事業再構築補助金はハードルが高い?新規事業を成功させるためのフレームワーク
『事業再構築補助金』という大型補助金の申請が始まりました。公表要領には、新分野展開、業態転換、事業転換、業種転換、事業再編を通じて、リスクの高い大胆な事業の再構築に取り組む中小企業の挑戦を支援すると記載されています。
本記事では、税理士である筆者が、事業の再構築や新規事業を展開するにあたり、成功させるためのフレームワークについて解説いたします。
目次
新しいチャレンジを伴うハードルの高い要求
要領には上記5つの類型が載っていますが、実際には次の3つに分類して考えることができます。
(1)主力となる事業(または業種)そのものを新しくする。
(2)新しい製品や商品を、新しいマーケット(顧客)に提供する。
(3)新しい製品を新しい製造方法で製造する。または、新しい商品やサービスを新しい方法で提供する(既存設備を撤去する場合は、新しい商品でなくてもOK)。
事業再構築補助金に該当するか否かの詳しい内容についてはここでは割愛しますが、既存事業の延長線上で扱う商品を変える程度では補助金の対象とならない、ハードルの高い要求であることが分かります。
特に(1)は、日本標準産業分類における“産業分類区分”が変わるほどの転換を行い、かつ3~5年後にはその新規事業を自社の主力事業に成長させることが求められています。新しい設備の取得はもちろんのこと、これまで経験してきたノウハウや既存の人材だけでは間に合わないチャレンジと言えます。
また(2)についても、新しいマーケット(顧客)の開拓が求められているわけですから、ゼロから新規事業を立ち上げることに変わりありません。
(3)の業態転換は、(1)および(2)に比べれば既存の顧客への新商品または新製品の販売でもOKという点でハードルは若干下がりますが、補助金目当てに安易に手をつけるべきでないのは言うまでもありません。
補助金に対する姿勢が問われる
事業再構築補助金は、コロナ感染症によってこれまでの事業形態から新規事業に転換を迫られている会社にとっては大変ありがたい制度ですが、補助金がもらえるからと言って安易に考えるのは危険です。
補助金を獲得するためには、新規事業への投資のために自己資金または銀行からの融資を受けて、まずはキャッシュアウトをしなければならないからです。想定した補助金をもらえるという保証はないので、計画どおりに利益が上がらないとたちまち資金がショートしてしまうリスクと隣り合わせだという覚悟が必要です。
補助金をもらえるから何か新規事業でもしてみようか、という考え方は禁物です。コロナに対応するため新しい事業形態を検討していた。たまたま補助金の要件に該当するから申請してみたところ、採択されてラッキーだった。というのが本来の姿です。補助金がなくても資金的に成立する見通しが立たなければ、一歩を踏み出すべきではありません。
新規事業で成功するためのフレームワーク
それでは補助金がなくても新規事業で成功するためにはどのような点に着目すればよいのでしょうか。
(1)新しいマーケットについて調べる
まずは、皆さんが進出しようとしている新しいマーケットの現状を把握する必要があります。ポイントは次の2点です。
・マーケットのライフサイクルを分析する。そのマーケットは、導入期・成長期・成熟期・衰退期のいずれのステージに該当するか。
・そのマーケットの市場規模を調べる。
(2)競合他社の動向を分析する
マーケットは、お客さまと自社とそして競合他社の3社で成り立っています。まずは競合他社の動向を分析し、他社との差別化を図れるか、勝負が可能なのかを検討しましょう。特に競合他社の強みを分析することは、自社の強みを活かすためにも必要なステップです。競合他社の強みを分析するためには、マーケティングの4つのPを意識するとよいでしょう。
4P
・Product:プロダクト(商品)
・Price:プライス(価格)
・Place:プレイス(事業ドメイン・販売チャネル)
・Promotion:プロモーション(販売戦略・広報)
例として、花王のヘルシア緑茶が有名です。下記のようにターゲットを明確にして効果的にアプローチしたことで、売上を大きく伸ばしました。
・Product(商品)
緑茶で、味は濃く苦いです。健康効果を訴求するため特定保健用食品の認可を取得し、体脂肪燃焼効果が期待できます。
・Price(価格)
価格帯は通常の緑茶より高い一方、値段を上げて高付加価値・プレミアム感を演出し、効果への期待感を高めました。
・Place(事業ドメイン・販売チャネル)
コンビニのみで販売しています。主なターゲットであるビジネスマンの利用しやすいチャネルを意識、かつコストを下げています。
・Promotion(販売戦略・広報)
テレビ広告やコンビニでのレジ横陳列などを実施。ビジネスマンの目に留まりやすい範囲を意識し、認知度を高めました。
(3)自社の強みを洗い出す
新規事業を成功させるために、他社に対してどのように独自性を打ち出せるかが重要なのは当然ですが、特に今回の補助金においては“現在の自社の人材・技術・ノウハウなどの強みを活用することや、既存事業とのシナジー効果が期待されるか”が評価のポイントとなっています。自社の強みを分析するには、次の6つのポイントに分けて考えるとよいでしょう。
・技術力(知的財産権やIT技術など)
・スキル(営業力や交渉力、情報処理能力など)
・ノウハウ(過去の経験値や社内に蓄積された情報)
・資格(公的な許認可やブランド力など)
・組織力(組織全体として持っている競争力)
・企業風土(企業の歴史の中で無意識に形成された価値観や思考のプロセスなど)
(4)顧客にとってのメリットを考える
どんなに性能のよい製品を作っても、どんなに素晴らしいサービスを考えついても、何らかのメリットがなければお客様はお金を払ってその商品を購入してはくれません。そこで自社の製品や商品がお客様にどのような価値を提供できるかを正しく認識する必要があります。お客様のメリットは、マーケティングの4Pに対して、4つのCで考えます。
4C
・Customer Value:お客様に提供する価値(商品本来の価値だけでなく、商品に付随する価値や、商品が本質的に内包している価値について考えます)
・Customer Cost:顧客が負担するコスト(お客様が負担してもよいと思える対価が設定されているかを検討します)
・Convenience:顧客にとっての利便性(顧客が購入しやすい方法で提供できているかと考えます)
・Communication:顧客とのコミュニケーション(顧客の気持ちが理解できているか。自社のコンセプトは顧客に届いてるいるかなどを検討します)
(5)利益の源泉を仕掛ける
ビジネスとボランティアの違いは、製品や商品を提供してその見返りに対価を獲得できるかどうかです。
新規事業をスタートしてその後も継続して利益を確保するためには、ビジネスモデルのどこに“収益の源泉(キャッシュ・ポイント)”を仕掛けるかを検討しなければなりません。利益のモデルに決まった型はありませんが、同業他社の分析をするにあたって、他社のプロフィットモデルを参考にするのも1つの方法です。
事業再構築補助金では、補助事業期間の終了時には付加価値額(※注)が年率平均で3%のアップを要求されます。コロナで困窮している中小企業を赤字から引き上げることが補助金の目的ではなく、しっかり成長してくださいね、と言っているわけです。せっかくの大型補助金なので、しっかり利用して新しい事業を成功に導きましょう。
(※注)営業利益+人件費+減価償却費
*mapo / PIXTA(ピクスタ)