むなか、中小企業の経営層が日々抱えているさまざまの課題に対し、オフィスはどのような貢献ができるのでしょうか。経営組織論、経営戦略論、知識・情報システムの研究に取り組む東京工業大学教授・妹尾大氏に伺いました。
【参考】テレワーク実施率に異変、日本人の働き方は新たな「第3フェーズ」突入へ / 日経クロステック(xTECH)

東京工業大学
工学院 経営工学系 教授
妹尾大

1998年一橋大学大学院商学研究科博士課程単位取得。北陸先端科学技術大学院大学知識科学研究科助手を経て、2002年から東京工業大学大学院社会理工学研究科助教授。現在、東京工業大学工学院経営工学系教授。2007年度東工大教育賞優秀賞を受賞。専門分野は経営組織論、経営戦略論、情報・知識システム。主な著書に、「魔法のようなオフィス革命」(潮田邦夫・妹尾大 共著、河出書房新社、2007年)、「建築と知的生産性:知恵を創造する建築」(分担、テツアドー出版、2010年)、など。

中小企業にも広がったオンライン化

妹尾大(以下、妹尾):最近のテレワークやハイブリッドワークの普及状況を見ると、中小企業でもオンライン会議が普通に行われるようになったと感じます。

大企業や大学はコロナ禍ですぐにオンライン対応ができましたが、中小企業では出社が求められるケースが多かったようです。しかし、テクノロジーやデバイスが広まったことにより、今ではどんな小さな企業でもオンラインミーティングサービスを利用できるようになりました。これは非常に大きな変化です。

大学でも授業はすべて対面に戻りましたが、教授会はほぼオンライン化されました。オンラインの方が資料の共有が楽で、国外出張中でも参加できるといった利点があります。また、オンラインでは不規則な長い演説をする人も少なく、効率的です。このように、多くの組織でオンラインでの業務が定着し、特に事務連絡などはオンラインでも十分に進められるようになっています。

また、ワークスタイルの多様化に伴い、オフィスの役割にも大きな変化が起きています。従来の集合オフィスが担っていた作業場、会話の場、教育の場などの機能が分化され、オフィスに集まる必要がある機能とそうでない機能が明確になってきました。たとえば、個人作業は自宅やカフェでも十分にでき、オフィスでの個人作業の必要性は減少しています。

一方、意見交換や即興的なアイデア出しなどの「価値創造活動」には、オフィスが重要な役割を果たします。対面でのコミュニケーションは、他の人の意見を即座に聞いたり、思いついたアイデアをその場で共有したりするのに適しています。クリエイティブな議論や共同作業の場の需要は増しており、集合オフィスは価値創造活動を行う空間としての役割を担っていくでしょう。

偶発的な出会いが生むソリューション

妹尾:アウトプットが事前に予測できる場合、偶発的な出会いは必要ありません。しかし、何をつくればよいかわからない時や、目標はあるけれどもっと良いものをつくりたい時には、偶発的な出会いが重要な役割を果たします。たとえば、特定の本を入手したいと決まっている場合、ネット購入で十分です。しかし「できるだけ良い本を読みたい」といった場合には、開架式の書店に行く方が適切です。

同様に、人との偶発的な出会いも重要です。雑談の中で面白いことを発見したり、忘れていたことがふと出てきたりすることがあります。新しいものを生む時は、偶発的な出会いが大きな役割を果たすことがあると感じます。

中小企業でも従来のビジネスモデルからの脱却を図る必要が出てきており、そのために偶発的な出会いが重要になっています。事業転換が必要でないときは「そんなものは邪魔だ」と思われていた偶発的な出会いが、新しいアイデアやビジネスチャンスを求めるためには大切なのです。

