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TOP > 記事一覧 > 人事・労務 > 2021年4月から中小企業も義務化!「同一労働同一賃金」は要注意
同一労働同一賃金

2021年4月から中小企業も義務化!「同一労働同一賃金」は要注意

2021.02.09

最近よく“同一労働同一賃金”という言葉を耳にしませんか?

これは、非正規労働者がその仕事ぶりや能力を適正に評価され意欲を持って働けるよう、正社員と非正規労働者との間の不合理な待遇差の解消を目指して導入された制度です。この考え方のもとになっている法律が、“パートタイム・有期雇用労働法”(※1)という法律です。

大企業では2020年4月1日から既に施行されていましたが、中小企業においても、2021年4月1日からこの法律が施行されます。もう準備・対策はお済みでしょうか?

【こちらの記事も】2021年改正「雇用に関わる法律と助成金制度」のまとめ

パートタイム・有期雇用労働法の内容は?

この法律の第8条と第9条で、以下のように定められています。

(不合理な待遇の禁止)

第8条 事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。

(通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者に対する差別的取扱いの禁止)

第9条 事業主は、職務の内容が通常の労働者と同一の短時間・有期雇用労働者であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるものについては、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならない。

8条では、正社員と非正規労働者とで(1)職務内容(2)職務内容・配置の変更の範囲(3)その他の事情に差がある場合には、その差に見合わない不合理な待遇差を設けてはならないといっています(均衡待遇)。

9条では、正社員と非正規労働者とで就業の実態が同一ならば、待遇に差別があってはならないといっています(均等待遇)。

正社員と定年後再雇用者との待遇差

ただし、裁判例などをみていくと、定年退職後の再雇用者については少し異なります。

日本では、終身雇用の考え方が未だに残っています。長期雇用という前提があり、その間の労務の提供や会社への貢献とその間の賃金支払いの収支バランスを、入社から定年退職までの数十年かけて取っていくという考え方です。

特に年功序列賃金では、年齢や勤続年数が上がると共に賃金が上昇していきますが、必ずしも会社への貢献度と一致しているわけではありません。

しかし、賃金には生活保障給的な側面もあることから、労働者が長期間働くインセンティブになっているのです。退職金も定年時の収支バランスを取るために支払われます。

そう考えると、定年で一旦は御破算、定年後の再雇用での賃金はゼロ・ベースで考えることになります。そのため定年後の再雇用については、現時点でのその人の労務の提供・会社への貢献具合にあった賃金に変更されるのが当然で、賃金が低下するケースも多いでしょう。

しかしこれは、定年によって賃金が減額されたわけではなく、定年直前に会社への貢献以上に賃金を貰っていたということにすぎません。また、定年後の再雇用者については、長期雇用を前提にしていません。

したがって、定年後の再雇用者と正社員との賃金差については、不合理であると判断されにくい傾向があります。

待遇の落とし穴となりがちな「住宅手当」

均衡待遇の問題については、最高裁でいくつか裁判例が出ています。あくまで事例であって、今後の裁判がこの判決に縛られるわけではありませんが参考にはなるでしょう。

この裁判例などから見えてくるのは、正社員には長期雇用が見込まれることや会社が優秀な人材を安定的に確保し定着させる必要性などから、基本給や賞与、退職金については、正社員と非正規労働者との差が不合理とはなりにくいようです。

本来、賃金は職務内容や職務内容・配置の変更範囲によって一義的に決まるものではなく、さまざまな事情を考慮した経営判断の中で決定されるため、会社の裁量が広く認められて当然です。

一方で、各種手当は、手当ごとにその趣旨が異なっているはずです。そのため、その手当支給の趣旨を個別に考慮して、不合理であるかどうかが判断されます。つまり、手当支給の趣旨・目的をきちんと定義づけ、その定義に則った上で、正社員と非正規労働者との待遇差が不合理でないように、各種手当を決めていく必要があります。

待遇差が不合理となってしまいやすいのが“住宅手当”です。

住宅手当を支払う基準が“転居を伴う配置転換が予定されているかどうか”であれば、配置転換のない非正規労働者に支給しないことは不合理とはされませんが、正社員と非正規労働者との間で配置転換に関して違いがなければ、上記基準をもって非正規労働者に住宅手当を支給しないことは不合理となるでしょう。

手当支給に当たって、注意したい点が3つあります。

(1)正社員に対して勤続年数にかかわらず一律に支給されている手当てについては、非正規労働者に支給しないことが不合理と判断されかねません
(2)長期雇用が見込まれることで支給されている手当については、非正規労働者でも、更新を繰り返している者に対しては支給されるべきでしょう
(3)生活保障給的な手当てについては、非正規労働者に支給しないことは不合理と判断されかねません

会社が行っていくべきこと

今後、会社がすべきことをいくつか挙げていきます。

(1)正社員と非正規労働者との仕事・業務の違いや配転の範囲等を明確にすること
(2)非正規労働者に対しては、長期雇用を前提にしないこと(たとえば、更新回数の上限を定めておくなど)
(3)非正規労働者に対して正社員への登用制度を設け、実際にその制度が運用されること
(4)非正規労働者から、正社員との待遇差について説明を求められた場合には、きちんと説明できるようにしておくこと
(5)それぞれの手当ごとに、支給の趣旨や目的を明確にし、その手当の支給について、正社員と非正規労働者との間で差があることが不合理ではないか見ていくこと

特に、(3)は大切です。正社員と非正規労働者との待遇に多少の差があっても、非正規労働者の能力や努力によって正社員へと登用されるのであれば、その差は容認されやすくなります。

整理解雇について

最後に整理解雇についてお伝えします。このコロナ禍において、今後、整理解雇に踏み切る会社も増えてくると思います。

その場合に、非正規労働者から解雇していく(有期雇用労働者については雇止めを行う)ことが不合理とされないかという問題があります。整理解雇については、それが不当かどうかは以下の4要素で判断されます。

(1)人員削減の必要性
(2)解雇回避努力
(3)人選の合理性
(4)手続きの相当性

4要素の中で、“人選の合理性”に係るものとして、正社員よりも非正規労働者を先に整理解雇の対象とすることが不合理とされるのではないかという心配がありますが、おそらく、不合理とまでは言えないでしょう。良し悪しは別として、まだまだ日本では、正社員への雇用保護は絶対です。

少し古い裁判例(ただし、この裁判は整理解雇的な雇止めが問題となったものです)の中で、「雇止めの効力を判断すべき基準は、いわゆる終身雇用の期待の下に期間の定めのない労働契約を締結しているいわゆる本工を解雇する場合とはおのずから合理的な差異があるべきである」と判示されています。

おそらくこの考え方が、コロナ禍の整理解雇の際にも妥当すると思います。もちろん、整理解雇に踏み切る以前に解雇回避努力を尽くすことが重要となることは言うまでもありません。

※1 正式名称を「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」という

*saki / PIXTA(ピクスタ)