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M&A

M&Aの相談がわが社に!どう判断する?経験豊富な元CFO・現COOが解説

“M&A”は、今でこそテレビCMでM&Aアドバイザーの宣伝をしているほど一般的な株式売却方法になりましたが、以前はそこまで多く発生するものではありませんでした。M&Aキャピタルパートナーズ株式会社が開示しているM&Aの推移をみると、1985年にはわずか200件ほどの案件があるだけでした(言い換えると、1カ月に20件ちょっとの案件があったくらいということです)。それが2022年には4,000件を超す数にまで増えてきています。直近ではさらに多くの案件が実行されているのでしょう。

未上場企業の株主の立場から見たときに、“M&Aという選択肢が株式を売却して現金化する”、つまり“エグジット(M&AやIPOによって利益を得ること)の有効的な手法として認識されてきた”ということかと思います。筆者もこれまで多くのM&A案件にアドバイザーや買い手、ときには売り手として関与してきました。今回はその経験を振り返りつつ、M&Aとは何かを簡単にご紹介したうえで、経営者としてM&Aの提案を受けたときに考えるべきことをご紹介させていただきます。

【参考】国内のM&Aの総件数の推移/M&Aキャピタルパートナーズ株式会社

M&Aとは?改めてご紹介します

M&Aは、Mergers And Acquisitionの略語です。つまり、“会社の合併や取得”という意味です。実際によく「M&Aされた」という話を聞くときに、ある会社が別の会社の子会社になったり、部門の一部として吸収されたりする事例を聞くことが多いので、概ね、言葉の定義通りにみなさまもお考えなのかと思います。

なお、専門的な話ではありますが、アドバイザー業界では、このように子会社化を伴うものだけでなく、戦略的な資本・業務提携(比較的大きな出資額を伴う企業による出資)もM&A案件として含むことが一般的です。

【M&Aの基本情報についてはこちら】未経験だから踏み出せない…「中小企業のM&A」種類とメリット、リスクをわかりやすく解説

M&Aの際、経営者が考えるべきこととは?

M&Aは、株式を自由に購入できる上場企業においては、いわゆる敵対的買収のように、売り手側の意思とは関係なく実施・成立することもあります。一方で、未上場企業においては株主の売却の意向があり、かつ会社として株式の譲渡を承認しないと成立しないことが一般的です(会社が破綻したときには、別のプロセスでM&Aが進むこともあります)。つまり、“売り手と買い手がある一定の条件に合意した際にのみ成立する”ということです。売り手と買い手は、株式の価値だけでなく、株式売却後の会社経営の方針や従業員の処遇など、会社の方針の重要な事項について交渉し合意すると案件が成立します。ここから先は、“経営者=株主”、つまり売り手が創業社長だと想定して説明を続けていきたいと思います。

考慮すべき点①:持分の処分ができる

まずM&Aの一点目の特徴ですが、“創業社長にとって株式を処分しエグジットできる貴重な機会である”という点です。多くの未上場企業にとっては上場が選択肢ではないことが多く、そうなるとオーナー社長にとって株式の売却と現金化の機会はそう多くありません。「知り合いが少し株を買ってくれるかも……」という機会もあるかもしれませんが、大口で株式を売却する機会を提供してくれる資金余力のある知人はそう多くはいないでしょう。そういったなか、企業によるM&Aの提案は、オーナーにとって株式を売却し、現金化する貴重な機会となります。

考慮すべき点②:オーナー社長ではなくなる

前述の通り、株式の現金化の機会ではありますが、その一方で会社の経営権を手放すということを認識する必要があります。“経営と所有”という言葉がありますが、株式会社において会社の持ち主として会社の意思決定をしていくオーナーはあくまでも株主であり、経営者は株主から経営を委託されて執行する役割でしかありません。仮にあなたが株式を売却し、そのまま社長として経営にとどまる選択肢をしたとしても、それは経営者として残るだけで、これまで通り会社としての意思決定をすることはできないことを認識するべきです。

私の経験上、オーナー経営者は経営と所有が一体化したなかで仕事をしてきているので、株式の売却後、この論点があまり腹落ちしていないというよりも実感がないことが多い印象です。このことから、新たな株主との軋轢を生んだり、売却後の会社経営がうまく行かないケースも多く存在します。その結果として、会社に留任するはずだったが、結局ロックアップ(売り手の代表取締役といった実権者を一定の期間、企業に残置させておくこと)期間終了後に社長を退任することになったという旧経営者は多くいる印象です。

会社売却時に、今後の会社の方針についてある程度交渉することは可能ですが、原則としてもはや旧経営者の会社ではないことから、株式の売却後は自らの意思が基本は通らないものと考えた方が期待値にずれがなくてよいでしょう。

考慮すべき点③:会社や従業員にとってよい機会になる場合も、そうでないこともある

社員や会社の今後のためにも「新しい株主に引継いだほうがいいと思う」という話を聞くこともあります。これも、実際そうなるかもしれないし、そうならないかもしれないという点を売り手は認識すべきでしょう。会社が持ち主である新株主のものとなる以上、旧株主の想いがどう実現するか、あるいはそもそも実現するように動くかどうかは、新株主の戦略次第です。当然、買い手としては会社を買った価格以上に価値のあるものとしていくモチベーションがあるので、その観点から無益なリストラや事業縮小をしていくことはないでしょう。旧経営者のやり方が、今後の経営上メリットがあると思えば残すし、そうでなければ変えるというだけのことです。

たとえば、どんな状況であっても従業員は解雇しないというポリシーを持っていた会社であったとしても、“売却後にそういったポリシーはメリットがない”と判断されれば変更されるであろうことを想定すべきなのです。

うまく行くかどうかは、心持ち次第

当たり前の話ですが、“うまくいくM&A”“うまくいかないM&A”どちらもあります。“うまくいく”という評価の軸を会社の業績ではなく(M&Aで業績が伸びるかどうかは、また別の機会に論じたいと思います)、売り主の気持ちや会社組織の問題としてだけ考えると、売り主と会社の従業員が、M&Aによって経営方針が変わることについてどこまで理解できているか次第だと考えています。経営方針は、買い主の目線感から見てメリットがあるものは変わらないし、売り主の意向を汲んでくれる点もあるかもしれませんが、決定権は買い主にあるという点は普遍です。

売り主の意向を最大限汲むように配慮することを約束する買い主は確かにいます。ただし、結果として不幸なM&Aとなる案件は、売り主が売却後の経営方針に対して過剰な期待をしていて、その期待値のずれから発生することが多いことを勘案すると、売り主もその会社の従業員も、買い主に対して過剰な期待をしないことが、結果としてうまくいくM&Aの前提になるのかと考えます。

旧経営者にとっては愛着のある会社だと思いますが、株式を手放すことによって会社が他人のものになることは事実です。「自らが大切にしてきた価値観は変わっていくものだ」という認識を持った上で、買い主の経営方針を理解し、M&Aのオファーを検討していただくことができれば、“よい”と思えるM&A案件になるのではないかと考えます。

【こちらもおすすめ】事業承継問題の解決策として注目! 中小企業のM&Aメリット・デメリット【事例付き】

*maruco, freeangle, Luce, takeuchi masato / PIXTA(ピクスタ)