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「オンラインだと後頭部が見えない」

妹尾:妹尾研究室からは毎年4、5人が卒業して社会に出ますが、転職のサイクルが早まってきたと感じています。給料や待遇の向上、チャレンジしたいことがあるなど、前向きな転職が多いので心配はしていませんが、「今の職場に恩義のある先輩や仲の良い先輩はいなかったのか?」と聞くと、「あまり……」との答えが多いです。経営者としては、優秀な人材が次々に辞めるのは避けたいものです。リアルなコミュニケーションは社員同士をつなぐ効果があり、優秀な人材が辞めにくくなるといったメリットがあったのだと気づきました。

また、新人教育に関しても、オンラインでは難しいと感じる人が多いです。オンラインでは、非言語情報やアウェアネスを得にくいですよね。リアルな環境での教育は、新人が先輩から直接教わることで会社への帰属意識を高める利点もあります。

私は学生に「オンラインだと後頭部や背中が見えなくてもどかしい」とよく言います。リアルでなら後ろ姿からでも伝わることは結構あります。オンラインでは伝わらず、リアルでは伝わっているような非言語情報を、実は私たちはかなり使ってコミュニケーションを取っているのです。

オフィスづくりにおいてKPIを定義することの重要性

妹尾:オフィス出社とテレワークにはそれぞれメリットとデメリットが認められます。そもそもワークスタイル改善の目的は組織成果を高めることにあります。同様にオフィス環境の改善も手段に過ぎません。組織成果を上げるために重要なことはKPIをどう定めるかです。KPIを定義せずにオフィス環境の改善を進めても、その効果は測定できないからです。オフィス環境を改善するのであれば、まずはKPIを明確にすることがきわめて重要です。

たとえば、KPIとして離職率の減少に着目する場合、オフィス環境の改善として、パーティションを取り払って大部屋にすることが考えられます。これにより見通しが良くなり、コミュニケーションが活発になり、社員同士のつながりが強化されることが期待できるでしょう。今、多くの企業がそのような狙いのワークプレイス変革やワークスタイル変革を行っています。

オフィス環境の改善には、ハード面とソフト面の両方を考慮する必要があります。たとえば、交流を促進するコミュニケーションスペースを提供しても、「サボり場」として認識されてしまうと、その効果は失われてしまいます。従って、空間のデザインと同様に、適切な規則を設けることが重要です。たとえば、1日に必ず15分コミュニケーションスペースで過ごすといった規則があれば、サボり場という烙印は押されずにすむでしょう。

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オフィス環境の改善には、ユーザー(従業員)が参画するべき

妹尾:オフィス環境の改善で成果を上げている企業の共通点は、単なる作業ではなく顧客に新しい価値を提供しようというイノベーション志向、オフィスユーザー(従業員)の積極的な参画、そして定期的なレイアウトや使い方のリニューアルの3点です。私がワークプレイス研究を本格的に開始した20年前の時代には、経営者の大多数はオフィスの設計や使用に関心を寄せていませんでしたが、一部の先見的なリーダーたちは、オフィスの改善が業務スタイルや最終的な成果に与える影響を認識し、主体的に取り組んできました。

オフィス環境の改善においてユーザー自身が関与することの重要性は大きいです。実際に働く人々でなければ気づきにくいニーズを満たすことで生産性が向上し、企業全体の成果も改善されます。たとえば、リアル会議において複数人で設計図を修正していく際には、天井から垂直に設計図を投影するプロジェクターがあると便利だという要望や、座高の高い人と低い人が目線を揃えて対等に議論するためには座面の高さを選ぶことのできる波形ベンチが欲しいといった要望などは、当事者でなければ気付きにくいと思います。

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妹尾氏は、オフィスの未来について「これまでの閉鎖的で均一なワークスタイルに代わり、これからのオフィスはより開放的で多様なアプローチを奨励する方向に向かう」という見解を示しました。実際に、コクヨの品川オフィス『THE CAMPUS』は「働く・暮らす」の実験場として、オフィスビルだった建物の一部を開放し、クライアントや近隣の住人を含めたあらゆる人が利用できるパブリックエリアを創設しています。仕事だけでなく生活や遊びも含めたこのようなコミュニティづくりに取り組むことで、従業員は自由で創造的なアイデアを育むことができるようになるのではないでしょうか。

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