
持ち帰り残業や出張先への移動時間…これって労働時間になる?5つのケースを一挙解説!
企業経営において、労務管理の中でも勤怠管理の整備は重要です。最近は多くのクラウド勤怠システムがリリースされ普及するなど、労働時間に対する注目は増しています。
「どの勤怠システムがいいのか?」「使いやすい勤怠システムはどれか?」などさまざまな議論がありますが、そもそも労働時間とは何かということを理解していないと、正確な労働時間管理はできません。
そこで今回は、労働時間になるかならないか具体的なケースを5つ取り上げて解説します。
そもそも労働時間とは?
労働時間とは「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」のことをいいます。労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと客観的に判断される否かによります。つまり、雇用契約書や就業規則等によって、労働者の行為が労働時間か否か決まるものでなく、実態として労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれていれば労働時間となり、そうでなければ労働時間とはなりません。
例えば「雇用契約書に着替えの時間は労働時間ではない」という文言が明記されている雇用契約書を労使間で締結したとします。そのような状況であったとしても、実態として着替えの時間が使用者の指揮命令下に置かれていると評価されれば、労働時間として扱われることになります。具体的には下記の5つの要件を満たしていると、労働時間と認定されやすくなります。
■労働時間と認定される5つの要件■
1.一定の場所的な拘束下にあること
2.一定の時間的な拘束下にあること
3.一定の態度ないし行動上の拘束下にあること
4.一定の業務の内容ないし遂行方法上の拘束下にあること
5.一定の労務指揮権に基づく支配ないし監督的な拘束下にあること
出典:安西 愈 新しい労使関係のための労働時間・休日・休暇の法律実務 [全訂7版]2010
さて具体的な5つのケースをご紹介します。
Q1:通勤時間は労働時間になるか?
A1:労働時間にはならない
<解説>
通勤時間中は「音楽を聴く」「本を読む」「睡眠をとる」など自由に行動できます。またいつ自宅を出発するか、どのように会社から帰るかなど自由であるため、時間的拘束や場所的拘束が弱く労働時間とはなりません。
ただし、通勤時間であっても、業務メールを作成・送信させている場合や仕事の資料を作成させている場合は労働時間と認定される可能性があります。
Q2:出張先までの移動時間は労働時間になるか?
A2:労働時間にはならない
<解説>
出張先までの移動時間は通勤時間と同様に労働時間とはなりません。このため出張先までの移動時間に対して、賃金を支払う必要はありません。しかし、出張は労働者の時間的拘束や体力的負荷が大きいため、出張手当や日当などの名目で経済的な補償を行うことが多いです。
ただし、宝石など常に監視が必要なもの運ぶ出張や、会社に立ち寄ってから出張先に向かう時間は労働時間となる点にご注意ください。
Q3:得意先から得意先への移動時間は労働時間になるか?
A3:労働時間となる
<解説>
ある会社に訪問して、その後に別の会社に訪問した場合、移動時間中は自由に行動できるケースが多いと思われますが、時間的な拘束や場所的な拘束が高いため労働時間となります。
就業規則や雇用契約書に取り決めがあれば、移動時間中とその他の業務時間の時給を変更しても法違反ではありません。例えば訪問介護サービスの場合、介護サービスを提供している時間と移動時間の時給を変更することがあります。
Q4:自主練習や自己啓発の時間は労働時間になるか?
A4:労働時間にはならない
<解説>
美容室など一定の職種では、職場に居残り自主練をすることがあります。また会社によっては労働者の自己啓発のために職場の会議室等を労働者に使わせていることがあります。このような自主練や自己啓発は、あくまで労働者の自発的な意思でおこなう行為であるため、労働時間とはなりません。
ですが、職場を使って自主練習や自己啓発を行う場合、注意が必要です。なぜなら労使間で認識のズレが起こると、本来労働時間とはならない自主練習や自己啓発の時間が労働時間だと主張される可能性があるためです。
具体的には、「名目は自主練習だが、実際は強制参加の研修だった」という形で、自主練習に対する賃金を請求されるケースがあります。このような事態を防ぐためには労働者に対して、「自主練習や自己啓発をするか否かは自由であること」を十分に説明し、労使間での認識のズレを無くすことが重要です。また説明文書や同意書などでその事実を残しておきましょう。
なお、会社が取得を指示した資格の勉強時間については、労働時間となる可能性がある点に注意しましょう。
Q5:持ち帰り残業は労働時間になるか?
A5:労働時間にはならない
<解説>
労働者が自分の判断で行った持ち帰り残業は労働時間とはならないという考え方が一般的です。理由はいつ仕事をするかという時間的な拘束がありません。自宅やカフェなど好きな場所で仕事ができるため場所的な拘束があるともいえません。テレビを見ながら行うこともでき事業主の支配下にあるともいえないためです。
ですが、持ち帰り残業が労働時間と認定される可能性があります。具体的には、ある労働者に所定労働時間内には到底処理切れない業務量が指示されていた場合、その労働者が持ち帰り残業を行ったとします。この場合、持ち帰り残業であっても労働時間と認定させる可能性があります。
また労働時間と認定されるか否かという問題とは別に持ち帰り残業には会社の管理の行き届いていない場所で業務が行われているという問題があります。このような状況だと情報漏えいの危険性があるので、持ち帰り残業はさまざま角度から実施させないようにしましょう。
労働時間になるかならない判断が難しい5つのケースをとりあげました。本記事が皆様のお役に立てれば幸いです。
*ふじよ / PIXTA(ピクスタ)