労働実務事例
[ 質問 ]
工場内の一部にせまい箇所があり、そこには階段が作れません。そこで、はしご道を作って、その近くに行く従業員は、そのはしご道をとおって行きます。もちろん事務所から現場に行く時もそうですが、お得意さんが現場やその先に行かれる時も利用しています。もし、そこではしご道の不備が原因で従業員に事故が発生すると、労災保険の費用徴収の対象になるでしょうか。
【山梨・T社】
[ お答え ]
はしご道については、安衛則第556条第1項に、以下のような安全基準が規定されています。
① 丈夫な構造とすること
② 踏さんを等間隔に設けること
③ 踏さんと壁との間に適当な間隔を保たせること
④ はしごの転位防止のための措置を講ずること
⑤ はしごの上端を床から60センチメートル以上窓出させること
⑥と⑦は坑内のはしご道の基準ですから省略します。
では、費用徴収を行うかどうかは労基署長が決定しますが、その具体的基準については厚生労働省労動基準局長の通達が出されています(昭47・9・30基発第643号)。そこで、それをみますと、まず第1番目として「法令に危害防止のための直接的かつ具体的な措置が規定されている場合に、事業主が当該規定に明白に違反したため、事故を発生させたと認められたとき」とあります。
では、「直接かつ具体的な措置が規定されている場合」に該当するかどうかということを、前述した安衛則第556条第1項について見てみますと、少なくとも2号と4号と5号とは該当するようです。したがってそれらの号に明白に違反し、それが原因になって発生したと認められる事故については、労災保険から休業補償給付、障害補償給付、遺族補償給付、葬祭料および傷病補償年金が支給されると、療養開始の翌日から3年以内に支給事由の発生した分については、それに相当する額が事業主から徴収されるかもしれません(労災保険法第31条第1項第3号)。
では、「直接的かつ具体的な措置に対する規定」以外と考えられる1号や3号には違反しても大丈夫かといいますと、そう安心はできません。といいますのは、通達には、以上に続いて「その規定する措置が具体性に欠けている場合に、事業主が監督行政庁より具体的措置について指示を受け、その措置を講ずることを怠ったために事故を発生させたと認められるとき」とあるからです。
たとえば、1号の「丈夫な構造」について、その具体的措置を労基署長が指示したのに、それを行わず、それによって、事故が発生して、被災労働者が休業補償給付以下の保険給付を受けたときはそれに該当すると考えられます。
現在の安衛則には、階段についての安全基準の規定がありません。ところが安衛則には、長い間階段の安全基準については規定があったのです。
たとえば、できたての時代の安衛則第96条には、階段の安全衛生基準として次の5項目の基準が設けられていました。
① 丈夫な構造であること
② こう配は、急に過ぎないこと
③ 路面及びけ上げは、等間隔に設けること
④ 高さ5メートルを超える場合には、高さ5メートル以内ごとに適当な踊場を設けること
⑤ 少なくとも片側に適当な手すりを設けること
ところが、この階段に関する規定はなくなりました。そして、階段は通路に含まれることになったのです(昭47・5・11基発第305号)。これは階段そのものの基準が、建築基準法に規定されているからでしょう。その他の安衛則では、階段は通路の基準を適用するだけになったのです。
そこで、問題は安衛則でいう通路はどんなものをいうのかということです。労働基準局長の通達をみますと、「通路とは、当該場所において作業をなす労働者以外の労働者も通行する場所をいうこと」(昭23・5・11基発第737号)とあります。そうしますと、はしご道を設けた場所は、本来通路に当たるとも考えられます。そうなると第540条第1項に「事業者は、作業場に通ずる場所および作業場内には、労働者が使用するための安全な通路を設け、」なければならないという規定があり、それに違反するおそれが生じます。したがって、費用徴収はその面からも考える必要がありますので、もし、疑問がおありの場合には労基署に具体的事情を説明し、よく相談されるとよいと思います。
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