労働実務事例
[ 質問 ]
業務上災害で、従業員が休業することになりました。本人は以前から生活習慣病で通院していて、これを機会に「持病」の治療も兼ねて、ゆっくり養生するつもりだといいます。会社で労災保険の申請手続をしようとしたら、本人から「健康保険も同時に申請できないか」と質問を受けました。常識的にいって二重取りは不可能と考えますが、本人にどのように説明したらよいでしょうか。
【秋田・N社】
[ お答え ]
健康保険では、「療養のため労務に服することができないときは、3日を経過した日」から傷病手当金を支給します(健保法第99条)。一方、労災保険では、「業務上の傷病による療養のために労働することができない(略)日の第4日目」から休業補償給付(休業特別支給金)を支給します。
仮に、お尋ねの方の持病(生活習慣病)と業務上の傷病の両方について、それぞれ独立して上記要件を満たせば、両方の給付の請求権が生じます。しかし、「労災保険法による休業補償費を受給している健保被保険者が、(同時に)業務外の事由による傷病によっても労務不能となった場合には、休業補償費の額が傷病手当金の額に達しないときの差額を除き傷病手当金は支給しない」(昭33・7・8保険発第95号)という調整規定が存在します。
お尋ねのケースでは、そもそも持病のみを抱えていた段階では通院治療を続けていたわけで、「労務に服することができない」状態にあったとは認められません。「労働することができない」状態に立ち至ったのは、主に業務上の災害が原因と考えられます。
その場合、「療養の給付、(略)、傷病手当金は、同一の疾病、負傷または死亡について、労災保険法、国家公務員災害補償法(略)もしくは同法に基づく条例の規定によりこれらに相当する給付を受けることができる場合には、行わない」(健保法第55条)という規定が適用されます。労災保険の給付が優先で、健保の請求はできません。
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