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給与を確認する男性

初任給は見直すべき?設定の注意点・初任給アップよりも採用力を上げる方法を解説

2023.05.11

筆者は経営コンサルタントとして、GDP(国内総生産)向上を主たるテーマとして長年活動しています。長く低賃金に抑えられていた日本の就業環境ですが、やっと給与上昇のトレンドが始まったようです。できたらこの傾向がしばらくは続いてほしいと感じています。昨年のニュースだと、ファーストリテイリング社の昇給が大きな話題を呼びました。日本全体で賃金上昇のニーズが非常に強くなっている傾向があります。

一方で、経営者の皆様、とくに中小企業経営者の皆様は、現時点も人材不足に悩まれている中で、さらに人材獲得競争は激しさを増していくことが予想されます。このような状況で初任給をどう戦略的に設定していけばよいかを悩んでいるのではないでしょうか。筆者のところにも少なからず相談がきます。実際に地方の中小企業ではなかなか賃上げ断行は難しいという状況も存在します。今回は、中小企業は賃上げするべきかについて解説します。

【参考】
ファーストリテイリングが賃上げ 最大40%増 新卒初任給は25.5万→30万円 / ITmediaビジネス
中小企業「賃上げ予定なし」70%余に 都内信金が調査 / NHK
中小企業の「賃上げ実施」34%どまり、「しない・できない」計32%…大同生命調査 / 読売新聞オンライン

そもそも「初任給」を上げるべきなのか

上記のような相談をいただいた際に、まず伺うのは「初任給を上げるという話」か「昇給も含めた給与体系の見直しの話」か、どちらなのかということです。初任給だけ見直すことは、確実に社内に不要な軋轢を生み出してしまいます。そのため、初任給を上げる検討の際は、社内全体の給与体系を見直す必要があります。

この点に関して、相談をいただいた場合には以下二点をおろそかにしないように伝えています。

・既存社員給与とのねじれ/逆転現象をおこすことは大きなリスクであり、社内の給与整合性は確保していただきたい
・月齢給与や賞与の金額調整で対応するのではなく、実質年収の増加実現を目指さないと効果がでないことが多い

その上で、「何を参考にすればよいのか?」という相談も多いです。その際は、“市場の基準”を参考に設定することを大前提とし、企業ごとの特殊事情を鑑みて調整する方法を取るべきでしょう。厚労省および地域によっては、各自治体の労働局が、企業規模や業界ごとの初任給を含めた「賃金の現況調査の結果」を公開していますので、以下を参考にしてみてください。

【参考】令和元年賃金構造基本統計調査結果(初任給)の概況:2 企業規模別にみた初任給 / 厚生労働省

こうした統計調査を土台に、自社の賃金体型を決めることは、社内に対して“外部公平性”を納得してもらうための大切な検討素材になります。社員のモチベーションを維持し、望まない離職を抑制するためにも、支払い能力を越えない範囲で外部公平性を守るように計画しておきたいところです。

これは先日、懇意にさせていただいている社会保険労務士の先生から伺った話です。

給与体系を見直すための新規財源確保も簡単なことではないので、“鉛筆なめなめ的給与策定(ごまかして数字の帳尻を合わせるような給与策定)”ではなく、現代的要求に即した“職務給の導入”などを取り組んではどうかという話を伺いました。筆者も把握してなかったのですが、その先生に教えていただいた浜銀総合研究所が公開している「中小企業のモデル賃金」という報告書に検討方法が詳細に紹介されています。こちらは厚生労働省の委託事業として作成されたもののようで、一読の価値がありますので参考にしてみてはいかがでしょうか。筆者個人としても年功賃金制度は限界を迎えているため、中小企業の賃金体系も時代に即し、戦略変更が必要になってきていると考えています。

【参考】中小企業のモデル賃金 / 浜銀総合研究所

【こちらもおすすめ】「給料が低いので辞めます」どう対応する?給与を理由に退職する社員への接し方と注意点

初任給を上げることに効果はあるか

筆者が見た調査結果に面白いものがありました。

リクルートワークス研究所のレポートでは❝「初任給額を高めてもその中堅・中小企業の充足率が高まるわけではない」と言える❞としつつ、❝不人気業種においては初任給額を上げることは充足率低下に対する一種の“防衛手段”とし
て機能している可能性がある❞(「企業の新卒採用施策、採用比率、初任給額が採用充足に与える影響」より引用)と分析しています。

総括すると、初任給額を業界水準並みに上げておくことは人材離れを予防することはできるようです。逆にいえば、業界水準以下のままだと人材離れを招いてしまうが、採用において初任給額を水準より高く設定することが、有利になるとはあまり期待できないということです。

【引用】企業の新卒採用施策、採用比率、初任給額が採用充足に与える影響  / リクルートワークス研究所

本質的にどのような対策が必要か

筆者自身も思い起こすと職業を選ぶ際、初任給額で選ぶことはしませんでした。初任給額とは将来得られる報酬の“最初のステップ”にすぎず、その先にどのような昇給が望めるのかという参考値にしか過ぎません。そもそも論でいうと金額だけで判断するものでもなく、仕事の内容や能力・キャリア開発の可能性、または社内の人間関係などを重要視していたことを思い起こします。

人材コンサルティングに強みをもつマーサー社の調査でも、若い世代は給与よりも昇進機会や専門性の能力開発といった「自分の将来可能性を高めることができる環境」に関心をもっていると示されています。

【参考】グローバル人材動向調査 2019 / マーサー

それこそ、既存の先輩社員などからも、「自分の将来イメージが浮かべられること」「具体的にどんな経験が身につき、どんなプロフェッショナルになることができるのか?というイメージが想像できること」がもっとも重要であることが示唆されています。「どのタイミングで、どんなことを身につけていることが求められて、その上でどういった人事制度のもとで、どのようなキャリアパスを築くことができるか」というイメージがわかない場合、いくら初任給を高く設定しても人材獲得には効果が得られないことがわかります。

まとめ

ここまで考えると、もちろん初任給与額は大切な要素ですが、それよりも社内の納得感が確立されていることが大切です。そして、その前提の上で、人間関係も含めた社内で築くことができる・求められるキャリアパスの提示が欠かすことができないということが見えてきます。

初任給を高くすればよいと考えるのは逆にさまざまなリスクをはらんでいます。社内全体の給与体系を見直すことを躊躇せず、時代に即した組織設計を行っていく必要があります。今からでも遅くはありません。まずは理想の社員像をしっかり固め、社員がそのロールモデルを目指せるような給与・人事制度を整えるための検討を進めましょう。

【こちらもおすすめ】給与設定や改定…基準が難しいから困る給与のお悩みまとめ

*freeangle, EKAKI, metamorworks, kikuo / PIXTA(ピクスタ)

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