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株価

利益供与の禁止、中小企業は関係ない?制度の内容と過去の事例を弁護士が解説

2022.02.18

会社が株主総会を混乱させるおそれのある株主(総会屋)などに対して、混乱を回避するために金員などを供与して便宜を図る行為を利益供与といいます。

利益供与は会社法上、禁止されていることは聞いたことがあるかもしれません。しかしながら「利益供与の禁止が問題となるのは、もっぱら上場企業で、株式を公開していない中小企業などの閉鎖会社では問題にならない」と思っている方もいるかもしれません。

そこで本稿では、中小企業の経営者も押さえておくべき“利益供与の禁止”について、制度の内容と過去に裁判で問題となった事例について解説します。

利益供与の禁止(会社法第120条)とは?

会社は誰に対しても、議決権など株主の権利の行使に関し、当該会社またはその子会社の計算*で財産上の利益を供与してならないとされています(会社法第120条1項)。これを株主の権利行使に関する利益供与の禁止といいます。

*計算・・・“出捐(しゅつえん)”、つまり、金銭や物品を寄付することの意味で使われる。

この規定は、もともと上場企業の株主総会において会議を混乱させることをほのめかして当該企業から金員など得ようとする総会屋を根絶するために、昭和56年商法改正によって設けられたものです(同年改正商法294条ノ2)。

もっとも、規定の文言上、利益供与の相手方は「何人(なんぴと)に対しても(=誰に対しても)」とされており、総会屋に限定されているわけではありません。そのため現在では、本条の趣旨は、議決権などの株主の権利行使に影響を及ぼす目的で会社が特定の株主などに財産上の利益を供与することは、健全な会社運営を害するとの認識のもと、広く会社運営の健全性や公正を確保し、会社財産の浪費を防止する点にあると解されています。

また、このような本条の趣旨や文言からは、株式を公開していない中小企業などの閉鎖会社においても、「まったく適用の余地のない規定と即断してはならない」とされています(江頭憲治郎「株式会社法 第8版」364頁)。

したがって、中小企業においても本条により利益供与は禁止されますので、経営陣や株主は注意が必要です。

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刑罰も?利益供与の禁止に違反した場合どうなるのか

会社が利益供与禁止の規定に違反して、ある株主などに対して金員などの財産上の利益を供与したときは、利益の供与を受けた側はこれを会社に返還しなければなりません(会社法第120条3項1文)。

また、会社が利益供与することに関与した取締役は、会社に対して連帯して供与した利益の価額に相当する額を支払う義務を負います(会社法第120条4項本文)。

ただし、これには例外が2つあります。

①利益供与を行なった取締役は責任をのがれることはできませんが、それ以外の取締役は、職務を行なうに際して注意を怠らなかったことを証明した場合は、責任を問われません(同条項ただし書)。
②総株主の同意があったときには、責任が免除されます(同条5項)。

これらの責任追及手段については、株主代表訴訟が認められ(会社法第847条)、同上所定の要件を満たす株主は、会社に代わって、利益の供与を受けた者や利益供与に関与した取締役に対して、その責任を追及することができます。

さらに、利益供与を行なった取締役には、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金が科され(会社法第970条1項)、事情を知って利益の供与を受けあるいは要求した者も、同様の刑罰が科されます(同条2項3項)。

裁判で問題となった事例

利益供与の禁止(旧商法294条ノ2)に違反するかが争われた有名な事件として、蛇の目ミシン株主代表訴訟(最高裁平成18年4月10日判決)があります。

この事件は、ごく簡略化して述べると、以下のようなものです。

仕手集団*A社の代表Bが、A社又はB名義で蛇の目ミシン工業株式会社(C社)の株を買い占め、1987年2月にはA社はC社の筆頭株主になり、Bは同年6月にC社の取締役に就任するに至った。Bは、筆頭株主たる地位を背景に、C社の経営陣に対し、C社株の高値引き取りを要求し(Bの保有するC社の株式を暴力団の関連会社に売却済みである旨を誤信させ、これを取り消したいのであれば300億円を用立てるよう要求した)、平成元年8月に融資名目でC社から約300億円を脅し取った。

この事件について、C社の株主Dが、C社の経営陣に対し、Bから回収不能となった約300億円の返還などを求めて、株主代表訴訟を提起した。

裁判では、C社経営陣がA社に対して約300億円を融資(事実上供与)したことが、利益供与に当たるかが争われました。

この点、原審の東京高裁は、C社経営陣の認識としては、暴力団の関連会社に譲渡された株式を、Bの下に取り戻すために融資(事実上供与)したものであり、商法294条ノ2の「株主ノ権利ノ行使に関シ」財産上の利益を供与したものではないとして、利益供与には当たらないと判断しました。

しかしながら、最高裁は、次のように述べ、C社経営陣がA社に対して約300億円を融資(事実上供与)したことは、利益供与に当たると判示しました。

「会社から見て好ましくないと判断される株主(筆者注、この事案では暴力団の関連会社)が議決権等の株主の権利を行使することを回避する目的で、当該株主から株式を譲り受けるための対価を何人(筆者注、この事案ではA社)かに供与する行為は、・・・『株主ノ権利ノ行使に関シ』利益を供与する行為というべきである。」

この判例は、株式譲渡の対価といえども、利益供与の意図・目的が、経営陣に敵対的な株主に対し議決権の行使など株主としての権利の行使をさせないという点にある場合には、権利行使をやめさせる手段として利益供与が行なわれたものといえ、“株主の権利の行使に関し”利益を供与したものといえると判断したものと理解されています。

なお、以上のケースと異なり、従業員の福利厚生の一環として従業員持株会会員に対する奨励金の支給などは、“株主の権利の行使に関し”財産上の利益を供与したものではないとして、利益供与には該当しないとされています(福井地裁昭和60年3月29日判決)。

*仕手集団・・・さまざまな取引手法を駆使して株価を動かし、大きな利益を得ようとするグループのこと。

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経営者のみなさまへアドバイス

以上のとおり、中小企業においても利益供与は禁止され、かつ、これに違反するか否か判断が難しい場合もあります。万一違反となった場合には、民事上のみならず刑事上の責任も生じます。

それゆえ、経営者は、会社から株主などに対して金員などを供与する場合には、利益供与の禁止に違反しないか確認する体制を整えておくことが望ましいでしょう。

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*freeangle、Graphs、takeuchi masato / PIXTA(ピクスタ)