経理はテレワークに向かない、は本当か?【目指せ!経理のデジタル化 第0回】
新政権が発足して、中小企業のデジタル化や業務の効率化がより一層重要視される風潮にあります。また、新型コロナウイルス禍を経験したことで、社内のデジタル化の必要性を痛感させられた経営者も多いのではないでしょうか?
しかし、社内のデジタル化を進めようとしたときに、意外とハードルが高いのが、経理など管理部門のデジタル化です。会社の根幹となる管理部門のデジタル化、テレワーク化が進まないと、会社全体が足並みを揃えて効率化することが難しくなります。また、テレワークが可能な他の部門との間で、勤怠管理の違いが実質的な待遇の違いと受け取られ、管理部門の社員に不満が生じてしまうかもしれません。
そこで本連載では、経理部門をデジタル化し、請求書などの書類管理をデジタル化していく方法論を、税理士であり、同時に中小企業の経営者として自社のデジタル化、テレワーク化を推し進めてきた筆者と一緒に考えていきましょう。
経理部門がテレワークできない理由
新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、テレワーク(リモートワーク)を導入する会社が増えています。この流れは、新型コロナウイルス感染症が収束しても、元には戻らないだろうと、多くの人が感じています。
一方、多くの会社で経理部や財務部などの管理部門はテレワークに対応できず、オフィスへの出社を余儀なくされているのも、また実情です。なぜ、デスクワークが多いはずの経理部で、テレワークが進まないのでしょうか?
振り返ってみてください。みなさんの会社の経理部は、他部署と比較しても、かなり早い時期からデジタル化されてきたのではないでしょうか。
会社規模や、業種によって一概にはいえませんが、ウインドウズの普及が本格化した1995年末より前、キーボードからのコマンド入力でパソコンを操作していたMS-DOSの時代に、すでに手書きの帳簿からパソコンの会計ソフトに切り替えていた会社も、少なくありません。
その理由は、経理で扱う金額という数値情報と、それを処理するコンピュータとの相性が非常に良かったからです。1990年代、コンピュータの導入によって、経理の効率化は飛躍的に進みました。
それなのに2020年の今、なぜ経理部はテレワークに向かないといわれ、前近代的な紙の作業からなかなか解放されないのでしょうか?
経理が扱う金銭よりも大切なもの
言うまでもなく、経理の仕事の基本は、社内で取引される事業活動のすべてを記録し、最終的に決算書にまとめることです。取引を記録するためには、社内で行われる全ての取引の内容や金額を、正確に把握する必要があります。
とはいえ、営業部や販売部、購買部など、ほかの部署で行われる取引の現場に、経理部員がその都度、立ち合うことは不可能です。そのため経理部には、社内のさまざまな部署から、取引の内容に関するあらゆる情報が集まる仕組みが社内に構築されています。
経理が必要とする情報は、契約書や納品書、見積書、請求書、領収書など、万が一にでも社外に漏れては困るような機密情報ばかりです。そのため、日々の業務を遂行する上で、これらの重要な情報をいかに適切に扱うかが、経理部の業務において大切なポイントとなります。
皆さんの会社でも、経理部にはセキュリティの観点から、情報の管理に対する厳しいルールが求められているのではないかと思います。
たとえば、経理ソフトをインストールするパソコンはスタンドアローンにして、社内のネットワークから外す。不正や誤謬防止のために、請求書には複数名が押印して補い合うなど。
経理のテレワークが進まない原因は、ほかにもあります。経理が扱う情報は、社内だけで発生し、完結するものばかりではないからです。取引先や業者のデジタル化が遅れていれば、相手に合わせた対応が求められます。
たとえば、請求書は紙に押印されたものが郵送で届く。領収書の書式が、発行先によってバラバラ。FAXでのやり取りしか対応してくれない取引先があるなど。
これらの外部要因も、経理のテレワークを阻止する大きな原因となっています。
こだわりを捨てれば、デジタル化できます
しかし、「だから無理なんです」と言って諦めることはありません。新型コロナウイルスによって、私たちの価値観は大きく変わりました。国もデジタル庁の創設を目指す今、経理部の皆さんも、さらなるデジタル化と効率化を推進すべきときです。
大切なセキュリティは確保しつつも、これまでの慣習や不要なこだわりを捨てれば、テレワークに移行するためのヒントが見えてきます。
そこで、経理がテレワークに対応するための課題解決策を、情報の①収集、②利用、③保存、④廃棄の4つのパートに分け、次回以降のコラムで模索して行きたいと思います。
*duiwoy / PIXTA(ピクスタ)