トラブル・ミスマッチを防ぐ!経営者が知るべき「トライアル雇用助成金」とは
日本では常用雇用(期間の定めのない雇用)で一度雇い入れると、簡単には解雇できません。また、たとえ有期雇用者として雇い入れても、期間満了での雇い止めに対してすら、解雇同様の“相応の理由”等が求められる場合があります。
このように雇用の終了に際して柔軟な裁量が認められにくいため、企業は雇入れに対しても慎重にならざるを得ません。それが労働市場を硬直化させ、職業経験等の少ない人の就職の機会を奪っているという一面があります。
そういった雇用状況を受け、『トライアル雇用制度(試行雇用制度)』が誕生しました。“トライアル雇用”であれば、有期の試行雇用として雇い入れることが労使間で明確になっており、試行雇用終了後に継続して雇い続けるか(働き続けるか)は、試行雇用終了時のお互いの合意によることが前提となっています。そのため、たとえ継続雇用に移行しなかったとしても、トラブルに発展しにくいというメリットがあります。
そして、この“トライアル雇用”を広げていくために作られたのが『トライアル雇用助成金』。『トライアル雇用助成金』とは、原則3ヶ月間のトライアル雇用を行った事業主に対し助成金を支給するものです。
今回は、トライアル雇用助成金の中の“一般トライアルコース”と“障害者トライアルコース”について解説していきます。
トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)とは
“トライアル雇用”とは、職業経験や技能・知識の不足等から就職が困難な求職者を原則3ヶ月間の試行雇用することで、適性や能力を見極め、常用雇用への移行のきっかけとすることを目的とした制度です。
『トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)』では、トライアル雇用対象者を雇い入れると、1人当たり月額最大4万円の助成金が事業主に支給されます。
また、対象者が、“母子家庭の母等”または“父子家庭の父”である場合には、支給額が月額最大5万円となります。
たとえ、トライアル雇用終了後に常用雇用に移行しなかった場合であっても、助成金は支給されます。
トライアル雇用の対象となる労働者
次の(1)~(5)のいずれかに該当する者がトライアル雇用を希望した場合に、トライアル雇用の対象者になります。
(1)紹介日の前日から過去2年以内に、2回以上離職や転職を繰り返している
(2)紹介日の前日時点で、離職している期間が1年を超えている(アルバイトを含めた一切の就業をしていないことが要件となります)
(3)妊娠、出産・育児を理由に離職し、紹介日の前日時点で、安定した職業に就いていない期間が1年を超えている
(4)55歳未満で、ハローワーク等において担当者制による個別支援を受けている
(5)就職の援助を行うに当たって、特別な配慮を要する(具体的には、生活保護受給者、母子家庭の母等、父子家庭の父、日雇労働者、季節労働者、中国残留邦人等永住帰国者、ホームレス、住居喪失不安定就労者、生活困窮者)
トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)受給の流れ
『トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)』受給の流れは以下になります。
事業主は、“トライアル雇用求人”に係るハローワーク等からの紹介により、原則3ヶ月のトライアル雇用として対象者を雇い入れます。なお、この場合、対象者の一週間の所定労働時間が通常の労働者と同程度である必要があります。
トライアル雇用での雇入れから2週間以内に、ハローワークに対し『トライアル雇用実施計画書』を提出しなければなりません。
そして、トライアル雇用終了日の翌日から2か月以内に、事業所を管轄するハローワーク又は労働局に、『トライアル雇用結果報告書兼トライアル雇用助成金支給申請書』を提出します。
助成金を受給できない事業主
暴力団に関係する事業主や過去に助成金の不正受給にかかわった事業主等は、他の助成金同様、助成金を受給することはできません。
また、過去にトライアル雇用を行ったが、常用雇用へ移行しなかった労働者が多数いる場合なども、その事業主は助成金対象になりません。
具体的には、トライアル雇用を開始した前日から起算して過去3年間にトライアル雇用を行った事業所において、常用雇用へ移行しなかったトライアル雇用労働者の数に『トライアル雇用結果報告書兼トライアル雇用助成金支給申請書』が提出されていない者の数を加えた数が3人を超え、常用雇用へ移行した数を上回っている事業主は助成金対象になりません。
その他にも、助成金を受給できない事業主として、いくつかの定めがあります。詳細は、本稿文末にある『 トライアル雇用助成金リーフレット(事業主向け)』や厚生労働省ホームページなどでご確認ください。
トライアル雇用助成金(障害者トライアルコース)とは
次に、『トライアル雇用助成金(障害者トライアルコース)』について解説していきます。
これは、障害者に対して試行雇用(トライアル雇用)を行う事業主に対して助成するものです。障害者雇用についての理解を促し、試行雇用後の継続雇用への移行の促進を目的としています。
次の(1)~(4)のいずれかに該当する者が、障害者トライアル雇用を希望した場合に対象者になります。
(1)紹介日時点で、就労経験のない職業に就くことを希望している
(2)紹介日の前日から過去2年以内に、2回以上離職や転職を繰り返している
(3)紹介日の前日時点で、離職している期間が6か月を超えている
(4)重度身体障害者、重度知的障害者、精神障害者
障害者トライアル雇用の期間
『障害者トライアル雇用』の期間は、原則3ヶ月です。ただし、身体障害者と知的障害者は1ヶ月または2ヶ月、精神障害者は3~5ヶ月とすることができますし、テレワーク勤務を行う場合は6ヶ月まで、精神障害者は12ヶ月まで延長することもできます。
また、障害者トライアル雇用期間中の一週間の所定労働時間は、20時間以上でなければなりません。
助成金支給額は、支給対象者1人につき月額4万円となります。精神障害者を雇用する場合は、雇入れから3か月間は月額8万円となります。支給期間は最長3か月ですが、精神障害者の場合には最長6か月となります。
トライアル雇用開始から2週間以内に計画書を提出することや、トライアル雇用終了日の翌日から2か月以内に支給申請書を提出しなければならないことは、『一般トライアルコース』と同様です。
その他のトライアル雇用助成金
『トライアル雇用助成金』は、今回ご紹介した『一般トライアルコース』や『障害者トライアルコース』の他にも、以下のコースがあります。
・障害者短時間トライアルコース
・新型コロナウィルス感染症対応トライアルコース
・新型コロナウィルス感染症対応短時間トライアルコース
・若年・女性建設労働者トライアルコース
トライアル雇用には、就職困難者の早期就職の実現や雇用機会の創出を図るといった社会的意義があります。
また、企業が必要とする人材かどうかを見極めた上で常用雇用に移行できるため、雇用のミスマッチを防ぐというメリットもあります。
新たに労働者を雇い入れる際には、トライアル雇用も検討してみてはいかがでしょうか。
【参考】
トライアル雇用助成金リーフレット(事業主向け) / 厚生労働省
* freeangle / PIXTA(ピクスタ)